おおわしの丁型海防艦達、特に第四号海防艦の紡ぐ言葉に、瑞鶴と五十鈴は言葉を失う。なんでなんでと信念に疑問を抱かれて、まともな答えが出せず、振り絞った反論も簡単にいなされ、トドメは未来のためにここで終わってもらうとまで突きつけられたのだ。声だけ聞けば幼女である第四号海防艦の、全く外見が伴わない言葉は、思考を停止させるのにも充分すぎた。
そして、その隙が命取りとなる。
「ごめんね」
意識を第四号海防艦に向けられたことで、後ろに回り込んでいた伊26の行動に気付けなかった。放たれたのは、特注のテーザーガン。海中でも使えるそれは、真っ直ぐ瑞鶴に向かっていき、そして素肌の部分、今回は太腿に張り付いた。
「え」
気付いた時にはもう遅い。そこから強力な電流が流されたことで、瑞鶴はビクンと大きく身体が跳ねた。
何か音が鳴るわけでもない。見えるように紫電が疾るわけでもない。ただ純粋に、体内に電流が駆け回り、強力無比な一撃となる。
「ちょっ!?」
これには五十鈴も目を見開いた。瑞鶴が声を上げることも出来ずにその衝撃を受け、白眼を剥いてしまったのだ。まず何処からやられたのかもすぐにわからなかった程である。
驚いてキョロキョロと周りを見て、伊26の存在に気付く。最初に現れた時には確かにいたのに、潜水艇の猛攻、特に機敏な動きで翻弄されていたことで、完全に視界から外れていた。存在すら忘れてしまいかけていた。それが仇となった。
「アンタ……!」
「止まってもらわないと困るから。強力だけど、命までは取らないよ。……多分」
威力については聞いているだけの話なので、それが命まで奪う程の電流を流しているかはわからない。だが、海中で使うこと、相手がカテゴリーKであること、確実性を持たせることなどが絡み合い、通常のそれよりも格段に威力が上がっていることは間違いない。明石曰く、
相手が艦娘でも、当たりどころが悪ければ、命に支障が出そうな武器。しかし、今回ばかりはそれも使っていく。そこまでしなければカテゴリーKは止まらない。最悪、命を奪うことだって視野に入れているのだから。
『ズルなんて言わないですよねー』
追い討ちの第四号海防艦の言葉。この戦場、命の奪い合いの場、そこでこの攻撃がズルいだなんて言わせない。今でこそ瑞鶴が殆ど気絶しているようなモノなので停止しているが、海中で艦載機を使って手数を増やしてきているのだ。その相手の隙を突いて、一撃必殺に近いくらいの電流を流すことに、何かダメなところがあるのか。
瑞鶴ならギャーギャー喚き立てていただろう。中身が子供なのだから、自分の気に入らないことには、自分がやっていることを棚に上げてズルいと言うことだろう。しかし、五十鈴はそうではない。このやり方の正当性を理解している。これをズルだと言い出したら、自分達がやっていること──艦種詐欺はそれ以上のズルなのだから。
「言わないわよ……背後から不意打ちするような輩なのはわかっていたし」
「特異点の仲間、だから?」
「ええ、正面から戦わない、搦手を使ってくるんじゃないかって思ってたわ。案の定じゃない」
ズルとは言わない。だが、文句が出ている辺り、やはり五十鈴もカテゴリーK。自分がついさっきやったことを棚に上げている。
『知ってますよ、遠目で見ました。五十鈴さん、対抗出来ないであろう加賀さんを、海の中に引き摺り込もうとしましたよね』
第三十号海防艦の痛烈な一言。ここにやってくる前から、海中までしっかり監視していた調査隊。どのようにやろうとしたかはわからずとも、海上の加賀に対して、海中から何かしようとしたのは見えていた。足でも掴んで、海中に引き摺り込もうとしたと考えるのが妥当。
『出来ることをやった、なら、ニムさんのそれも同じです。同じ搦手。正面から戦おうとしないのは、五十鈴さんも同じ、ですよね』
「……そうね、そうだったわ。それがあの時に一番の戦術だと思ったもの」
「だったら、今の攻撃に文句は言わせない」
テーザーガンに新たなカートリッジをセットする伊26。その仕草はまさに、次はお前だと言わんばかりのモノ。一度見せてしまっているため、流石に次は当たらなそうだと思いつつも、やれるぞと見せることが威嚇となる。
瑞鶴はダランと四肢が弛緩してしまっており、痺れて動けず、意識も希薄。このままでは4人に囲まれて敗北は必至。そう考えた五十鈴は──
「一旦、撤退させてもらうわ」
逃げを選択した。瑞鶴を入渠させることを先決したのだ。すぐそこに鎮守府があることの利点は、まさしくそこである。傷付いた者をすぐに癒せる。補給だって可能である。
「逃がすわけ、ないよね」
「ええ、そうでしょうね。でも、アンタ達には追い付かせない」
瑞鶴のことをギュッと抱き締めると、猛烈な速度で浮上。丁型海防艦達や伊26では追いつけない速度で航行し、海面へとまずは上がっていく。そこから急カーブし、鎮守府を目指して一気に進んだ。
伊203に頑張れば追いつける伊26であっても、このスピードにすぐに追いつくことは難しい。海防艦達の潜水艇も厳しかった。
だが、それは海中だけの話である。
「オーバークロック」
海上は話が変わる。忘れてはいけない、海上の戦力。海中をずっと見張り、ここでは爆雷の弾切れを防ぐため、攻撃の手を完全に止めていた時雨が、五十鈴の移動を感知して、オーバークロックによって一気に距離を詰めた。
いくら五十鈴が高速で海中を動いていたとしても、時雨の『タービン』はその上を行く。即座に追いついただけでなく、再び爆雷の絨毯爆撃を敢行した。
撤退に意識を集中しているのならば、これは回避出来ない。真っ直ぐ進むことを妨害するかのように降り注ぐ爆雷の雨。五十鈴は拙いと思い、すぐさま急速潜航。海底側へと向かって進路を変更する。
「判断は早いね。でも、容赦はしない」
逃げる五十鈴を追い詰めるように、更なる爆雷を投下。海中にいるのならば、コレが一番の攻撃である。
海中の仲間達の行動も阻害してしまうことが難点ではあるが、逃がすよりは確実。
「くっ……退避も許してもらえないわけ……!?」
嫌でも出てしまう負け惜しみのような言葉。五十鈴は口走ってしまったことを悔やみ舌打ちすると、なんとか逃げ切るために爆雷を避け続ける。爆発しようがどうしようが、致命的なダメージを受けなければ問題はない。
「……はっ! あれ、私、気ぃ失ってた!?」
ここで電流で白目を剥いていた瑞鶴が意識を取り戻す。五十鈴に引っ張られながら現状の理解に励み、そして海上から爆雷が降り注いでいるところを見て、ギャアと声を上げた。
「五十鈴、どうなってんの!?」
「アンタを鎮守府に連れて行こうと思ったら、上から降ってきてるの。迎撃、出来る?」
「迎撃って、どうやって」
「艦載機」
「なるほどぉ!」
瑞鶴は、五十鈴に引っ張られながらも弓を構え、海中であっても矢を放つ。それは深海の艦載機、水中艦載機へと変化し、時雨の投下した爆雷を迷わず射撃で破壊していった。爆雷の爆発と同様に周りを震わせるが、その火力は瑞鶴達には届かない。
ギリギリで耐え忍んでいるようだが、今度は爆雷に大きく意識を持っていかれる。そうなると、今度は──
『逃がさないでっすー』
やってくるのは潜水艇を駆る海防艦達。自分達への攻撃が無くなれば、すぐさま追いかけてくるのは誰でもわかる。ご丁寧にも、瑞鶴が残していった艦載機もしっかり破壊してからである。
「ああもうしつこい!」
『お互い様だっつーの!』
瑞鶴の悪態に、第二十二号海防艦が返す。追いかけながらも魚雷を放ち、あわよくば始末まで考えている辺り、海防艦達も容赦がない。うみどりの面々がどれだけ
わざわざ海中でテーザーガンを選択するような者達を、特異点の仲間だからと言って皆殺しにしようとしていることは、実は本当に愚かなのではと、五十鈴は考えかけてしまう。
だが、出洲の願い、世界平和には間違いなく邪魔な存在であり、命を奪わない限り、それは終わらない。その仲間も同じように抵抗してくるのだから、やはり終わらせないとキリがない。そんな思考も同時に巡る。
『今なら、まだ、戻れると思いまっす』
第四号海防艦のそんな言葉が、この切羽詰まった戦場に響く。
『よーつ達も、やらなきゃやらない方がいいと思ってまっす。でも、殺すって思ってる人には、殺すってやらないと、こっちが耐えられないんでっす』
『やり合わないってなら、こっちも手ぇ止めるよ。でも、そっちがやる気満々だから、やるしかないんだよね』
『可哀想だと思いますけど、辛いと思いますけど、私達も命が惜しいので』
三者三様、しかし意思の向きは完全に同じ。戦う気がないなら戦わない。しかし、戦う気があるなら全力で戦う。非常にわかりやすい。
「……まだまだやるわよ。戦えなくなったわけじゃない。望む平和のために、邪魔な連中は、ここで」
『……わっかりました。じゃあ、よーつ達も、もう説得とかしません』
何処か諦めたような、幼女な声からは考えられない深い思想が見えてくるような声色に、五十鈴はゾクッとした。
『なら、もう何も考えずに、戦いまっす。戻れないなら、戻らないなら、やっぱりここで終わってもらうしかありませ……えっ』
五十鈴と瑞鶴に向けて、改めて宣戦布告をした第四号海防艦だったが、思わず言葉が止まった。そして、全員が一気に散開。
「こっちの方が面白そうじゃない! 五十鈴、瑞鶴、助けに来たわよーっ!」
なんと、妙高と戦っていたはずの足柄が、こちらの戦場まで移動してしまっていたのだ。