後始末屋の特異点   作:緋寺

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足柄を巡る攻防

 撤退された妙高がその戦場に連れてきたのは、大装甲艇を駆る睦月。護衛を酒匂と梅から那珂と舞風に替え、新兵器である質量兵器トライデント射出装置を海中に撃ち放った。

 1回目のそれは足柄の片腕を捥ぎ取ることに成功し、すぐさま次弾装填。それを阻止しようと足柄の艦載機が迫るが、狙いを定めたことで妙高の『ジャミング』が反応し、その全てが逸れるに至る。

 

 そして──

 

「もういっぱーつ!」

 

 足柄に放たれる2本目のトライデント。那珂と舞風の照準は完璧。直撃すればほぼ確実に命を奪い取る、重量級の一撃。

 

「っ……まだよ……っ!」

 

 放たれたのを見てから、足柄はすぐに回避を選択した。猛烈な勢いで向かってくるそれは、迎え討つには流石に無理がありすぎる。自信家であってもそれは無理だと判断出来るのだから、それだけの威力は期待出来る逸品。

 片腕が失われたことでバランスが悪くなっているが、持ち前の戦闘センスと、実際に披露している身体能力は、バランスの悪さなど簡単に覆す。

 

「こんのぉーっ!」

 

 咆哮し、身体をかなり無理矢理捻りながら、紙一重での回避に賭けていた。掠っても肉を削がれることが確定しているような勢い。衝撃くらいなら妥協出来る。

 

「んならぁっ!」

 

 チッとトライデントが艤装に引っ掛かるような音が聞こえた気がした。ただそれだけで、身体がグリンと回転させられる。しかし、直撃は免れていた。

 サイズはあれど、やはりその重量が射出装置から放たれた瞬間に質量が元に戻り、そこから生じる反動が厳しく、僅かにブレてしまう。それによって、避けられる余裕を与えてしまっていた。

 

 それでもいい位置を狙うことが出来ていた。足柄がもっと素人に近ければ、もっと身体能力が高くなければ、これは避けられていなかっただろう。直撃までは行かずとも、半身を削ぎ落とすくらいのことは起きていたはずである。

 

「っああっ……やって、くれるわねぇ……!」

 

 艤装に掠めただけでも、その威力によって半壊にまで持って行かれている。破片が周囲を散らばり、出力の低下が見られるようになる。こうなると、足柄は戦闘もままならなくなるだろう。

 それだけではない。艤装を半壊させる程の威力が、身体に影響を与えないわけがない。背中から脇腹にかけて大きく抉り取るような傷が出来ていた。血がブワッと溢れ出し、その場にモヤのように漂う。

 

 だが、基礎スペックの高さから、動かないということは無かった。基部の一番大切な部分は破壊されていない。生きること、戦うことに支障がない。ならば、足柄は笑顔で戦うだろう。

 

 

 

 

 その足柄の援護に行きたい五十鈴は、丁型海防艦3人に見事に止められていた。瑞鶴の目が離せない状況が続いているからだ。

 

「邪魔よ、退きなさい!」

『お断りだね!』

 

 足柄への視線を切るために第二十二号海防艦が目の前に躍り出て、魚雷を放ちながら後ろに下がらせる。足柄には近づかせない。自分にも近付かせない。

 

「避けて!」

「ちょ、後ろから!? いつの間に回り込んだ!?」

 

 瑞鶴も翻弄され続けており、艦載機を繰り出して多勢を作り出しているというのに、その攻撃はヒョイヒョイと避けられ続けている。直撃どころか、少しでも掠めれば潜水艇は機能停止、浸水してそのまま死にまで向かうだろうが、海防艦達のテクニックがあまりにも上手く、包囲しようとしてもサラッと抜け出しては、魚雷で牽制をしている。

 また、3人で行動するというところも大きく、2人までは目が追いつくが、3人目を見逃す。五十鈴がいるから瑞鶴はどうにか耐えているが、そうでなければもう追い込まれていたかもしれない。

 

『そっちに目を向けちゃ、ダメでっす』

『もっと私達を見てくださいね』

 

 明らかに視線切りを優先していた。足柄のピンチは見せない。うみどりがどういう手段で攻撃しているかはわかっているかもしれないが、それだけで終わらせている。

 どうあっても向かわせない。足柄だけは合流させない。3人が連携し始めたら、もうどうにも出来なくなる。それは、この戦場にいる誰もが感じていたこと。

 

 五十鈴を司令塔にして、瑞鶴と足柄が動き始めた場合、丁型海防艦3人と伊26が同時に相手をしても厳しかっただろう。艦載機の数が一気に増える上に、砲撃雷撃その他諸々が全て同時に動かれるのだ。真っ先に生身の伊26がやられるだろうし、潜水艇にも傷をつけられて行動不能に陥れられる。

 今の分け方が最上だった。伊26に惹きつけられた足柄が、五十鈴の指示も届かない海底の方へと向かい、丁型海防艦達に囲まれた瑞鶴を、五十鈴が全力でサポートせざるを得ない状況にする。足柄を孤立させることが最善。

 

「コイツら、上手い……っ」

『でしょ』

 

 第二十二号海防艦の少し戯けたような、子供っぽい反応に、五十鈴は苛立ちを覚えた。声色と見た目とは絶対に合わない精神性。操縦技術も熟練のそれ。子供相手に手玉に取られているような焦燥感。自分よりも、メンタルだけで言えば確実に上だと自覚させられる。

 

「だとしても……!」

 

 海中であっても五十鈴は砲撃を狙う。瑞鶴を気にかけながらも、足柄の状況を見るために、少なくとも第二十二号海防艦を退かさねばならない。

 だが、第二十二号海防艦は、五十鈴の主砲を向けられても怯むことは無かった。的確な動きで自分に影響を与えないような最小限の動きによって回避し、お返しと言わんばかりに魚雷を放つ。

 

 海中を使えるという点でカテゴリーKはうみどりの面々には有利が取れる。しかし、同じく海中で行動出来る海防艦達と比べると、僅か以上に差が出ていた。小型とはいえ潜水艇を手足のように動かして、時にはその場でグルンとバレルロールを決めたりしながら、恐ろしいことに退()()()()()。その場にいるか、距離を詰めるか。間合いが開くのは全て、五十鈴が退がった時のみである。

 

『やらせないよ、姉ちゃん』

「アンタ、こっちを姉ちゃんなんて呼ぶ歳じゃないでしょ!」

『ソンナコトナイヨー。海防艦ダヨー』

 

 あまりにも白々しい嘘っぱちである。そんな言い分が癇に障ったか、五十鈴はすぐさま魚雷も放つ。当たってしまえば、いや、掠めてしまえば、潜水艇は終わりなのだ。全弾発射をしてでも止めたい。

 それを見て、第二十二号海防艦は、初めて間合いを取るために退いた。そして、潜水艇に備え付けられていた機銃を使い、魚雷を軽々対処。その誘爆を狙って、全ての攻撃をいなしてしまった。

 

「五十鈴、後ろぉ!」

 

 瑞鶴が叫んだことで、五十鈴はハッとする。海防艦達にかまけていたことで、少しずつ移動させられたことで、自分が一番海面に近いことに、たった今気付いた。

 海面に近いということは、海上からの攻撃の的になるということ。今、この戦場の真上には、誰よりも容赦ない艦娘、時雨がいる。

 

 五十鈴の真後ろには、爆雷が落ちてきていた。ただ放り込んだだけではない。オーバークロックによって速められた爆雷がいくつも。

 

「この……っ」

 

 これには五十鈴も奥歯を噛み締めながら急潜航を選択せざるを得なかった。第二十二号海防艦もそれを追うように急潜航。瑞鶴すら、追い込まれながらも五十鈴を追うために潜航を選択した。

 

『ダメでっすー』

 

 それを簡単に許す第四号海防艦ではない。第三十号海防艦と共にそれを追う。せっかく引き剥がせる機会が出来たのに、組んで動かれては困る。

 

「退きなさいよアンタ達!」

『何でー? 敵の言うことを聞くのは違うと思いまっすー』

「確かに。私もアンタ達に同じことを言われたら退かないわ。なら、私が無理にでも退かしてやるわよ!」

 

 瑞鶴はここで更なる艦載機の追加。潜航しながらも弓に矢を番え、放つことで艦載機に変換。向かってくる第四号海防艦と第三十号海防艦を迎撃する。

 

 それを2人の海防艦は華麗に避けていく。しかし、前に進むことが難しくなってしまった。こうなってしまうと、瑞鶴は五十鈴と合流してしまうだろう。その上で、2人がかりで第二十二号海防艦を沈めにかかる。

 

「五十鈴、大丈夫!?」

「まだ平気!」

 

 上から降ってくる爆雷は、第二十二号海防艦のことを一瞬無視してでも処理しなくてはならず、砲撃による弾幕で被害を受ける前に破壊していた。急潜航してからのそれであるため、かなり無理をすることになっていたが、それでも何事もなく。

 

「こっちよりも、足柄さんよ!」

「そうだ! 足柄! って、あの潜水艦何処行った!」

 

 急浮上し、足柄の包囲網から抜け出た潜水艦、伊26。そこからトライデントが2本飛んできて、足柄を大ピンチに陥れた間に、足柄すらも伊26の行方が分からなくなっていた。足柄の場合は、興味を海上の睦月に寄せてしまったためではあるのだが。

 

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 伊26は、この大波乱の中でゆっくりと確実に、足柄に忍び寄っていたのだ。誰にも気付かれず、素早く手際良く、まるで暗殺者の如く。

 

 使ったのは、瑞鶴にも通用したテーザーガン。それを足柄に打ち込んでいた。

 しかし、足柄はガードが硬い。素肌をほぼ見せていない上に、首などは艤装に邪魔されている。顔面を狙うにしても、正面から向かって当てられるほど簡単な敵ではない。

 

 ならば、何処を狙うか。ついさっき、足柄は()()()()()()()()()()()()のだから、そこを狙えばいい。

 

「いっ!?」

 

 自らの血が漂う中、足柄はその衝撃を、()()()()()()に感じた。そこには、一切の守りがない。皮膚という守りすら、そこにはない。

 

「一度、寝てて」

 

 テーザーガンの電極は、足柄の傷口に突き刺さっていた。ここならば守りようがない。そして、電流が流された。

 

 

 

 

 足柄が白眼を剥いたのを確認し、伊26はようやくホッとする。暴走列車が、ここでついに止まった。

 

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