後始末屋の特異点   作:緋寺

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素人とて戦士

 ついに始まった決戦。襟帆鎮守府から繰り出されたのは、深海仕様に改造された基地航空隊。それを秋月筆頭の防空隊が耐えている間に、海中から敵が忍び寄る。

 早速現れた黒深雪と雷と相対する伊203だったが、その存在すら囮として、初撃として繰り出されたのは、伊36からのうみどりを直接狙った魚雷だった。

 その一撃は伊203の横をすり抜け、真っ直ぐうみどりの艦底へと向かっていく。直撃したら沈没もあり得る。そうでなくても艦内は酷いことになりそうだった。

 

「……動じないな」

「私がどうこうする必要もない」

 

 伊203はそれでも黒深雪達から視線を切ることはしない。うみどりの方を見ることもなく、拳を握り締める。

 

 そんな伊203の態度に、魚雷を放った伊36は眉を顰める。だが、伊203の話は既に聞いていること。うみどりにいる超人的な艦娘の2人の片方であることは理解している。それが動かないということは、この程度はどうということもないと思われている。

 なめられていると感じてもおかしくはない。しかし、伊36は冷静だ。ここでムキになって魚雷の乱発は流石に馬鹿らしい。ここでうみどりがどう出るかを見た方がいい。

 

「じゃあ、どうするつもり?」

 

 でも口は出る。今の雷撃はなかなかに渾身の一撃だった。その超人を出し抜いたと言える程の、最高のタイミング。魚雷自体も深海の技術で改造されている、艦娘のそれとは威力もスピードも違う。伊203もそれには反応出来なかっただろうと思った。

 

 しかし、その実、伊203は反応出来なかったのではない。反応()()()()()に過ぎない。

 

「もしかして、うみどりは特異点しかいないと思ってる?」

「……いや、そんなことはねぇよ」

「なら、その程度の不意打ち、何の意味もない」

 

 冷ややかな目で伊203が言い放った瞬間、うみどりに向かっていた魚雷が突如不安定になり錐揉み回転をしながら失速する。そして、お互いがぶつかり合って、その場で爆発した。

 伊36は何が起きたのかと目を丸くした。だが、その正体をすぐに理解する。

 

「フーミィ、何スルーしてんだコラ!」

 

 スキャンプが巻き起こした『スクリュー』による強烈な水流により、魚雷がまともな挙動で動くことが出来なくなっていたのだ。もしあの魚雷に黒い煙幕が纏わりついていたとしても、水流によって引き剥がされた上に散らされる。深雪との演習でそれを実践出来ているので、躊躇なくそれを放つことが出来た。

 

「スキャ子なら止められるでしょ」

「何かあったらどうするつもりだ! まだサカワが出撃してねぇんだよ!」

「なら、余計に力が出せたね」

 

 伊203は最初からスキャンプがアレを止められないとは思っていない。間違いなく間に合うと確信してスルーした。結果、何事も起きていない。

 

「……特異点の力か」

「ああ? まぁ、否定はしねぇよ。癪だけどな」

 

 伊203の近くまで来たことで、黒深雪とも対面するスキャンプ。島でも見ているが、改めて睨みつけると、スキャンプは鼻で笑うような仕草。

 

「テメェも特異点の力を使えるんだろ。なら、あたいがどんな力を使おうが文句はねぇよな。あたいはうみどりを守るために使ってんだ。誰かを傷つけるために使ってるわけじゃねぇ」

「……文句なんてねぇよ。ここは命懸けの戦場だ。何しようが全部作戦のうちだろ」

「わかってんじゃねぇか。アデとかいうババアとは違うみたいで何よりだ」

 

 スキャンプは黒深雪に向けて手を翳す。同時に黒深雪は何かが来ると構えた。

 

「テメェが一番厄介なんだ。煙幕のウザさは嫌ってほど知ってるんでね」

「……そうか。なら、遠慮なく使わせてもらうぞ」

「テメェが何処まで理解してるか知らねぇけどな!」

 

 放たれる水流。煙幕封じを主とした、海流を巻き起こす力。深雪の場合は、これで煙幕が散らされて、その力をまるで使うことが出来なかった。ならば黒深雪も、同じように力を封じることが出来るだろう。

 その真意を知らずとも、目眩しのために多用することは考えられる。それが出来ないぞと見せつけるだけでも、圧になるだろう。

 

 しかし、これまでの時間で、黒深雪の煙幕の使い方は格段に変わっていた。変わってしまっていた。誰からの入れ知恵かはわからない。それこそ、自ら編み出したのか、出洲が助言したのかもわからない。

 どうであれ、黒深雪が繰り出したのは、()()()()()()()()()()という行為。隣の雷も同様に、さも当然のように。

 

「っ……テメェ」

「あたし達だって、成長すんだよ。特異点が同じことをしていたか?」

 

 煙幕による自己強化。水流によって散らされない煙幕の使用方法。深雪と電が、島での阿手との戦いで編み出したテクニック。それに辿り着いている。

 

「水流は効かねぇ。雷、行くぞ」

「ええ、大丈夫よ。みぃむ、援護お願いね」

「りょーかい! いつでもどうぞ!」

 

 相手が伊203であっても怯むことはない。超人であろうが関係ない。黒深雪は最初から、()()()()()()()()

 

 

 

 

 海上では、基地航空隊からの攻撃を防空隊が必死に防いでいた。秋月と居相姉妹の3人による対空砲火、そこに加賀率いる空母隊による制空権の奪取で、どうにか拮抗を維持しようとしている。

 人員がこれだけならば押し潰されていたかもしれないが、ここでおおわしとこだかからも援軍が入る。うみどり一点狙いの攻撃であるからこそ、他の部隊も助けることが出来た。

 

「ありがとうございます! あちらには撃墜耐性を持つ戦闘機も含まれています!」

 

 秋月の分析をその場で展開。対空砲火をのらりくらりと避けながら、確実な一撃を撃ち込もうとする戦闘機が何機も確認出来るため、それをどうにかするために秋月も必死だ。『連射』により弾切れの心配は無くても、纏めて広範囲に撃つことが出来るわけでもない。耐性を持とうが関係なく、1機1機を確実に処理する。

 他の者も同じだ。乱雑に放つのではなく、被害を最小限に抑え込むために、その技術力を存分に使って戦闘機群を相手にしていた。

 

「っ、誘導弾!」

 

 秋月の叫ぶような指示。戦闘機の中には、艦娘を確実に屠るために、ただ撃つだけでなく、狙い定めたモノを確実に破壊するために誘導弾を放つモノも存在する。今まさに、それから攻撃が繰り出された。狙いは明らかに秋月。防空隊の中でもトップクラスの力を持つ存在。それが潰れれば、対空砲火は一気に弱体化する。

 

「任せてくれ! 戦闘機だろうが誘導弾だろうが、我らの防空識別圏に入ってしまえばこちらのものだ!」

「ええ、素人だからこそ、私達の()()()は、狙いを定めずとも撃ち抜きます」

 

 それをどうにかするのは居相姉妹。『防空』の力は浮いているモノ全てが対象。誘導弾を放たれた時点で、それは撃ち墜とすモノとして認識されているのだ。

 秋月を守るように並んだ居相姉妹は、その力を存分に発揮して誘導弾を駆逐していく。フルオートで繰り出される対空砲火を、その身体でバランスよく制御するのみ。

 一般人だからこそ与えられたオートマチックなシステムが、こういう時に猛威を振るう。秋月が放たれた砲弾すら撃ち墜とすような防空をしてしまうため、居相姉妹もその片鱗を継がされていた。

 

 その間に他の者も出撃し、鎮守府崩しに出る。敵戦闘機の破片がパラパラと降ってくる中でも、前に進むことは出来る。

 

「……? 何か、光った?」

 

 その出撃中、襟帆鎮守府の方で、何かが光った。探照灯のような光ではない。それは、()()()()

 

 いち早く気付いたのは夕立。野生の勘とも言えるその危機察知能力に、身体が即座に動いていた。

 

「トラ! 手伝って!」

 

 同じ『ダメコン』の力を持つトラに声をかける辺り、この状況でも冷静。言われたトラはビクッと震えるが、夕立がそう言ってきたこともあって、何をしてほしいのかをすぐさま察した。

 

「何処に何が来る!」

「わかんないっぽいけど、とにかく飛んでくるっぽい!」

「わかった、わからないが、わかった!」

 

 夕立は工廠の外に出るなり、うみどりを壁代わりにして、海面を蹴り、壁を蹴り、高く跳ぶ。

 そこで、ハッキリと()()()()ことを理解した。

 

「砲撃! 工廠狙い!」

 

 防空を陽動に、海中からも攻めつつ、鎮守府から超長距離砲撃を放ってきていたのだ。

 

 襟帆鎮守府には、わかっているだけでも3人の戦艦がいる。カテゴリーKの霧島に、カテゴリーCの伊勢と日向。後者は従わされているだけとはいえ、この場で手を抜くことは許されない。

 おそらくこれもまた、深海の技術が取り入れられた主砲。遠ければ遠いほど命中率は下がるし威力も落ちるはずだが、それを無視してこちらに向かってきている。

 

「工廠狙いだというのなら、私が食い止める!」

 

 超長距離を、寸分違わぬ精度で撃ち抜いてくるというのならば、それを真正面から受け止めることも可能。襟帆鎮守府側から見えるうみどりなんて米粒みたいなモノだろうから、そこで狙いを定めるなら、ど真ん中を撃ち抜く以外にありえない。

 故に、トラは素人ながらも何処にいるべきかを理解した。工廠の真ん中から少し前方。出来れば高さが欲しい。弧を描いて工廠に放り込まれて爆発というルートで考えるのなら、何処にいるべきかは計算出来る。

 

「来た……私だってな、素人でも、ここで救われた戦士なんだ、よ!」

 

 艤装の上から跳ぶようにして、向かってくる砲弾の前へと躍り出る。そして、自らの身体を盾にして、強引にそれを防いだ。

 見事に爆発する砲弾。だが、トラは『ダメコン』により無傷。衝撃により海面に叩きつけられるように吹っ飛ばされるが、うみどりには影響が無い。

 

「夕立!」

「任せるっぽーい!」

 

 続けて飛んでくる2発目、3発目は、夕立がトラの艤装を足場にして跳び、サッカーでもするかのように蹴り飛ばす。そんなことをしたら脚が捥げてもおかしくないのだが、やはり『ダメコン』、無傷で全てをこなしてしまった。

 衝撃には弱いが、夕立はそれを把握しており、跳ね返し方も熟知。シュタッと華麗にトラの艤装の上に着地して、息を整える。

 

「まだ来るかもしれないっぽい。夕立とトラで、どうにか耐えるっぽい!」

「ああ、任せてくれ。むしろ、こちらからも打って出るぞ」

「ぽい! 一斉射お願い!」

 

 戦艦には戦艦を。襟帆鎮守府からの砲撃に向けて、うみどりがするのは、超長距離の一斉射。長門と清霜がそれを行う。

 

 

 

 

 猛烈な攻撃の中で、戦いは徐々に進んでいく。特異点の出撃も、もうすぐである。

 

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