後始末屋の特異点   作:緋寺

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その在り方は

 夜の敵潜水艦殲滅は無事終了。深雪と電の初陣は、仲間達の協力により完全勝利で幕を閉じる。特に伊203の働きは、夜の対潜という本来なら避けて通るような戦場であっても勝利に導く程であった。当人は表情をあまり変えていないものの、満足げと言わんばかりにキラキラしており、テンションが上がっていることが見て取れた。

 

 しかし、そのことを忘れてしまう程に大きな問題点がそこにはある。それが、伊26の陰に隠れるようにしており、挙句恐怖を露わにして抱き着いて震えていた()()()()、潜水新棲姫である。

 

「えーっと、それはニムに懐いてんのか?」

 

 深雪が聞くと、伊26はたははと笑いながら小さく頷いた。

 

 イロハ級の潜水艦に追われている時に伊26と伊203がその前に立ち塞がり、伊203は殲滅のために前進、その間に伊26は潜水新棲姫を安全な場所に退かせるために、手を繋いで下がった。それがここまで懐くきっかけだったようである。

 実際に戦ったのは伊203だが、潜水新棲姫には手を繋いでくれていた伊26の方が頼れる存在として認識されているらしい。そのせいで、伊26から一切離れようとしていなかった。

 

「どうしよっか。とりあえずハルカちゃんに相談してみよっか」

「それしか無いよねぇ。ニムちゃん、その子ついてきてくれそう?」

「多分大丈夫、かな?」

 

 しっかりと目を合わせることが出来るのは伊26のみ。他の者が少しでも近付こうとすると、伊26を盾にして隠れようとする始末。話しかけようとした那珂と子日も、この態度には苦笑するしかなかった。

 

 今日ついに実戦経験を得た深雪と電はともかく、これまで長く戦い続けたうみどりの艦娘達でも、こんな反応をする深海棲艦は見たことがない。それ故に、どう対応すればいいのか全くわからない。

 

「ここの後始末も必要だから、とりあえず一度うみどりに戻ろっか」

 

 那珂の提案に全員が賛成。後始末をするためには道具が必要だし、このまま夜の海の上で話していても意味がない。この状況を少しでも進めるために、うみどりで仲間達の言葉を聞くことにした。

 

 

 

 

 当然ながら、うみどりは騒然としていた。ただ斃してきただけならこんなことにはならない。深海棲艦が伊26の陰に隠れているとなったら、こうもなる。

 

「……こうなればいいと思っていたけど、実際にこうなっているとどうしても驚いちゃうわね……」

 

 伊豆提督ですらコレである。深海棲艦と和解出来れば、こんな戦いは早く終わらせられると考えていたものの、心の何処かではそれも難しく、むしろ無理に近いだろうと思っていたからだ。

 だとしても、ここで驚いているだけで否定的ではないところが伊豆提督である。深海棲艦だからといって追い出すようなこともせず、すぐさま受け入れようとしている。

 

 そして、輪をかけて驚いているのがイリスである。彩の視える目でその姿を捉えたことで、言葉もない状態。

 

「……ハルカ、今までにないことが起きているわ」

「ええ、本当に。イリスには何が見えた?」

「初めて見るわ……。あの子、()()()()()Y()よ」

 

 カテゴリーWと同様、イリスが初めて見るカテゴリー。7つのカテゴリー配分の中でも、お目にかかることはないと考えていた彩。

 

 カテゴリーY──イリスがYoke(くびき)と称したその彩は、人間と深海棲艦が混じり合ったモノとして考えられていた。実際そんな存在が現れることなんて無いと思っていたし、現れたらどういう経緯でそうなってしまったのかが恐ろしくて聞けないような存在。

 しかし、実際にイリスの目には、潜水新棲姫が()()()()()()()()。カテゴリーWの時もそうだが、知らない色を見るとどうしても驚きが隠せない。

 

「考えられるのは2つ。()()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()()()()()()か」

「どちらも荒唐無稽すぎるわねぇ。でも、元凶ならやりかねないわ」

 

 どういうカタチであれ、今の元凶ならそういったこともやれるのでは無いかと思えてしまう。深海棲艦に改造が施されていることは確認出来ているし、深海棲艦からも命を搾り尽くすことが出来ているのだから、()()()()()()()()()()()()()のでは。

 

 そもそも今の艦娘──カテゴリーCは、言ってしまえば改造人間である。人間に艦娘の要素を与え、適性を表に出すような施術をすることにより、今の身体になっている。その過程で外見も変わってしまう者だっているくらいである。外見と実年齢が合わない者なんてよくある話だ。

 それと同じことを、深海棲艦でやってしまったならば、話は繋がる。人間に対して適性の有無は関係なく深海棲艦の要素を与えることにより変質させた結果があの潜水新棲姫かもしれないし、逆に潜水新棲姫に人間の要素を与えた結果かもしれない。

 

 どちらにしろ、その行為そのものが命を冒涜するかのような行為であることには変わりない。艦娘の力を与えることも賛否両論あったくらいなのに、こちらは度を越している。何せ、名目上では()()()なのだ。

 

「まずはうまく接していかなくちゃいけないわねぇ」

「そうね……あの子自体が元凶への繋がりの可能性が高いもの」

 

 勿論、これまでの考えも全て憶測に過ぎない。実際に見てきたわけでも無いのだから、カテゴリーYもWのように自然発生しているかもしれないのだ。人工的に造られたモノかどうかは、本人に聞かなくてはわからないだろう。

 そのためには、まずはうみどりに慣れてもらうしかない。他の者達と同様、仲間として迎え入れ、話を聞いていくのが最も早く進められる道。

 

「えっと、その艤装って外すこと出来るかな。陸に上がれないでしょ?」

 

 伊26に言われると、おそるおそるだが小さく頷いた潜水新棲姫。どうやら身体に直接接続されているわけでもなく、ただ乗り物のように足を嵌め込んでいるだけの様子。細く華奢な脚がまろび出て、うみどりに普通に足を踏み入れた。

 ここから離れる恐怖よりも、うみどりに入る恐怖の方が薄かったようだ。助けてくれた伊26や伊203がいる方が安全と考えているのかもしれない。

 

 潜水新棲姫が降りたことで残された艤装は、丁重に取り扱うために主任達がいち早く動き出して移動させる。深海棲艦の艤装なんて簡単に取り扱えるものではなく、壊れているとしてもまともに修復出来るかもわからない。

 これが残骸ならば容赦なく廃棄物として扱えるのだが、流石にこれはそうもいかない。扱える者がそこにおり、これからどうしていくかによってはまだまだ使うのだから。

 妖精さんが近付いてきても、潜水新棲姫はビクビクと震えていた。彼女の中では救世主である伊26と伊203以外の全てに対して恐怖を感じているかのような態度である。

 

「大丈夫、怖くないよ。みんなすごくいい人だからね」

 

 艤装を外したことで余計にべったりとなった潜水新棲姫を宥めるように、伊26は背中や後頭部を撫でていく。同じ潜水艦であることもあり、身体が海水で濡れることも苦と思っておらず、むしろ積極的にスキンシップを取りに行った。

 

「今戦闘に出た子以外で、さっきの場所の後始末をお願い。救護班は今回は必要なかったみたいだから、そのまま後始末に入ってちょうだい」

 

 伊豆提督の指示が聞こえ、やはりビクビクと震える潜水新棲姫。今やあらゆるモノが恐怖の対象となっているようで、落ち着くことすら出来ないようだ。

 

「深雪ちゃん、電ちゃん、初陣お疲れ様」

「ああ、あたし達、よく出来た方だと思うぜ」

「なのです。ちゃんと出来たのです」

 

 他の仲間が後始末に出てくれたおかげで、戦闘が終わったと実感出来た途端、深雪も電も急に力が抜けてしまった。伊豆提督からの労いの言葉も、戦闘終了を意味するモノであるために、その実感が強く出た。

 やっていたことはそこまで疲れるようなことではなかったものの、気疲れは非常に大きい。演習ではなくて実戦、命のやりとりをしたのだから、こうなっても仕方ないこと。

 

「みんなのおかげで戦えたよ。それがすげぇわかった」

「ええ、だからみんなをいくらでも頼っていいの。代わりにみんながアナタ達を頼ることもあるから」

「頼られるくらい強くなるよ。ホント、これくらいでへたってらんねぇ」

 

 そう話してはいるものの、どうしても視線は潜水新棲姫の方へと行ってしまう。

 深海棲艦であるにもかかわらず、ここまでついてきたし、大人しく艤装まで外したとなれば、友好的と考えてもいいと思えた。周囲に恐怖を感じているのは、ここに来るまでに起きたことがきっかけだろう。

 

 そうなると次に気になるのはそのカテゴリー。深雪自身も特殊なカテゴリーなのだから、潜水新棲姫も何か特殊だと考えるのが普通。

 

「……あいつ、カテゴリーは? あたし達と同じWだったり」

「イリスはYと言ったわ。アタシもすごく驚いてる」

「Yって……深海棲艦と人間がくっついてるってやつか!?」

 

 あまりのことで声を荒げてしまった。その声は当然潜水新棲姫にも届いており、声量に驚いて泣きそうな顔で伊26に強く抱き着いてしまう。

 

「聞き捨てならない言葉が聞こえたね」

 

 そして、深雪のその声に反応したか、ずっと観察に徹していた時雨が冷ややかな表情で話題に交ざる。

 

「君達がカテゴリーと呼ぶのが何かよくわかっていないけれど、人間と深海棲艦がくっついているというのは、つまり今の艦娘のような模造品みたいなものかい?」

「アタシもすぐには答えられないわ。ただ、あの子自身も元凶の被害者である可能性はあるってことね」

「へぇ……流石は人間だ。やることが悍ましいよ」

 

 これに関しては、深雪も強く突っ込むことが出来なかった。

 

 実際、あの潜水新棲姫が元々人間であり、カテゴリーCのように深海棲艦の力を与えられたことによって変質した姿だとしたら、元凶のやったことというのは悍ましい以外の何モノでも無い。

 それが逆、深海棲艦に人間の力を与えて変質していたとしても、それはそれで悍ましい。元凶にとっては、生きとし生けるもの全てが()()()()()という認識になるからだ。

 

「少なくとも、僕はその元凶を心の底から憎むよ。君達が呪いと呼んでいるこの感情を、僕は肯定する。あんなモノを造る人間は、許す許さないの問題じゃない」

「……あたしも、今回ばかりは時雨に賛成だ。あいつがどういう存在であれ、そんな無茶苦茶な人間のせいでああなっちまったのは許せねぇ」

「珍しく気が合うじゃないか」

「アレを見たら感情的にもなるぞ」

 

 話している間も、潜水新棲姫は恐怖に襲われ続け、伊26から絶対に離れようとしない。話は聞いてくれているようだが、周囲に他の者を置くことを極端に嫌っている。

 

 深海棲艦ということもあり、洗浄してもいいものかもわからず、その存在だけで穢れが拡がることがあるかどうかもわからない。ひとまず風呂に入れるくらいはするつもりのようだが、何をどうすればいいのか、あまりにも勝手が違いすぎた。

 そもそもカテゴリーYは人間なのか深海棲艦なのか、はたまた全く違う存在なのか。人間と同じ生活をさせられるのか。共存は可能なのか。謎ばかりが生まれてくる。

 

「理由はどうであれ、あの子が自然に生まれたので無ければ、それは許されざる行為よ。間違いなく同意も無いだろうしね。そうならアタシだって気に入らないわ」

 

 珍しく伊豆提督も否定的な言葉を口にする。あの潜水新棲姫の在り方は、それほどまでに特異なモノであった。

 

 

 

 

 この潜水新棲姫は、果たしてどういう経緯でここに辿り着いたのか。以前から話題に上っていた潜水新棲姫と同一の存在なのか。

 




ついに現れたカテゴリーY。これでイリスが話していたカテゴリーが全て出揃いました。
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