後始末屋の特異点   作:緋寺

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最善の手段

 特機寄生によって全回復を遂げた伊203は、同じく回復して追ってくる漣を迎撃。そのまま海底にまで蹴り飛ばし、海底に押し込んだ。

 最初とは違い、加減なし。命を奪うことも視野に入れた、全身全霊の攻撃のみを叩き込むつもりで一撃一撃を繰り出す。

 

 最初の蹴りはガードした漣だが、その後からは回避一辺倒。殺すつもりで繰り出される攻撃は、海底を抉り、掠るだけでも大きなダメージに繋がりそうな鋭くも残酷な一撃ばかりである。

 それがあまりにも速く繰り出されるモノだから、漣も余裕そうな表情は完全に失われていた。

 

「マジで殺す気で来てるじゃあないですかい!」

「それくらいしないと勝てそうにない。誇って」

「自慢出来る相手がいなくなるかもしれねぇでしょうに!」

 

 時に回避、時には手で打ち払いながら、その猛攻を凌いでいる漣。伊203としては、よく受けられるモノだと内心感心しながらも、容赦無く攻撃を繰り返していった。

 拳を受けるだけでも骨がイカれるのではないかと思える程の衝撃。全回復一発目の蹴りを受けた時の痛みがまだ残っている程なので、このまま受け続ければジリ貧だと、漣は戦慄する。

 

 1対1でもどうにか出来るかは最初から何とも言えなかった。そのため、伊36など海中の戦力と組みつつ、押して押して消耗させ、自分達は速吸に補給してもらって万全を期して押し潰す。超人対策はそれくらいしなければ無理だと思っていたからこそ、それだけの想定はしていた。

 実際、途中まではそれでうまく行っていた。伊36と組んでスキャンプを抑えつけながら2人がかりで腕を傷付け、流血によって消耗を激しくしながらも燃費度外視の攻撃で押した。そこまではよかった。

 しかし、伊203が思った以上に粘ったこと。スキャンプが超人でなくてもここまで()()相手であったこと。そして、この場で全回復する手段がうみどり側にもあったこと。ここまで想定外が並んだことで、あっという間に打開された。

 

 漣だって、うみどりを警戒していた。だが、何処か慢心があった部分があったと後悔する。特にスキャンプの猛攻が考え付かなかったこと。水流という特殊能力はまだしも、単純な身体能力が超人に匹敵している。

 それもこれも、()()()()()()()()()()()というのが理由なのだが、漣はこれまでもこれからも気付くことは出来ないだろう。何故なら、漣は()()()()()()()()

 漣の死因は、恋人だと思っていた相手に裏切られて強姦殺人の被害者となったこと。故に、愛という感情そのものがブロックワードに近い。言葉はなくても、そういう感情には行きつかないように調整されている。ちなみに彼女のブロックワードは『手のひら返し』。余程酷い目に遭ったが故の言葉。

 

「やっべ、これどうすっかな」

 

 軽口は叩くが、漣は焦りが見えていた。伊203の攻撃は、一撃一撃が即死レベル。砲撃を放っても瞬時に避け、砲撃よりも鋭く威力のある拳や脚が繰り出される。掠めるだけでも肌が裂かれ、むしろ速度が徐々に上がっていくようにすら感じた。

 こうなると、漣は援軍が欲しくなる。やはり1対1は無理だと判断し、それを覆すために助けを求める。

 

「みぃむ氏! 手伝えない!?」

 

 思わず声を上げるが、その伊36はというと──

 

 

 

 

 漣が海底に叩き込まれた後、伊36は漣の援護のために海底へと向かおうとする。しかし、その間接的な理由を作り出したスキャンプが、それをしっかり邪魔していた。

 

「行かせねぇよ。タイマン張らせてやれや」

 

 水流を巧みに使い、伊36の進路を妨害しながら、少しずつ海の上の方へと移動させている。漣から離れるように、そして、もう一つの思惑を達成するために。

 

「邪魔しないでよ!」

「同じ立場ならテメェらはあたいの邪魔をするだろうが。言われる筋合いは無ぇんだよクソガキが!」

「うーっ、一理あるぅーっ!」

 

 少しは物分かりがいいみたいだが、スキャンプの手が届く範囲が広いことは苛立ちにしかならないようだ。

 水流という見えない攻撃。致命傷にはならないが、確実に行動を阻害するそれに、伊36は手をこまねいていた。潜ろうと思っても、真正面、真横からの水流に邪魔され進めない。片手だけでもかなりの勢い、両手を重ねられたら進むこともままならない。漣はそこに両足すら足された状態で動けていたところからして、超人の凄まじさを嫌でもわからされる。

 

「ならっ、先にこっちやってやるんだから!」

「おう、かかってこいや。あたいはハナからそのつもりだぞ。テメェはここで終わらせてやらぁ」

 

 伊203よりも凄みのある物言い。しかし、スキャンプは伊36の命を奪ってまで止めるつもりは無い。何故なら、そこに酒匂がいるから。

 止めるために爆雷を投げた酒匂も、伊36を確実に始末するためにやったわけではない。自分の身を守るために投げたに過ぎない。避けられるだろうが、前進は出来なくなるはずと見越した行動。なるべくなら命を奪おうとはしない。スキャンプは、その心意気を汲んで、どれだけ気分が悪くても命を奪おうとはしない。

 

 その証拠に、スキャンプはこの距離感では水流()()使っていない。魚雷も使えるのに、使わない。

 

「こっちは主砲もあるんだから!」

「おう、海ン中で出来ることなんて高がしれてるだろうけどな。近付かないと当てられねぇだろうがよ!」

「だとしても、やるよ!」

 

 伊36の猛攻が始まる。水流を掻い潜りながら、スキャンプのみを見据えた。漣の援護に向かいたいが、それが難しいなら、障害を取り除いてから悠々と行けばいい。

 

「そっちはただ押し流すだけでしょ! そんなんじゃ、私は負けないんだから!」

「ああ、そうだな。これはテメェをぶち殺す力じゃねぇよ。でもな、やり方次第では、こういうことも出来んだよ」

 

 手のひらから放たれる水流は、あくまでも敵を押し流すため、自分が突き進むための力。だが、ここでスキャンプは今までに無いことをする。

 手のひらを少しだけ閉じる。啄むようなカタチに手のひらを小さくすることで、水流を細く、鋭くした。ホースの先端を押さえて水の力を強くするかのように。

 それは伊36の全身を押すような流れでは無くなり、主砲を持つ腕、その肩を撃ち抜くように放たれた。

 

 身体を壊されるような威力はない。強く押されるような衝撃でしかない。しかし、いきなり肩をドンと押されれば、誰だって体勢を崩すというもの。

 

「きゃっ!?」

「おらぁ!」

 

 さらに、水流を出しながら脚を大きく振るって届かない蹴りを放つ。だが、水流は足の動きに合わせて下から上へと持ち上げられていき、伊36の身体を海上に浮かせていく。

 

「漣ちゃんのところには行くつもりもう無いよ!?」

「あたいに近付いてほしくも無ぇんだよ。その主砲にやられたらキツイからな」

 

 事実、近付かれたらかなり厳しいのはある。殴りかかる、掴みかかることも出来るのだが、主砲を持っている相手にそれをやるのは自殺行為。殺してくれと言っているようなモノ。

 敵の命を奪うことも悲しむ酒匂は、仲間が傷付くことも悲しむ。スキャンプはそんな悲しい顔をさせないためにも、その作戦に出ている。

 

「だからテメェは、上に行け! 海の上で干上がってろ!」

「っのっ、でも、私は海の上でも動けるんだから!」

 

 既に聞いている事前情報。伊36は海上艦のように戦うことが出来る。だから主砲も持っている。

 スキャンプは当然、それを知らないフリをしているわけだが、むしろ伊36がそれを選択することを望んでいた。海上に行ってほしい。今の状況ならば、それが一番勝ちに繋がる。

 

「だったら、さっさと行けや!」

 

 足まで込みにした大掛かりな水流により、伊36を一気に浮上させていく。

 

「何か狙ってるの!? でも、上にはアンタの仲間もいるのに、え、そういうこと!?」

 

 伊36はそこで1つ察した。海の中では1対1になるが、海上なら2人いる。その2人に任せてやろうという魂胆では無いかと。

 

「やらせない、からっ!」

 

 スキャンプに無理矢理でも攻撃を通すため、水流に向けて砲撃と魚雷を放つ。だがそれは、水流によってお手軽に逸らされた。

 海上なら抵抗もないが、海中ではこれがある。主砲が有用でない理由はこれもある。スキャンプが特別というのもあるが。

 

「無駄な抵抗はやめて、さっさと、行けぇ!」

 

 スキャンプの全力の水流によって、伊36は急浮上させられていく。移動したくても水流が強過ぎて移動すら出来ない。思惑通りに浮上させられ、海上が見えてくる。

 それならばと、伊36はもう開き直って海上に身体を向けた。スキャンプの前に、海上で待機している医療班を始末してやればいいと。

 

「ああもう! ならこっちを……っ」

 

 水流に押され、勢いよく海上に飛び出して、医療班である酒匂の方を見る。そこにいるのはわかっている。だから、狙い撃とうとする。

 

 だが、そこにはもう1人、そして、実は一番警戒しなくてはならない者がいる。

 

「ごめんなさい! もう、泳がないでくださぁい!」

 

 既に梅が背後に回っていた。狙われるなら酒匂だろうと既に見越していた。水流は海上からもわかるようになっているため、スキャンプが何処で何をしているかはソナーを使わずともわかる。

 故に、伊36の浮上に合わせて、梅が伊36の背部、艤装に思い切りタッチした。

 

「えっ」

 

 伊36はそんなことをされるとは思っていなかった。だが、触れたからどうだというのだと、すぐに振り返る。

 

 そして、おしまいだと悟ることになる。

 

「え、な、なんで、泳げない、なんで!?」

 

 艦娘を傷付けずに無力化する一番の方法、()()()()()。そしてそれは、梅は触れることさえ出来れば可能なのだ。

 触れた時点で『解体』の力が発動。伊36の艤装はそのことごとくを機能停止していき、海上に立つことはおろか、海中を泳ぐことすらままならなくなる。主砲にもリンクしているのだから撃つことすら出来ない。魚雷も発射出来ない。ただ、重たいモノを背負っているだけの、溺死を待つだけの哀れな存在へと変えられるのみ。

 

「殺さないよ。うん、死んじゃダメ」

「でもこれは手放してくださいねぇ」

 

 艤装の機能停止に慌てる伊36の手を、酒匂と梅がしっかりと握った。主砲は『解体』によりバラバラにされ、あらゆる攻撃の手段が失われていく。

 最終的には艤装も兵装も何もかもが『解体』され、伊36は完全な丸腰になるに至った。

 

 

 

 

 伊36を無力化することに成功。これは回復も何もあったモノでは無い、その力を完全に奪うに至る、最善の手段であった。

 




ついに1200話です。主人公不在。
投稿日である6/26は深雪の進水日です。主人公不在。
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