後始末屋の特異点   作:緋寺

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潜入

 一方その頃。

 

 足柄がやられ、霧島もやられたことで、襟帆鎮守府近海の戦闘は、うみどり側に優勢へと傾いていた。

 しかし、瑞鶴と五十鈴は徹底して海上に上がることはない。その方が余計に戦いにくいということを理解していたからだ。

 海上には加賀と時雨だけでなく、妙高達もやってきているため、人数の差もある。特に、海上から何かしらの特殊兵装を扱ってくる睦月は、海中にいても危険なのに、海上に行けばさらに危険。

 逆に海中ならば、伊26と丁型海防艦が操る潜水艇が2艇。それだけで済む。上の者達よりはまだ戦いやすく、勝ち目もあれば、撤退の目もある。

 

「五十鈴、どうすんの!?」

「……徹底抗戦しかないわ。鎮守府に戻っても、もう仲間は誰も……なら戻ったところで何も、ない……?」

 

 ここで五十鈴は気付く。今、鎮守府にはカテゴリーKが誰もいない。自分達と同じように戦える者は、誰もいない。速吸が補給のために出ていったことも、何となく掴んでいる。

 高次に至っていないカテゴリーCならばまだ少数残っている。襟帆提督の護衛も必要だし、予備戦力として()()()()()()いてもらわなくては困る。

 

 などと考えていることは、海中の者達にも一目瞭然だった。カテゴリーK全戦力を出したのならば、鎮守府内は丸裸も同然である。つまり、()()()()()()()

 

「よし……多分これで、鎮守府の中に敵はいない、はず……!」

 

 伊26もそれに気付いていた。海中のあらゆる状況に対して『ソナー』による感知が利いている。鎮守府から何者かが猛スピードで別の戦場に向かったこともわかっていた。それを追うことは出来なかったが、別の戦いで仲間達がどうにかしてくれると信じている。だから自分はここの2人を抑えるのだと。

 そこから考えて、もうカテゴリーKは9人出尽くした。事前情報が正しいのであれば、これで終わり。

 

 このタイミングなら、もう裏側から制圧は可能。

 

 

 

 

 この戦場にまだ姿を現していない者は少数いる。まだ来る出洲達のために温存している神風やタシュケントもそうだが、もう1人。うみどりの面々の中で最も隠密行動が可能な者。

 

「こっそりこっそり」

 

 子日である。海上と海中の戦いを知りながらも、『迷彩』による透明化を使って少し回り道しつつも鎮守府に向かっていたのだ。

 

「ゆっくり行かなくてはならないのは仕方ないけれど、戦場を尻目に行動するのは忍びないね」

 

 そう話すのは響。また、白雪と神通も共にここに来ている。『迷彩』の範囲が一時的に拡がっているからである。

 初めて『迷彩』を使ってきた戦標船改装棲姫も、自身の艦載機を隠し、ある程度離れて初めてその姿を見せていたが、それを周囲の仲間にも影響を与えているのだ。

 今鎮守府に向かっている子日筆頭の4人部隊は、全員が近くにいる限り、その姿も音も何もかもを隠し続けていた。僅か数mの範囲とはいえ、複数人潜入させることが出来る力は、あまりにも有用。

 

「離れないようにね。子日の『迷彩』の中では喋っても暴れても気付かれないけど、範囲から出たら全部パーになるからね」

「わかってます。急ぎたい気持ちはありましたが、こればっかりは難しいです。急がば回れですね」

「そうそう。子日もかっ飛ばしたかったけど、足並み揃えないと見つかっちゃいけないところで見つかっちゃうからね」

 

 神通が子日を抱えるというのも考えたようだが、そんなことで無駄な体力を使うのは控える。大発動艇という手段もあったが、鎮守府に侵入した際にそれが突然戦場に現れることになるため、それも控えた。

 結果、4人で限りなく密集して、足並み揃えて航行。戦いに影響を与えないように、なるべく大回りして突き進んだ。

 

 そして、時間をかけて鎮守府の近くまでやってきている。遠目に戦闘が繰り広げられているのを尻目に。

 

「到着! でもまだまだ気が抜けないよね」

「本当なら工廠から直接行きたかったんですが」

 

 その工廠前では、長門達が霧島と戦っていたのだから、それを邪魔するわけにもいかないし、潜入を邪魔されるわけにもいかない。

 そのため、鎮守府から少しだけ離れた陸の方に向かい、そこから上陸。おそらく物資搬入口であろう場所からの侵入となった。

 

「鎮守府内の構造は大体把握しています。電子ロックなどは私が全て解除します」

「アナログなら私がちょちょいだ。問題は」

「艦娘でない、作業員が徹底抗戦に出た場合です。全員が全員、襟帆提督に従っているわけではないかもしれないのですから」

 

 この鎮守府のトップが出洲に対して叛逆行為を行なっているのは既に知っている。その息子である整備士も、諜報妖精さんがそれだと理解している上で、情報を包み隠さず教えてくれている。

 だが、他はどうだろうか。カテゴリーKでなくても出洲に従っている者達は、この世界の各所に散らばっていることは既に把握済み。大本営の中にも潜り込んでいるのだから、整備員の中に同じように考える者がいてもおかしくない。妖精さんですら、信用しきるのはやめた方がいいくらいだ。

 

 その場合危険なのが、鎮守府内のモノで抗ってくることである。艦娘のように装備出来なくても、固定砲台のように取り扱い、攻撃をしてくる可能性もないとは言えない。爆雷などだって、ただ使うだけで爆弾のように出来るのだから、隙を見せれば何をされるかわからない状況にある。

 

「とりあえず真っ直ぐ工廠?」

「それでいいかと。諜報妖精さんを迎えに行かねばなりませんし、作業員も一時的に制圧させてもらわなければなりません。裏がどうにか出来れば、あちらの最後の補給線は完全に断ち切れます」

「了解。じゃあ、案内して。子日が先行するよ」

 

 搬入口から鎮守府内部に潜入。鍵がかかった扉は、響と白雪がいとも簡単に開いていった。『迷彩』環境下ならば、扉が開いたところで誰も気付かない。ただでさえ海では戦闘が繰り広げられているのだ。注意がそちらに向くようなことは早々ない。

 だとしても慎重に行くのは、『迷彩』であっても看破が可能な妖精さんの存在。熟練見張員などは、隠れていても隠れきれない。そこまで考慮して、戦闘中でも焦らず騒がず、確実に一歩ずつ進む。

 

 鎮守府が入り組んでいるような造りをしているわけがない。ここを出てしまえばほとんど一直線である。

 

「やはりもぬけの殻ですね。工廠制圧後、襟帆提督に挨拶をしに行きましょうか」

「だね。先に行きたいのは山々だけど、武装解除が最優先だからね」

 

 そして工廠に到着。中では慌ただしく作業員達が働いている……わけでもなく、戦闘から戻ってきた艦娘を補給なり修理なりをするために、緊張した面持ちで海を見ていた。

 どちらの勝利を願っているかはわからない。だが、仕事は仕事。ここに誰かが担ぎ込まれたら、可能な限り修復する。カテゴリーKを、出洲を、敵だと思っていたとしても。

 

 その中には艦娘の姿もあった。カテゴリーCであり予備戦力扱い。駆逐艦の朝風と松風。スペック的にもこの戦いに参加することは難しいと考えられたか、あくまでも作業員達の護衛のためにここにいるようなもの。

 

「こちらに従ってくれればいいけど、どうなんだろうね」

「艦娘の方は良さそうですが、問題はそれ以外です」

 

 見ただけでは判断出来ない。だが、ここまで来たならば、まずは進まねばならない。息を呑む作業員と艦娘を今は無視して、こっそりと工廠の裏側に向かう。

 

 するとその最中、神通の持つ通信機に微かにだが連絡が入った。モールス信号、その言葉からも、誰がそれをしてきているのかがわかった。

 

『いまどこにいる』

 

 間違いなく諜報妖精さんである。『迷彩』によって姿は見えていないが、作戦の進行状況的に、調査隊が鎮守府に向かっているのではと察して、通信を送ってきていた。今回は一方的ではない。返信も待つカタチで。

 神通は少し驚いたものの、すぐに通信を返す。

 

「潜入中。工廠の奥に向かっています。姿は隠せているのでご安心を」

『うらがわ、おく、ちかへのかいだん』

 

 端的な指示ではあるが、そちらに来てほしいということだろう。そのことを子日にも伝えて、諜報妖精さんの指示通りに進む。

 

『きてくれたんだな、おじょうさん』

「勿論。迎えに来ました」

『ありがとう。だっしゅつがむずかしかった』

「でしょうね……でも、何事もなくてよかったです」

 

 送り届けた手前、神通は少し不安ではあった。だが、ここまでずっと調査を続け、今まで無事でいてくれたことを心の底から喜ぶ。

 

『せいびしもいっしょ。なかま』

「襟帆提督の息子さんですね。共に救います。ここで余計な戦いは起こしたくないので」

『よろしく』

 

 話しながらも歩を進めて、誰にも気付かれずに工廠の裏へ。言われた通り、地下への階段を見つける。艤装を装備したままでも歩けるくらいの幅があるため、地下でもいろいろと艤装の開発などを行なっていたと予想される。

 

 そして──

 

 

 

 

「いた……!」

 

 地下の一室。そこに、諜報妖精さんと襟帆整備士の姿を見つけた。

 

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