後始末屋の特異点   作:緋寺

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幼女の舌戦

 撃破したカテゴリーKの移送が始まる中、足柄を運んでいた第三十号海防艦に速吸の手が迫っていた。

 艦載機が潜水艇を押し潰し、間一髪脱出することに成功したものの、足柄は奪還された上に、撤退を妨害される羽目になる。

 

「逃しませんよ。仲間をこんな目に遭わせて、タダで帰れると思ってもらっては困ります」

 

 速吸はそう言いながらも足柄に対して何か処置をしているようだった。おそらく補給。だが、ただ減った燃料や弾薬を補給しているわけでは無さそうである。

 第三十号海防艦はそんな速吸を、少し怯えたような、しかし決意したような、弱気だが強い意志を持つ瞳で見つめる。目を逸らさない。たった今の言動に対して、姉妹と同様に物申すつもりでその場から動かなかった。

 

「こんな目、ですか」

「はい、こんな目、ですよ」

「私達も、こんな目に遭わされていますけど、それはいいんですか」

 

 敵だから当たり前と言われてしまえばそうかもしれないが、しかしそれはこちらにも言えること。自分達の被害ばかりに文句を言われるのは間違っている。

 

「貴女達は私達の平和を壊そうとする者です。仕方ないでしょう。貴女達が悪い」

「先に手を出してきたのは貴女達です。それを私達は、死にたくないから返り討ちにしているだけです。火の粉を振り払うことも許されないんですか」

「許されませんね。平和を望まない人達は、ちゃんと世界からいなくなってもらわないと」

 

 さも当然のように言ってのける辺り、速吸も紛れもなくカテゴリーKである。それが正解であり、それ以外が全て間違っているという、烏滸がましい言い分を押し通そうとしている。物事をちゃんと考えていない。考えた上でこれならば、よりタチが悪い。

 

「やってることがまるで平和的じゃありません。話し合いもせずに手を出してきて、やり返したら被害者みたいに言うのは、ただの当たり屋じゃないですか」

「貴女達は言ってもわからないじゃないですか。話したところで否定するじゃないですか」

「だから攻撃していいと?」

「はい」

「ならこちらからの攻撃も否定する謂れはありませんよね」

 

 見た目にそぐわない物言いで速吸を追い詰めていく第三十号海防艦。完全に子供なのに、真理を突いて矛盾を暴く。

 

「私達は最初は話し合いをしています。いきなり攻撃なんてしていません。しかも、こちらはこの戦場でも命を奪うことを極力避けています。そのヒトだって、トドメが刺せる状況だったのに、そうして生かしています。運んだら治療するつもりでいました。捕虜にはなってもらいますけど」

「結局は手を上げていますよね」

「はい、そちらが手を上げてくるので。何故貴女達の手は正当で、私達の手は不当なんですか。やられたからやり返すことに文句を言われるのはおかしいでしょう。私達はサンドバッグじゃありません。そもそも、敵とはいえ、相手をサンドバッグ扱いはどうかと思います」

 

 正論でズカズカ切り込んでいく第三十号海防艦だが、速吸は表情一つ変えない。足柄にひたすら補給している。艦載機を漂わせながらも、たった1人の海防艦に攻撃すらしない。話を聞いてやっているという体裁を取り繕っているようにすら感じる。

 

「言い返せないから手が出るんですよね。言葉では何も自分達の正当性が立証出来ないから。間違ってるとは思わなくても、こちらの方が間違っていなそうなのが悔しいから、暴力でそれを押し潰そうとしてるだけですよね。私は、私達は、そういうヒトをよく知っているので、そんな扱いをされたらわかるんです」

「へぇ、よく知っていると」

「はい。私達は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 第三十号海防艦の壮絶な過去。いや、これは第三十号海防艦だけに当てはまらない。第四号海防艦にも、第二十二号海防艦にも当てはまる、忘れたくても忘れられない過去。

 それを全て聞いている昼目提督は、強く拳を握りしめていた。その一部始終を知っているのも、この昼目提督なのだ。

 

 

 

 

 この海防艦達が艦娘となる前は、物乞いだった。子供なのに家もなく、1日をどう生きていくかを考えねばならないくらいに苦しい生活をしていた。時には万引きなどにも手を染めて、必死に必死に生きてきた。

 第三十号海防艦は、物乞いを演じてお金を稼ぐように親に言われていた最低な人生を送らされていた。第四号海防艦は最初から両親を持たずに自力で生きるしか無かった完全な孤児、第二十二号海防艦は子供を残して親が蒸発した捨て子である。三者三様だが、親の愛を受けずに地獄を彷徨っていた幼子だった。

 

 それを拾ったのが、昼目提督。たまたまこの3人が一緒に身を寄せ合っているのを見て、伊豆提督ならこうすると保護したのだ。そこで初めて3人は温かい家庭を知ることになった。

 第三十号海防艦の両親だけは健在であるため、昼目提督に文句を言いに来たようだが、それを第三十号海防艦の前で、あの人相と口調を使った正論をぶつけまくり、手を出そうとしたら返り討ちにして、親である資格を問うて、そして剥奪した。犯罪人として然るべき処理をして、その両親は今も明るい世界には出てきていない。

 

 3人とも身体はボロボロだった。ゴミ漁りでどうにか生きながらえてきた子供は、いつ死んでもおかしくない状態だった。まともな食事も身体が受け付けないレベルまで衰弱しており、昼目提督はそこで一計を案じる。彼がその時からそちら側に足を踏み入れていたおかげで可能だったこと、艦娘化による回復である。

 深海棲艦が鳴りを潜め、戦争まで発展していない時でも、カテゴリーC艦娘は少数だが存在しており、海の平和を守っていた。その処置を、治療のために使わせてほしいと上に掛け合ったのだ。

 そして運良く3人は海防艦の才を持っていたことで、今に至る。子供ながら壮絶な過去を経験しているため、見た目とはそぐわない言動が可能となり、大人より大人をしている子供として、艦娘人生を送っていた。周りもそれを受け入れ、楽しく生活することが出来るようになった。

 戦争が始まったら、昼目提督が正しく提督として運用されることとなり、この3人は昼目提督の部下として正式に働くことが出来るようになった。昼目提督のことを父や兄と思っていた3人にはまたとない好機だった。恩返しがしたいと、それを喜び、そして昼目提督もそれを笑顔で受け入れたのだった。

 

 

 

 

「だから私は知ってます。自分の思い通りにならないと、暴力で訴えかけて、自分が正しいと言い張る。それが上手く行ってしまったら、味を占めてまた同じことをする。失敗しない限り、延々と同じことをやり続ける。それが正義だと信じ込んで」

「私達の行動が虐待と同じと?」

「はい。虐待でなくても、やってること、その心持ちは同じです。私はそれを知っています。その痛みと苦しみを全部、全部です。貴女達と面と向かうと、あの時の嫌な時間を過ごしてきた自分を思い出します。大人が駄々をこねて子供を暴力で従える醜態を見せつけられているんですから」

 

 ここまで来ると、第三十号海防艦は凛とした表情で速吸を見据えていた。自分のペースに乗せている。速吸がムキになる恐れもあるが、それでも言わずにはいられなかった。

 

「それでも、貴女達は暴力で訴えかけてくるんですよね。私は言葉だけで戦っています。攻撃していない。するつもりもない。でも、貴女はその艦載機で私の命を奪いに来るんですよね。言い返せないから、痛みで私をわからせようと。死んでも、私がこういうことを言ったから悪いと全て私に責任を押し付けて、自分は何も悪くないと真実から目を背け続けて」

「……」

()()()()()()()()()()()

 

 あまりにも痛烈な、皮肉のこもった言葉の一撃。見た目子供の海防艦に、お前はガキだと罵られたようなモノである。

 ここでムキになったら本当に子供だ。相手は真の平和も正義も知らない、無知の子供に文句を言うほど、自分は馬鹿ではない。そう考えた速吸は、反論することはなかった。何も知らないからそう言っていられるのだと。

 

「言い返せないから、開き直ってるということですよね。どうあっても自分達の思い通りにするということですから。私、知ってます。虐待する親は、それが正しいと本気で思っていて、その間違いを正すことはないんだって。だから、私がどれだけ貴女に言っても、何も正すことはしないし、考え直すことだってしない。今のやり方が正しいって思い込んで、視野が狭くなってるんですよね。すぐそこにあるモノすら見えないんですから」

「……貴女の中ではそうなんでしょう。貴女の中では」

「いいえ、だって」

 

 第三十号海防艦の目が、自分に向いていない。速吸がそう気付いた時には、もう遅かった。本当に視野が狭いことの証明となった。

 

「ここまで近付いてんのに気付かないモノなのね」

 

 うみどりからの援軍、叢雲が、その槍を大きく振りかぶって、速吸の頭を薙ぎ払うように叩き込んだのだ。首を刎ね飛ばさなかっただけ有情。そこはまだ命を奪わないという信念が見えている。

 

「っが……!?」

「視野が狭いことで。まぁ、この程度でやられるほど柔じゃあないんだろうけど。少なくともその艦載機が節穴ってことはよくわかったわ」

 

 叢雲に続き、フレッチャーと磯風もここに到着する。磯風は白雲と共にいるべきではと考えたものの、こちらの戦力も増やすべきであったため、快く共に来てくれていた。

 

「大丈夫でしたか、みとさん」

 

 フレッチャーが第三十号海防艦の側に駆け寄ると、ほっとした表情で力が抜けた笑みを浮かべた。

 

「はい、大丈夫です。本当に、本当に助かりました。私1人じゃ、時間稼ぎも限界でした」

「間に合ってよかったです。ここからは、私達が」

 

 

 

 

 速吸との戦いは、ここから激化する。補給艦をここで始末出来れば、戦いはぐっと楽になるだろう。

 

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