後始末屋の特異点   作:緋寺

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異常なポジティブ

 別の戦場では、妙高が妹である足柄を追い込むところまでは来ていた。随伴としてついてきてくれている那珂、舞風、Z1にも手伝ってもらい、足柄を囲い、逃げ道を海中のみにした。そうすれば、ほぼ確実に爆雷が当てられる。

 妙高とて、足柄を救うことはしたかった。だが、あまりにも壊れた心に、そうも思っていられなくなった。平和を望んでいるかもしれないが、これでは良くないという側面がいくつも溢れ出ている。だから、止めねばならない。

 

 故に、容赦無く爆雷の雨を浴びせかけた。コレで終わってほしいと願いながら。

 

「……反応は」

 

 大きな爆発が起きても、気は引き締めたまま。それで確実にやれているのなら苦労はしない。あちらは潜れるカテゴリーK、爆雷が有効になったとて、こうされることくらいは予想がついているはずだ。ならば、回避する方法くらい考えていてもおかしくはない。

 

「あー……一気に潜ったみたい」

 

 舞風が少し嫌そうな顔をした。あの爆雷をしっかり避けたわけではなくても、何処かしらにダメージを負っていてほしかった。しかし、そうは行かなかった。

 足柄は急速潜航しながら、さらに上に向けて砲撃を放っていたのだ。爆雷を撃ち抜き、爆発させ、自分はさらに深く潜る。そのおかげでほぼノーダメージ。

 海中での砲撃がどうなるかを正しく把握し、利用して、自らの身を守る。戦闘においては類い稀なるセンスを発揮する。

 

「浮上は」

「今のところ無し。あっちも考えてるのかな」

「多勢に無勢なのは理解しているのでしょう。そこまで考え無しで突っ込んでくることはないのですかね」

 

 言動からして、自分はやりたいようにやるが、周りには合わせてもらっているというのが一番ありそうではある。だが、足柄はこういう時にはちゃんと考えるらしい。

 自分が勝つというところが基本なのだろう。だから、負けないためには考える。1人にすると余計にその気質が強まる。

 

 そして、何を思ったのか、足柄は浮上することなく、鎮守府へと移動を始めた。妙高には敵わないと感じたのか、やはり仲間が必要と感じたのか。

 随伴として連れてきた嵐と萩風は既に戦闘不能状態なので、足柄は今は孤立状態だった。そこからあえて、その2人を置いて行動に出ている。それはあまり褒められたものではないが、しかし確実性を取るのならその選択も無くはない。何せ、うみどりの面々は、そういう状況で捕虜となる2人を始末するようなことはないから。

 

「逃げ……いや、援軍を連れてこようとしている動きですね。この2人を救い出そうと考えているのか、それとも我々に確実に勝つためか」

「どうする?」

「追いましょう。放置しておくわけにも行きませんし、鎮守府に向かったということは……」

 

 足柄が向かった鎮守府の方、そちらでは既に加賀と長門、清霜が戦っている。あちらと合流することの方が面倒なことになりそうだ。

 

「せめて、私達もあの場にいるべきです。足柄をどうにかするために」

「だねー。嵐ちゃんと萩風ちゃんは、一度うみどりに連れていくべきかな?」

「そうですね。ここに放置は流石に危険すぎます」

「なら僕が運ぶよ。すぐに追いつくから」

 

 嵐と萩風はZ1が一度うみどりに運ぶこととした。2人を曳航するのは大変だが、引きずっていいなら出来ないことはない。あとからまたそちらに向かうと話し、すぐに行動に出た。

 

「では、行きましょう。足柄が厄介なことを起こす前に」

 

 

 

 

 しかし、足柄は思っている以上に速かった。そして、潜水艦隊の戦場へと乱入してしまった。

 

「こっちの方が面白そうじゃない! 五十鈴、瑞鶴、助けに来たわよーっ!」

 

 援軍を呼びに来たであろう足柄、この戦場を見て、自らが援軍になる。この時にはもう、本来の目的を忘れている可能性もあった。

 

「足柄! そっちは大丈夫なの!?」

「姉さんやっばいわ! 嵐と萩風がやられちゃった! だから増援呼びに来たんだけど、こっちの方もやばいじゃない! だから、私が逆に増援よー!」

 

 瑞鶴が予想外の増援に驚くが、足柄は悪びれずに返す。あくまでも戦いに身を投じようとしている。先程までのピンチはもう忘れてしまっているかのよう。

 瑞鶴が子供なら、足柄も子供ではないか。そうでなければ、ここまでポジティブになれない。自分勝手なポジティブに。

 今初めて見ただけでも、足柄にそんな感想を持った伊26は、隙を見てテーザーガンを撃ち込むために、その動きを見定める。

 

「上に行きすぎると、爆雷が降ってくるわ。まずはこの潜水艇をやりましょ」

「五十鈴もそう考えてるのね。オッケー、私もそのつもりよ。だって、こんなのと戦えるの、今くらいじゃない!」

 

 五十鈴とはまるで違う理由、今しか潜水艇を相手にした戦闘は出来ないというふざけた理由で、浮上をしない方針を打ち上げた。五十鈴の表情が一瞬曇るが、小さく溜息を吐いて、それでいいと肯定した。

 意思は違えど、やることは同じ。後のことは後から考えればいい。今はとにかく、この窮地をどう抜け出るかにかかっている。鎮守府への撤退もさせてもらえない。なら迎え討つしかない。五十鈴は、瑞鶴と足柄と共に、この状況を打破するのだと決意した。

 

 そんな決意をされても困るのが、伊26と丁型海防艦達である。ただでさえ頑丈なカテゴリーKが2人でもキツかったのに3人。それが海中に居座り、海上との連携がしづらいところで戦わねばならないのだ。

 

『あしがらー』

「えっ、何この子、可愛い声して、なんかすごく強気にきてない?」

 

 ここで第四号海防艦が足柄に話しかける。瑞鶴と同様に、揺らしにかかる。

 

『なんで戦ってるのー? 平和のためなら、戦う必要ないよねー。ねぇ、何で何でー?』

 

 瑞鶴へと放った質問と同じ。平和を求めているのに戦いを楽しんでいるような素振りすら見せる足柄には、余計にこの疑問が出てくる。

 瑞鶴はこれだけでブレた。五十鈴もこの質問をしてくる第四号海防艦に警戒している。

 

 しかし、慎重な五十鈴も、()()()()()()()()()()()()()()()と既に考えていた。

 

「そんなの決まってるじゃない! 平和のためだから戦うのよ!」

『どんな平和のためにー?』

「私達の、輝かしい未来のために! 貴女達はそれを邪魔するんだもの! 申し訳ないけど、排除するしかないわ!」

『そんなの平和じゃないと思うけど、なんでそれがあしがらの平和になるのー? 何で何でー?』

 

 疑問をぶつけられても、足柄は表情ひとつ変えない。むしろ、自信満々にその疑問に答えをぶつけていく。

 

「私達が勝つんだもの! 彼の目指す平和がそれで手に入る、充分すぎるでしょ!」

『その平和はみんなが望んでないでっす』

「大丈夫! ちゃんとわかってもらえるから!」

『何でー? よーつ達みたいに、それは絶対ダメって思ってる人も、いっぱいいるよー?』

「大丈夫大丈夫! ちゃんと、わかって、もらえるから!!!」

 

 根拠のない自信。自分の考え、出洲の考えが正しいと信じすぎているくらいに、真正面しか見ていない。首が振れないくらいに視野が狭い。狭いどころか、拡げる気すらない。

 だからこの戦いを肯定している。その上で、楽しんですらいる。何故なら、それが求める平和に繋がっているから。明るい未来に向かっているのが楽しい。出洲の望むカタチになるのが嬉しい。どうなっても最高。ひたすらにポジティブ。喜怒哀楽の怒と哀が抜け落ちているような反応。

 

「でも、その邪魔をするなら容赦はしないわ! 私達の求めてる平和の方が、絶対みんな幸せになるから! 貴女達はわからず屋なだけ!」

『何でー?』

「ちゃんと見てもらえてれば、罪なんて犯さなくなるのよ! 最高じゃない!」

『なら、今やってることは罪じゃないんでっすー?』

「明るい未来のための必要経費よ! ごめんなさいね! でも、邪魔をする貴女達が悪いんだもの! 戦わない道だってあったかもしれないけど、もうそっちは誰もその道を考えていないものね。だから、私は戦うわ! 戦って戦って、戦い抜くわよー!」

 

 あまりにも清々しい開き直り。疑問をぶつけられても、それを足柄自身が悪いことと思ってもいないのだから、何も通用しない。これは必要なこと、やらねば平和が訪れない。やらなくてもいいならやらないが、やる必要があるのだからやる。ただそれだけ。それにも楽しさを見出だしているだけ。

 それが一番厄介なのだ。話を聞かない。ひたすら自分の道を追い求める。寄り道もしない。横を見ない。それがゴールだと確信して、合っていても間違っていても、真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ進み続ける。

 

『……壊れちゃってまっす。よーつの声は、届いてないでっす』

 

 第四号海防艦も、この足柄には諦めざるを得なかった。何を話しても自分のいい方にしか受け取らない。話すだけ無駄。ブレない相手には何も通用しない。

 

「潜水艇は厄介だけど、本当に厄介なのはあっち。電気ショックみたいなことをしてくるわ」

「へぇ! 面白い武器を持ってるのね。なら、先にそっちをどうにかした方がいいかしら!」

 

 五十鈴の助言により、足柄の目は伊26に向く。テーザーガンを構えていても、それを恐れることもなく、ニコニコで向き合った。

 

「私の相手をしてくれるかしら! 私、海中でもそれなりに戦えるのよ!」

 

 海中でも艦載機を展開し、伊26に向けた。伊26は、流石にまずいと感じていた。

 この足柄の相手を自分が出来るのか。本当に止められるのか。でも、やらないといけない。ここで負けるわけにはいかない。

 

「……ん、わかった。ニムが相手します。どうにかしてみせます」

 

 テーザーガンをギュッと握り締め、伊26は覚悟の目で足柄を睨みつけた。

 

 

 

 

 海中は大ピンチになりつつある。戦力の少なさが、どうにもこうにも出てきてしまっていた。

 




明日6/13は、事情によりお休みさせていただきます。次の投稿は、6/14の予定です。
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