後始末屋の特異点   作:緋寺

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欠落した感情

 所変わって、海上。襟帆鎮守府近海。瑞鶴達との戦闘を任せた長門と清霜が、より鎮守府へと近付いていた。それは、うみどりへの攻撃をやめさせるため。戦艦3人による砲撃をそろそろ止めなくては、いつ被害が出るかわかったモノではない。

 今でこそ夕立とトラがそれを止めることが出来ている。しかし、曲がり間違っておかしな方向に飛んでしまい、意図せぬところで被害が出ることは避けたい。

 

「見えた。やはり霧島が中心になっているな」

 

 鎮守府、むしろ工廠から海に出ていないような状態で、3人が並んで砲撃を続けている。中心はカテゴリーKの霧島。その両サイドに伊勢と日向。霧島はそれを理解しているかはわからないが、伊勢も日向もあまりいい顔はしていない。この攻撃自体、本来はしたくない行為だというのに、無理矢理やらされている感がどうしても出ていた。

 

「そろそろ止めてもらうぞ。清霜、行くぞ!」

「りょーかい! 手前を狙ってーっ!」

 

 とにかくその砲撃をやめさせなくてはならない。そのため、まずは牽制の砲撃を放つ。

 

 直撃狙いは一度しているが、それでも回避しただけで行動を変えるようなことはしていない。

 だが今回は違う。直撃はさせないが、鎮守府の工廠を破壊するつもりで放っている。実際、清霜の砲撃は工廠の地面を抉り取るような軌道で飛び、それを成功させている。

 

「出来るかはわからないが、話し合いと行こうか」

 

 長門が清霜よりも少し前に出る。清霜の戦装大発には、今は戦闘からドロップアウトした朧と曙も乗せられているため、もし万が一急に撃たれた場合に、なるべく被害を出さないようにするため。

 

「うみどりへの砲撃を止めてもらおうか!」

 

 叫ぶように言い放つと、流石に霧島にそれが聞こえたようで、視線を長門に合わせてきた。心底鬱陶しそうな表情で。

 

「仲間に時間を稼いでもらい、本拠地を叩くのは、戦術として間違ってはいないでしょう」

「ああ、だからこそ、戦術として我々が貴様を止めに来たのだ! 問題は無かろう!」

「そうですね、問題はない。それもまた戦術ですから」

 

 それでもうみどりへの砲撃はやめない。そこが沈めば、特異点を含めたその仲間達は補給もままならなくなり確実に始末することが出来る。霧島はそれを優先しているに過ぎない。近くに長門がいたとしても、全体的に自分達に利がある行動を優先している。

 これだけ撃っても、うみどりに一撃たりとも当たっていないことはわかっているだろう。生身で砲撃を止められる者がいることも把握はしているはずだ。それでも撃ち続けている。いつか通ると信じて、とかではない。うみどりに何人も張り付けることが出来ているから。鎮守府に向かってくる敵を足止め出来るから。

 

「いい加減にしてもらおうか!」

 

 今度は長門が砲撃。牽制でもない、最初から直撃狙いで。そこまでしないと霧島は動かない。

 実際、そうしたことで霧島はその場から動いた。伊勢と日向も余波を受けないようにするために散る。

 この間だけはうみどりへの砲撃は止まる。だが、連続で攻撃しない限り、またしてもうみどりに向かって攻撃を繰り返す。目の前にいても、敵はそちらではなくうみどり本体だとしか認識していないかのよう。

 

「あくまでも邪魔をしますか」

「当然だろう。我々の帰る場所を破壊されたら堪ったモノではないからな」

「なるほど、理に適っていますね。では、私達がお相手しましょう。貴女が望むように、一度うみどりへの砲撃は止めます。ですが、代わりに貴女に犠牲になってもらう」

 

 今度はしっかりと長門の方を視認した。攻撃の狙いを変え、うみどりではなく長門に定めた。そして、一歩、また一歩と海に歩み出てくる。

 鎮守府ではなく海に立ったことで、霧島は完全な戦闘態勢となった。これまでは固定砲台みたいなものだったが、改めてここからは艦娘として動き出す。

 

「伊勢、日向、加勢してください。私1人では荷が重そうですから」

 

 嫌ではあるが、従わざるを得ないため、どちらも小さく頷いた。見えないようにハンドサインを出してきているのも見えた。『すまない』と。

 

「数的優位を姑息だとは言わん。我々もこれで行くと決めてここにいるのだ。援軍はあり得るだろうけどな」

「物分かりが良くて助かります。戦場では甘いことは言っていられないですから」

 

 清霜も戦艦にカウントして、同種の戦力が2対3。長門達が不利なのは仕方ないこと。それも覚悟して、ここまで攻め入ってきたのだから。増やせるにしても、今すぐは難しい。海中にカテゴリーKが何人も集まっているこの状況で、海中の警戒を疎かにするわけにもいかないのだから。

 

「では、始めましょうか」

 

 霧島の砲撃が開戦の合図となった。狙いは非常に良い。超長距離砲撃ではどうしても狙いにブレが出るだろうが、言葉が交わせるくらいの距離では、圧倒的に精度が上がる。

 それを避けるためには、先読み以外に手段がない。長門も清霜も、霧島の主砲の向きから、何処に撃たれるかを予測して避けの動作に入る。

 

 しかし、この霧島は普通の霧島とは違う。困ったことに、潜水艦用の魚雷まで使用が可能となっているのだ。避ける方には魚雷を放ち、それを避けようとするとさらに砲撃で狙い撃つ。そこに伊勢と日向砲撃も重なるのだから、攻撃に転じることが出来ずに回避に専念せざるを得なくなる瞬間がどうしても出てきてしまう。

 

「やはり、厳しいか……!」

「真正面から戦うのはきっついかもーっ!」

「ならば、搦手を使うしかあるまい。清霜、頼めるか!」

「りょーかい! 清霜の大発には、戦艦の使える装備がいっぱい積み込まれてるんだぞーっ」

 

 まず出されたのは、水上偵察機。たった1機とて、あるかないかでは話が大きく変わる。ブーンと音を立てて飛んだそれは、霧島の顔面を狙いながらも直前で方向転換することで、小さいながらも排気を顔面に押し付けるカタチで目眩しを行う。

 

「小癪。でも、理に適った攻撃ですね」

 

 しかし霧島はそれに臆することもない。視界がそういうカタチで潰されるのならば、一歩二歩前に出るだけでいい。目を瞑ることすらせずに、排気を潜って視界を晴らした。

 タイミングを間違えたら、水上偵察機に顔面をぶつけてもおかしくなかった。だが、霧島はお構いなしに突っ込む。

 

「お返しです。伊勢、日向、砲撃」

 

 合図と同時に、伊勢と日向が同時に砲撃を放つ。それに合わせて、霧島は広範囲に向けて魚雷を放った。砲撃は確実に避け、魚雷は飛び越えることでどうにか出来るだろう。だが、姿勢が崩れる空中は狙ってくださいと言っているようなモノ。

 ならばと長門が砲撃を海面に向けて放つ。魚雷を全て破壊し、凄まじい勢いの水飛沫をぶちまけることで、またもや霧島の目眩しに繋いだ。

 

 しかし、その水飛沫を即座に吹き飛ばすような砲撃を放たれ、それも長門に一直線に飛ぶように狙いまで定められていた。

 

「くっ……!」

 

 紙一重で避ける長門。チッと艤装に掠る音。それで破壊されるようなことは無かったが、大きめの傷が付いたことはわかった。

 

「長門さん、多分そういうの効かない!」

 

 清霜が叫ぶ。怯ませて隙を引き出すことが目的の攻撃を二連続で放ったが、霧島は怯むような気配をまるで見せない。淡々と攻撃をいなし、前に進んでくる。確実に効くであろう攻撃を狙って、使える手段をただひたすら使ってくる。

 怯まないという点から、清霜は霧島のことを普通の艦娘ではないと予想した。カテゴリーKだから、というわけではない。頭の中がそのように出来ているのだと。

 

「もしかして、()()()()()()()()()……?」

 

 清霜の予想は、そこに繋がった。戦艦の砲撃を真正面から受けても、淡々と避けるのみ。直撃を怖がっているのではなく、直撃したら死ぬから、次に繋がらないから避けている。ただ端的に、先のことしか見ておらず、そこに不必要な感情は全て取り払って行動している。そう見えた。

 それならば、目眩しを喰らおうが、水飛沫が飛んでこようが関係ない。怖くないのだから真っ直ぐ突き進んでくる。眼前にそれがあっても、理に適っているなら自分への傷を恐怖しない。

 

 まるで、人間の形をしたコンピューターみたいな、そんな得体の知れない雰囲気。感情そのものが希薄な、ただのマシンにしか見えなくなってきていた。

 

「やはり、霧島も壊れているということだろう。その辺りの感情が全て失われていると考えれば、説明がつく」

 

 避けながら合流した長門も、そこには気付いていた。霧島があまりにも淡々とし過ぎていることに。

 

「でも、どうして……」

「……それほど怖い目に遭って命を奪われたのだろう」

 

 そうとしか言えなかった。恐怖を感じ続けて死んだとなれば、その恐怖を捨て去るために、そう壊れないてもおかしくはない。

 

 実際、霧島に設定されているブロックワードもそれが起因だったりする。長門も清霜も、それを知っているから、そうなのだろうと理解する。

 

 

 

 

 恐怖を感じない者、霧島。それは、長門と清霜には脅威でしかない。しかし、負けるわけにはいかない。

 

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