後始末屋の特異点   作:緋寺

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その本質は

 長門と清霜が攻め込んだ襟帆鎮守府の近海。うみどりを狙い続ける霧島達戦艦の砲撃を食い止めるため威嚇砲撃、牽制を続けてきたが、うみどりが無闇矢鱈に命を奪わない、確実に直接狙って来ないことをいいことに、何をされても攻撃の手を緩めなかったため、ついに霧島を直接狙う方針に移行した長門。

 それにより、戦艦達は一時的に散開。これによってうみどりへの攻撃を食い止めることには成功した。

 

 しかし、当然それを黙って見ているわけがない。霧島自身がやってきたわけではないが、丁度都合よく海中に潜ろうとしていた瑞鶴が、これはよろしくないと随伴艦である朧と曙を引き連れて戦いを挑んでくる。

 何処かズレた問答はあったものの、お互いに折れることもない。そうなってしまえば、もうここからは戦うしかない。

 

「先手必勝! アウトレンジじゃあないけれど、やらせてもらうわよ!」

 

 先制は瑞鶴。やはり空母であることを活かして、早速艦載機の発艦。矢を放ち、それが深海の艦載機へと姿を変える。一射で10機以上の艦載機が一気に溢れ出す様は、脅威としか思えない。

 

 対する長門は、それを止めるために三式弾を、清霜は器用に戦装大発を操りながらも、対空砲火を繰り出す。艦載機に制空権を取られることは必至だが、対抗出来る手段が無いわけではない。全て墜とせなくても、回避がしやすくなればそれでいい。

 だが、瑞鶴はカテゴリーK。艦種詐欺の常習犯。艦載機に視線を誘導して、自分はそこに戦艦主砲による砲撃を重ねようとする。空母なのにさも当然のように砲撃を使ってくるわけである。

 

「撃たせんよ」

 

 それを事前に知っていたこともあり、長門は上に視線を向けながらも、正面にも意識を向けて、瑞鶴の邪魔を徹底する。小回りは清霜の方が上だが、慣れはやはり長門の方が上手い。正しく戦艦であることを活かして、最初から完全に瑞鶴狙いの砲撃を放っている。

 命の取り合いということも忘れておらず、甘くも見ない。珍しく最初から殺意マシマシ。それくらいしないと勝てないと割り切っている攻撃を浴びせかけた。

 

「危ないじゃない!」

 

 それを軽々避ける瑞鶴。ここでの行動を見て、こちらもちゃんと仲間に回避を指示していることに気付く。随伴艦の朧と曙は、瑞鶴の攻撃を邪魔しないように立ち回りつつ、要所で長門と清霜に対して攻撃を繰り出す。しかし、腰が引けているというか、やる気が見られないというか、狙いは定めているが、軽々避けられるくらいの狙い。

 駆逐艦だから貧弱というわけでもなく、瑞鶴が邪魔をしているわけでもない。ただひたすらに、この現状が嬉しくない、やり甲斐のない仕事であるというだけである。

 

「アンタ達、あのデカい砲撃を回避しつつ接近! 確実にやっちゃいなさい! 私が艦載機でサポートしてあげるから! でも射線は空けてよね!」

 

 自分が空母であることもあり、艦載機のコントロールに徹しつつも、随伴艦への指示を飛ばす。前線に駆逐艦を出すというのは、そこまで間違った戦い方でもなく、カテゴリーCを盾に使っているわけでもない。当然、自分の攻撃が強力であることも理解しているため、随伴艦に当たらないように注意もしている。

 朧と曙はここで散開しながらの攻撃に転じてきていた。瑞鶴の真正面は大きく開き、砲撃を撃つことを阻害しない立ち位置を意識しながら、囲うように立ち回る。

 

 だがこれは、逆に長門と清霜に瑞鶴を攻撃しやすくするための手段にも繋がる。瑞鶴は気付いているかはわからないが、朧と曙は内心、この指示を受けたことに安心した。バレずに状況をうみどり側に好転させることが出来るやり方が可能になる。

 ハンドサインは使う余裕がないものの、うみどりの面々にはこちらの考えていることが理解してもらえると信じて。

 

「離れてくれたっ。でも、囲まれちゃうよ長門さん!」

「厄介なのは空母だ。ならば、やることは変わるまい!」

「うん! 避けながら、当てる!」

 

 ここで長門の前に躍り出る清霜。戦装大発を巧みに操ると、その主砲を瑞鶴に向けた。咄嗟のことであっても、その照準は正確。そのまま撃てば直撃まであるコース。

 しかし瑞鶴は、砲撃と共に弓を構えている。艦載機の発艦には見えない、矢そのもので狙いを定めた、弓道型の空母が稀に行なう強烈な一撃。

 

「ナイスよ! 超狙いやすいわ!」

 

 道を開かれたことにより、瑞鶴は生き生きとその矢を撃ち放った。狙いは清霜、戦装大発に搭載されている戦艦主砲の砲口。矢を直接撃ち込み、完全な破壊を狙っていた。さらには砲撃も重ねる二段構え。矢を放った後に砲撃を放つくらいには頭が使えるようで、反動で照準がブレることも意識している。

 

「やっば、でもそれなら避けられる!」

 

 清霜はそれを見て、急加速をしながらも繊細なテクニックでギリギリの回避を狙う。隙間を縫うような、本当にギリギリの位置。それを、見てすぐに判断して、正確にその場所へと移動する。

 だが当然、その後のことも考えている。砲撃はさておき、矢は本来艦載機となるモノだ。それをかろうじて避けたとしても、問題はその後となる。

 

「避けるの!? でも!」

 

 案の定、瑞鶴は矢を艦載機へと変え、清霜を背後から狙うために急旋回させる。

 

「させん。低空飛行している艦載機など、手が届くぞ」

 

 それは長門の手が届く先。ぐっと握った拳を振るって狙いを定めた。そして、清霜の背後を飛ぶ艦載機に対して、三式弾を放って直接ぶつけてしまった。

 破裂するような爆発と共に、清霜の真後ろから破片が飛び散るが、清霜は全く気にしない。ただ瑞鶴に狙いを定め、砲撃を放つ。

 

「なんなのよアンタ達! なんでそんなに避けられるわけ!?」

「戦場で何を泣き言を言っている。動かないでいてもらえると思っているのか」

「それもそうか……」

「急に冷静になるな」

 

 情緒が不安定すぎる瑞鶴に、やはり壊れている部分が嫌という程わかる。癇癪を起こしたかと思えば、すぐに冷静に次の攻撃を繰り出そうと矢を番えるところは、戦場ということはわかっているのに、感情のままに行動をしているだけなのではと勘繰る程。

 そこで長門は、1つ思い当たることがあった。それは、艦娘の成り立ち。人間から艦娘になる際のこと。

 

 艦娘化を施された者は、その魂に準じた姿に変化する。うみどりでは神風が顕著であり、経産婦であることは隠されているが、それだけ大人である者が、今ではどちらかといえば子供に近い存在へと昇華している。見た目はそれでも中身は大人。艦娘神風に寄っていても、記憶は人間の時のモノを持ち合わせている。見た目と心が合っていないことはざらである。

 この瑞鶴も同じなのではと考えた。ただし、それは神風とは真逆ではないかと。

 

「……奴は、実は()()()()()()()()()……?」

 

 見た目は艦娘瑞鶴。大人の女性というよりは若いが、正規空母としての貫禄だってある。だが、言動はまるで子供のように思えた。無闇矢鱈ではない冷静な戦術は艦娘瑞鶴に引っ張られているが、妙にムキになるところや、外して苛立ちを露わにするところは、まさに子供。

 子供は子供のカタチの艦娘に適性を持つとは限らない。幼いのに戦艦の適性を有する者もいる。成熟しているのに駆逐艦や海防艦の適性を有するのと同じである。瑞鶴は、まさに前者のように思えた。

 

 とはいえ、艦娘化に応じてその場合は不安定にもなるのではと考えられ、あまり実用はされていない。大人びた子供だったりする場合はその限りではないが、しかし大本営的にはそこまで推奨はしていない処置。子供には駆逐艦や海防艦の適性も多く含まれているため、わざわざ大型艦にすることは無いのだ。

 だが、その定石を出洲が守るだろうか。そんなことを考えて処置をするだろうか。出洲はそこまで考えない。救うために手っ取り早い手段を使う。この艦娘に適性があるなら、それがどういうカタチであってもこれでいいと改造してしまうのではないか。

 

「いや、これを追求するのはやめよう。使()()()()()()()()()()を使ってしまいそうだ」

 

 しかし、それを瑞鶴に突きつけるのは控える。ブロックワードに抵触しかねない。既に教えられているカテゴリーKに使ってはいけない言葉は、ここでは出してはいけない。

 

「何ブツブツ言ってんのよ! 朧、曙、集中出来ない戦艦なんて、とっちめてやんなさい! 私もちゃんと狙い定めるから!」

 

 あくまでも3人で戦っているのだというのも、瑞鶴が子供であると考えると、ガキ大将気質なのかと勘繰ってしまうところでもある。周りの部下を振り回して、自分の意思通りにコントロールする。それが一番辻褄があった。

 

 長門達は知らないが、他で戦っている者にも近しい者がいる。足柄はこの気質が見え隠れしている。

 

「長門さん、ちょっと厳しいかも」

「ああ、だが、そろそろ来るだろう。援軍が、な」

 

 その時である。この戦場に、多数の艦載機──うみどりからの援軍が到着する。瑞鶴の艦載機を呑み込むように駆けつけて、その力で撃墜していった。

 

「なっ、そっちも空母を出してきたってわけ!?」

「当然でしょう。空母には空母をぶつけるのが常套手段です。制空権の取り合いですから」

 

 嫌そうな声をあげる瑞鶴に、凛とした声で淡々と語る者。この戦場だからこそ現れる空母隊。その筆頭、加賀。

 

 

 

 

「さぁ瑞鶴……いや、()()()()()()()、やり合いましょうか」

 

 表情を変えることなく、加賀は弓を構えた。

 

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