後始末屋の特異点   作:緋寺

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かつての自分

 丹陽の力を『量産』によりコピーし、その力『未来視』によって速吸な背後を取ったフレッチャーだが、それを止めたのは足柄。自らの艦載機を犠牲にして砲撃を止めるだけでなく、その爆発をフレッチャーに浴びせかけることでダメージまで与えてきた。

 爆散する艦載機の爆風をモロに喰らってしまったフレッチャーだが、そこはギリギリで『未来視』を発動。少し後ろに下がることで、100%のダメージは回避。それでも肌が焼けるような痛みは回避不可能。服が焦げ、火傷を負うことは避けられず。

 

「フレッチャー!」

「大丈夫です! 攻撃を続けて!」

 

 磯風が叫ぶが、フレッチャーはそのダメージに屈することなく、速吸の強固な壁を突破するために攻撃の手を緩めるなと返す。

 フレッチャーのこの行動は、20機ある速吸の鉄壁の艦載機とて、穴があることを証明した。足柄がいなければ一撃が完全に刺さっていたことを考えれば、あちらも焦りが見えるだろう。飄々としているが、内心は死が間近に来たことに驚きがあった。

 

「足柄さん、助かりました」

「いいのよ! 貴女には生き残ってもらわないと困るものね!」

「そう言ってもらえるとありがたいです」

 

 補給艦の重要性は足柄であっても理解しているようだ。自分を回復してくれた、戦いを続けさせてくれる、最も優しい仲間。それくらいの感覚であろうが、それでもこれくらいのチームプレイを見せるのだから、大切な存在であることは変わりない。

 

 カテゴリーKは、うみどりに対しては完全に敵対的な態度を取るが、仲間内ならばお互いのことをちゃんと信頼しあっている。きちんと助け合いをモットーにし、誰かがやられるのを許さない。足柄はこの戦いそのものを楽しんでいるような素振りだが、それでも攻撃より速吸を守ることを優先した。

 回復役の速吸はその筆頭であろう。他の誰かがやられたら、それを補給、治療するために奔走する。極端ではあるが、仲間思いと言ってもいいのだろう。

 

「どちらも止めないといけないわね……アイツ、傷とか関係ないのかしら……」

 

 叢雲は速吸の鉄壁以上に、足柄の対応力の方を意識していた。鉄壁はあくまでも自分を守ること。こちらへの攻撃は控えめであり、こちらが猛攻を仕掛けてもそれをひたすら受け止めるだけ。脅威としてはそこまで強く考えていない。回復能力だけが厄介である。勿論、艦載機をそのものを嗾けてくる攻撃は、当たってしまうと相応以上のダメージになるのだが。

 それ以上に、攻撃も守りも一線級の足柄の方が困る動きをする。片腕がないという手負いであるにもかかわらず、艦載機を巧みに操り防御し、主砲も使って攻撃を繰り出す。速吸への攻撃を、攻撃を以て食い止める。そのせいで、鉄壁崩しが上手く回せない。

 

「私は足柄に行く。磯風、フレッチャーに寄りつつ、速吸を止めて」

「了解した」

「みと! 援護出来る!?」

「大丈夫です、やれます!」

 

 ここで叢雲は一旦、速吸を無視することにした。この戦場、速吸が危険なのは間違いないのだが、勝率を著しく下げているのは、大暴れしている狂った狼、足柄だ。こちらをどうにかしないと話にならない。

 一度眠っていたのだから、もう一度眠っていてもらいたい。それが叢雲の素直な感想。それを叩き起こした速吸にも苛立ちが見えるが、それ以上に、直接攻撃してくる足柄の方が腹立たしい。

 

「足柄さんはやらせませんよ」

 

 しかし、速吸がいち早くそれに気付く。艦載機を自分だけでなく足柄の方にもいくつか飛ばし、守りに使おうとした。足柄のその艦載機の動きににんまり笑顔を見せる。

 

「守ってくれるのね! ありがとう速吸! これなら戦いやすいわ!」

 

 何処かのタイミングで邪魔になりそうだが、そんなことも考えない。仲間が守ってくれている。仲間と一緒に戦える。ただそれだけで楽しく、そして少々無謀なこともやれる。

 

「フレッチャー、もう一度やれるか」

 

 その間に磯風はフレッチャーの方へ。傷は深くないが、火傷はどうしても目立つ。

 

 速吸の鉄壁を潜り抜けたその動き、同じことをもう一度やれば届くかと尋ねるが、フレッチャーは小さく首を横に振る。

 

「一度見られてしまいましたから、警戒はされるでしょう。同じことを二度も許してくれる相手ではありません」

「ならば、少し試してみよう」

 

 磯風は、また近いことが出来るかを確認するため、速吸に魚雷を放つ。先程はこれで艦載機を一時的に海中に持っていき、元の位置に戻るタイミングを見計らって足場にした。

 だが、それはフレッチャーの言う通りだった。

 

「二度も同じ手を喰らうとでも?」

 

 魚雷の対処に使う艦載機は必要最低限に。1機2機が素早く動くことによって、かつ、魚雷同士をぶつけ合わせるように艦載機でコントロールして、自分への盾を残したまま処理するようになった。

 とはいえ、一度のピンチが頭に染みついたのは確かだ。上を行かれたという手段は、速吸に確実に守りの手をより固定化することに繋がる。

 

「後ろが疎かなのは変わりません。意識しすぎて、前を守る艦載機が減りました。私のやったことは、確実に繋がっています」

 

 奇襲に失敗したとて、それが先に繋がっているならばよし。気持ちを切り替えたフレッチャーは、さらなる攻撃のために回り込むように動き始めた。磯風は逆側かは。速吸を挟み撃ちにしようと考えた。

 艦載機によるガードが分散している今、より分散するように攻撃の方向を散らす。右から左から、前から後ろから、可能なタイミングで放ち、いつか止められないタイミングに刺さるように手を止めない。弾薬という制限があるため、それまでに打開したいところだが。

 

「あらあらなぁに? 速吸大人気じゃないの! 私も入れてよ!」

「させないわよ。合流なんてされたら、またさっきみたいに守られるじゃない」

「仲間を守るのは当然のことよ!」

「同意するけれど、私達にとっては厄介なのよ。アンタだってそうでしょう。他の連中を私が守り続けてたら、邪魔だと思うでしょうに」

「ん? 思わないわよ?」

 

 叢雲の問いに、足柄は本気で疑問を持つような顔で返す。

 

「相手が増えるだなんて、普通に楽しいことじゃない! それを突破するのが楽しいんじゃない! 人数が増えることなんて大したことじゃないわ!」

 

 ただひたすらに戦闘狂。一方的な戦いも、逆に苦しい戦いも、足柄の中では楽しい戦いの一種に過ぎない。こんな奴が平和を語っているだなんてと、叢雲はさらに苛立ちが増した。

 許し難い程の愚か者。自分の言動がおかしいことにも気付いていない異常者。平和のために平和を壊すばかりか、あまつさえそれを楽しんでいる。何をどうすればそこまで壊れるのか。

 

 だが、叢雲の苛立ちは、足柄に対してのモノだけではなかった。かつての自分が、義父への恩のためにおかしいと思いながらも悪事に手を染めていた時のことを思い出させられ、余計に腹が立っていたのだ。

 磯風は洗脳、フレッチャー(米駆逐棲姫)は教育によって敵の意のままに動いていたが、叢雲は恩という毒に侵されて正気のままそれを実行していた。全てがその義父による策略で、体のいい駒をマッチポンプで作り上げられただけと知ってからは、激しい後悔と罪悪感に苛まれることになった。

 この足柄は、その時の自分と同じように扱われている上に、それを楽しいと笑みまで見せる。()()()()()()()()のように見えるのが、とにかく気持ち悪くて、反吐が出る程の嫌悪感を齎した。

 

「ああそう、アンタが何処まで壊れてるかがよくわかったわ。私は、そんなアンタが気持ち悪くて仕方ない。だから、ここでアンタをぶっ潰す!」

「やれるモノならやってみなさいな! 私達は私達の平和のために戦うわ! 貴女達の平和と相入れないのは仕方ないもの! なら、ぶつかり合うしかないものね!」

 

 叢雲ももう一切の躊躇が無かった。雷撃もそうだが、槍も急所を突き刺すつもりで振るう。主砲を持ち直す手間すら惜しんで、眼前の敵を始末するために動き出す。

 殺意が増したことで、より動きが洗練されてくる。これまで押し留めていた攻撃性が強く発揮され、足柄にビシビシとぶつけられていく。それを心の底から楽しんでいる足柄は、ニッと笑みを浮かべ、叢雲への攻撃を続ける。

 

「手数はこちらの方が多いわよ! 何をしてくれるのかしら!」

「こっちには仲間もいるのよ! みと!」

「はい!」

 

 叢雲が前衛、第三十号海防艦が後衛として、正面からの攻撃をきっちり回避しつつ、艦載機は機銃で邪魔をする。簡単に墜とせるほど楽な相手ではないが、少なくとも叢雲への脅威を減らすことは出来ているため、それは間違いなく有効な手段だ。

 しかし、叢雲の攻撃は速吸が差し向けている艦載機が軽々と止めてしまっている。魚雷もそうだし、槍もそう。突いても薙ぎ払っても、そのことごとくを跳ね返す。

 

「仲間がいるのはこっちも同じなのよ! さぁ、次は何をしてくれるのかしら!?」

 

 足柄の猛攻は止まらない。だが、その視線が叢雲に吸い付けられていることは確かだ。ここで誰かしらの援軍が来るのならば、それには目が追いつかなくなるだろう。

 

 

 

 

 速吸は知っている。霧島がやられたことを。つまり、うみどりへの砲撃が止まっているということを。そうなれば、何が来るか。

 叢雲達は知っている。襟帆鎮守府からの砲撃が止んだら、何がここに来るかを。その時間稼ぎには充分だ。

 

 

 

 

「ぽーい!」

 

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