速吸の強固な艦載機を突破出来ず苦労する叢雲達。そして、そうこうしているうちに、重傷を負っていた足柄が目を覚ましてしまった。
「あー、腕は無理よね。でも、脇腹は充分かしら」
「そこは仕方ないですよ。捥ぎ取られたのはくっつけられません。生やすならしっかり入渠してください」
「ええ、了解。でも、
恐ろしいことに、アレほどの重傷だったのに痛くないと言い出した。気付けば艤装から修復がされており、腕が片方ないというだけでまだまだ戦えるという雰囲気を嫌という程出している。
速吸の補給は、ただ燃料弾薬を補給するのみではなかった。溜め込まれていた疲労なども取り払い、カテゴリーKに内蔵されている自己修復機能を最大限に発揮させる活性化の力も有していた。本来小一時間はかかるような傷を、モノの数分で修復完了にしてしまう。それは艤装も同じだ。
人機共に補給し、戦える状態にまで持っていってしまう脅威。それがこのカテゴリーKの補給艦、速吸。カテゴリーKの中で最も重要な立ち位置にいる、
「でも、1人で戦うのは少し難しいかもしれないわね。私が気を失ってた間の近況わかる?」
「漣ちゃんに補給したくらいで、そこからは足柄さんが運ばれていたのを感知したので奪還しただけですね。今だと、霧島さんもやられたかと」
「あら、それはまずいわね。そちらに行ってもらいたいところだけれど」
「出来ればそうしたいです。ですが……まずはここの敵を殲滅しないと厳しいでしょう」
速吸だけでも厳しかったのに、手負いとはいえ戦力が1人増えられた。速吸がここから離れてくれるのならば、足柄だけならば、まだ可能性があるかもしれないが、鉄壁の艦載機に加えて、普通に高い火力を持つ足柄が戦列に加わられるだけで、一気に不利となるだろう。
「ここが正念場かしらね……」
「ああ、だがやれることをやっていかねばな」
「わかってるわ。フレッチャー、それとみと、行ける?」
叢雲と磯風は、この脅威に苦笑いを浮かべた。普通の攻撃も効かなければ、『空冷』もどちらかと言えば特異点の煙幕に対しての力だ。曲解無しの実力勝負と言ってもいい。効くと思っていた行動が、速吸の艦載機にはまるで効かなかったこともあり、ここから勝ちに持っていくのは相当厳しい。
「大丈夫です。心は落ち着いていますから」
フレッチャーは息を整えて敵を見据える。第三十号海防艦も小さく頷いた。脅威に立ち向かい、怯えることなどない。これまでのことを考えれば、これくらいどうということはないと。
今回のフレッチャーは最大の力を得られる丹陽コピー状態だ。普段なら『量産』によるコピーをすることで服装まで変わるが、それによって敵に力を悟られないように、本来の姿に戻している。
実際はフレッチャーのもう一つの曲解、『擬態』が作用しているだけなので、気持ちを込めれば服装なんていくらでも変えられるのだ。それを使わないだけ。
つまり、今のフレッチャーは丹陽の持つ真の高次、『未来視』の劣化版が備わっている。敵の動きが読めるというだけだとしても、充分戦える力。
「なら、行くしかないわ。やるわよ!」
叢雲が気合を入れて叫んだ。同時に他の3人も動き出す。
「ふふ、ふふふ、いいじゃない! 敵として天晴れよ! 漲ってきたわ! 私が相手をしてあげる!」
そんな様子を見たことで、足柄のテンションが爆上がり。戦場に立ってしまえば上も下もない、ただひたすら楽しく戦うだけでいいと、足柄は笑顔で艦載機を展開した。
よく見れば速吸のそれとは形状が違うのだが、艦載機が増えたということが厄介な話。こちらは速吸のそれと違い、射撃も爆撃も可能。その上、足柄自身も攻撃が可能である。むしろ、自分の手でやるために攻撃をしない理由がない。
「さぁ、来なさい子供達! 足柄お姉さんが、全部受け止めてあげるわ!」
そして、主砲も絡めながら攻撃が始まった。片腕が無くても戦力としては充分すぎるほどであり、砲撃の精度が欠ける程度。それすらも楽しみながら、足柄はまず、正面に繰り出してきた叢雲を狙う。
槍を振るう叢雲は、速吸の艦載機に邪魔されながらも、足柄からの攻撃は確実に回避していた。砲撃はしない。いや、持ち替える程の余裕がないため、どうにか近付いて槍による攻撃で決めたい。
「何楽しんでんのよ!」
「平和を勝ち取る戦いなんだもの! 漲ってくるじゃない!」
「アンタの目指してる平和に迷惑してんのよ!」
「大丈夫! ちゃんとみんなわかってくれるわ!」
相変わらず話にならない。言葉はわかっても会話になっていない。自分のやっていることが正義であると信じ切っている足柄は、カテゴリーKの中でも特に狂っていると言えよう。
それがすぐにわかったからこそ、叢雲は足柄との問答をさっさとやめた。話している意味がない。説得なんて無理だし、無意味だ。足柄は、自分のやっていることに何一つ疑問を持っていない。微塵も悪意がない。正しいことをしているんだという気持ちだけで突っ込んできている。
「もういいわ。アンタもアイツらと似たようなモノよ。自分が良ければそれでいい、周りの都合も、苦しみも考えない。私はね、そういう奴が、大嫌いなのよ!」
叢雲はギリッと奥歯を噛み締め、槍を思い切り振るう。足柄の艦載機からの射撃はギリギリで避け、速吸の艦載機の体当たりは槍でいなし、一歩ずつ前に進む。
「ああ、そうだ。部下を部下とも思わない者達に使われていた我々だからわかる。貴様は、奴らと同じだ。自分が正しいとしか思わない、考えのないただの犬だな!」
磯風も『空冷』の風を駆使し、前に進む。速吸の艦載機はブレなかったが、足柄の艦載機は風によってブレが生じた。これが普通。風に煽られてば、まともに飛んでいられなくなる。
「私の中の彼女も、壊されて、それが当然と思わされていました。でも、ちゃんと後悔した。貴女達は違いますよね。後悔なんてなく、他人の人生を踏み躙ることを良しとしている。私は、それを許すわけにはいきません。彼女の後悔を理解出来ているのですから」
フレッチャーも攻撃をことごとく避け、確実な一歩を踏み出す。砲撃だろうが射撃だろうが、何処に何が来るかを先読みして突き進む。攻撃が全て防がれるのならば、それすらも先読みして最善の道を見つけ出し、それを実行するだけ。
そして、その道はもう見えている。速吸の艦載機の特性を逆に活かした手段が。それが上手く扱えそうなのは、最も身体能力の高い者。今ならば、丹陽の力を持つフレッチャー。
「叢雲さん、魚雷を」
「了解! アンタ達は、もう死んでもいいわ! アンタ達こそ、生きてるだけで罪よ!」
フレッチャーに指示され、叢雲は足柄と速吸に魚雷を放つ。磯風もそれを察して、同じように魚雷を放つ。フレッチャーも合わせた。3人がかりの雷撃。
先程それも速吸の艦載機に止められているが、それでも同じことを繰り出した。それに速吸が怪訝そうな表情を浮かべる。
「同じことをするんですね。効かないことがわかっていても」
「なら、何か突破する作戦を思いついたってことでしょう! 迎え討つわよーっ!」
「勿論。まずは脅威を破壊しましょうか」
さも当然のように艦載機が海中へと向かい、向かってくる魚雷に向かって体当たり、そのことごとくを破壊していく。3人で放たれた魚雷はそれ相応に数は多いし、バラけた方向からの雷撃であるため、対処の仕方もバラけるはずなのだが、そんなことお構い無し、艦載機が自由に動き回り、四方八方を確実に守っていく。
「行きます……! 皆さんは攻撃を続けてください!」
ここでフレッチャーが覚悟の行動に出る。艦載機が魚雷を破壊するために低空飛行をした、その瞬間を狙って、一気に前へと踏み出した。
魚雷が爆発したことで水飛沫も舞うが、そんなことは関係ない。フレッチャーのやりたいことは、その艦載機が
「近付かせませんよ」
速吸は残りの艦載機を自分と足柄の前に展開し、強固な盾を作り上げる。だが、そこに使われている艦載機は半数。残りの半数は魚雷対処の低空飛行中。
それも守りに使おうと、海中から引き上げ、向かってくるであろうフレッチャーの眼前におこうとした。だが、フレッチャーの『未来視』は、その行動を先読み、何処の艦載機が何処に動くのかを予測済み。
故に、その艦載機が浮き上がる前に
風でも流されない、砲撃でもビクともしない、魚雷すら叩き割るような推力を持っているのならば、
事実、浮き上がるのを阻害することなく、フレッチャーは速吸の艦載機を踏み台にすることが出来た。空に浮かぶ足場として見れば、強固な艦載機は逆に安定する道となる。
「人の艦載機を足蹴にするのやめてもらえます!?」
「人の生き方を足蹴にする方々に言われる筋合いはありません」
速吸がフレッチャーを振り落とそうとした時には、もう力強く蹴った後だった。速吸の艦載機にはよるガードを乗り越え、背後を取ることに成功。そして、もうすでに砲撃を放っていた。
不意打ちも同然の一撃。避けられたとしても、これならダメージを与えられる。そう信じた。
しかし、ここには足柄もいるのだ。目を覚ました狂った狼は、そのフレッチャーの渾身の一撃を、満面の笑みで見つめ、そして自らの艦載機を犠牲にすることを決めた。
「最高じゃない! 面白いことに考えるのね!」
速吸の艦載機は硬すぎることで砲撃が通らないが、足柄の艦載機は普通だ。撃たれたら爆発する。それが、
「っ……!?」
フレッチャーの砲撃は、自分の間近で爆発することになり、その爆炎に呑まれることになってしまった。