後始末屋の特異点   作:緋寺

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予測出来た脅威

 燃費を度外視した漣の一転攻勢により、伊203は押され気味になってしまっている。片腕に深い傷を負って血を流し続けているというハンデはあるモノの、それでも漣の猛攻は自身と同等であると嫌でもわからせられるモノだった。

 動きが速い。判断が速い。フェイントまで入れてくる。それが止まらない。攻撃をいなし続けることは出来ても、攻勢に出ようとすると小さい範囲ではあるがキチンと回避までする。

 殴り合いをしているようで、伊203の拳は全く当たっていない。代わりに、漣の拳を伊203は避けるのではなく叩き落とすカタチで回避し続けている。

 

 さらに厄介なのは、漣は海中でも主砲を扱える点。ただ殴ることしか出来ない伊203と違い、殴らずとも必殺の一撃を放てるという点が大きく違った。そのせいで、深追いするとその脅威に襲われ、離れると余裕を持たれる。

 いくら燃費が悪すぎると言っても、短期間で決着をつけるシステムを、漣はちゃんと完備してここに来ていた。

 

 超人には超人を。本人が言っていた通り、漣は伊203に匹敵するほどの実力者だった。最初からか、カテゴリーKになってからかはさておき。

 

「まだまだ行けますぜっ、漣ちゃんはぁ!」

 

 猛攻は止まらない。拳と足が次々と出てくる。駆逐艦だというのに潜水艦と同じように海中を動き回り、その徒手空拳の威力は海上と同じ。急所に入ったら一撃で持っていかれる程の威力。

 強靭さも兼ね備えている伊203であっても、直撃は絶対に避けたい攻撃ばかり。三次元の近接戦闘は慣れているつもりであっても、同じ場所で同等な動きをされることは初めてのことだ。

 

「っ……なかなか、やる」

「そりゃどーも!」

 

 大振りの蹴りを繰り出されても、掴んで絞めあげることは難しい。漣の脚には魚雷発射管が装備されている。自爆覚悟で放たれたら目も当てられない。そういうことをしないとも限らないのがカテゴリーKなのだから。

 結果、掴むことすら封じられているようなもの。伊203の得意分野はことごとく使えない。

 

 ならばと伊203は考える。本人は燃費が悪いと堂々と言ってきたが、事実、カテゴリーKは総じて燃費が悪い。動き続ければガス欠が早いことは調べがついている。それを待つのはどうかと。

 だが、すぐに考えを改める。漣が自らそれを公言するのにはワケがあるのではと。例えば、時間稼ぎ。待っていれば勝手に倒れると思わせて戦いを長期化させること。もしくは、本当に燃費が悪かったとしても、それを覆す何かがあるということ。

 

「……さっさと、やる」

 

 伊203はここでも考えを変えることはしなかった。速さ至上主義というのもあるが、それ以上に、この戦いは速攻を仕掛けなければ厄介なことになると直感的に感じ取っていた。長引かせてはダメだ。すぐにでも漣を終わらせないと、面倒なことになる。そう感じていた。

 

 故に、伊203はさらに出力を上げる。前へ、前へと。命を残そうとする加減を取っ払い、この漣も殺す気で。

 

「考え方、変えたんスか」

「……」

「いいと思うよ。だってこれは殺し合い、救うなんて言葉が出てくるのがおかしいんだから」

 

 伊203の戦い方がほんの少し変わったことに、漣は勘付いた。命を奪う打撃も含まれてきたのがわかった。腕を、脚を捥ぐだけでは終わらない。急所を確実に狙う一撃に鋭さが増していたからだ。

 その手刀が当たれば、素手でも心臓を抉り出すくらいになるだろう。顔面狙いも、一通りの急所を全て狙ったモノに。目だって抉ろうとするし、顎だって狙う。気を失ってくれたら御の字、そうでなくても下顎を外してやるという意思すら見え隠れする。

 

 漣はそれを肯定する。これは殺し合いなのだ。命を奪ってこそ、勝敗が決まる、互いに命懸けの戦場なのだ。

 

「それでも負けないよ。()()()()()()()()()()()

「何処が」

「それはその時のお楽しみ!」

 

 拳が重なり合う。回避も紙一重、身体が傷付いたとしても、速さを重視する。主砲を構えられても、その軌道を瞬時に計算して、本当にギリギリで避ける。頬に傷が付こうとも、髪がいくらか千切れようとも、前へ前へと進み続ける。二の腕からの出血が酷くなろうが関係ない。手が届いてくれれば問題ない。

 

「速くなってます!?」

「……」

「飄々とした顔でよくやるなぁ!」

 

 今度は漣が防戦一方となる。伊203は止まらない。

 

 海底にいるわけではないのに足払いを放つと、漣はそれをしっかりとガード。お返しと言わんばかりに裏拳を決めようとするが、そもそも足を払おうとしたことは、体勢を崩す以外に考えていない。

 海中でそうしたならば、漣の身体はグルンと横回転する。避けられていたらそうはならなかっただろうが、伊203の鋭い蹴りにはガードせざるを得なかった。結果、勢いを殺し切ることは出来ずに回され、頭が海底に向くように。裏拳もスカッと空振りとなる。

 

「おうっ!?」

「底に行くよ」

 

 そして、伊203が前宙するように身体を回し、漣を両脚で蹴り落とした。威力はそれ相応。漣はその場で耐えることは出来ず、いや、あえてせずに威力をそのまま受けて、海底にまで沈められていく。

 

「あっぶな」

 

 真っ逆さまに海底まで移動させられるが、その時には体勢を立て直し、海の底に足をつけた。勢いをそれで殺したため、軽く足が埋まったかのような感覚。土煙がブワッと上がる。

 

 だが伊203の追撃は終わらない。猛スピードで潜航し、漣の眼前まで一気に近付く。漣が伊203を見据えようと上を向いたときには、もう伊203は海底に足をつけていた。

 そして、地に足つけた状態での強烈な蹴りが放たれる。潜水艦の推進力も加えられた、丸太すら軽々叩き折れるような一撃。まともに受けたら艦娘の身体であっても真っ二つになるであろう凶悪な衝撃。

 

「あっぶな!?」

 

 漣はそれを紙一重で避ける。しかし、足が脇腹を軽く掠めたことにより、内臓がこれでもかというほど揺らされた。直撃していたら千切れ飛んでいたと、それだけでわかる。

 

「っぷ、お腹掻き回さないでくれますかね、気持ち悪ぅ」

「……まだ余裕がある?」

「漣のスタイルなんスよ」

 

 その一撃を受けても、漣は喋るのを止めない。それが自分のスタイルと言っているが、このしゃべりで集中力を削ぐことも考えている。

 艦娘漣はそもそもがお調子者タイプだ。少々緊張感のない事を言うこともデフォルト。切羽詰まった状況でも気にせず、周りを明るくしようと努める。それが、余裕あるように見せ、周りを鼓舞するカタチとなるのだ。

 この漣も例に漏れずそのタイプ。そしてそれを戦術とし、常に自分のテンポを維持しようとしていた。

 

「浮いてる状態だと埒が明かないと思ったのかな?」

「……」

「どうでもいいですわな。達人は戦う場所を選ばないって言うもんだし」

 

 ここで戦いを再開。しかし、漣の動きが目に見えて劣化し始める。

 

「あ、やば、やっぱ使いすぎんだよこの動き!」

「……ガス欠?」

 

 宣言通り、燃費の悪さがここで露呈。伊203に追い付き続けてきた代償が、このタイミングで発生。本来の数倍の勢いで燃料を使い続ける超人の動きは、まだまだ戦えるという状態であっても、容赦なくその力を奪い取る。

 

 伊203には間違いなく好機。ここで押し込むことが一番この戦いを終わらせることに適している。

 

「……っ」

 

 今だと思った時、漣は突如砲撃と雷撃を四方八方に放ち始める。とにかく伊203に近付かせない、そんな気持ちが嫌でも伝わってきた。

 ガス欠したならば、これで終わりのはずである。今更駄々を捏ねるように抗っても意味はない。しかし、()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 伊203は慢心しない。これにも何かあると考え、避けながら接近の機会を探り、確実なトドメを刺す。それだけを考えていた。

 

 

 

 

 故に、その戦場に接近してくる者に、気付くことが出来た。

 

「っ……そう、きたか」

 

 予想は出来ていたこと。なればこそ、ここでは漣を放っておいてでもそれを対処しなくてはならなかった。

 

速吸(補給艦)……!」

 

 海底を滑るように超スピードで向かってくるカテゴリーKの速吸は、艦載機すら発艦させて伊203をその場から追いやろうとしてくる。

 そのスピード、漣だけでなく、伊203に匹敵、いや、追い越すほどのモノであった。タービン関連が大きく改造されていると事前情報を得ているが、実際目の当たりにすると、それは歴然としていた。

 速吸は本来低速艦だ。しかも当然ながら海中での活動なんて出来るわけがない。それなのに、魚雷よりも速くこの戦場に辿り着き、伊203への邪魔を徹底的に行い、そして漣の横に立つ。伊203ですら、それを止めることが出来なかった。

 

「漣ちゃん、補給が要りますよね?」

「もっちのろんですわ。使わないとアレに落ち着かないんスよ」

「はいはい、それじゃあすぐに補給しますよ」

 

 艤装から補給装置を漣に繋いでしまった。これまで燃費がどうのこうの言っていたのを、これで全て解決される。

 伊203はそれをどうにかして止める必要があった。しかし、速吸の艦載機が伊203のスピードに追いついてきたことで、補給を邪魔することも出来ない。

 魚雷を放とうとも考えたが、艦載機の位置からして、それは自分の真正面で爆発させるつもり満々であることが窺えた。

 そもそも艦載機が伊203を攻撃してきていない辺り、本当にただ邪魔をするためだけにここにいる。しかも、邪魔をすることに特化しているとも考えられた。射撃をしない代わりに動きが速くなっているとまで。

 

「うっし、ごちそーさんでっす!」

「お粗末さまです」

 

 そうこうしているうちに、漣の補給は完了してしまった。燃費度外視の戦術は、これがあればいくらでも出来てしまう。

 

「さ、フーミィ氏、次のラウンドに行きますぜ!」

「……困った」

 

 伊203もこの事態には困り果ててしまう。どうすればいいのだと。

 

 

 

 

 ついに現れた補給艦速吸。予測出来た脅威とはいえ、実際にそれをされると、超人(伊203)ですら危ういと感じ取れるモノだった。

 

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