特異点同士の戦いの最中、この決戦の場では至るところで戦いが始まっている。
うみどりの防衛に徹している防空隊と空母隊、そして『ダメコン』の2人は、襟帆鎮守府から飛んでくる基地航空隊と戦艦の砲撃からうみどりを守り続け、長門と清霜は一斉射によって牽制、あちらから出撃をしてきた足柄の小隊には、姉である妙高が那珂達を引き連れて迎撃。
さらに海中ではうみどりを直接狙ってきた伊36を伊203が引き剥がし、そこにスキャンプ、さらに海上からは大装甲艇を操る睦月と、それを援護する酒匂と梅が向かう。さらにグレカーレと白雲は、深雪達の戦いの真上に陣取るカタチで動向を確認していた。
「対潜は出来ないね。わかってたことだけど、ミユキ同士の距離が近いよ」
「はい、対潜装備も、今は少々難しいでしょう。お姉様は別個体と共により深く潜ってしまっております」
「うん、こりゃあ全力で殴り合い中だ。ならあたし達は、ここから見える限りで、ミユキの戦いを上から邪魔する連中がいないかを見ておいた方が良さそうだな」
「同意です。この白雲、お姉様の邪魔をする者は、必ずや殲滅してさしあげましょう」
これもまた、深雪達のための行動となる。全てが海中で行われることかもしれないが、余計な手出しをされないように、海上でそれを監視するのだ。艦載機に目をつけて見て回っていたとしても、戦場に直接立っていることでしか見えないモノもあるのだから。
「でも、ミユキとイナヅマがここに留まっちゃうのはあまり良くないことだよね。あっちの中で一番強いのが誰かわかってない状態でさ、特異点がフリーじゃないって、割と怖いところあるよ」
「もしや、それがあちら側の策なのでは。乱戦を装いつつも、お姉様を引き剥がし、うみどりの艦娘達を確実に撃破しようという魂胆である可能性も」
「無いとは言えないね。あっちの提督、裏で手を引いてくれてるとはいえ、ガチじゃん。そうでもしないと疑われるから、かな」
襟帆提督は裏でうみどりと繋がっている。通信でハンドサインを使うことで意志を伝え、諜報妖精さんについても許容してくれている。それすらもフェイクであり、温品の名前を出すことで信用を勝ち取った
とはいえ、もっと本格的にうみどりを潰しに来るのなら、他にもやりようがあるはずだ。戦力をこんなに小出しにしてくることもないし、諜報妖精さんに伝えさせたことを裏目に出るような作戦を出してくることもない。基地航空隊や砲撃の雨も、まだ
襟帆提督も、この状況の中で小さな小さな抵抗をしているのかもしれない。出洲にもカテゴリーKにも気付かれないような、微妙でわかりにくい手加減。全力に思わせて、作戦の僅かなところに綻びを作っているような。
「Kの連中が纏めて海の中からドバッと来ないなら、まだやりようはあるからね。ただ……」
「ただ、なんです? グレ様の意味深な雰囲気は、少々不安になるのですが」
「いや、ね。カテゴリーKはあっちの鎮守府の半分いてさ、残りの半分はあっちの提督の事情を知ってて、秘密でハンドサインとか覚えてさ、必死に抵抗もしてくれてるわけだけどさ、あっちの提督、
鎮守府に所属している艦娘なのだから、提督の立案した策を実行することが基本だ。うみどりの方針だって、最終的には臨機応変というところに落ち着くものの、最初にある程度の道筋は決めるし、艦娘達もその策を信頼して今も動いている。グレカーレと白雲がこうして特異点の戦場の上を陣取っているのも策のうち。
睦月達は持っている兵装が兵装なので、今は2人から少し離れて、伊36の戦場の真上にいる。海中で動く巨大な兵装、特四式内火艇への対策のためにも、睦月が動き出すことを視野に入れているくらいだ。そしてそれも、方針としては伊豆提督がキチンと決めたモノだ。
しかし、制御も難しそうなカテゴリーKが、襟帆提督が考案した策を全てその通りに実行するだろうか。それこそ、あちらは襟帆提督ではなく出洲をトップにした組織なのだ。襟帆提督の知らぬところで、カテゴリーKの独断がいくつもあってもおかしくはない。
「それこそさ、
「……ふむ、無くはないですか」
提督の権限すらも無視して活動をするためのリーダーの存在。それによる容赦の無い攻撃が、ここから始まる可能性は充分にあった。
海中、伊203と伊36の戦いは、特四式内火艇の登場により普通とは違う戦いとなっていた。伊203は近接戦闘のために素早く接近することを基本としているが、伊36はそれを自らの身体能力と特四式内火艇の連携でそれを許さない。さらには、特四式内火艇が魔改造されていることによって、深海棲艦と言っても遜色のないような挙動までしてくる。
「……厄介」
伊203もこれには面倒臭さを滲み出していた。特四式内火艇と言ってはいるが、もう完全にそれではない。水陸両用戦車とはなんだったのか。体感は深海棲艦のイロハ級、それも駆逐ナ級ほどのスペックがあるように感じていた。
おそらく内火艇に意思を持たせているようなことはない。全ては伊36がコントロールしてそう見えるだけ。つまり、ひたすらその操作が上手いだけ。
「やっぱり超人って言われてるだけあるね、ふーみぃ」
「……」
「でも、私は負けないから。ふーみぃにだって、特異点にだって」
伊36はニコッと笑うと、より一層激しく特四式内火艇が動き回る。魚雷を放ち、体当たりを繰り出し、時には海中だというのに砲撃までやってくる。そしてそれは、何もかもが速い。伊203の動きについてこれているという時点で、その速さは相当なモノである。
やはり、超人として名が知れてしまっている神風と伊203は最初から対策がされている。出洲が戦闘風景ではないが直接見ているということもあり、海中での脅威として認識されている。
神風は中柄をぶつけるということが決まっているため、カテゴリーK目下の対策対象は伊203。その一手目が伊36によるコレである。
「……そう。でも、私も負けない。それに、貴女と同じように、私にも仲間がいる」
言うや否や、特四式内火艇に猛烈に突っ込んでくる影が一つ。『スクリュー』の推進力により加速を重ねたスキャンプが、魚雷すら凌駕するスピードで特四式内火艇に蹴りをぶちかましたのだ。それも、
スキャンプは一度海上へと向かい、睦月達と合流、兵装の状況を確認した上で、急潜航から一気に的の大きなところへと突撃したのだ。
カテゴリーW化による自己修復もあるため、割と強引な一撃も可能。推進力と体重を乗せたその一撃は、特四式内火艇のコントロールを一時的に不可能にして、海底へと叩き落とす。
「おう、来たぞフーミィ」
「いいタイミング」
ぐっとサムズアップする伊203を一瞥し、伊36に向き直るスキャンプ。
「おう、2対1はズルいだなんて言わねぇよな。ここは戦場だぞ、命の取り合いに物量なんて巫山戯た言い訳はさせねぇ」
「勿論、そんなこと言わないよ。数を用意するのは誰だって考えることだもん。深雪ちゃん達は特異点と決着つけたいって言ってたから、その思いに乗っかっただけ。そっちもそうでしょ」
「……そこまでアイツのことなんて考えちゃいねぇよ。アイツに任せるのが一番手っ取り早いだけだ。
さらに水流で特四式内火艇を押し込み、浮上をさらに妨害する。伊36には伊36のみの技術で戦わせようとする魂胆である。
「フーミィ、アレはあたいが止めておいてやる。やれ」
「言われずとも」
特四式内火艇が無いのなら邪魔はされない。ならば、もう止めるモノはない。
伊36を見据えた瞬間、爆発するような速度で加速する。伊36の目が追いついたとしても、身体が追いつかないような速度。伊203の得意な急加速による突進。近付いてしまえばそのまま流れを自分のモノに出来る。
しかし、伊36はそれを脅威と感じていなかった。何故なら──
「おーっと、みぃむ氏ぃ、危なかったですなぁ」
その伊203の突撃を、その腕を掴むことで止める新たな刺客が追いついていたからである。
ついさっきまでいなかった。気配すらなかった。なのに、この瞬間に追いついた。伊203と同等、もしくはそれ以上の速度で。
「……っ」
伊203はその手を振り払う。掴まれたままでは、腕をどうされるかわからない。その敵は、素直に伊203の手を離して、伊36との間に割って入ってきた。
「ダメですぞ、超人フーミィはちゃんと油断せずにやらないと」
「油断なんてしてないよぉ。でも、ありがとね」
「いえいえ、仲間ですから」
そんな呑気な話をしているところに、伊203は追撃が出来なかった。相手の力がわからない。全く油断ならない。速さ重視では勝てないかもしれない。そこまで考えて、今は動かなかった。
「さて、フーミィ氏、仕切り直しといきませう。ここからは、この漣がお相手しますからね」
新たに現れたカテゴリーK、謎多き駆逐艦漣。伊203すら簡単に止めてしまったその力が、今から発揮される。