後始末屋の特異点   作:緋寺

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潜みながらの説得

 襟帆鎮守府の工廠制圧のため、まずは妖精さんをこちら側に引き込む方針で始まる作戦。子日が『迷彩』で接近し、諜報妖精さんが説得するというカタチで進めたところ、まず1人目を仲間にすることに成功した。

 諜報妖精さんがどのようなことを話したのかはわからない。だが、納得してもらえたのならばヨシと、次の妖精さんを説得しにかかる。

 

「子日達の動きは誰にも見えないように出来てるけど、じっと見られてたら突然見えなくなったりするから、そこは慎重にね」

 

 勿論だと諜報妖精さんも頷くが、まず説得に応じてくれた妖精さんは、だったら自分が他の妖精さんに話すなり呼んでくるなりすると言わんばかりに行動を開始する。

 この妖精さんは休憩中だったこともあり、持ち場に戻るという体裁で工廠内を歩き回ることが出来る。『迷彩』の範囲内から外に出てしまうと、そのまま子日達を視認出来なくなってしまうのだが、そこは諜報妖精さんの案として、この妖精さんについていくことでカバー。付かず離れずの位置で、周りには違和感なく、深部に入っていく。

 

 妖精さんの後ろをついていくと、少しだけ奥まったところに。そこには各種予備兵装が置かれていた。襟帆整備士のように、鎮守府の裏側で整備しなくてはならない深海棲艦の技術が入ったカテゴリーKのためのそれではなく、カテゴリーCのための兵装。表向きにしても問題ないモノである。当たり前だが、そちらの整備だって必要。

 

「ここにみんな集まってるのかな」

 

 子日の問いに、諜報妖精さんが頷く。短い間ではあるが、この鎮守府で活動していたこともあり、内情は把握している。今のこの状況ならば、カテゴリーKの艤装の整備が終われば、カテゴリーCの艤装を整備するのが流れ。優先順位がカテゴリーK側にあるのは、どうしても戦略として強いからというのが入ってきてしまうのだが、あちらは壊れやすいというのもあるから。

 無理して深海棲艦の技術を組み込んでいるから、変に繊細で、整備士にも多大な負担をかけている。とはいえ、その献身的な整備によって万全な状態で戦えるようにはなっているのだが。

 

 最初の妖精さんが向かったところは、工廠で待機している整備士などの目からも少し外れた、妖精さん専用の溜まり場のようなところ。別に何かがあるわけでもなく、複数人の妖精さんが屯しているだけ。整備中に少しだけ休むとかに使うような場所である。

 

「あ、いたいた。まだここだと『迷彩』解除出来ないかな」

 

 子日が周囲を見回すと、やはり一部の整備士達の姿が見えてしまう。今はこちらを向いていないにしても、ここで『迷彩』を解除したら、その姿は視認されてしまうだろう。しばらくは透明なままでいる必要がある。整備士がこちらに来た時にはすぐに別の場所に行けるように、動線だけは確保して。

 

 妖精さんが仲間達に声をかけているようだが、それがどんな言葉かはわからない。『迷彩』が無くても、何を話しているのかわからない。妖精さんの特徴であり特性。人間との意思疎通がジェスチャーしかない。だが代わりに、今のように妖精さんのみの密会をした場合に、人間達には絶対にバレないというメリットとデメリットどちらとも捉えられることがある。

 

「ん、まだ誰もこっち来てないよ。目も向いてない」

 

 子日が逐一周囲の状況は教えている。妖精さんよりも大きく、高いところまで見られる目で、ここでやらねばならないことを確実に進めていく。

 

 諜報妖精さんもここからは出番だということで、子日から離れる。子日からしてみればただ普通に妖精さん達の方への向かっただけなのだが、あちらから見れば、何もないところからヌッと出てきたようにも見える。屯していた妖精さん達は、諜報妖精さんが突然現れたことで、聞こえない大声を上げて驚いていた。

 

「あはは……ごめんね、驚かせちゃった」

 

 子日は苦笑しつつも、周辺警戒を怠らない。ここからしばらくは妖精さんに任せ切ることになるのだから。

 

 屯していた妖精さんへの説明は、諜報妖精さんだけでなく、最初に説得に応じてくれた妖精さんも加わってくれていた。

 話しているのは、この鎮守府の全容。今襲撃を受けているのは、実はこちらの鎮守府から喧嘩を売ったようなモノだから。しかし、提督はそれを本当にしたいわけではなく、訳あって敵側につかざるを得なくなっているから。いわゆるスパイみたいなモノだ、と。

 その話を聞いていくうちに、妖精さん達は変に盛り上がり始める。自分達がいいように使われていたというところよりも、今から本当の敵を出し抜く方が()()()とでも感じているのか。この運用をしている提督に対しても悪感情があるわけでもなく、まずはそうなのかと頷き、今後のやり方にも賛成する。

 

 妖精さんが納得するのは非常に簡単なことでもあった。それは、鎮守府が目指す平和ではなく、出洲が目指す平和を隠し事無しで語ったから。

 妖精さんはこうして仕事をしているが、それはそれが楽しいからやっているに過ぎない。しかし、出洲が目指す平和は完全な管理社会。妖精さんが思っている楽しいことも、出洲の前では不要なモノ、むしろ争いを呼び込むモノとして扱われる可能性がある。そうなると、人間だけでなく妖精さんすら管理してしまうだろう。

 人間の命を奪うことに躊躇いがない者が、妖精さんをぞんざいに扱うことに抵抗があるわけがない。それこそ、今は利用するだけして、不要となったら捨てる。

 

 何処までが真実かは諜報妖精さんもわからない。実際は妖精さんのことは人間のように管理しないかもしれない。しかし、少なくとも自由意志を奪うことを目的としているのなら、妖精さんが楽しいと思うことを人間が出来なくなり、自然と妖精さんも楽しくなくなるだろう。

 

「っ……誰か来る……。ごめん、諜報妖精さん、子日は少し離れるよ」

 

 妖精さん達の方に整備士の誰かが来るのが見えたため、子日は一旦そこから離れる。それと入れ違いになるようにやってきた整備士は、既に貰っている出洲シンパのリストには含まれていない整備士。

 少しホッとしながらも、子日は『迷彩』の力を少しだけ強くして、絶対に自分がそこにいることをバレないように仕掛けた。

 

「妖精さん、大丈夫?」

 

 優しく声をかける整備士に、諜報妖精さん含む複数の妖精さん達が大丈夫だと揃ってサムズアップ。

 

「ちょっと今は大変だと思うけど、我慢しててね。怖いようなら、今だけは仕事をほっぽり出して逃げてくれてもいいから」

 

 この整備士は良い人だと、息を潜めた子日は確信した。あの班長と同じタイプ。裏を何も知らないから、何故こうして襲撃を受けているのか理解が出来ず、しかし自分達では何も出来ないため、ただここの艦娘達がどうにかしてくれるのを期待して待つしか無い。やれることは、怪我をしたり艤装が故障したりした時に、すぐに対処出来るようにすることくらい。

 

「おーい、そっちは大丈夫か?」

「はい、妖精さん達が少し集まっていただけです。怖いとかでは無いみたいですよ。単純に休憩中っぽいです」

「まぁ妖精さんは気まぐれなところもあるからな、自由にやらしときゃいいさ」

 

 その整備士に話しかけている先輩のように見える整備士も、出洲シンパのリストには入っていない。妖精さんの特性をちゃんと理解して、自由にやらせることが最大のパフォーマンスを発揮することもわかっているが故に、こうして今は作業せずにいる者がいても、そうさせておいてあげればいいと苦笑しながら放置する。

 

「……優しい人も多くいるのになぁ」

 

 襟帆整備士や班長も含めて、人間側にも何も問題ない者は沢山いる。それを間近で見て、子日はやはりここの整備士達も救いたいと改めて決意する。

 

 一部を除いて、だが。

 

 明らかに数人、この妖精さんの動きに対して、何サボってるんだと言わんばかりの目を向ける者がいた。それは、出洲シンパのリストに含まれている者。

 今ここでこの戦いに敗北した場合、自分の身が危ないと、保身のことばかりを考えてそうな表情。うみどり側を、特異点を絶対に潰すという意志が見え隠れしており、自分では何もしていないのに、妖精さんが何もしないのは気に入らない。勝つために利用している妖精さんにボイコットされたら、自分がどうなるかわからないからだろう。

 

 この戦いの中、ハラハラはしても、イライラはしない。そういう感情を持つのは、出洲シンパの者だけ。

 

「わかりやす……まぁ、そっちは後からね」

 

 妖精さんはそんな出洲シンパの態度には気付いていないのだが、客観的に見える子日は、それには呆れるしかなかった。この戦いの重要性を歪んで理解しているからこそ、妖精さんに対してもそんな態度が取れるのだと。

 なので、後から本格的な制圧をする際に、少し痛い目を見てもらおうと心の中で決める。死ぬほどの痛い目ではないが。

 

 整備士達が妖精さん達から離れると、子日はもう一度同じ位置に移動。すると、諜報妖精さんがすっと『迷彩』の範囲に入ってくる。あちらから見れば、目の前で姿が消えたようなモノ。ワアと驚き、自分もと次々中に入ってくる。そこにいる子日の姿を見てまた驚き、諜報妖精さんの説得に納得しているからか、よろしくと表すように手を振ったり拳を突き上げたり。

 

「ありがとうね、みんな。ちゃんとみんな自由にするからね」

 

 子日も、そんな妖精さん達に報いようと、笑顔で拳を突き出した。

 

 

 

 

 妖精さんの説得は次々と進んでいく。それさえ終われば、工廠の制圧が始まることだろう。

 

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