後始末屋の特異点   作:緋寺

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彼女のための兵装

 伊26と足柄の戦いは、意外なカタチで状況が変わった。覚悟を決めて艦載機の隙間を縫って急浮上した伊26を追いかけようとし、手を伸ばしたところで突如飛んできたトライデントによりその腕が捥ぎ取られたのだ。

 

「っがっ……な、何……!?」

 

 流石の足柄も、腕が無くなれば痛みを顔に出す。ギリッと奥歯を噛み締め、溢れ出る血を見て顔を顰めた。だが、それ以上に何が起きたと周囲を見回す。伊26がやったことではない。確実に外から飛んできたモノでやられたと確信している。

 吹き飛んだ腕を掴んだが、接合を試みることはなかった。カテゴリーKとて、艦娘や深海棲艦と同じ。自己修復があったとしても、これで神経が繋がることはない。

 

 むしろ、一番驚いているのは急浮上を試みた伊26である。後ろで何が起きたかわからない。しかし、今は止まっていられないと、振り向くことなく浮上し続けて、いち早く海面にまで辿り着く。

 そこには海中を監視し、いつでも爆雷を散布出来るように構えていた時雨の姿があった。

 

「時雨ちゃん! 何が起きたの!?」

「……流石に僕も驚いてるよ。あんなことが出来るんだね……」

 

 顎でしゃくってあっちを見てみろと示す時雨に、伊26も誰が何をしたんだと目を向けると、そこにいたのは妙高達足柄を追ってきた部隊と、もう一つ。伊36の特四式内火艇を破壊した後、妙高に頼まれて移動してきた、睦月が駆る大装甲艇であった。

 

 

 

 

 足柄を逃がしてしまった妙高は、Z1に嵐と萩風を任せた後、那珂と舞風を連れて足柄を追っていた。海中での移動力に驚きつつも、向かっている方向的に、加賀や時雨がいる方だとわかり、あちらとの合流を危惧した。

 本人は撤退しているつもりが、いつの間にかあちらの援軍となっている。カテゴリーKが3人集まるのはかなり厳しい。しかし、妙高は海中への攻撃が出来ず、那珂と舞風の出来ることは時雨も可能な対潜攻撃。爆雷を投射するだけでどうにかなる相手でも無さそうである。

 そこで思いついたのが、秘密兵器だ。対潜用の何かもあるのではないかと、今少しだけ余裕が出来た睦月にヘルプを申し出たのだ。

 

「睦月さん、今移動は可能ですか」

 

 妙高がそう言ってくるということは、それが必要であるということ。海中では未だ伊203とスキャンプが漣と伊36相手に激戦を繰り広げているのだが、海上からの大装甲艇によるサポートは不要であると言える。

 

「那珂ちゃん、睦月ちゃんの護衛、代わってもらえるかな。酒匂と梅ちゃんは、ここで下の2人の援護をするよ」

「オッケー☆ 任せて☆」

 

 浮上してきて爆雷のチャンスがあるかもしれないのに、そこに誰もいないなんてことは出来ない。ならば、ここで護衛役をスイッチし、那珂と舞風にその役割を引き渡すことにした。酒匂はちゃんとここにいる。

 

「参りましょう。今、少々まずいことになりそうです。鎮守府近海に敵戦力がかなり偏り始めました。打開策を、睦月さんのそのアイテム群から引き出します」

「海の中だと……あの爆雷は流石にやっばいから使わないとして……うん、あると思うにゃし」

「よかった。彼女達のアイディアなら、何かしら出来ると信じていました」

 

 酒匂と梅は、ここは任せてと手を振り、睦月を見送る。次のキーマンも睦月になりそうだと期待して。

 

 

 

 

 そしてそのままやってきた襟帆鎮守府近海。時雨や加賀も大装甲艇がここまで来たことに気付き、海中に意識を向けながらも少しだけ近付く。

 

「打開策を持ってきてくれたのかい?」

「はい。今、増えたでしょう」

「ああ、そっちから流れてきたね。軍師でも一筋縄ではいかないかい」

「そうですね。話を聞かない妹が、妙に機転を利かせられるのは厄介極まりないですよ」

 

 数が増えたところで、深いところで戦闘されているため、爆雷の散布は少し難しい。時雨も加賀も、今は状況を見極めているところである。長門と清霜が向かった方に援軍が必要になるかもしれないため、加賀は艦載機によって監視を続けているまである。自由に動けるのは、どちらかといえば時雨。

 

「睦月さん、そのアイテム、使ってください。あ、狙いを定める必要がありますけど」

「照準は任せて☆ 那珂ちゃんアイは、ファンをハッキリ見分けることが出来るよ!」

「あたしのダンサーアイも!」

 

 そのアイテムがなんであれ、足柄、ないし敵カテゴリーKを照準に合わせなければ意味がない。味方を撃つなんて以ての外だ。

 そのため、まずは那珂と舞風がその場所を確実に探し当てる。複数人の感知により、その場所を確実なモノとする。

 

「よーし、それじゃあ、使うのはコレ!」

 

 そこで持ち出されたのが、トライデントである。射出装置もあるため、睦月がいきなり槍投げをやらされるようなことはない。狙いさえ定めることが出来れば、その方向に確実に撃つことが出来る。

 しかし、()()()()()()()という時点でいろいろ察することが出来る。それは、凄まじく重いのだ。この中では一番膂力があるであろう妙高はおろか、並の艦娘、深海棲艦ですら、持ち上げることが出来ないくらいに。

 

 爆雷に続く睦月の秘密兵器二号も、その重量の問題を『軽量化』によってクリアした、原始的な威力を求めた一撃。

 

「照準、合わせるぞよ。那珂ちゃん、舞風ちゃん、行けるかにゃ?」

「動き回ってるから、少し予測した方がいいよ☆ 舞風ちゃん、那珂ちゃんと同じところ見てるかな?」

「うん、行けてる! 睦月ちゃん、もう少し上!」

「にゃしっ、睦月じゃ見えないところ、フォローありがとう!」

 

 3人がかりの照準合わせ。狙いは勿論、足柄一本。海中での激戦、伊26の覚悟の一手も、那珂と舞風が全て見ている。駆け抜け、潜り、急浮上をしてきた今がチャンスだと、少しだけ照準を上に上げさせ、足柄の浮上も見越して、最高のタイミングを見据えた。

 

「オッケー!」

「撃っちゃって!」

「りょーかいにゃあ!」

 

 合図と同時に、睦月がトリガーを引いた。トライデントは合わされた照準に向かって射出される。その反動は睦月にとっては微々たるモノ、のはずだった。

 射出装置から離れた時点でトライデントはその重さを取り戻す。これまでは子供でも持てる木の棒くらいのモノが、突如車両すら押し潰せそうな鉄骨と同等、むしろそれ以上の重量となった。勢いはそのままに、重さだけ戻ったことで、睦月はその反動をモロに喰らって、大装甲艇の中で軽く吹き飛ぶ。巨大爆雷とは話が違い、射出装置の威力も加味すれば、睦月でなければそもそも持てず、撃った時点で身体がボロボロ、下手したらグチャグチャになる装備である。

 だが、その威力はそれ相応だ。重みあるモノが、とてつもない威力、速さで撃ち出されたのだから、それはもう魚雷など目ではない程の威力を持って突き進んだ。

 

 その結果が、足柄の腕を捥ぎ取るという一撃。照準としては、足柄の胴体を狙っていたのだが、撃ち出された瞬間の反動で、ほんの少しだけ浮いてしまった。その誤差が、本来の照準とのズレになった。

 

「次弾、装填するぞよ!」

 

 そしてこの兵器、()()()()()()()()()。睦月にしか出来ない次弾装填。誰も持ち上げるどころか移動すらさせることができないトライデントの2本目を、睦月は片手で軽々持ち上げて射出装置にセットする。

 

 それだけ重たいモノを積み込んでいても、この大装甲艇は沈まない。それ用に改修された、睦月と秘密兵器のためのモノだ。本来ならば重量オーバーも甚だしいが、最大積載量を可能な限り拡張した今回限りの限界兵装である。

 

「あちら、狼狽えてる! その場に止まったよ☆」

「狙うなら今かも!」

「りょーかいにゃしっ! 次はちゃんと、当てるのね……!」

 

 睦月もとっくに覚悟は決めていた。この威力を持つのなら、人を殺めることにもなるだろう。だが、それくらいはしないと本当に止まらない。

 

 しかし──

 

 

 

 

「あっちね……! 面白いことをしてくれるじゃない! 私の腕の一本くらいくれてやるわよ! だから、貴女達はもっと楽しませてちょうだいな!」

 

 海中の艦載機が、トライデントが飛んできた方へと一斉に向かう。照準を鈍らせるだけではない。扱っている者を確実に始末するため、全機を睦月に集中させる。

 撃てば、どうとでもなる。照準も定めさせない。むしろ、こちらから狙いを定める。

 

 そう、()()()()()()()

 

 

 

 

「狙いを定めましたね。()()()()()()()()

 

 艦載機が一斉に睦月をターゲットにした。それ故に、妙高の『ジャミング』によってその射撃はことごとく逸れていく。足柄がその目で狙いを定めたわけではない。しかし、乱雑に撃とうとしたわけでもない。艦載機という目を使い、睦月という的に照準を定めたのだから、その力の範囲内に収まる。

 わかっていても、咄嗟だとその力のことは忘れてしまう。血を流して判断力が少し鈍った足柄には、そこに妙高がいたとわかっていても、その力によって当たらなくなることはすぐに出てこなかった。少しでも考える時間があれば、話は変わっていたかもしれない。だが、ここは戦場。その時その時で状況が変わるのだ。

 

「もういっぱーつ!」

 

 睦月によるトライデント二発目の射出は、邪魔されることなく放たれる。威力は先程と同様。ひたすら重たいトライデントが、それ相応の威力で射出された。

 

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