後始末屋の特異点   作:緋寺

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普通ではないこと

 襟帆鎮守府との戦いはまだまだ序盤。基地航空隊による猛攻と、土手っ腹を撃ち抜こうとする砲撃。それらはうみどりの精鋭達が耐え凌ぐ。秋月を筆頭とした防空隊が、敵の航空戦力を撃ち抜いていき、夕立とトラの『ダメコン』チームが砲撃を文字通り身体を張って食い止めた。

 あまり連続でやれるような手段ではないため、これ以上何度も続けられる方が厳しい。今回は夕立とトラで止められたが、遠方からでもこの力については確実に知られた。狙い方が変わってくるだろう。

 

「一斉射お願い!」

 

 夕立の叫びと共に前に出たのは長門と清霜。砲撃には砲撃を。うみどりに近い場所であるため、限界に近いほどので砲撃を放っても、即補給をしてもらえるという利点がある。故に、最初から全力全開。

 

「清霜、いいな!」

「オッケー、長門さん!」

 

 長門は全ての主砲を、清霜も戦装大発をしっかりと構え、襟帆鎮守府に狙いを定める。本来ならばもう少し近付きたいところだが、これには牽制の意味もあるため、この位置から放つのが望ましい。

 

「一斉射、てぇーっ!」

「撃てぇーい!」

 

 そして放たれる激しい砲撃。後先考えない程の猛烈な砲撃は、今飛んできた敵からの砲撃を倍返しするかの如く、放ってきた場所に向けて飛んでいく。鎮守府に吸い込まれるように向かっていくそれは、鎮守府そのものを攻撃しているわけではない。少しだけ手前、海面と、そこにいるであろう敵艦娘に向けた斉射。

 

「当たるとは限らんが、これで砲撃が止まってくれればありがたい!」

「長門さん、少しずつ進もう!」

「心得た! 詰めるぞ!」

 

 一斉射を仕掛けながらも徐々に前へと進むことで、うみどり狙いの砲撃を自分達に向けることが出来ると考えた。夕立とトラへの負担が減らせるのなら万々歳。

 それでもうみどりに向けての砲撃は変わらないが、やはり一斉射を受けながらということもあり、精度は確実に落ちている。2人の『ダメコン』でうみどりへの被害は確実に抑えることが出来ており、ここからは攻めの姿勢に移ることが出来そうであった。

 

『襟帆鎮守府から出撃を確認。砲撃を掻い潜りながら、突撃してきます。注意してください』

 

 ここで丹陽からの注意勧告。空母隊の艦載機を目に、遠方の状況を監視しているところで、その姿を捉えた。出撃したのは3人。そのうちの1人は、カテゴリーK。

 

『確定、1人は重巡足柄。2人はカテゴリーCの駆逐艦です』

 

 その名前を聞いて、ピクリと反応するのは、やはり姉である妙高である。

 

「なるほど。では、姉である私が迎え撃ちましょう。誰か援護を! 駆逐艦を抑えてください!」

「今回は妙高さんのバックダンサーズになるよ!」

「はーい! レーベちゃんも行こう!」

「Ich habe es. 常識的な相手なら大丈夫だよ」

 

 相手3人に対して4人を出すことは、別にズルいわけではない。確実な勝利のために、そして、命を奪わないように戦うために、過剰戦力は必要なところ。

 Z1の言う通り、特機を使っていない者は常識的な相手──カテゴリーCを相手にする方がいい。そこに那珂という司令塔にもなり得る艦娘を据えることで、妙高は足柄との戦いに専念が出来る。

 

「こういうカタチでの姉妹喧嘩はなるべくなら避けたかったですが、ケジメを付けさせないといけませんから。では、参ります!」

 

 一斉射飛び交う中、妙高達は一気に前に出る。出撃してきた妹を迎え討つため、嫌だと思いながらも後ろは向かず。

 

 

 

 

 黒い煙幕により自身を強化している黒深雪と雷は、海中だというのに縦横無尽の動きをして伊203とスキャンプを翻弄する。そこに伊36の援護が入るため、攻め口を何処からにすればいいかと考えなくてはならなくなる。

 警戒しなくてはならないのは、やはり黒深雪の扱う黒い煙幕。時雨の前例があるため、それを吸わされることは、治療必須の精神攻撃に侵されるということに他ならない。しかも、特異点の力であることもあり、グレカーレの『羅針盤』で防御が出来ないとまで考えられる。

 

「水流が効かねぇのかよ!」

「煙幕を吸ってるから仕方ない。正面からどうにかして」

「わかってらぁ!」

 

 煙幕を意識すると、伊203でも過剰な突撃は出来ない。得意な接近戦は、煙幕を吸わされるリスクが一気に増える。スキャンプもそれを意識しているため、水流を使いながら速い行動を心掛けているモノの、喧嘩スタイルの突撃はなかなか出来ない。

 

 黒深雪は自分になかなか近付いてこない様子を見て、なるほどと納得し、逆に接近戦を優先し始めた。潜水艦の戦い方じゃないなと内心苦笑しつつ、しかしそれによって相手がやりにくそうにしているのならば、その戦い方を率先して行う方が勝ちに繋がるだろう。

 超人である伊203ですら、本来の速さがそれによって少しでも抑え込めているのならば都合がいい。それに、時間をかければかけるほど、黒深雪には援軍が来る。

 

「雷」

「ええ!」

 

 2人してスキャンプに一気に近付いたところで雷に合図し、雷は黒深雪の背中に手を置いた。その瞬間、黒深雪の腕から黒い煙幕が溢れ出す。

 島で起こした感情的な煙幕ではない。この煙幕の効果を確信しているかのような扱い方。吸ったらまずい、巻き込まれたらまずい、そう思わせるだけでも攻めの一手になる。

 

「Inkかよクソが!」

「イカスミに見えるな確かに。だが、お前らは煙幕をよっぽど恐れてるみたいじゃねぇか。使わせてもらうぜ」

 

 その効果を知っていようが知っていまいが、()()()()()()()()()という行動そのものが、黒深雪に有利に働く。

 水流で煙幕を散らすスキャンプだが、その行動も余程煙幕を受けたくないと思わせるには充分。

 

「引き剥がす」

「させないよ!」

 

 煙幕が薄い雷側に狙いを定めた伊203だったが、それを援護する伊36に阻まれる。雷スレスレの場所へと魚雷を放っており、伊203の前進を止めた。

 かなり危険な、味方すら巻き込みそうなギリギリの攻撃なのだが、それを躊躇すらしない。当たってしまってもいいやと思っているような、非常に危険な精神状態。

 

「スキャ子」

「わかってらぁ!」

 

 その魚雷は水流によって進行方向を狂わせて、万が一にもうみどりへと向かわないように対処した。それが隙になるかもしれないというリスクはわかっていたが、うみどりは最優先で守るべきモノ。

 

「視線を切る余裕があんのか」

「なめんなよFake(ニセモノ)が。あたいはGenuine(ホンモノ)を知ってんだ」

 

 黒深雪の突き出す腕を見る前に、スキャンプは足からの『スクリュー』によって突発的に間合いを取った。煙幕を散らしつつ、本来ならば黒深雪自身も巻き込んで吹き飛ばすことが出来るのだが、煙幕ブーストがかかっている2人には、体勢を崩す効果にもならず。

 スキャンプはわかりやすく舌打ちをした。水流による攻撃は、それだけでも1発殴る蹴るをしたくらいのダメージになり得るのに、黒深雪にはそれが効かない。深雪はモロに喰らってくれていたことは演習で知っているので、黒深雪のブーストの性能は、深雪以上なのではと考えた。

 

 実際、それは正解。黒深雪の煙幕ブーストは、深雪よりも倍率が高い。自分の命を軽んじているから、無茶なブーストが可能となってしまっている。それをカテゴリーKとしての力で全て抑え込んでしまっているのだから、余計にタチが悪い。

 

「随分弱気だな。それだけ煙幕が怖ぇわけだ。使わない理由はないな」

「ええ、もっと使っていきましょ。私がサポートする」

「頼むぜ、雷」

 

 水流を使って無理矢理にでも散らそうとするところからして、うみどりサイドにはこの煙幕が非常に有用であると理解した黒深雪は、より一層多用するようになる。スキャンプはそれを散らすことに手一杯にされそうだが、まだ互角に近い。

 

「……みぃむ、仲間に当たったらどうするつもり?」

 

 こちらでは、先程のスレスレ魚雷を放った伊36に、それを咎めるように言い放つ伊203。しかし、伊36は何も気にしていない。

 

「当たらないから大丈夫だし! 随分と余裕なんだね、ふーみぃ」

「自信過剰? 危機感欠如? どちらにせよ、その戦い方は気に入らない」

 

 自分の命を捨てるような戦い方も嫌いだが、仲間の命を考えない戦い方はもっと嫌い。伊203は、この危険なサポーターをまず止めることを優先した。スキャンプに黒の特異点を任せることになるのは危ないかもしれないが、待てばこちらも援軍は来る。それくらいの時間は、スキャンプでも問題なく耐えられるだろう。

 

「知ってるよ、ふーみぃって、普通じゃないんだよね」

「……それが何?」

「だから、私も普通じゃなく行かせてもらうよ」

 

 その気配は、海底からした。()()()()()()()()()()()()()()()()が、伊203に襲いかかってきたのだ。

 

「カツ車……!」

「これならふーみぃも相手が出来るでしょ」

「水陸両用って、海底は無理だと思うけど?」

「現実見なよ、そこにあるでしょ」

 

 猛烈な勢いで向かってくる特四式内火艇は、もう深海棲艦に近い。イロハ級を相手にしているかのように錯覚しつつも、それは確実に回避した。

 深海の技術が含まれた特四式内火艇は、あり得ない挙動をしてくる。これもまた、カテゴリーKの力と言えるだろう。

 

 

 

 

 海中もかなり厳しい戦いを強いられている。だが、お互いまだこれが全てではない。

 

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