未知の攻撃を受けながらも、それを楽しみながら攻略しようと考える足柄を相手に、妙高はどう勝利していくかを思案する。
カテゴリーKとて救いたいというのはあるのだが、無傷で救うのはほぼ不可能。それでも方法があると言えばあった。
例えば、随伴の嵐と萩風を機能停止に追い込もうとする、那珂のシャウト。音響兵器と称されたそれは、急激な大音量をぶつけることで脳を揺さぶり、三半規管にダメージを与えて立っていられなくする。今は動かなくても、このまま捕えることは可能となる。
事実、嵐と萩風はその一撃を受けたことで大きくふらついていた。撃たれることもなく戦力を少なくする手腕に驚きながらも、それを受けたことで今の状況が作られていることに恐れも感じている。自分達があまりにも場違いな戦力だと。
しかし、足柄はそれにも動じない。大きな音がした、という程度であり、随伴艦がやられたとしても、敵の戦い方を称賛し、興味を持ち、より戦意を昂揚させる。
「大きな音といい、でっかい爆雷といい、面白いことばかりするじゃないの! 姉さんのそのトリックも、攻略し甲斐があるってものよね!」
妙高の『ジャミング』の謎を解き明かそうと楽しんでいる足柄は、妙高からの砲撃は全て艦載機で防いでしまっていた。艦載機が頑丈というのもあるのだが、その衝撃の分散が非常に上手い。曲解ではなく、これぞまさに『ダメコン』である。必要最低限のダメージに抑え込んで、攻撃を防いでいく。
足柄の艦載機は、攻防一体の厄介な兵器である。しっかりどちらにも使ってくる辺り、相当に使い込んでいると言えよう。
それと比べて、妙高の『ジャミング』は防御に特化した能力であり、攻撃に関しては一般的な艦娘と同じ。そのせいで、攻防どちらにも上方修正がかかっている足柄の突破は非常に難しい。
「さて、どうしましょうかね」
だとしても、焦ることなく足柄の弱点を探っていく。いや、あるのだが、それは奥の手中の奥の手。むしろ、わかっていても絶対に使わない手段。
それが、ブロックワード。カテゴリーKの中でも、特異点の2人を除いて、全員に設定されている、それを耳にしたら自らの死を思い出して暴走してしまうトリガー。無論、足柄にもそれは設定されており、事前にそれが何かは、うみどりの面々全員に伝えられている。
だが、この足柄の場合、それを言ってしまった場合は本当に取り返しがつかなくなりそうだった。攻防一体の艦載機が暴れに暴れ、誰も近付けない状態で燃料と弾薬が尽きるまで耐えなければならなくなる。それはおそらく、無理と言ってもいいだろう。今でさえジリ貧に近い状態が、それだけで一気に押し込まれる。
「守ってばかりで大丈夫なのかしら!」
「大丈夫ではないですね。貴女が私の攻略法を考えるように、私も貴女の攻略法を考えているんですよ」
「あら、そうなのね! 姉さんがどうやってくるのか、すごく楽しみ!」
皮肉だろうが何だろうが、足柄は全てポジティブに捉える。戦いを楽しみ、正面から受けることに喜びを感じている。
「……貴女は、本当に平和を目指しているのですか?」
妙高はそこに疑問を覚えた。全ての争いを無くすため、文化すら管理しようとしている出洲の部下なのに、ここまでの戦闘狂は何処かおかしいと思えた。それこそ、出洲の理念に反し、真っ先に始末されたもおかしくないと思う。
だが、足柄はこの戦いの最初にこう言っている。彼の目指す平和を必ず成し遂げてあげる、私には少し物足りなくなるかもしれないけれど、無駄な争いが無くなるのは素晴らしいこと、と。
自分の戦いは無駄ではない戦いと考えているのか、それとも全てが終わった後に何かする、されることが決まっているのか。
「当たり前じゃない! 物足りなくても、争いが無くなることはいいことよ!」
「それは勿論そうです。ですが、出洲のやり方は間違いなく別の争いを生みます」
「それも全部制圧するわよ、この私が、足柄が!」
倫理観が狂っている。そうとしか考えられなかった。矛盾には気付いているだろうが、やたらと肯定的に捉え、どんなやり方であっても、彼のためと思えば全てを良しとしている。
死んで生き返ったことで、脳に致命的なダメージを受けていると考えるのなら、それはここになるだろう。抜けてはいけないネジが抜けている。
「……自ら平和を崩すようなやり方であることには、気付いていますよね?」
「その先に真の平和があるんだもの、何も問題なし!」
「見えない未来に、何故そこまでの自信が……なるほど、自信、ですか」
自信。それが足柄の全てであろう。自信があるからポジティブに振る舞う。何があっても折れることなく真っ直ぐ進む。何を言われても、自分に自信があるから
自意識過剰と言ってもいいくらいの自信家。それがこの足柄であろう。ブロックワード設定時に、そこもおそらく改造されている。脳を、直接。
「無駄話はおしまい! 狙いを定めたら外れるっていうのなら、狙いを定めなければいいのよね!」
やはり自信満々な物言いと共に、足柄は目を瞑った。狙いを定めない、つまり、何も見ない。単純明快だが、この戦場でそんなことをしたら自殺行為である。
しかし、足柄はそれでも戦えた。見ていない場所からの砲撃を、艦載機で食い止めることが出来るくらいには。ここから全てが勘になる。
「何処にいるのかしら、ねっ!」
それは理性ある暴走。何も見ずに、とりあえず攻撃をばら撒く。そこにいる、ではなく、いるかもしれない、にして、適当に攻撃をしていく。だからこそ読めない。ランダム要素の大きくなったら攻撃は、『ジャミング』すら乗り越えて妙高に届く。
見ずに攻撃する背面撃ちや、破壊したモノの落下を重力に任せる狙いから外れた攻撃とは違う、
「那珂ちゃん、そちらにも攻撃が飛びます!」
「わぁお! それは困っちゃう! みんな、避けるよーっ!」
ランダムに撃ちまくるということは、今は姉妹喧嘩から少し離れて随伴艦に援護をさせないようにしている那珂達にも被害が出る可能性があるということ。
そしてそれは、嵐と萩風も同じである。足柄は、仲間のことも考えないで、妙高を斃すことのみを考えて行動に出ているのだ。
自信過剰かもしれないが、仲間に当たることを視野に入れないのはあまりにも酷い。
「貴女の仲間にも攻撃が当たりますよ! いいのですか!?」
「大丈夫、あの子達なら避けられるわ! そんなヤワな鍛え方してないもの!」
先程那珂のシャウトを喰らってフラついているのを覚えていないのか、まともに身体が動かなくなっているにもかかわらず、避けられると自信を持って言い放つのは、あまりにも傲慢だった。
「……そんなやり方で、平和など手に入れることが出来るわけがない。足柄、貴女はそれでいいと思っているのですか」
「ええ!」
断言。もう、これは取り返しのつかないところまで壊れているのだと実感。ならばと、妙高は小さく溜息を吐いた。
「では、もう貴女に用はありません。妹だという気持ちも捨てます。貴女はもう、どうにもならない。壊れたモノを直せるほど、こちらに余裕なんてないのです」
乱雑な攻撃のせいで『ジャミング』は通用しなくなっているが、命中精度はこれでもかというほど落ちている。ならば、あとは勘を乗り越えるだけ。
1人ならば難しいだろうが、ここには仲間がいる。協力すれば、いくらでも乗り越えられる。
「那珂ちゃん、舞風さん、レーベさん、4人で囲みます! このおバカな妹を、ここで終わらせます!」
「りょーかい! 囲みまーす! ファンミーティングだね!」
嵐と萩風への被害が出ないように、Z1が無理矢理範囲外に放り投げる。嵐が小さく、悪いと謝ったが、Z1は小さく頷くだけですぐに足柄と向き合った。
舞風は那珂と共に踊るように足柄へと接近。避けられる場所を封じ、一斉攻撃の準備。乱射される砲撃は華麗に避け、近付けるだけ近付く。
「んん? 何人か近付いてきているわね!? さぁ、かかってらっしゃい!」
この期に及んでこのような言動が出来てしまう足柄の壊れ方を妙高は悲しく思いつつ、しかし心を鬼にして終わらせるつもりで主砲を構える。『ジャミング』は全開。しかし、その攻撃は何処かに飛んでいくこともなく、狙われているわけでもなく、妙高達に襲いかかる。適当な攻撃であるが故に、曲解などもう関係ない。
「ええ、貴女には1人で勝とうだなんて思いません。人数を使ってでも、必ず勝たせてもらいます。貴女のような考えの者に世界を握らせては、破滅にしか向かわないでしょうから」
4人でぐるりと囲み、足柄の逃げ道を塞ぐ。目を瞑っていても、そうされていることは直感的に理解しているだろう。足柄は周囲をキョロキョロと見回すような仕草。
「あっはは、本当に囲まれた! 私にそれだけ人員を費やしてくれるのね!」
「当たり前でしょう。苦戦させられましたよ」
そして、砲撃を放つ。しかし──
「私もね、潜れるのよ!」
ここで足柄、重巡洋艦であるにもかかわらず、潜水開始。三次元の回避により、囲まれた状態を覆す。
当たり前だが、妙高がそれを読んでいないわけがない。こうすれば潜る。ランダムな攻撃も止まる。だからこそ、読みやすい攻撃で次の行動を固定化した。
「爆雷を」
「オッケー♪」
そして、海中の相手には爆雷。那珂と舞風が容赦無く爆雷を放り込んだ。妙高達はすぐにバックステップで散開。
それは、見事に爆発した。