海中へと移動した瑞鶴と五十鈴を、加賀と時雨は海上から狙い続ける。しかし、あちらはあちらで弾切れ狙いで回避を続ければ、事態が好転すると考えていた。
それを打破するために現れたのが、海中の戦力。うみどりに残されているのは伊26のみだったが、さらに追加でおおわしの丁型海防艦3人が潜水艇で参戦。魚雷発射管を装備した戦闘仕様の潜水艇でまずは2人を狙う。
「なんなのよアレ! ちょこまかと!」
瑞鶴が相変わらず癇癪を起こしているが、それくらいに海防艦達の潜水艇の動きは機敏であった。そもそもの大きさがそこまで大きくなく、艦娘1人をすっぽり収めて二回りほど大きくした程度。それが水中ドローンのように動き回る。海中で狙いを定めても、ひょいひょいと避け、逆に魚雷を撃ち返す。
聞こえてくる声は完全に子供。しかも、どう聞いても小学校の低学年程度にしか聞こえないような相手。それなのに、この操縦技術は普通ではない。瑞鶴はともかく、五十鈴もこれには驚きを隠せない。
「そもそも海中だと狙いは定めにくいけど……それでもあの動きは上手すぎるわよ。なんなの一体……!」
3人が固まって動くようなことはなく、散開して、一定の狙いを定められないようにし、あわよくば近付こうとまでする行動力。それを子供がやっていると思うと、恐ろしさも感じる。
『よくないでっす。よーつ達も、立派な戦力でっす!』
『調査隊おおわしの貴重な戦力だからね!』
丁寧で慎重、しかし大胆な動きで翻弄。1人が正面にいれば、2人は背後に回ろうと動く。魚雷で簡単に狙うことも出来ず、砲撃を絡ませようとしても素早く動いて照準を定められない。
そして、この3人の上手いやり方は、常に視界の端に入り続けること。1人を集中狙いされたら厳しいかもしれないが、常にいるぞと意識させることで、何処を狙うかを迷わせることが出来る。真後ろに回り込もうとするのも、大袈裟な動きで見せることで集中力を乱し、何処を狙えばいいのかを迷わせる。
攻撃する時は3人一緒。合図を出しているわけでもないのに、全く同じタイミングで3方向から魚雷が放たれる。しかも、高さなどを変えて避ける方向を狭めながらだ。
これには五十鈴もかなり頭を悩ませた。回避に集中せざるを得なくなる。瑞鶴が次第にオロオロし始めるため、上手く宥めながら。
「大丈夫よ。艦載機で牽制しましょう。アレは少しでも傷付いたら終わりの潜水艇だから」
「艦載機! そうよね、それなら私達の周りも守ることが出来るし!」
五十鈴に言われて瑞鶴は慌てていた頭の中を冷静に鎮める。初めて見るモノに焦りを見せるのは仕方ないにしても、このあまりにも早すぎる納得は、瑞鶴にしかない脅威。
誰かに言われたことを素直に受け入れ、それをそのまま自分の力に転化する。常に最適化し続ける成長。瑞鶴の厄介な特性。自分1人では興奮し続けるが、味方でも敵でも話が出来ればそのまま理解する。敵を否定しないところも、柔軟な思考の持ち主であることはわかる。
五十鈴に言われたことで、瑞鶴は海中で弓を構え、矢を番えた。それを躊躇なく行なったということは、これに関しては経験があるということ。手を振るうだけで艦載機が出せるわけではないが、このルーティンを噛ませることで、確実に艦載機を大量に発艦出来る。
『水中艦載機、撃ち墜とします……!』
それに機敏に反応したのは第三十号海防艦。海中であっても使える艦載機に対して、魚雷では意味がないため、使い始めたのは機銃。主砲よりも威力は劣るが、艦載機を破壊することは出来なくもない。矢を放たれる前に、置いてくるような射撃で瑞鶴を怯ませつつ、放たれた矢には見事に掠めた。
しかし、深海製の艦載機はその程度では墜ちない。強度も相当なモノで、機銃程度なら弾き飛ばしてしまった。これが海中でなければ話が違うのだろうが、それを悔やんでいる暇はない。
『う、かなり硬いです』
『大丈夫大丈夫! 全部避ければいいって!』
『が、頑張ります!』
艦載機が撃ち墜とせなくても、そこで残念そうにするのみで、動き自体は何も変わらない。周囲を動き回って翻弄するのみ。
「これならちょこまか動けないでしょ! いい加減沈みなさい!」
発艦した艦載機は10機。数の差が一気にひっくり返り、海防艦達に襲いかかる。が、3人は至って冷静。数が増えてもやり方は変えず、より洗練された動きで全てを回避しながら瑞鶴と五十鈴の周囲を回るように移動し、時には三次元に浮上したり潜航したりで翻弄し、さらに接近するタイミングを見計らっていた。
『ねぇ、ずいかくー』
「何!? なんで話しかけてきてんのコイツ!? しかも呼び捨て!?」
『何で戦ってるのー?』
第四号海防艦からの素朴な疑問がいきなり飛んでくる。
『平和のためなら、戦う必要ないよねー。ねぇ、何で何でー?』
子供がひたすら疑問を投げかけるような語気で、瑞鶴の耳を刺激する。話を聞いて納得してより成長する瑞鶴に対して、この質問は必要以上に
「そんなの決まってるじゃない! アンタ達が平和を乱そうとしてるからよ!」
『どんな平和をー?』
「誰も争わないようにするため! そうしようとしてんのに、アンタ達は邪魔してくるじゃないの!」
『じゃあ話し合いから始まらんないのかな』
この質問に第二十二号海防艦も口を挟む。平和を望むなら戦いよりもまず話し合いではないのかと。
「話し合いはもうしたんでしょ! でもそっちの特異点はやる気満々じゃない! なら戦うしかないでしょうが!」
『それは、そっちが特異点だから始末しなくちゃって言って、何もしてないのに手を出したからでしょ』
『そうそう。よーつ達も知ってまっす。深雪のあねごは、すっごく頑張ってお掃除してるだけなのに、生きてるのがダメーって、命狙われてまっす』
瑞鶴の目が少しずつ回ってきているのが確認出来た。ハッキリと理解していない状態でこの戦いに参加しているのではないか、理解していても自分の都合のいいように解釈しているのではないか、むしろ、そうなるように仕向けられているのではないか。そう考えて、戦闘中であっても話しかけるということをしている。
明確に変化したのは、艦載機の動き。瑞鶴の疑問、迷いに反応して、動きが明確におかしくなった。機敏さが落ち、狙いが甘くなる。
これはいけない兆候だと、五十鈴がすぐに対処する。
「あっちの話は聞かなくていいわ。特異点の仲間だもの。動揺させるために口裏合わせてきてるわ」
「確かに。敵の言い分が正しいとは限らないもんね!」
たった一言助言をして、瑞鶴を納得させることで迷いを晴らさせる。保護者としての手腕が凄まじい。
海中にいることで五十鈴の強み、砲撃や対空砲火がやたら強く改造されていることを封じているが、本当の強みはここではなかろうか。瑞鶴を納得させる役回り。子供の面倒を見る大人の立ち位置。
艦娘としての五十鈴も、その特性──対潜性能の高さ──により、海防艦の面倒を見たりすることが多い。子供をあやすのが上手いというところがある。そういうところから、瑞鶴も五十鈴を真っ先に援軍として呼んだし、五十鈴も瑞鶴に真っ先に寄り添った。そう考えれば、もう確定と言えるだろう。瑞鶴は子供であると。
『口裏合わせるにしてと、事実は変わらないでっすー』
しかし第四号海防艦はそこに切り込むように口を挟んだ。
『戦っちゃダメな軍港で、特異点がいるからって攻撃を仕掛けたのはそっちでっす。軍港の地下で悪いことしてたのはそっちでっす。軍港の街で爆発騒ぎを起こしたのもそっちでっす。なのに、何で深雪のあねごだけ悪いことになってるんですー? ねぇ、何で何でー?』
「えっ、何でって、そんなの特異点が悪いから」
『何で悪いんですー? 海のお掃除をしてることが何で悪いんですー?』
第四号海防艦の質問は尽きない。
『生まれてきたことがダメって、何で何でー? まだ何もしてないのにダメって決めつけるの、何でー? そっちの方がよっぽど悪いことしてると思いまっすー』
「それは、特異点は存在そのものが」
『答えになってないでっすー。よーつ達は、この先どうなるかなんてわからないでっす。だから、生まれたばかりの特異点が悪い奴かどうかなんてわからないでっす。なのに、そうならないように殺しちゃえーとか、おかしいと思いませんかー? だったら、生まれてきた人達はみーんな悪人になっちゃいまっすー』
ついに瑞鶴の言い訳が無くなった。何も言い返せない。特異点だからダメというのは、何がダメなのかがわからなくなってしまっていた。
なので、五十鈴はすかさずフォローを入れる。
「未来は見えなくても、他の特異点が人間を堕落させてるわ。あの深雪だってそうならないわけじゃない。未然に防ぐことも大切よ。犯罪が起きてから加害者を捕まえても意味がない。被害者が無くならないと、平和には程遠いもの」
「た、確かに! 被害者が出たら遅いものね!」
『なら、この戦いの後に被害者が出ないように、お二人ともここで終わってもらいまっす』
容赦のない第四号海防艦の言葉に、五十鈴すらも言葉を失った。
『今こうやって未来の被害者を無くすために皆殺しにしてやろうとしてるような人達が、他にも殺さない理由なんてないですもんねー。だって、邪魔な人は殺して何も言わせなくするって選択肢、最初から持っちゃってますもんねー』
「……アンタ……」
『自分達の思い通りにするために殺すことをいいよって思ってる人達と、そんな人達でも救おうとしてる特異点、どっちがいい人だと思いますー?』
潜水艇の中でどんな顔をしているかわからない。だが、少なくともこの声色と中身がまるで伴っていないことはよくわかる。
そして──
「ごめんね」
これだけ第四号海防艦に目を向けさせられていることで、完全にこの戦場から気配を消していた伊26が、真後ろから瑞鶴に1発、銃を放った。
それは、冬月と涼月の発案で、明石が実現させた新兵装。海中でも使えるテーザーガン。どれだけ出力を上げても、使用者にも周囲にも被害が出ない、特別仕様である。