後始末屋の特異点   作:緋寺

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戦いを楽しむ者

 海中でも激戦は繰り広げられているが、無論海上でも戦いは進んでいる。それが、妙高と足柄の部隊の激突である。

 

 足柄は重巡洋艦であるにもかかわらず、当たり前のように艦載機を使う。深海棲艦の艦載機、その場で停止や後退まで可能な、ドローンと同じような挙動をすることが出来る、通称『タコヤキ』。それを複数個発艦させている。

 今はその数8機。搭載数はわからないが、それを自らの手足のように扱い、射撃と爆撃、さらにはそれを直接ぶつけようとする、本当に四肢を増やしたかのような戦いを進める。

 

 だが、それは妙高にとっては()()()()()関係ない話である。何故なら──

 

「あら? 確かに狙いは定めたんだけれど」

 

 妙高には『ジャミング』がある。狙いを定めた攻撃が逸れる力。真正面からのぶつかり合いに滅法強い力である。

 カテゴリーKは曲解についてそこまで周知しているわけではないようである。特異点が何かしらを与えているくらいの知識。誰がどんな力を使うかなんて、全く以て知る由もなし。自陣営に特異点を有しているのだから、何かおかしなことは出来るだろうとは予測していたようだが。

 

 元はと言えば、それは阿手が作り出したモノではあるのだが、その辺りはまるで無知の模様。

 

「なぁに、妙高姉さん、何かトリックでも使ってるわけ?」

「そのようなモノです。まさか、ズルいなんて言いませんよね?」

「言うわけないじゃない! むしろ、燃えるわ! 捗るわ! そんな相手を攻略するなんて、面白い以外無いじゃない!」

 

 表情は普通。笑みも別に狂っているわけではない。だが、内側に潜む狂気が、ありありと見て取れる。

 元々足柄は好戦的、悪く言えば戦闘狂の気質がある艦娘だ。色恋沙汰より戦い、そして勝つことを好む。しかも、勝てば良いというわけでもなく、正々堂々と正面から。

 艦載機を使うことはズルではない。自分の可能な技術の1つなのだから。手足を使ってズルなわけがないのだ。『ジャミング』もズルではない。言葉を話すようなモノであり、それがおかしいわけがないのだ。

 

 故に、そんな妙高を乗り越えることに至上の喜びを見出だした足柄は、より一層テンションを上げていく。こんな戦いはこれまでにない。シミュレーションをしていた何倍も楽しい。ただひたすらに、この姉に勝ちたい。その気持ちばかりが前に出る。

 

「嵐、萩風! 一緒に妙高姉さんを崩すわよ! さあさあ、どんなトリックか解析しなくちゃね!」

 

 嵐と萩風は、足柄に同意してはいるものの、確実に乗り気ではないのが見えた。砲撃も狙いは定めているが確実に当てようとは考えていない。しかし、この場で後ろから撃つなんてことも出来ない。そんなバレバレな離叛をした場合、鎮守府にいる襟帆提督に何かやられる可能性もあるのだ。

 

 それを汲み取った那珂達が、そちらを対処するために、()()()()()()()()()()と、足柄から引き剥がすように動き出す。

 

「ごめんね足柄さん、那珂ちゃん達がそれを許さないんだよね⭐︎」

 

 舞風とZ1を引き連れた那珂は、足柄に接近したかと思えば普通に通過して、嵐と萩風を援護させないように攻撃開始。牽制の砲撃から始まり、踊るような回避と同時に近接戦闘まで繰り広げるアイドル。Z1は流石にサポートに徹しているが、那珂と舞風はノリノリでその場でアイドル活動を始める。

 

「あらし、はぎぃ、悪いけどここでは何もさせないよ。そーれ、ワンツー、ワンツー!」

 

 特に舞風は2人を止めることに躍起である。かつては同じ駆逐隊に属していた姉妹艦。第三世代の元人間であることがわかっているからこそ、複雑な感情に苛まれつつ、だがこの戦いを比較的優しく終わらせたい。その気持ちがダンスにも見えている。

 2人からの砲撃を華麗に避け、飛んだり跳ねたりを繰り返し、妙高への射線は絶対に開けないように立ち振る舞う。距離的にはもう『ジャミング』の範囲から外れているが、それだけ2人を足柄から引き剥がすことに成功したようなモノ。

 

「うーん、団体戦の良くないところが出てるわねぇ。あの子達も相当な手練れだと思うんだけれど」

「残念ながら、同じ手練れでもうみどりとは違うということです。足柄、貴女は私と一騎打ちでいいでしょう」

「仕方ないわね! でも、そこから抜けられるようなら抜けてきなさいよねー!」

 

 いつまでも何処までも明るく戦いを楽しむ足柄は、仲間が引き剥がされようが関係ない。逆境も戦いの内である。どんな戦いでも、それを受け入れるのが足柄の良いところでもあり悪いところでもある。

 

「妙高さんの邪魔はしてもらいたくないからね! それでは那珂ちゃん、歌います」

「……は?」

 

 引き剥がすと同時に歌い出した那珂に、敵対のフリをしているだけの嵐もキョトンとした顔をしてしまった。那珂という艦娘がそういうタイプであることは知っていても、この戦場において、それがまともかと言われたら、間違いなくまともではない。

 一方、舞風は待ってましたと言わんばかりにダンサーとして励み、Z1は苦笑しながらサポートする。

 

「本当は、のわっちも一緒にいたら、4人揃って那珂ちゃんのバックダンサーも出来たんだけどね」

「っ……」

「阿手と出洲のせいで、出来損ないにされてたよ。それだけは、本当に許せない」

 

 舞風の表情に一瞬だけ影が落ちる。だが、それも瞬きするとまた笑顔に戻っていた。

 

「それでは聞いてください。ちょっと音量大きめにーっ!」

 

 マイク型探照灯を握り締めて、ニッコリ笑うと、大きく息を吸い込んで、口を開けた。

 

「Ahhhhhhh!」

 

 絶叫とも違う、美声の咆哮が戦場に響き渡る。近くで聞いたら耳がおかしくなるような声量を、マイクを通してさらに拡張した。

 島でもやった、敵の鼓膜と三半規管を破壊するシャウト。自身を中心に発生する範囲攻撃。かなり近い位置でそれをまともに受けた嵐と萩風は、一瞬視界がブレた。脳が揺さぶられるような衝撃に、鼓膜まではやられなかったが、ぐらりと視界が揺れた。

 

「何よアレ! 面白い攻撃するのね! 音響攻撃? 音波? 何にしてもすごいわ!」

 

 足柄にもその声は届いているのだが、後ろからであることもあり、そこまでダメージは無し。フラつくこともなく、ただ驚いただけ。故に、新しい戦術を見れたとニッコニコである。

 

「阿手に狡猾なことばかりされていたので、こちらもあの手この手を使って乗り切ってきたんですよ」

「なるほどね、とても素晴らしいと思うわ! もっともっと見せてちょうだい!」

 

 那珂とも戦いたそうにウズウズしているようだが、まずは目の前の妙高だと言わんばかりに、8機の艦載機を動かして、妙高を包囲した。先程は正面から並んで狙いをつけたのだからダメだったのだと思ったが、今度は360度からの立体攻撃。

 しかし、これもまた『ジャミング』によって逸れる。全ての射撃はまるで別の図を描くかのように綺麗に逸れていった。

 

「あらぁ? 全部がちゃんと狙い定めたんだけれど」

「当たりませんね。本当にちゃんと狙っているんですか?」

「失礼な! この足柄、狙いを定めた砲撃の精度は自信を持てるくらいなんだから!」

 

 そう言いながら妙高は砲撃で艦載機を破壊しようと企てる。しかし、深海の艦載機はそれそのものが強く改造されているようで、2機3機と集まって受けたことによりダメージを分散、ほとんど無傷で砲撃を乗り切っている。

 単純に強い。改造されているのはいいとして、単純に使い方が熟れている。艦載機を手足のように使い、攻防一体の手段として完璧に使い込んでいる。瞬時の判断も凄まじく、そして何より、メンタル面があまりにも強い。

 

「それじゃあ、これはどうかしら?」

 

 砲撃、雷撃、艦載機を同時に繰り出して妙高に一斉攻撃を仕掛ける。だが、それはまた全て狙いを定めていたことによって、『ジャミング』により全てが逸れた。

 

「うん、なるほどね! 狙いを定めたら外れるのね!」

 

 そして、足柄はこのギミックに完全に勘付いた。『ジャミング』はわかりやすい力ではあるが、自分の技術に自信があるからこそ、この外れっぷりが、技術を逆に利用しているとわかる。

 妙高も、それなりに早く勘付かれるとは考えていた。そのため、戦いはここからだと理解する。バレてからが妙高の本当の戦い。

 

 だがここで、思ってもいなかった横槍が入る。それが、睦月による爆雷の投下。それによるとんでもない規模の爆発。本人がここまでするのかと思うレベルの爆発が、妙高と足柄達の戦場にも影響を与える。

 

「っ!? なになに!? 何が起きたわけ!?」

 

 足柄はそれにも興味津々である。妙高から視線が逸れるほどに大きく立ち昇る水柱に興味を持っていかれている。

 良くも悪くも動物的。目の前の戦いから目を逸らすなんて言語道断なのだが、妙高すらも何が起きたのかと驚いた程である。とはいえ、これはチャンスでもあった。

 

「何が起きたんでしょうね」

 

 容赦無く、妙高は撃つ。殺さずとも、重傷は負わせる必要があるため、まず狙ったのは脚。

 

 しかし、恐ろしいことに足柄はその攻撃を見ることなく、艦載機を操ってその攻撃を防いだ。

 

「でっかい爆発ね! 爆雷か何かかしら! それにしても大きすぎるし、馬鹿みたいに纏めた爆雷を一気に爆発させたとかかしら!?」

 

 見向きもせずに攻撃を防ぐ、その技量。いや、野生の勘ともいうべき防衛本能。これは厄介な相手だと、妙高は改めて気を入れ直した。

 

 

 

 

 足柄の脅威はむしろここから。『ジャミング』を理解したことで、次なる一手を投じてくるだろう。あくまでも楽しみながら。心は絶対に折れない。

 

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