後始末屋の特異点   作:緋寺

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普通を愛する者

 叢雲の持つ力、『標準型』の曲解。阿手一派との戦いの中、特機寄生によって得たその力は、これまでの不遇を取り返したい、ただひたすら()()()()()()()という願いを汲み取った、触れたモノを普通にする力、敵が扱う曲解を完全に無効にする力である。

 

 速吸が操る艦載機は、これまで無効にした敵の力とは全く違う。カテゴリーKとなったことで扱えている、強力無比な兵装の力。阿手一派の使う曲解とは、全く違う力。高次の力と言ってしまえばそうなのかもしれないが、少なくとも忌雷の力でポン付けされたような力ではない。

 それもあって、叢雲は自分の力が艦載機に通用するとは思っていなかった。『異常』を否定し、『普通』を愛する叢雲とて、その艦載機は異常だと思いながらも、それが自分達の扱う力と同じとは思っていなかった。

 

 しかし、夕立がそれを指示したということは、満場一致で『異常』なのだ。誰も口にしないだけで、それはどう考えても『異常』なのだ。

 

「……でも、このままじゃジリ貧よね。やるわよ、やってやるわよ!」

 

 叢雲は覚悟を決めた。やらないで手も足も出ないくらいなら、やって打開を選択する。

 

 だが、夕立の叫ぶような指示は、当然だがこの戦場に響き渡っているため、艦載機の持ち主である速吸にも当然届いている。

 タッチというその一言で、その先がわからなくても警戒しなくてはならないことがわかる。叢雲に艦載機を触れられたら何かが起こる。叢雲の反応からして、それが上手く行くかわからない博打に近いことのようだが、今回のような場面以外では実績のある『何か』を繰り出してくる。

 

「……ならそれ相応にやらせてもらいますよ」

 

 触れられたら良くない。ならば、触れられないように立ち回る。しかし、速吸の艦載機にはそういった兵装がない。触れたら終わり系の力を持っていることは想定していないのだ。そもそも簡単に触れさせないようにもしているのだから。

 よって、速吸は艦載機の動きをこれまで以上に速くする。どのように触れられたら良くないのかはわからないのだ。だから、殴りつけるようにひたすら動かして叢雲を打ちつけることとした。

 たった2つの艦載機ですら、翻弄するには充分。両手を遠隔操作しているようなモノであり、拳より当然強固。攻撃力は直接殴るよりも当然強い。

 

「彼女の次に、貴女が警戒すべき者であるなら、ちゃんと押し潰させてもらいます」

 

 叢雲についている艦載機が、明らかに攻撃的になった。自分に近付かせないとかではなく、自ら近付いて叢雲の槍を弾き飛ばす。その衝撃は普通ではなく、壁を殴っているという一撃を壁側から突撃してくるようなモノ。

 

「くぅっ……っ」

「他はもうどうでもいいです。貴女はさっさと始末します」

「やれるもんならやってみなさいよ! この()()()()()が!」

 

 とんでもない暴言に、速吸の眉がピクリと動く。

 

「……平和詐欺師?」

「平和平和だと言いながら、話し合いもせずにただこっちに文句ばかり言うだけ! これだけ守りの力があっても、話し合いも何もしようともしない! 自分の意見をただ押し付けて、それが平和だって周りを言いくるめてるだけのペテン師でしょうが!」

 

 叢雲は、かつて言われたことを噛み締めてきた。夕立が相手をしている足柄も、今自分を妨害している速吸も、かつての自分を見ているようだった。

 

 あの時の地下通路で、グレカーレと白雲にぶつけられた、見下すように言い放たれた言葉。説明もせずに決めつけるのは流行っているのか。こっちの命を狙っておきながら、いざやり返されると被害者ヅラとかダサい。やってることがお子様以下。我儘振り回して迷惑かけておいて、何の説明もせずにこっちを悪人扱い。何の根拠もなく、何故自分の求めるモノが平和だと確信出来るのか。他者の命を奪った、屍の山の上に成り立つモノが、何が平和か。

 叢雲は全て覚えている。自分の愚かさの象徴として、二度とそうなってはいけない教訓として。それだけ言われたことに、今は感謝している。

 

「私達の道をそんなくだらない気持ちで、遮るんじゃないわよ!」

「好きに言えばいい。でも、貴女達に文句を言われる筋合いは」

「こっちのセリフなのよペテン師! 人の平和に文句を言ってんのはアンタ達! それを勝手に平和じゃない判定をしてるのもアンタ達! 殺すしか選択肢がない連中に! 私達がぁ、負けて堪るかぁ!」

 

 叢雲の叫びは、他の者を奮起させる。全く以てその通りだと、磯風も、フレッチャーも、元は特異点に敵対していた身。この速吸の言い分を是としていた時期がありながらも、それが間違いだと気付き、今ここに立っている。その上、速吸はまともに納得が出来る答えを持ち合わせていない。出洲と同じく、まともに知らない特異点は後に人間を堕落させると決めつけているだけ。

 間違った平和を正しいと嘯き、周りをそれに従わせる。ディストピア的な世界を平和だと勝手に語っている、いや、()()()()()()()()ペテン師。叢雲はこれまでの自分、これまでの特異点を見た上で、正しく理解し、この世界にどちらが必要かを考えて、今に至っている。

 

 そこまで熟考した結果を、何も考えずにいる者に愚かだと一蹴されるのは我慢ならない。見てから言え、話してから言え、接してから言え、それしか言えない。

 

「私達はね、ちゃんとアンタ達の求めてる平和も見て、自分達が今いる平和も見て、考えて、考えて、考えて決めてるのよ! アンタ達とは、何もかも違うのよ!」

 

 振り回した槍が、速吸の艦載機にまともにミートした。しかし、やはり壁に打ち付けているかのような感触しかなく、逆に叢雲の槍が吹き飛ばされる。手が痺れてジンジンする。だが、叢雲の目は鋭く、速吸を非難の目で睨み続けていた。

 

「そのくせ、こちらの言い分は聞きやしない! 自分が正しいから聞く耳持たないとか、それがおかしいってことに何で気付かないのよ! 考えてないってことでしょうが! 言ってみなさいよ、アンタの考えで、その平和の何処が正しいのか!」

 

 だが、叢雲のその一撃で、艦載機の動きが一瞬止まった。叢雲はそれを見逃さない。

 

「何も言えない奴が、平和を語るなぁ!」

 

 少し跳ぶように手を伸ばし、ついにはその艦載機を鷲掴みにする。速吸は目を見開いた。触れられてはいけない。だが、叢雲の言葉に気圧された。自分の平和は揺るがない。それなのに、叢雲の圧はホンモノだった。

 敵も味方も体験しているからこそ、最もリアルな考察が出来た。敵のことを理解出来ているから、そこまでのことが出来た。これまでの修羅場は伊達ではない。叢雲ほど刺さる言葉が言える者は早々いない。

 

「いい加減に目障りなのよ! 普通じゃない艦載機はっ、今すぐっ、『普通』になれぇっ!」

 

 そして叢雲は、『標準型』の力を艦載機に注ぎ込む。トーチカのような巨大な建物とも、集積地棲姫のような人型とも違う、ただ手に持てるだけのモノ。故に、注ぐ力はこれまでとは群を抜いて少なく済んだ。

 

 叢雲の力は、普通にする力。これまでなら曲解を解除する曲解だった。だが、あの島の地下施設の時、叢雲はこれまでと違うことが起きている。『舵』による洗脳を解除された時、その時に、叢雲には異変が起きていた。

 そう、あの時に阿手を否定した特異点の煙幕は、磯風の『空冷』の風に負けないように、深雪と電の()()()()()()()()()が放たれていた。それを吸い込んでいる叢雲には、特異点の願いの力がさらに増幅していたのだ。

 それは、叢雲に寄生している特機にも強く影響を与えた。その曲解は、より叢雲の思いを汲み取り、『異常』を否定し、『普通』を愛する。

 

 結果、叢雲の力は進化した。『標準型』の曲解は、曲解だけではない、()()()()()()()()()()()()()()

 

 叢雲に掴まれている艦載機は、その鉄壁性を失い、ただの深海の艦載機へと変化する。速く動かない。砲撃を止めるほど硬くない。海中を進むことも出来ない。なのに、射撃と爆撃は最初から出来ない。ただ浮いているだけのモノへ。

 

「……な、なんですか、それは」

 

 速吸もこれには驚きを隠せなかった。何をされたかわからなかった。だが、明らかに自分のコントロールする艦載機が、別の何かにされた。

 

「これなら、ぶち壊せるわよ!」

 

 強く握りしめた艦載機を、なんと自らの膝に叩きつけた。その衝撃で艦載機は

 破損。煙を上げて機能停止。

 これまでなら絶対にそうならなかったのに、今はそうなっている。そして、

 

「全然消耗もない! 残り全部、私が『普通』にしてやるわよ!」

 

 叢雲はこれでさらに自信がついた。

 

 

 

 

 その力が通用するというのならば、もう止まらない。叢雲も速吸にとっては天敵となる。

 

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