深夜、後始末を終えた現場に現れた潜水艦。しかし、その挙動は何処かおかしかった。5体のうち4体が、残りの1体を追い立てているような動きを見せていたのだ。
それを先行して調査し、確認した伊203が、追われている潜水艦を救うために戦闘に入ると言い出した。夜の対潜水艦の戦いは困難を極めるが、伊豆提督はそれを許可。しかも、その部隊に深雪と電を指定したのである。
「ソナーと爆雷だな。妖精さん、準備はいいか」
深雪の言葉に、その姿を真似している妖精さんは任せろと言わんばかりにサムズアップ。ソナー装備だからか、大きなヘッドホンを装備している以外はいつも通りである。
「電も頑張るのです。妖精さん、力を貸してください」
そんな電を励ますように、同じ姿の妖精さんが深く頷く。こちらも深雪の妖精さんと同じようにヘッドホン装備。
海中を知るためには必須であるソナーは、いくら成長していると言っても初陣である深雪と電に、うみどりの中でも最大の効果を得られるモノを与えられている。那珂と子日はランクが1つ落ちるものの、当然ながら高性能なモノを装備。爆雷も当然ながら現状可能な限り最も取り回しやすいモノ。
夜の潜水艦を相手取るには、それくらいの準備をしなくてはならない。むしろ、これだけ準備してもかなり厳しいくらいである。それだけ夜は潜水艦が強力無比な力を得られる時間帯。
「那珂ちゃん、みんな準備オッケーだよ!」
「りょーかい! それじゃあみんな、いっくよー!」
対潜部隊の旗艦は那珂。その指示に従い、子日、深雪、電の順にうみどりから出撃。後始末の時と同様、工廠から駆け出していく。それこそ、まるでステージに出て行くアイドルのように。
「那珂ちゃん達の舞台は、フーミィちゃんが教えてくれるからついてきてね♪」
夜の海だろうがお構いなしに、那珂が真っ直ぐに現場へと向かっていくため、深雪達はむしろ置いていかれないようについて行く。子日は慣れっこのようなのでスイスイと駆けていくのだが、初陣の深雪と電はそれなりに必死である。
訓練とは違うということが嫌と言うほどわかる。潮の匂いの中、命を懸けてここにいるという緊張感。仮想空間では得られない感覚がそこにある。
夜の海ではあるものの、今回は探照灯もつけていない。海中にいる潜水艦相手にはあってもなくても同じ、むしろ海中からは位置が余計に丸見えになってしまうため、つけない方がマシまである。
そのため、少しでも遅れるともうついていけなくなってしまう。ただでさえ初めての戦場の海。緊張感も相まって、ここで取り残されたらうみどりに戻れるかもわからない。
「大丈夫だよ。子日がちゃんとサポートするからね!」
2人の緊張を読み取ったか、子日が深雪と電を引っ張るように、那珂との距離をうまく取りながら確実に前へと進ませた。子日の特殊な艤装、頭部に浮かんでいる電探が、いつもよりも少し離れた場所で煌びやかに輝きながら先導しているからだ。
その光があれば、深雪も電も迷うことはない。最低限、それを灯台のように扱って進んでいけば、必ず子日のところには辿り着ける。
「そろそろだよぉ♪ みんなぁ、ライブの準備は出来てるかなぁ?」
暗がりで那珂の声が響く。独特な言い回しではあるが、そろそろ海中の戦場の上に来るため、戦いが始まるぞと暗に声がけしているだけ。
「対潜の訓練もしてるよね」
「おう、勿論だ。ぶいあーるでしっかりやらせてもらってるぜ」
「なのです」
「夜だからちょっと勝手が違うけど、やり方自体は変わらないからね」
視界が明確に制限される夜だから勝手は違うものの、見るのはソナーで海中である。やることは昼と変わらず、潜水艦に狙いを定め、予測してからの爆雷投射。ただこれだけである。
そもそも動く的に対してもかなりの命中率を誇っている深雪と電だ。環境の違いがあれど、落ち着いて戦えば間違いなく上手く行く。
「了解。それじゃあ、頼むぜ妖精さん」
そう言った瞬間、妖精さん管理のソナーが起動。主砲の照準の時と同じように、目の前にアクティブソナーの画面が展開される。これによって、潜水艦が何処にいるかが手に取るようにわかった。
しかし、その中でも一つだけ難点があり、その反応のうち、
本来ならば、潜水艦との戦いに潜水艦は出さない。互いに攻撃がまず当たらないという不毛な戦いを防ぐためというのもあるが、どれだけ高性能なソナーを使っても、敵味方の区別がつかないのなら危険すぎるからである。敵だと思って攻撃したのが味方だっただなんて目も当てられない。
「うんうん、やっぱり1つだけ動きが違うよね。あれがフーミィちゃんだよ」
那珂が言っていることが、深雪と電にもすぐにわかった。明らかに動きが違う反応が1つだけ存在したからだ。
伊26と伊203、そして追う潜水艦4体と追われる潜水艦1体で、合計7つの反応が見えているソナーなのだが、そのうちの1つ、那珂が伊203だと断言している反応は、
「やらなくちゃいけない潜水艦を追い込んでくれてるよ。那珂ちゃん達は、その真上に行って爆雷を投げるだけ。ファンサービスは徹底的にね♪」
7つの反応のうち、2つがそこから離れる。つまり、伊26が追われている潜水艦を群れから引き離すことに成功したということ。ならば、残り5つを狙えばいい。しかしそこには伊203が含まれている。まともに狙ったら、味方ごと巻き込んで吹っ飛ばしてしまうだろう。
だが、ここからは伊203の文字通りの独壇場。単独で4体の潜水艦を相手取る。
「ソナーだとわかりにくいかもだけど、フーミィちゃん、
そんな子日の言葉を聞いたら、深雪も電も驚かざるを得なかった。
海中の伊203の動きは、普通の潜水艦とは一味も二味も違う。対潜水艦用の技術として、独学で身につけたとんでもない動き。
潜高型という潜水艦の中でも特殊な立ち位置の伊203の特徴は、新型の
「……数、4体。ソ級。大丈夫、1人で蹴散らす」
伊26には戦場から数歩引かせて、4体の敵潜水艦をたった1人で相手取る伊203。しかし、その表情に不安など一切無く、この程度なら余裕であるという態度がありありと表れていた。
それを見た敵潜水艦──ソ級の群れは、あるかどうかもわからないチームワークを見せるように4体が一斉に襲い掛かる。潜水艦が出来ることといえばやはり魚雷であり、4体同時にあらゆる方向を潰すために魚雷を発射。上にも下にも横にも避けられないような雷撃を纏めて放ってきていた。
「下がれば誘爆する。だったら」
しかし、伊203は表情を崩さない。
逃げ場を無くそうと上下左右を潰してきているが、正面には何も無かった。まず動かなくしてから、正面に4体がかりで叩き込もうという算段だったのだろう。しかし、雷撃の1回目と2回目の隙間はどうしても発生する。その隙間が、伊203にとっては充分過ぎる程の時間。
そのスピードを存分に使っての泳法は、既に自身が魚雷となっているかのようなモノだった。敵の魚雷をすり抜け、4体のうちの1体に肉薄し、その首を掴んだ。
これには深海棲艦であっても驚きの表情を見せる。潜水艦が掴まれるというのは経験上間違いなく無いこと。むしろ、何が起きたのだと混乱している程である。
「1つ」
そして、掴んだ潜水艦を群れから引き剥がしたと思いきや、軽く放ってからその場でクルリと前転。水中であるため、ターンをするかのように体勢を変えると、そのまま脚を強く伸ばすことで1体目の胴を思い切り蹴り飛ばした。
水泳によって鍛えられた強靭な足腰から放たれる蹴りは、水中であっても威力は絶大。むしろ、潜水艦であるが故に、
蹴られたソ級はどうにも出来ず、群れから弾き飛ばされて海面の方へと吹き飛ばされる。だからといって海上にまで投げ出される程ではないのだが、海面に近付いたということは、海上に控える者達の格好の的となるわけだ。
「来た……! 爆雷投げるぜ!」
この伊203のやりたいことを事前に聞いていた深雪は、自分の方へと強制浮上させられたソ級をソナーで感知したため、すぐさま対潜攻撃に打って出る。
どのような動きをしていたとしても、単独でそこにいるのなら、何の気兼ねもなく爆雷を投げることが出来る。
「っらぁ!」
動きを予測して、狙いを定めて、爆雷を投射。これに関しては、カテゴリーW──純粋種であることもあり、命中率が段違い。訓練しているのだから尚更確実に当てることが出来た。
実際は直撃させているわけではなく、爆発に巻き込んで破壊しているのだが、深雪はほとんど直撃くらいの勢いで叩きつけ、そしてそのまま木っ端微塵にしてしまう。
「っし……! 次だ!」
ここで喜ばずに次に向かえるのは、VR訓練と精神鍛錬の賜物だろうか。終わるまでは気を抜かず、次も確実に始末出来るように。
だからだろう、潜水艦を爆雷で殲滅することが、この現場の後始末を面倒にさせることに、その時は気付いていなかった。最終的に浮かんでくる潜水艦の残骸集めは、嫌でも広範囲に渡ることになるのだ。
「こ、こっちに来たのです……っ」
伊203が同じように強制浮上させた潜水艦は、次は電の方へ。狙ってそうなったわけではなく、位置的にたまたまである。
「ご、ごめんなさいっ」
謝りながら、しかしこうしなくては先に進めないとわかっているため、その潜水艦に対して爆雷を投下。深雪のように全力で投げるわけではなく、ポロッと落とすように放っていた。
それでも命中精度は深雪以上。動きを完璧に予測した爆雷は、敵潜水艦の体勢が整うよりも前に間近で爆発して、致命傷を与えた。木っ端微塵ではなくとも、確実に終わらせる一撃であったことには間違いない。
ここまですれば、夜の対潜でも確実に当てられるということを学ぶ。狙うのが難しいならば、絶対に命中させられる位置まで強制的に浮上させてしまえばいい。そして、伊203ならばそれが可能ということである。
残り2体も同様に速やかに処理し、この戦いはあっという間に終わった。ここまで迅速に戦いを終わらせることが出来たのは、間違いなく海中で動き回った伊203のお陰であった。
「お、終わった……」
初陣を終え、初めて
「い、電、やったのです……?」
「ああ、ちゃんと戦えてた。勝てたんだぞあたし達」
その震えを止めるため、深雪はその電の手を握った。自分の震えも止めるためというのもある。
「よ、よかったのです……ちゃんと、出来たのです……っ」
「あたしも上手く出来て良かったぜ。でも、大概フーミィのおかげだけどな」
そう話していたところに、勢いよく浮上してきた伊203が目を輝かせながらサムズアップ。
相変わらず表情はほとんど変わっていなかったが、久しぶりに伸び伸びと泳げたことが楽しかったのか、それともみんなと協力して勝利を収めたことが嬉しかったのか、見ただけでもテンションが上がっていることを察することが出来た。
「フーミィちゃん、救うって言ってた子はどうなったの?」
「ニムが連れてくる。ちょっと待ってて」
那珂の問いに答えた伊203のすぐ後ろに、ゆっくりと浮上してきた伊26。しかし、その表情は非常に複雑である。
そしてさらに一緒に浮上してきた追われていた潜水艦が姿を現した。恐怖を露わにし、浮かび上がると同時に伊26にしっかりと抱きついて。
しかし、その潜水艦は
フーミィだけ違うゲームやってる