後始末屋の特異点   作:緋寺

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高まる思い

 後始末は続く。小規模と言うだけあり、開始してから数時間、まだ日を跨ぐには遠いくらいの時間に、残骸集めはほぼ完了。深雪達が受け持っている汚れた海水の濾過も順調である。

 

 だが、やはりというか、海中になかなかのモノが沈んでいた。姫級では無いのだが、明らかなヒト型。イロハ級の中でも上位に加わる個体、空母ヲ級の亡骸が数体。

 こればっかりは潜水艦の2人にどうにかしてもらうしか無い。引き揚げるために力が必要ならば、いつものように長門がその膂力を存分に活かして手伝うのだが、姫の巨大な艤装が無い、深海棲艦のヒト型の中でもかなり軽装である空母ヲ級ならば、2人の()()で海上まで浮上させることは出来た。

 

「大発1つで良かったにゃし?」

「大丈夫大丈夫。3体分なら乗っかるよね」

 

 大発動艇運用は睦月。伊26が言うには、その亡骸は3体分とのこと。しかも、特徴的な頭部艤装が脳もろとも撃ち抜かれているというなかなかハードな亡骸ではあるのだが、カタチがほとんど綺麗に残っているため、大発動艇にそのまま横たわらせた方が早いと判断した。

 

「あのさ、あたしああいうやられ方の亡骸知ってんだけど」

 

 深雪には心当たりがある亡骸の致命傷。初めての後始末に参加した時に、最後の最後に海中で発見された大物。頭だけを失っていた装甲空母姫に近しいやられ方である。それを誰がやったか──軍港鎮守府所属の綾波だ。

 この海域が軍港に近付いているという証左にもなる。軍港鎮守府の管理海域(ナワバリ)に侵入したのだから、都市に住まう人類達の平和を守るために迎撃。そして見事撃破したのだろう。

 

「あれ、軍港の綾波よ」

「アイツがアレやったのか!? うへぇ、強いってのはあん時聞いてたけど、あそこまでとはなぁ……」

 

 神風にその事実を知らされ、深雪は大いに驚いた。一度会った時に仲間達が話していたこともあり、やたらと強いという話は知っていたが、ここまでとは思っていなかったようである。

 

「すごい精度なのです……」

「ああ、急所を一撃だもんな。今度軍港に行ったときに会えるかもしれないけど、あのやり方からは考えられないような奴だぜ」

「そ、そうなのです!? ヒトは見かけによらないみたいな感じなのです?」

「ああ、少なくともあたしはそう思ったな。すげぇおっとりしてる奴だからさ」

 

 そうこうしているうちに、海底に沈んでいたヲ級の亡骸3体分は大発動艇に積み込まれ、海中の後始末もおしまい。あとは、前回のこともあるため、少し現場よりも離れた場所も確認することになっている。

 以前にいた海域──昼目提督が仮に特異点Wと命名した場所には、何故か特殊なモノが集まってくるようなことが多いが、今ここはそことは違う。おそらく何か集まってくるようなことは無いと思われるのだが、だとしても一度あったことは二度三度と起きかねない。

 

 結果としてその後は何か出てくることもなく、後始末は航空隊の薬剤散布と共にスムーズに終了を迎える。波乱もなくすんなり終わるのは久しぶりのようにも思えたか、何か来るのではと妙に緊張していたうみどりの艦娘達は心の底から安堵の息を吐いた。

 

 

 

 

 全員の洗浄が終わった頃には、もう日は跨いでしまっていた。とはいえ、これは予定通り。

 翌日のためにもすぐに休もうと、深雪と電はもうベッドである。昼寝と同様に、夜も同じ布団の中で眠るために。

 

「お疲れさん、電」

「お疲れ様なのです深雪ちゃん。今回は最初から最後まで全部出来たのです」

 

 深雪と電は昼にしっかりと休んでいるおかげで、疲れてはいるものの最後まで体力も保つことが出来ていた。時間が時間なので眠気は出て当たり前ではあるのだが、やろうと思えばまだやれるというくらいには元気である。

 だからといってまだまだ起きていようなんてことはなく、後始末の影響で時間がズレている就寝時間が間もなく訪れるため、すぐに眠る予定である。今でも寝ようと思えば寝られるくらいに疲れてはいる。

 

「これで何も無かったら次は軍港だ。久しぶりに遊べる時間だな」

 

 翌日は丸一日を清浄化率の維持の確認に使うため、動き出すのはその翌日から。次の目的地は前々から話されていた軍港である。

 

「うみどりから降りるのです?」

「ああ、うみどりが補給とか受けてる間、あたし達はやることないからパーッと遊ばせてくれるんだよ。あそこの街はすげぇ賑わっててさ、出店で何か食ってもいいし、買い物をしてもいい。梅とか本を買ってたぜ」

 

 深雪は二度目、そして電は初めての軍港。深雪の話を聞くだけでも人間が沢山そこで住んでおり、楽しそうに生活しているのだと電は理解する。

 真実を先に聞いている電にとっては、人間不信はまだ取り除かれていない。真実を後に聞いている深雪はそれを知っていたから人間不信にならなかったと話しているため、その場所は思っている以上に楽しい場所なのだろうと解釈していた。

 

 だが、今回の軍港は少しだけ趣が違う。艦娘達は精神的な休息も兼ねているが、その裏側では元凶を知るための調査が進む。

 万が一、軍港都市もグルになっているとした場合、それは大変なことだ。これまでの作業が全て元凶に力を与えているようなモノ。そしてそれが戦争を長引かせ、呪いまで作り上げている。後始末屋の思いを冒涜するような行為だ。

 軍港都市を取り纏める保前提督が伊豆提督の親友だとしても、ここは疑いをかけなくてはならない。それは仕方ないこと。無実だとしても、事情を話せば納得してくれるはずだ。

 

「……何も無ければいいのですけど」

 

 電は少しだけ不安そうであった。それは、軍港に対する不安。元凶の件もあるが、人間が沢山いるということもそれに繋がる。

 

「少なくとも、沢山いる人間に関しては何も心配はいらねぇよ。あたしが保証する。あの街で嫌な思いはしない。乱入されたらその限りじゃあないけど」

「乱入って」

「街の外の人間が悪いことしようとしてるならってことだ。あそこで暮らしている人間は大丈夫。艦娘もな」

 

 一度行っているのだから、深雪は自信を持って電に話すことが出来た。街でのことも、鎮守府でのことも。

 暁の名前が出てビクッと震える電だったが、既に響と顔を合わせているためそこまでショックを受けることもない。それでも姉妹艦という他人ではない他人には少々感じるものがあるようだが。

 

「まぁ、今は成り行きに任せるしかねぇよ。でも、悪いことにはならないから安心しとけって。何かあっても、あたしが電のこと守るから」

「……ありがとう、なのです。深雪ちゃんと一緒なら安心なのです」

「へへ、任せな」

 

 薄く笑みを浮かべる電の頭を深雪が撫でた。電はそれだけでも不安が吹き飛んでしまう感覚を得た。こうして深雪と一緒なら、嫌なことは絶対に起きないと信じられるかのように。

 

「じゃあ、もう寝ようぜ。続きは明日な」

「なのです。おやすみなさい、深雪ちゃん」

 

 そう言いながら、電は深雪の腕に手を回す。雨の夜の時と同様、少しでも密着して温もりを感じた方が気分がいいし疲れも取れるというのが電の見解。もうここは遠慮せず、深雪と拒むことがないため思ったままに行動した。

 2人きりならもう遠慮もしていない。誰かに見られるわけでもないため、羞恥心などもない。深雪相手なら、その気持ちが好きに出せる。

 多種多様な高まる想いを胸に、電は気持ちよく眠ることが出来そうだった。

 

 

 

 

 しかし、そう簡単に終わらないのがここ最近の後始末である。

 

 

 

 

 眠ろうとしたところに艦内に鳴り響く警報。すなわち()()

 

「ちょっ、なんでこんな時に……っ!」

「なんなのです!?」

 

 眠りかけていた深雪はその音で飛び起き、隣の電も併せて起きる。

 

『うみどりのソナーが潜水艦の反応を検知したわ。ただ、ごめんなさい。海中の反応にはカテゴリーが見えないの。だから、警戒して』

 

 イリスの放送からして、今回は海上艦ではなく潜水艦。長門達主要メンバーは手が出せない領域。故に、そこを主戦場とするのは対潜攻撃が可能な軽巡洋艦以下の艦娘達。深雪と電も勿論そこに該当する。

 このタイミングで現れる潜水艦となれば、基本的には敵と考えていい。だが、イリスは殲滅ではなく()()と言った。()()()()()()()()を考慮しているということである。

 

 ここ最近で潜水艦といえば、どうしても引っかかるのは先日の後始末で回収した潜水棲姫。そして、その横に寄り添うようにいたという潜水新棲姫である。ソナーの反応から潜水新棲姫である可能性も捨てられないということか。

 深海棲艦であるにもかかわらず、同胞に対して何か違う念があるような行動をとっているということで、もしかしたら話がわかる相手かもしれない。

 

「と、とりあえず工廠に行くぞ!」

「なのです!」

 

 じっとしていても始まらない。深雪と電は大急ぎで工廠へと向かった。

 

 

 

 

 工廠には既に仲間達が集まっており、何が起きてもいいように準備をしていた。潜水艦相手には手も足も出せない長門ですら、いつでも出撃出来るように艤装の準備をしているくらいである。

 

「伊26と伊203が先行して調査に出ているわ。対潜装備で迎撃出来るように、軽巡と駆逐艦は準備しておきなさい。イリス、反応の数は」

『数は5。だけど、少し動きがおかしいわ』

 

 工廠の伊豆提督と放送のイリスが会話しているというなかなかおかしな状況だが、それ以上におかしなことが起きているようである。

 

『集まっているのは4体。1体は……()()()()()()……?』

 

 なんと、見えている反応だけでも勢力が2つあるのである。うみどりの近くに来てはいるが、うみどりを襲うために来ているわけではなく、追われている1体の潜水艦が目的と考えてもいい動き。

 

『こちら伊203。応答願う』

 

 続いて放送に割り込んできたのは、先に出撃して調査している潜水艦の伊203。海中でも呼吸が出来る上に会話すら出来るのが潜水艦の特徴であり、それ専用の通信機も持っているため、現状の調査報告をその場でもやれるようにしていた。

 その伊203が割り込んでまで艦内放送に報告を入れてきているということは、余程のことがあったということ。

 

『追われている潜水艦を救うため、戦闘に入る。いい?』

 

 伊203の非常に端的な要求に、伊豆提督は即座に許可を出した。

 

 しかし、潜水艦同士の戦闘というのは基本は不毛。攻撃手段が魚雷しかなく、発射のタイミングがバレバレな上、スピードも主砲よりも速いわけではないため、見てからでも避けられる。そのせいで、攻撃は基本当たらない。

 しかも今は夜。潜水艦の時間と言っても過言ではない。最初から目視も出来ない場所にいるのに、海上ですら前後不覚に陥りかねない時間帯ならば、その命中率は格段に落ちる。

 

 それでも戦闘に入ると言い出した伊203には策があるということ。そして、それを踏まえても伊豆提督が何も言わないあたり、その手段に分があるということ。

 

「対潜部隊出てもらうわ。那珂、子日、深雪、電、4人で向かって。救護班も準備!」

 

 ここで初めて、深雪と電が部隊に組み込まれる。名前を呼ばれた瞬間、まさか自分が選ばれると思っていなかったため、えっと声を上げて驚いてしまった。

 そんな2人を見て伊豆提督はいつもの調子で2人に近付き、しゃがんで視線を合わせる。

 

「大丈夫、アナタ達はもう戦えるわ。みんなと一緒に、海に出てちょうだい」

 

 ニコッと笑って2人の肩に手を置く。それだけでも、伊豆提督に期待されているということがわかった。

 勿論やる気はある。初陣だから緊張するというだけ。そして、それが取り除かれればあとは行くだけ。

 

「大丈夫だ。行ける。電、大丈夫か?」

「行けるのです。戦うのは怖いですけど、ここでやらなくちゃみんなが危ないのです」

「よし、なら充分だ。ハルカちゃん、あたし達、やるぜ!」

 

 その言葉を聞いて、伊豆提督は強く頷いた。

 

 

 

 

 深雪と電、初めての実戦。それは、夜の海での潜水艦相手となった。

 




潜水艦との夜戦なんて普通は何も出来ないというのが基本ですが、ここは物語。いろいろな手段を以て潜水艦との戦いに挑みます。キーパーソンは、伊203。
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