後始末屋の特異点   作:緋寺

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最初の一手

『襟帆鎮守府が視界に入ったわ。うみどりはここで停まるから、みんな、準備して』

 

 イリスの放送により、その時がやってきた。うみどりから襟帆鎮守府が見えるような至近距離まで来たことで、臨戦態勢となった。

 うみどりが停まったところの近くには、おおわしとこだかも同様に停船。3隻がほぼ横並び状態でそこにいることから、あちらからも相当拠点を狙いやすい状況にはなってしまっている。

 

 艦が停まったことにより、工廠の門が開放。出撃の準備が整うのだが、その前に艦に備わるソナーを全開に動かす。また、伊26も『ソナー』の力を全開にして、近くに敵艦娘が潜んでいないかを確認。

 

『うみどりの電探とソナーでは、今のところ敵影は無し。待ち構えているということは無いようよ。引き続き、探知は続けておくわ』

「ニムの『ソナー』でも、今のところは何も見つからないかな。まだ潜って見てるわけじゃないから、海に潜って海底に近いところに行けば、また何かわかるかもだけど」

 

 危惧していた待ち構えは今のところなし。機雷が敷設されていることもない。とはいえ、まだ見えていないところ、特に鎮守府から絶妙に遠いところなどにあってもおかしくないので慎重に。

 

『出撃可能な子から海に出てちょうだい。ここから何をしてくるかわからないわ』

 

 続いて伊豆提督からの指示。襟帆鎮守府の方を常に見ながら、出られる者から外に出す。

 

 おそらく怖いのはココ。出撃のタイミング。既に海底に潜んでおり、出た瞬間を狙って1人やる、なんてことは考えられる。

 故に、真っ先に出撃したのは伊203だった。すぐ近くに誰かが潜っていないことを確認するため。伊26の『ソナー』は全てを見透かすが、それでも何かがあっても困る。

 

「潜水艦が出た後は防空隊の出撃をお願いします。奇襲なら空襲があり得ますから」

 

 工廠では丹陽からの指示も飛ぶ。まだ全員が出撃していないため、ここで確実な行動のために力を尽くすようだ。

 

 第一世代の経験値からして、出撃間際にやられて怖いのは、海中からの奇襲と、届かない場所からの空襲。今はまだ襟帆鎮守府から誰かが出撃したようには見えないが、それでも艦載機だけなら何処かからやってきてもおかしくない。

 うみどりには少々縁が無い、強力な空襲を使われる可能性を考慮した。それが、()()()()()()()()()()()()

 

「っ……秋月さん達、出番です!」

 

 丹陽が叫ぶ。予想していた、むしろ予想以上の攻撃が、襟帆鎮守府から今まさに向かってきたからだ。

 

「……基地航空隊……!」

 

 空から向かってくるその群れを見て、すぐに出た秋月が歯を食いしばって睨みつける。

 そう、襟帆鎮守府の一手目、後始末屋との戦いの最初の攻撃は、基地航空隊による強烈な空襲であった。

 

 うみどりのような海上を移動する艦の鎮守府には無縁ではあるが、基本的な鎮守府にはほぼ確実にある設備。それが基地航空隊である。深海棲艦の拠点としている場所に、艦娘では難しい大規模攻撃を仕掛けるために実装された、陸上から戦闘機を飛ばす部隊。

 その火力は艦娘の艦載機を超えており、また、確実な先制攻撃を決めることが出来る強力な攻撃でもある。当然その分、使用にはそれ相応のリスク──資材などのコスト──があるが、それがあっても可能ならば確実に使っていくのがコレである。

 

「ンだぁ、ありゃあ……!?」

「普通の空襲じゃないのです!?」

 

 まだ出撃をしていない深雪と電からでも、工廠の門からそれが見えた。艦載機とは違う形状の戦闘機が、群れを成してやってくる。艦娘が搭載可能な、自分達が扱える量を遥かに超えて、うみどりを確実に破壊するために。

 

「対空砲火が可能な皆さんは、私に続いてください! 確実に、止めます!」

 

 秋月も叫び、すぐさま迎撃の準備に出た。やること自体はいつもと同じ。敵の航空戦力を、端から端まで全て撃墜する。ただそれだけ。規模がどうであれ関係ない。1機でも撃ち漏らせば、うみどりに大きな被害が出てしまいかねない。

 

 秋月を筆頭にした防空隊は、勿論居相姉妹だ。素人だったのだが、秋月に徹底的に鍛えられ、今やうみどりを守ることが可能な戦力として有用な段階にまで成長している。さらには、2人して持っているその力、『防空』の曲解を、最大効率に扱うことで、間違いのない防空を可能とする。

 

「我々の出番、早かったな、姉上!」

「ええ、でもここでやらねば、私達の、皆さんの居場所が失われます。秋月さんに続き、あの忌々しい空の支配者を」

「墜としてやろうじゃあないか!」

 

 ノリノリの恵理と、溜息を吐きながらもやる気充分な舞亞──防空埋護姉妹が、秋月に続き、海に立つ。正面から向かってくる基地航空隊を睨みつけると、その力が発動する。

 姉妹の持つ『防空』は、浮いているモノ全てがその対象。防空識別圏に入ったことで、フルオートで全てを撃ち墜とす。数が多いならば撃ち漏らしもあるかもしれないが、それでも2人の対空砲火は尋常では無い。

 伊達に深海棲艦の身体では無い。連射の速さも、威力も、普通の艦娘とは比べ物にならなかった。潜り抜けられて爆弾を落とされても、()()()()()()()()()()であるため、『防空』の対象となり確実に破壊する。

 

「ふふ、負けていられませんね。では、防空駆逐艦秋月、参ります!」

 

 2人の対空砲火を見て笑みを浮かべた秋月は、プロの意地を見せるために、空を睨みつける。まだまだ多い敵の戦闘機。絶え間なく飛んでくる攻撃。2人で全てを食い止められるわけがない。ならば、ホンモノの対空砲火を披露する。

 

 指を差すようにして狙いを定めた秋月は、ダンと1発放つ。それは、数撃つから当たるのではなく、確実に敵戦闘機の土手っ腹に風穴を空ける。続いてもう1発放つと、また1機に穴が空く。1発で1機、100発で100機、撃てば撃つほど戦闘機を破壊出来る程の超高精度の対空砲火を寸分違わない精度で撃ち続けた。

 そして秋月の真価はここから。得られた力、『連射』により、弾切れの心配もなく、常に、延々と撃ち続けることが出来るのだ。居相姉妹には弾切れがあるが、秋月はその隙を埋めることが出来る連射で、対空砲火がずっと止まない。

 

「流石だな、秋月師匠は!」

「……今はそのような物言いも許しましょう。貴女の厨二病が士気を上げることもあるでしょうから」

「はっはー! このエレクトラの防空識別圏に入り、無事に帰れると思うな!」

 

 たった3人。うみどりの最上級の防空隊の力で、基地航空隊を必死に抑えつけようとするが、しかしそれでも足りない。数が多すぎると、秋月も実感している。

 最初の一撃で全部終わらせられるなら、ここに全力投入をするのは当然のこと。そしてさらに、この基地航空隊、本来ならばあり得ない、深海の技術も取り入れられている。秋月ならば撃墜出来ているのだが、居相姉妹の対空砲火では、一撃目で掠めて、二撃目で墜とすという段階を踏まなくてはならないくらいには不規則な挙動をする。そのくせ、火力は本来の基地航空隊と同様であるため、1機も漏らすことが出来ない。

 

「空母隊、艦載機出すわ。行くわよ2人とも」

「はい、加賀さん!」

「お任せください!」

 

 それをサポートするのが、続いて出撃した空母隊。加賀を筆頭とした空母の3人が、基地航空隊と拮抗するために、艦載機を発艦させた。

 居相姉妹の防空識別圏は、敵味方の区別が可能だ。その中に突入しても、難なく十全の仕事が可能。撃ち漏らしがあっても、艦載機のドッグファイトにより確実に始末をつける。

 

「……敵基地航空隊は、明らかにうみどりしか狙ってきていませんね……おおわしもこだかも完全に無視ですか」

 

 この防空戦を見ながら、丹陽は考える。敵の狙いは間違いなく特異点、そしてそれを保有するうみどり。それ以外の艦は無視。敵として見做していないのか、うみどりに集中するためにあえて見ないことにしているのかはわからない。

 ただ、それならば守るところが一点に集中出来るため、戦いやすくはなる。それもまた揺動であると言われたら堪ったモノではないのだが。

 

「一点集中だからこそ押し潰せると考えているのかもしれません。それこそ、空に目を集めて、その間に海の中から……!」

 

 丹陽の予想は、ほぼ的中していた。基地航空隊自体が揺動。膨大な空からの攻撃で押し潰せるのならば良し。だが、それすら回避されることも考慮して、海中から忍び寄る。

 それは伊豆提督も予測済み。故に、真っ先に伊203が海中に向かっているのだ。うみどりに近寄らせないようにするために。

 

 

 

 

「空を囮にして、うみどりを真っ先に沈めるつもりだった?」

 

 伊203が迎え討つは、襟帆鎮守府のカテゴリーK。さも当然のように海中を移動してくる、本来ならば海上艦である者達。

 

「……気付いてたか」

「うちの深雪が潜れるんだから、そっちが潜れないとは思ってない」

 

 向かってきていたのは、黒深雪と雷。深雪とは違い、艦娘の姿のまま、海中での活動を可能にしている。相変わらずフードのついたウィンドブレーカーは身につけているようだが、それによって動きにくいということも無い様子。

 

「やらせない。私達の後始末屋を、歪んだ平和の礎なんかにさせない」

「……知るか。それに、テメェの相手をするつもりはねぇよ。なぁ」

 

 チラリと後ろに目をやった黒深雪。そこからは、猛烈な勢いで魚雷が放たれていた。

 

「みぃむ」

「撃ってるよ!」

 

 さらに後ろから向かってきていた、カテゴリーKの潜水艦、伊36が、黒深雪で視線を誘導させて、既に魚雷を放っていたのだ。

 伊203は、それを見て目を細める。猛スピードで突き進む伊36の魚雷は、伊203の横をすり抜け、真っ直ぐうみどりの艦底へと向かっていく。直撃したら沈没もあり得る。そうでなくても艦内は酷いことになりそうだった。

 

 

 

 

「……悪いな、あたしも囮だよ」

 

 伊203がそこに来るだろうと意識した、自らの存在を囮にした一手。うみどりを、特異点を始末するためには、自分の命すら躊躇なくベットするその感覚に、伊203は顔を顰めた。

 

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