後始末屋の特異点   作:緋寺

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得体の知れない者

 海中での戦い、伊203とスキャンプが相手をするのは伊36。それだけだったのだが、そこに新たな敵、乱入者が現れた。

 カテゴリーKの駆逐艦3人目、漣。それは、伊203の突撃を、ついさっきまでそこにいなかっただろうというタイミングで横槍を入れ、腕を掴むことでそのスピードを止めてしまうような存在。

 伊203が油断ならないと感じ、速さ重視を抑えて漣を観察した程である。何者だコイツと。

 

「さて、フーミィ氏、仕切り直しといきませう。ここからは、この漣がお相手しますからね」

 

 漣は伊203との1対1の戦いを挑むように拳を構える。笑顔を絶やさず、伊36を庇うようにして。

 伊203が超人であることを理解した上で、伊36と協力して攻め落とそうとしているわけではなく、自分1人だけで戦う、自分1人だけでいいと宣言しているようなモノ。

 

 別に侮っているわけでもないし、自分の実力を誇示しているわけでもない。しかし、人の事を超人だと持て囃しておきながらも、それで1人でかかってくるというのは違和感がある。

 漣がそれだけの力を有しているのか、それともただ楽しんでいるだけなのか。勝ち負けが運命を分かつこの戦いで、より勝ち目がある戦いを狙うのならば、1対1という選択肢は考えられない。それなのに。

 

「悪いけど、タイマンは御免被る」

「まぁそうですよねぇ。でも、アンタにそんな選択肢無ぇのよ」

 

 笑顔のまま、急加速。伊203と殆ど同じ速度を、ノーモーションから繰り出された結果、まるで後ろから大きな力で押し出されたかのような猛烈な突進を繰り出した挙句、伊203の顔面に向けて拳を突き出していた。

 伊203がそれを見抜けないわけがない。勘が強く、動体視力が凄まじく、そしてそれに身体が追いつく伊203は、先程自分がやられたように、その拳を腕から掴んでそのまま横に払った。おまけに腹に膝を置いてくるように蹴りを入れる。

 

 しかし、その膝の前には漣の手が既にあった。腹に捩じ込まれているはずの一撃は、その手1つで簡単に止められていた。

 見た目は駆逐艦の細腕。筋肉質にはまるで見えない。それを言ってしまえば伊203も同じなのだが、だとしても見た目からは考えられないような力がそこから発揮されているのは間違いない。

 お互いに握力で潰そうと思えば潰せそうだが、これもまたお互いにそうはさせないと振り払う。すぐしま伊203は膝を引き、漣は腕を振り払った。その力も強く、握力があってもそれを止められずに手放してしまう。

 

「ヒューッ! やっぱり噂通りだ、超人フーミィ! こりゃあ漣ちゃんがやらないとダメですなぁ!」

 

 そこで間合いを取るなどと悠長なことは言わない。振り払った反動を使って身体を捻り、そのまま蹴りの体勢へと移行していく漣。伊203はそれをガードで受けようとするが、この一瞬の間にさらに思考を巡らせる。本当にそれでいいか。漣にはまた別の狙いがあるのではないか。

 大袈裟な物言い、冗談のような仕草、何を考えているかわからない笑顔、それが調子を狂わせるような在り方であることは理解している。駆逐艦娘漣は、どのような個体も前2つを持つことが多い艦娘であり、素であってもこのようなテンションで来る。だが、笑顔を絶やさないことで不気味さが強まっており、何をしようとしているのかがすぐにわからない。

 

 事実、この蹴りは伊203のガードを見た途端に軌道が変わった。腕を避けて、空いた脇腹へ。その速さが凄まじく、急激に角度が変わったようにしか見えなかった。

 

「っ」

 

 ガードが崩れることも躊躇せず、伊203はその蹴りを脇腹で抱え込むように受け止めた。衝撃は腹に伝わるが、その程度ではブレることもない。海中、しかも浮いているような状態でも、その場から動くことすらなかった。

 そして、その抱え込んだ脚を外れないようにロックすると、そのまま身体を回転させて捻りちぎろうとした。伊203の常套手段、相手がどういう状態であろうと、四肢を捥ぎ取り使用不能とする。

 実際は抱え込んだ時点で骨を絞め折るつもりであったのだが、そうやって触れたことで漣の肉体がどうなっているのかを理解した。

 

 見た目は普通だ。何処にそんな力があるのだと思えるような、華奢な子供らしい身体。駆逐艦は皆そうなのだが、漣は特にそう。深雪と同じ特型であり、外見年齢もほぼ同じ。

 しかし、その脚はまるで鋼鉄に触れているのではないかと思える程にガチガチ。力まれることで絞め落としが不可能になるほどに強靭。

 

「おっとと、漣ちゃんの御御足を千切ろうとしてるのかな? いやーん、変態さーん」

 

 口ではコレだが、そこからの判断が異常に速い。なんと漣はこの場で主砲を構えていたのだ。脚が捥ぎ取られることも厭わず、主砲の砲口を伊203の頭に容赦無く突きつけていた。

 海中で砲撃を放ったところで、その威力は大きく減衰する。だが、()()()()()()()()()()()()()()()。それも狙って、漣はわざと掴まれることを選択したとしか思えなかった。

 

 脚一本で超人を始末することが出来るのなら安いモノであると、一つも躊躇せずに。

 

「……ちっ」

 

 伊203が明確に舌打ちをした上で、ロックを外して砲撃を紙一重で回避。だが、ただ外すだけではなく、そこに魚雷を残していった。

 

 この漣は、生かして終わらせることが出来ない。伊203はこの一瞬で悟った。加減が出来る相手では無い。脚を犠牲にしてでもやろうとしてくるのは、命知らずというだけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 だから、これで終わってくれるなら終わってもらいたい。魚雷は超短距離を漣に向けて駆ける。

 

「わお、いい判断! でもでもでもでもぉ、関係ないんだよなぁ!」

 

 しかし、漣はそれを見た後に魚雷の腹を掴むことで止めた。止めてしまった。握力と膂力だけで、魚雷を完全に。

 

「どうせだったら、潜水艦の魚雷はこうやって使うべきなんじゃあないかい?」

 

 そして、その魚雷をあろうことか海上へ、大装甲艇の方へと投げてしまった。推進力はそのままに。

 それがもしクリーンヒットしてしまったら、大装甲艇も、それをコントロールしている睦月も、護衛している酒匂と梅も、何もかもが破壊されてしまうだろう。何せ、今の大装甲艇は新兵器の宝庫。特に火力の強い、ドラム缶サイズの超大型爆雷が搭載されているのだ。魚雷に撃ち抜かれたら、それ諸共爆発して、周囲にいる者含めて木っ端微塵になり得る。

 

「クソがぁっ!」

 

 それを見たスキャンプが、特四式内火艇のロックを外して、『スクリュー』によって急浮上。漣が放り投げた魚雷に追いつくと、さらに水流を発生させて魚雷を完全に沈黙させた。不発弾化させた魚雷を掴むと、今度は襟帆鎮守府方向へと投げ捨て、水流で後押し、この戦場では絶対爆発しないようにと遠方へと追いやった。

 

 しかし、これによって伊36の戦う手段が回復。スキャンプも一時的に戦場から離れたということは、海中の2人+特四式内火艇の前に、伊203が完全に孤立したということ。

 

「へいへーい、ここからはこっちが2人ですぜ。アンタをタコ殴りにさせてもらうけど、構いませんね?」

「へいへーい」

 

 伊203が間合いを取ったところを見計らい、水流から解放された特四式内火艇が急浮上しながら体当たりを敢行してくる。その勢いは凄まじく、普通の潜水艦ならば、それだけで致命傷になりかねない程の衝撃。

 

「……やれるものなら、やってみて」

 

 だが伊203はやはり違った。向かってくる特四式内火艇に対し、避けるのではなく、()()()()()方向に舵を切った。

 ほんの少しだけ浮上をしたかと思えば、そこから勢いをつけて急潜航。激しく飛び蹴りを決める要領で、特四式内火艇の真正面に突撃。蹴り穿つかの如く、そのど真ん中に蹴りを入れた。

 ガゴンと、普通では無い音が海中を震わせる。そして、特四式内火艇はそれ以上浮上することはなかった。

 

 それは、トラックを正面から受け止めるような所業。脚一本で、勢いよく向かってくる質量兵器を止めてしまったのだ。海中の浮遊状態で。

 

「お見事! でも動きは止まった」

 

 そこまでもが、漣の策略。今の伊203はその場に留まった。それが一瞬であっても、動かなくなったと言っていい。

 その隙を突き、またもや弾けるように急加速をして、伊203に接近。今度は殴りかかるのではなく、背を向けることで、艤装で押し潰そうという魂胆である。

 蹴りを入れたことで、現在の伊203は、特四式内火艇の正面に立っているような状態。そこから押し潰すような艤装体当たりとなれば、最悪押し潰されてペチャンコ。そうでなくても、何処かは負傷させられるだろうと考えられる。

 

 それが、伊203でなければ、だが。

 

「やらせない」

 

 なんと、伊203はその場から動かずに迎え討つ。猛スピードで迫る艤装を前に、特四式内火艇に足を付けた状態で、ぐっと拳に力を込めた。本来ならば魚雷で迎え撃ちたかったが、それも難しい。故に、自らの肉体で、その一撃を止める。

 

「おっとマジかい。でもねぇ」

「その足場、動くよ」

 

 力を入れようとした瞬間、特四式内火艇が横にスライドした。踏ん張りが利かなくなる。

 

 それは、伊203の予想の範疇だったが。

 

「っっ」

 

 足場無しでも、強烈な拳は向かってくる艤装に繰り出される。足場がないから威力が少し弱まるだけで、この程度ならば浮遊状態でも繰り出せるし押さえられる。

 

 だからこそ、漣はここでも笑顔を絶やさなかった。

 

「ですわなぁ。それじゃあ失礼」

 

 伊203が繰り出した拳は、空を切った。漣は身を捻り、当てられる前に反転、伊203の真横へと滑り込むように移動し、再びその主砲を構えていた。ほぼゼロ距離。威力の減衰を許容しても、当たれば致命傷。

 

 

 

 

 

「これで終わってくれませんかね」

 

 そして、砲弾は放たれた。

 

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