後始末屋の特異点   作:緋寺

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矛盾した行動

 長門と清霜が相手をするカテゴリーK、霧島は、目眩しを喰らったとしても一切怯むことのない、恐怖心が欠落した者だった。水上偵察機の排煙をぶち撒けても、海面を撃つことで水飛沫を当てたとしても、まるで興味を示さないように突っ込んでくる。

 死ぬのが怖くない、しかし、死んだら先に続かなくなるから死なないように立ち振る舞う、恐れがない戦闘マシンのような、ただひたすら望む未来に向かって動き続けるだけの存在。戦闘以外でどのように生活しているのかはわからないが、それは脅威以外の何モノでもなかった。

 

「威嚇が効かないとなると、どう崩す」

「む、難しいなぁ……っ」

 

 長門も清霜も、隙を作り出すために搦手を繰り出しているわけだが、それで怯まない、隙がないとなると、もう直接狙っていくしかなくなる。しかし、当然それでは命を奪うこととなるだろう。

 救えるモノなら救いたい。なるべくそうはやりたくない。だがそうしなくては逆にやられるのはこちらである。ならば、やるしかない。

 

「狙うしかなかろう。清霜、()()()()()()()とする」

「仕方ない、よね、うん……っ」

 

 そこまで器用に立ち回れない。故に、捻り潰すくらいの気持ちで立ち向かう他ない。

 

「救う、と言いましたか」

「ああ、なるべくなら我々は命を奪うことをしたくない」

 

 砲撃、雷撃を重ねながら、霧島は心底不思議そうに尋ねてきた。長門はうみどりの信念を返すが、それでも霧島は何を言っているんだという表情を見せるのみ。

 

「私達の救いは、私達の望む平和が実現すること。貴女達との戦いそのものが、救いから遠退かせているのですが」

 

 放ち続けるごとに、その砲撃の精度は上がっていく。動きを止めるわけにはいかなくなり、長門の砲撃が逆に精度が欠けてくる。感情に縛られているわけではなく、単純に動きながらの砲撃が難しいというだけ。

 霧島のそんな言葉を聞いたところで、長門の心は動かない。そういうことを言ってくるだろうと、そういうことを言うようにされているだろうと、最初から予想がついていたのだから。

 

「そうか。だが、我々は貴様をどうにかせねばならんのだ。命を奪わずにな」

「それを救いというのですか。傲慢では?」

「傲慢、か」

「ええ、傲慢でしょう。我々は貴女に救われることを望んでいない。ですが、貴女は救うべき対象、庇護をかける存在と認識している。自分が上だと、我々が下だと、見下しているのではないですか?」

 

 霧島から痛烈な言葉が飛ぶ。敵同士であり、霧島は特異点とその仲間達のことを、始末せねばならない世界の敵だと認識している。だが、うみどりの者達は、カテゴリーKを敵というよりは()()()という目で見ている節がある。

 霧島のこの淡々とした態度からしても、出洲にいいように操られているようにしか見えない。怒りより先に、見ていて辛い、悲しいという気持ちが出てくる。

 

 その感情を、霧島は『見下している』と一蹴した。命を奪うことなくどうにか出来る相手だと下に見ている。それを救うという言葉で隠していると。

 

「……貴様の言う通りかもしれんな。対等な関係とは思っていない」

「長門さん、ちょっと正直すぎない!?」

「隠す理由もないからな」

 

 砲撃を回避しながらも、長門は強い目で霧島を見据える。

 

「私は、何もしていない特異点を、いるだけで罪だと宣う連中を、対等になど見れない。愚かな存在だとしか思えんよ」

「そうですか。私もですよ。特異点に与する者達を、賢いとは思えません」

「その結果が、合理的に考えて、命を奪うに繋がるのか。あまりにも浅慮」

 

 霧島からの雷撃は、全て砲撃で破壊する。視界が塞がれた時には、清霜が砲撃で全てを吹き飛ばす。長門はどういう状態でも、霧島から目を離さない。

 

「他の者も言っているだろうが、私は貴様に、霧島に問う。特異点のことを何も知らないのに、何故始末という道に向かう。浅いと思わないか」

 

 戦闘マシンのような霧島に聞いたところで、まともな返答は来ないと確信はしていたものの、一度は聞いておかないと気が済まないこと。一度も顔を合わせたことのない特異点を、どうしてそこまで毛嫌い出来るのだと。

 

「存在そのものが人々を堕落させるのですから、処理しなければならないでしょう」

「根拠がない。何処にもな。共に生きている我々が、堕落しているように見えるか」

「はい、こうして平和を望む私達に攻撃を仕掛けていることがその証左でしょう」

「それは、正しいことをしている自分達に楯突いてくる我々のことが単に()()()()()()、ということでいいか」

 

 霧島が初めて、小さく眉を顰めた。

 

「清霜、一斉射だ」

「ここで!? でも、りょーかい! やりまーすっ!」

「てぇーっ!」

 

 ここで思い切った行動、霧島を押し潰さんと、2人がかりの一斉射を開始する。全弾発射に等しい強烈な砲撃の雨。それ相応に殺傷能力も高く、掠めるとかそういう次元の話ではない。

 そして、その一斉射の中に、清霜は爆雷も仕込んでいた。押し潰すような砲撃を仕掛けた場合、カテゴリーKは潜るという選択肢を取る。それを最初から潰しにかかっているのだ。海上だけでなく海中に至るまでを埋め尽くす一斉射。真に逃げ場のない、清霜を含めたからこそ出来る渾身の必殺技。

 

「……なめないでいただきたい」

 

 対する霧島、魚雷を放つのではなく手に収め、砲撃を放ちながらそれを投げる。自らの砲撃で破壊して大爆発を起こすことで、一斉射の威力を極限にまで抑え込む策に出た。

 砲撃も雷撃も並ではない、深海仕様でもあるからこそ、そんな無理矢理なことが出来る。爆発の衝撃、風圧で砲撃の射線をずらし、むしろ砲撃を砲撃に直接ぶつけるまでして、一斉射から身を守る。

 伊勢と日向も、今は加勢せざるを得なかった。だが、やっているようでいて、その実、そこまで完全に守り切ることはしていない。長門と清霜を止めるように砲撃を放っているが、避けているように見えるくらいの紙一重のところを狙い撃っている。それ故に、一斉射の勢いは衰えなかった。

 

「貴様らは話し合いを放棄してただ攻撃を繰り返すだけの駄々っ子だ。特異点が堕落を生み出すと言うのならば、まず特異点と話し、変えられないかと考えないか。考えないからこうなっているのだろうが」

「どうあっても特異点は堕落を呼び寄せます」

「だから、何故見えない未来に確信を持てるのだと聞いているのだ。世の中に感情の絶対はあり得ない。もし深雪が本当に堕落を呼ぶ者だったとしても、心を入れ替えさせることは出来るだろうに。我々は、()()深雪が堕落を呼ぶとは到底思えないがな」

 

 一斉射で押し込んでいくことで、長門は一歩、また一歩と、霧島に近付いていく。伊勢と日向の砲撃を回避している体裁もあるが、それは2人からの後押しでもある。

 

「結局はただ、貴様らは特異点が気に入らないだけだろう。自分達の思い通りにならない存在が。余程傲慢と見えるな」

「私達が傲慢?」

「そうだろう。話し合いもせず、実力行使で言うことを聞かせようとしているわけだ。そして貴様は、それによって手痛いしっぺ返しが来るかもしれないという恐怖すら取り除かれている。やりたいようにやれるわけだ。躊躇すらしないのだからな」

 

 長門の声色は、怒りに染まっていた。霧島にではなく、霧島をこう変えた出洲に、怒りを向けていた。

 このやり方自体が、霧島の嫌うことであるはずなのだ。それをやらされていること、それに対して何も疑問を持っていないことが、長門には苛立ちにしかならなかった。

 

 霧島が霧島となる前、その死因。それは、話し合いを求めた結果、逆恨みによって拉致監禁され、徹底的に嬲り尽くされて、恐怖に次ぐ恐怖の中で殺されたという辛く苦しい経歴。故に、霧島のブロックワードは『逆恨み』。生活の中でも、戦闘中でも、あまり出ない言葉ではあるのだが、テレビやラジオでニュース番組を視聴することが出来ない。

 出洲がそんな終わりは可哀想だとカテゴリーKとして蘇らせたこともさることながら、今こうしてやっていることは、明らかに霧島自身を殺した相手と殆ど同じである。拉致監禁まではしていないが、うみどりがなるべくなら話し合いで解決したいところを、速攻で攻撃を仕掛けてきたやり方は、逆恨みで攻撃した者と近しい。

 死因を忘れることで心を繋ぎ止めているにしても、その死因に繋がりそうな行動をさせている綱渡りな戦い方を是としていることが、許し難い事実である。

 

「貴様らは、特異点のことを下に見ているだろう。自称高次の存在だ。下に見ているというより、自分達を上に見ている、の方が正しいか。だから、自分に楯突く輩が気に入らない。故に攻撃をしているのだ。違うと言い切れるか」

「そのような考え方もありますか。私には思いも寄りませんでした」

「そうされているからだろうな。全く、無意識にそれならば、もう喋らない方がいいぞ」

 

 こうしている間に、長門は一度砲撃を止めた。霧島からしてみれば、何を考えているんだという思考を止める行動。

 

 だが、その隙間をついたのは、長門ではなく清霜である。戦艦の装備が使える駆逐艦という点を最大限に利用して、ここで霧島も使ってくる魚雷を放っていたのだ。

 目の前の砲撃が急に止んだところから、足下の一撃。正面からの不意打ちに、一瞬気が取られた。

 

「っ」

 

 当然霧島は回避行動に移る。そこが、大きなチャンス。

 

 

 

 

「いい加減、目を覚ませ」

 

 艤装のパワーアシストを足に全て注ぎ込んだ、長門の一世一代の跳躍。撃たれないこの隙間を縫った、渾身の接近。

 迎撃出来る余裕すら与えず、霧島が次に見た光景は、迫り来る長門の拳だった。

 

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