後始末屋の特異点   作:緋寺

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まずは妖精さん

「一度、この鎮守府を制圧させていただきます」

 

 神通のその言葉に、夕張が目を見開く。だが、襟帆提督は小さく頷いた。

 

「ええ、それは仕方のないこと。この鎮守府は、本来の平和とは異なるモノを目指して、裏でやってはいけないこともやっているのですから。制裁を受けても何も文句は言えません」

「ですが、制圧と言っても痛い思いをしてもらうつもりはありません。ただ全員に大人しくしてもらうだけです」

 

 神通は続ける。本来の制圧ならば、武力行使も辞さない。だが、今回は事情が違いすぎる。艦娘の力を振り翳して徹底的な攻撃というわけにはいかない。

 

 今回の目的はあくまでも理解してもらうこと。出洲シンパならまだしも、何も知らない者達を攻撃するのは違う。話し合いの場を作るために、一時的な拘束をしなければ、暴れられて話にもならないだろう。

 

「こちらは()()()()制圧の手段も持ち合わせています。そうですね、響さん?」

「ああ、その辺りは大丈夫。小道具はかなり用意してある。ちゃんと痛めつける制圧なら神通さんと子日に任せるつもりだったからね。ただ動きを止めるだけなら任せてほしい」

 

 傷付けない制圧ならば響の十八番と言わんばかりである。だが実際、この響は自衛用の兵装は持っているようだが、無力な者であってもしっかり無抵抗にさせる手段があるらしい。

 

「出洲についている整備士の情報はここで渡します。それら以外は……」

「全員無傷で。少し咳き込むくらいはするかもですけれどね」

 

 ここから、工廠制圧の作戦が始まる。

 

 

 

 

 襟帆提督から情報を貰い、また『迷彩』を使って移動、工廠へと向かう。夕張も手伝えないかと言われたものの、それこそここで襟帆提督から離れるのは何があるかわからない。護衛として、最後まで近くにいてほしいと伝え、神通達は作戦を実行する。

 

「一番厄介なのは、何も知らずにこの鎮守府を守ろうとする妖精さんでしょう。妖精さんにも罪はありません。ですが、自分の場所を攻撃されれば、事情関係無しに抵抗するのは当然のこと。だからといって、妖精さんを全員拘束することは難しいです」

「じゃあ、どうするの?」

「制圧……いえ、()()は妖精さんからです。響さん、工廠落とし、一手目は何をするつもりですか」

「やれるなら1人ずつ誘き寄せて話をするんだけれど、それが難しいからね。煙幕で目潰しして、そこから1人ずつ拘束くらいのつもりだったよ。結束バンドは常備してるし、工廠くらいの広さなら、煙幕で全部包み込むことは出来たからね。ただ」

 

 響は少し考える。

 

「いきなり煙幕は混乱を招くだけだね。武装してるような整備士が、慌てて周囲を撃つなんてこともあり得る。本来ならそれでも良かったかもしれないけど、今回は傷付けることがよろしくない。それに、妖精さんが煙幕の対処をしてしまうだろう。そこも考えると、うん、子日に手伝ってもらおう」

「えっ、子日?」

「君は都合のいい力を持っている。君と諜報妖精さんに、妖精さんを隠れて説得してもらう。制圧のための下拵えだよ」

 

 妖精さんがそこにいるというだけで、抵抗する力は段違いに高くなる。それがよろしくない。なので、最も厄介なところを先んじて制圧する。

 妖精さんにも悪事に加担している自覚があり、その上で出洲についているとかならば、割と容赦無く行くのだろうが、今回のここの妖精さんは全員が全員、何も知らずにここで働いているだけの、純粋無垢な存在。攻撃なんて以ての外。

 

「いいかい、私達は見つからない場所に隠れておく。子日が『迷彩』で妖精さんに近付き、1人捕まえる。そして、諜報妖精さんに説得してもらう。多少の嘘は交ぜてもいいけど、起こらないことは語らないこと。話術に関しては諜報妖精さん任せでいいよ」

 

 神通についていた諜報妖精さんが、子日の方に飛び乗る。まずは腕の上に乗って、サムズアップ。よろしくなと挨拶をしているようで、子日もご丁寧にどうもと頭を下げた。そして、肩にまで登っていつでも行けると頷いた。

 

 ここで妖精さんの特性が有効的に扱える。妖精さんからの声は、人間には聞こえない。どれだけ騒がしくしていても、誰も何もわからない。見えなければジェスチャーも意味がないのだ。

 妖精さんは秘密裏に拉致することが容易な存在と言える。何せ、悲鳴を上げたところで、それを知ることが出来るのは同じ妖精さんだけなのだから。

 

「つまり、子日が妖精さんの後ろにこっそり近付いて、さっと捕まえたところに、諜報妖精さんが説得する、ということでいい?」

「ああ、それだけだ。でも、妖精さんの声は妖精さんには聞こえる。その辺りは」

「『迷彩』の出力を上げれば、外に音が漏れないから大丈夫。地下にいた集積地みたいに意識から外れることは出来ないけど、ある程度は隠せるから」

 

 地下施設の一部の阿手が持っていた『隠遁』は、短い時間だが完全に意識の外に行ける力だった。目の前で使われても、完全に意識から外れるし、音など関係ない。何をしたところで絶対にバレない。

 しかし『迷彩』はそうではない。出力を上げれば、自分がやっていることを全てバレないように出来るが、最初から意識されていたら違和感しか残らない。

 その辺りの差異はちゃんと理解して、子日はまず1人拉致してその場で説得する方針で行く。

 

 

 

 

 工廠に到着するが、そこは先程通過した時から何も変わっていない。海に目を向けて警戒しながら、いつでも抵抗出来るように構えている。緊迫した状況。

 だが今はそこに注目はしていない。見ているのは、周囲を動き回る妖精さんである。整備の手伝いをしているということもあり、兵装のところに向かっては、何かしら触って調整して、完了したら次の兵装への繰り返し。休憩などをすることなく、慌ただしく動き回っていた。

 

「ここからは子日さんが別行動になります。私は諜報妖精さんと通信が出来ますので、何かあったら連絡を。姿を見せるわけにはいかないので、私達は別室に行きましょう」

「子日、頼んだよ。割と君にかかっている。妖精さんさえ制圧してくれれば、あとは私達が全て何とかするから」

「うわぁ責任重大だぁ……でもやるよ。それじゃあ、『迷彩』の外に出るなら、この部屋がいいかな」

 

 工廠手前の空き部屋に入ってもらい、『迷彩』の外に出てもらった。ここからは調査隊の3人は身を隠すことが出来ない状態。監視カメラなどもないことを確認しているが、余計な動きは不審感を齎す。静かにそこに留まる。

 子日はさらに出力を上げて、内側で喋ったところで調査隊の面々には何も聞こえない状態を作り出した。完全な『迷彩』。そこにいるとわかっていなければ、全ての視覚情報を欺く。

 

 そして、神通に通信が入る。モールス信号での会話は、諜報妖精さんのモノ。

 

『これからむかう。きたいしていてくれ』

「はい、よろしくお願いしますね」

 

 子日の声は聞こえずとも、諜報妖精さんの声はこういうカタチに聞こえる。故に心強い。

 

 子日がここから離れていっていることもわからないが、諜報妖精さんが実況するように報告してくれるため、状況把握はかなりしやすかった。

 

 

 

 

 姿を消した状態で工廠に入った子日は、これまでにない緊張感を持っていた。妖精さんを捕まえて尋問するようなモノ。そんなこと、これまでの戦いでやったこともない。

 そんな子日の肩の上、諜報妖精さんが大丈夫だと言わんばかりにサムズアップ。

 

「なんか安心出来るね、君は」

 

 子日も笑顔で返して、工廠の中で最も隙がありそうな妖精さんを探す。

 

 すると、兵装の手入れをするために駆け回っている中に1人、少し休憩しようと考えているのか、壁際にもたれかかって座っている妖精さんを発見した。疲れているのかどうかは見てはわからなかったが、大きく息を吐き、工廠を眺めながら英気を養っているようにも見える。

 妖精さんだって休憩くらいはする。ずっと仕事ばかりでは、パフォーマンスが落ちてしまう。そういうところは人間と変わらない。

 

「あの人から?」

 

 子日の問いかけに、諜報妖精さんは小さく頷く。周りに誰もいないならば、こっそり『迷彩』の範囲内に入れても、違和感はないだろう。

 

 子日はゆっくりと近付き、そして範囲に入る直前でダッシュ。妖精さんには、いきなりその艦娘が現れたようにしか見えず、人間には聞こえない声でギャアと叫んだ。その叫び声は、『迷彩』の範囲内のため、外部に漏れることすらなかった。

 そして、すぐさま逃げようとするのだが、すぐに諜報妖精さんが声をかける。その妖精さんにとっては、諜報妖精さんはこの工廠で一番の新人であり、共に仕事をしたこともある仲間。そんな仲間が一緒にいる艦娘なのだから、いきなり現れたこと以外は信用出来るのかもしれないと、逃げるのを一旦やめる。

 

 そこからは交渉の時間だ。子日には何をしているのかちんぷんかんぷんだが、諜報妖精さんが肩から降りて、その妖精さんに詳しい事情を話しているように見えた。正確なことを伝えているのか、それとも嘘を交えていい感じに動いてもらえるようにしているのか、子日にはそれがわからない。

 妖精さんの表情が一喜一憂する。驚きも隠さない、大袈裟なリアクション。だが、ショックを受けているような仕草はあまり見当たらない。頷いたり、考える仕草をしたり。

 

「どう、かな」

 

 堪らず子日は少しだけ口を挟む。諜報妖精さんは、そんな子日を心配させまいと、行けてるぞとサムズアップを見せる。なら心配いらないかと、その説得を待つしかなかった。

 

 

 

 

 そして──

 

 説得に応じた妖精さんは、小さく頷いた。

 

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