後始末屋の特異点   作:緋寺

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1人から2人へ

 加賀と瑞鶴の一騎打ち。艦載機は性能差を覆す互角を見せ、そうなった場合は主砲を持つ瑞鶴が有利かと思いきや、華麗に紙一重で回避していき、わざと頭狙いで放った矢を避けさせたところで更に接近、水飛沫を顔にかけることで目潰しを決めて、手が届く位置にまで移動し──

 

「目を覚ましなさい、瑞鶴」

 

 そして、甲板を脳天にぶちかましたのだ。その一撃は、深雪を戦闘不能にした一撃よりもさらに重く、まともな艦娘ならば1発で脳が揺れて気を失う。当たりどころが悪ければ入渠必至。

 

 この一撃を受け、瑞鶴は目の前に火花が散った。この戦場で、こんな攻撃を喰らうとは夢にも思っていない。状況的にも精神的にも不意打ち。

 

「っがっ……!?」

 

 加賀としてはこれで終わってほしかった。余計な戦いはこれ以上したくはなかった。

 空母という存在が、この戦場で厄介な位置にいるのは一目瞭然だ。制空権を取られるだけでもあちら側に有利に働くのは当然であり、この海域そのものがあちらのホーム。少しでも優位を齎すモノは取り払いたい。

 

 しかし、

 

「っぐぅっ!」

 

 瑞鶴は倒れず、その場に強く踏みとどまった。気を失うこともなく。

 

「……頑丈ね」

「はっ、離れな、さいよぉ!」

 

 もう1発というところで、瑞鶴は艤装を振り回し、自分も甲板で殴りつけるように身を捻る。加賀はその程度の攻撃ならば軽くバックステップすることで避けられる。

 

 瑞鶴の頭には大きなタンコブが出来上がっているようだが、アレだけ綺麗に入った殴打に対して、倒れることなく、気を失うことなく、意思が揺らぐこともなく、加賀を睨みつけるまでする辺り、変に根性はある。

 とはいえ、余程痛かったか、涙目になっていた。泣くわけではないが、気丈にも我慢しているように見えた。フラつきもしているが、隙をなるべく無くそうと、加賀の方から視線を外すことなく、主砲を構えてこれ以上の接近をさせないように弓も構える。少し手が震えているようにも見えるが。

 

「なんてことすんのよ! 甲板でぶん殴るとか、野蛮なの一航戦は!?」

「……使えるモノは使って、貴女と戦っているだけよ」

「だとしても、空母が何してくれてんのよ!」

「甲板で殴っただけよ」

 

 瑞鶴の言っていることは間違っていないなと内心で頷きつつも、空母が主砲使ってきてるだろとツッコミも入れたかったが、一旦全てを呑み込んだ。どうこう言っても仕方がない。倒れていないならまたやるだけだ。

 しかし、一度やってしまったことで、警戒はされるだろう。もう近付くことは難しい。そうなると、途端に戦いが難しくなる。

 

「……一騎討ちはそろそろ限界かしらね……」

 

 あの渾身の一撃を耐えられるということは、加賀が可能な攻撃の全てを、肉体のスペックで耐え切ることが出来ると言っても過言ではない。ああいうことは可能でも、加賀は近接戦闘を完璧にしているわけではないのだ。今回たまたま最前線にいるだけで、基本は後方支援。

 それに、今回は咄嗟だから、完全な不意打ちだったから、瑞鶴は使ってこなかったが、カテゴリーKには共通武装のナイフがある。接近を意識され始めると、それで反撃を受ける可能性が一気に上がる。

 

 そして瑞鶴はさらに手段を拡げてきた。一騎討ちでは手玉に取られるのではと危惧したか、ここでムキにならずに突っ込んでくるようなこともない。

 

「手伝って、五十鈴!」

 

 海中も含めて、現れたカテゴリーKは現在7人。残り2人はまだ姿すら見せていない。そのうちの1人、五十鈴へと声をかけたのだ。

 

 加賀はその名を聞いて、眉を顰めながら意識を瑞鶴から少しだけズラし、何処から攻めてくるかを警戒する。声が聞こえているのならば鎮守府側から出撃してくるか。それか、既に海中に潜んでおり、その時を今か今かと待ち構えていたか。

 今の加賀は改二でも護、海中への攻撃も可能なスタイルでこの戦場に来ている。海中からの接近は、艦載機経由ではあるが多少は細かく把握することが出来る。しかし、その艦載機は現在、瑞鶴の艦載機と拮抗中。海中の状況を見る余裕がない。

 故に、警戒の意識はあらゆる方向、自分の足下にまで及んだ。急に足下に現れ、足を掴まれ引き摺り込まれたら、そのまま終わりまであり得る。

 

「……何処から来るのかしらね」

 

 まさか呼んだだけではあるまい。呼べば来るのだから呼んだはずである。なのに、すぐに攻撃は来ない。

 焦らして緊張の糸が少しでも緩んだら来ることも考えられる。来る来ると思わせるだけでもプレッシャーになる。

 

「加賀、下だ!」

 

 ここで、朧と曙をどうにかした長門が叫んだ。そして、瑞鶴に向けて砲撃も放っていた。

 対処が済んだのならばもう自由。2人は気絶させられ、清霜の戦装大発に積み込まれているため、戦場で暴れてももう問題はない。多少激しくしたところで、今は巻き込むことがないのだ。

 

「ちょっ、横槍!? 一航戦、随分と狡い手を使うのね!」

 

 ギョッとした表情を見せつつも、その砲撃はジタバタとしっかり避けている。加賀の回避と違って、少し慌ただしい。そういうところも子供か。

 

「貴女だって援軍を呼んだでしょう。私が手伝ってもらうことの何がいけないのかしら」

「確かに。1対1が2対2になるだけよね、うん」

 

 やはり急に冷静になる不安定さ。これが一番怖い。だが、そんなことを考える前に、長門が下だと叫んだのだから、加賀では見えていなかった何かを見たのだろう。それを信じて、加賀は瑞鶴からさらに離れる。

 すると、ついさっきまで加賀がいたところから、ニュッと手が出てきた。足首を掴む気満々の、完全な不意打ち。そのままいたら、ここで動けなくされ、瑞鶴の砲撃の餌食となってただろう。

 

「残念、ここで終わってほしかったけど」

 

 そこからヌルリと浮上してきたのが五十鈴である。瑞鶴の近くに立つと、頭のタンコブを見て少し心配そうにしていた。

 

「うわ、大きなタンコブ……瑞鶴さん大丈夫?」

「だ、大丈夫よこれくらい! それよりも、あの2人を始末するわ。手伝って」

「ええ、わかった。どちらと厄介なのはよくわかったわ。だから、瑞鶴さんも潜った方がいいと思うわよ」

「……確かに! 私も潜れるじゃないの! 同じ土俵で戦ってやる必要ないじゃない!」

 

 本当に忘れていたというのなら、瑞鶴はどうにもこうにも頭の回転が微妙ということになる。

 こういうところからも、瑞鶴が元子供ではないかという信憑性が出てきた。言動からして、長門はずっとそれを疑っている。追求はしなくても、そうであると確信に近付いている。

 

「加賀、潜られると私は手が出せなくなる。大丈夫か」

「そろそろ援軍が来るわよ。たった1人でも、とても有用なね」

 

 長門は戦艦であるが故に、対潜行動は何一つとして出来ない。潜水艦には無力と言っても過言ではないのだ。そういう意味では、カテゴリーKとの戦いでは圧倒的に不利な場面に直面する場合が非常に多いと言えよう。

 それでもここに立つのは、全員が海中にいるわけではないから。今もこうして海上だし、未だに鎮守府からの遠距離砲撃は止まっていない。それは海上でしか出来ないことなのだから、それを止めるためには海上の戦力も必要。

 

 うみどりの面々はそれを理解している。全員が海中をも戦場にすることは事前に知っている。となれば、対潜掃討が得意な者こそ、鎮守府近海には投入したい。

 そして、複数人が同時に潜ったとしても、それを纏めて掃除出来るような戦力。それは、本人がその自覚を持っている。

 

「行くわよ、五十鈴!」

「ええ、あの2人なら海の中の方が有利よ。もう上がらないくらいが丁度いいわ」

 

 2人して急潜航開始。長門に砲撃の暇も与えず、ジャブンと音を立てて海中へ。それを止めることは出来なかった。

 

 だが、これこそが千載一遇のチャンスにもなり得る。

 

「散って。せめて狙いを定められないようにするわ」

「ああ、こういう時に低速艦の自分が歯痒いモノだ」

「仕方ないわ。適材適所よ」

 

 同じ場所にいれば、その分狙われやすくなる。せめてバラバラにいれば、全滅のリスクは抑えられる。

 少し遠目にいた清霜も、加賀と長門がわちゃわちゃし始めたことで察し、合流するのは諦めた。ただでさえ的が大きい戦装大発。朧と曙を積み込んでいたとしても、当たり前のように狙われる可能性があるのだ。

 

「私も清霜がある程度海中のことはわかるわ。でも、長門はわからない。それなら、真っ先に貴女を狙ってくるでしょう」

「ああ、だろうな。私でもそうする。戦艦の火力を削ることが出来て一石二鳥だ」

「だから──」

 

 加賀が水平線の向こうに何かを見つけた。そして、長門の足下を指差す。()()()()()と。

 

 

 

 

 その瞬間、一陣の風。そして、長門の近くに現れたのは、オーバークロックによって速度を上げてきた時雨だった。

 

「もうばら撒いた。海中にいるなら、僕の獲物だ」

 

 海中には爆雷。その当然を、オーバークロックを使って面の攻撃にし、瑞鶴と五十鈴を諸共爆破しようとしたのだ。

 

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