子日と諜報妖精さんによる、襟帆鎮守府の妖精さんの説得は、滞りなく進んでいく。妖精さんが妖精さんを呼び、その妖精さんがさらに妖精さんを呼び、と連鎖していくことで、迅速に引き込まれていった。
妖精さんのやりたいこと、楽しいことが、この先には無い。自由をモットーにしているような妖精さんに対して、完全な管理社会なんて息苦しいなんてモノでは無い。ひたすらつまらない世界。そんな世界を求めるわけもなく、自由で楽しい世界の維持のために力を貸してくれる。
襟帆鎮守府が今のままなら、妖精さんはまだ楽しんでいただろう。しかし、この戦いの後から変化していくのは火を見るより明らか。ならば、今の段階から自分たちのために動いてもおかしくない。
妖精さんは、いい意味でも悪い意味でも、自分達の『楽しい』が正義なのである。
「ここにいる妖精さん全員に行き渡った?」
諜報妖精さんがニヤリと笑みを浮かべてサムズアップ。妖精さんの連鎖のおかげで、かなり早い段階で鎮守府内に住まう妖精さんにこちらの伝えたい事実が行き渡り、その思想というより、これからの未来をこのままでいるよりうみどり側についた方がいいと考えさせた。
今は違和感がないように作業に戻っている。作業自体は楽しいから。だが、この工廠で何が起きたとしても、うみどり側の行動を邪魔することはない。手伝うこともないので、徹底した不干渉を貫くこととなった。
妖精さんとて危ないことはしたくない。危ないことは楽しいことでは無いのだから。自分達の身を守るためなら徹底的に抵抗するだろうが、今ならば安全なので、戦いに関与しないというのが一番妖精さんらしい行動。
「じゃあ、一度みんなのところに戻る?」
子日の問いに諜報妖精さんは頷いた。既に通信で神通に現状を報告しているが、準備が出来たのならば一旦合流するのが妥当。制圧をするにしても、このまま続けてというのは手がかかる。
「それじゃあみんな、これからここを自由にするからね」
まだ近くにいた妖精さん達、『迷彩』の範囲内に入っている者達に声をかけると、よろしくと言わんばかりに手を振ったり跳ねたりしていた。
妖精さんの後押し、邪魔をされないという確証があるというだけでも心強かった。
一旦工廠を出て、調査隊と合流。迅速に事が終えられた事を喜びつつ、ここから次の策に出る。
「妖精さんからの横槍は入らなくなったね。ここでの戦いが妖精さん達の自由に繋がるとわかってもらえたようで何よりだ」
「だね。ここで子日達が負けたら、この戦いがもっと酷い方向に行っちゃうだろうし」
「それに、妖精さん達は話を聞いて理解したと思う。ここでこのまま働いていたら、確実に楽しくなくなるとね」
求めているモノが無くなるのなら、それに抗う。当然な事だが、今回の戦いは、抗った結果がより自由が無くなるという。それはいくら妖精さんとて許せないことであろう。
「それでは、ここから第二段階に入ります。整備士達、人間の制圧です」
神通が話すと、全員が頷いた。妖精さんが押さえられたら、次は人間。艦娘を止めるための武装もしているようなので、そこは注意して。そして、
数多くいる何も知らない整備士達は、絶対に傷付けない。痛みすら与えず制圧したい。なので、痛い目を見てもらうのは、リストアップされた出洲シンパ。十数人いる整備士の中で、出洲シンパは4人。それさえどうにかしてしまえば、あとは話し合いで解決しに行ける。
「出洲シンパは全員バラバラに行動していたかい?」
「そうだね。1箇所に集まってるようなことは無かった。アレかな、他の整備士さん達を逃さないようにするためかな」
「真相を知って反発されないようにしているとは思います。どちらかといえば、妖精さんの監視くらいじゃないですかね。妖精さんは縛れないので、余計なことをされると困るのでしょう」
それでも全妖精さんにこちらの意思が伝えられたのは、妖精さんの言葉が人間には聞こえないことと、出洲シンパの連中が妖精さんに対して理解を深めようとしていないから。
結局のところ、出洲シンパは仲間では無い者達のことを見下している節があるのだ。自分達は出洲の仲間、未来の平和のために行動している
カテゴリーKよりもタチが悪い。人間であり、頭の中を弄られていないのにもかかわらず、傲慢な考えで行動出来るのが理解出来ない。
態度に出しているのかどうかは定かでは無いが、少なくともこの鎮守府では普通に働けているのだから、演技くらいはしていそうである。その化けの皮も、今から剥がされることになるのだろうが。
「纏まっていてくれれば、子日の力で近付いて一網打尽だったんだけどね」
「だねぇ。こっそり近付いて後ろから縛るくらいは出来るけど、1人にやってる間に他のに気付かれちゃう」
「隠れて潜んで1人やれたとしても、子日さんの範囲から外れた時点でバレてしまうでしょうね。なら、最悪正面突破になります」
白雪が正面突破と言い出したので、響がクスリと笑みを溢す。少し攻撃的じゃないかと。白雪もその案が出たのは強引すぎるかなと思っていたようだが、しかし迅速に全員を押さえるなら、強行策も目を背けていられないとして言葉にしたようである。
「4人いるんですよね。ならちょうど1人に1人です。子日さんは姿を隠して1人は行けますが、それがきっかけになって制圧戦が始まることでしょう」
「うん、子日もそう思う。どうする?」
「1人はそれでやってもらいます。その1人に喧しく騒いでもらいましょう。そうすれば、工廠は一気に警戒態勢に入ります。何処から入ってきたとか、何処にいるんだとか、工廠は大騒ぎです。そこで、目を盗んで残り3人を制圧する。4人制圧したら、そこからは交渉です」
結果的にはほぼ正面突破。バラバラにいて、1人に触れた時点で騒ぎ立てるのなら、もうそれを利用するしかない。気絶させるにも、艦娘のパワーで程よく痛めつけるのは至難の業。
子日も1人をどうやって拘束しようかと考える程である。相手が同じ艦娘なら、全力で殴り飛ばすでいいのだが、人間にそんなことをしたら、痛いじゃ済まない。致命傷はほぼ確定。悪いと即死である。
「幸い、無傷で制圧するための小道具は私が多めに持ってきている。子日にもいくつか預けるよ」
そう言って渡したのは、冗談みたいな道具。手足を拘束するための結束バンドはまだいい。指同士を繋ぐことで動けなくするため。小型であるため携行もしやすい。だが、それ以外である。鼻眼鏡を持ち歩いている響の、相手の尊厳を奪うことを目的としたグッズが光った。
「これ……なんだっけ、あれだよね、猿轡」
「そう、それみたいなモノさ。これのボールの部分を口に噛ませて装着させてやればいい。呻き声が五月蝿いかもしれないけど、人間の言葉は話せなくなる」
「すっと出来るかな……やってみるけど。縄か何かない?」
「それは妖精さんに借りるといい。私達は隠れていけないから直接拘束しにいくけど、子日は隠れられるから、背後から縛るのが一番手っ取り早いね」
最初は『迷彩』を使って行動。妖精さんに多少なり協力してもらい、拘束のためのアイテムを借り受け、そのまま1人を拘束。『迷彩』の範囲から離れた時点でそれがバレるので、そこからは電撃戦。残りの3人を拘束する。
出洲シンパではない整備士達も妨害はしてくるだろうが、それには反撃しない。そこは徹底する。あくまでも出洲のことを知り、この戦いの行末を読める者のみを対象とする。
「ああ、そうだ。あと少し
「子日が手伝えること?」
「ああ、念の為、君の力で姿を隠した状態で移動したい。この部屋にいる間も、あちらにはバレていないけれど、移動するとなると話が変わるからね」
「ん、オッケー。何処に行くの?」
「執務室さ。作戦の内容も決まったようなモノだし、ここの司令官にちゃんと話を通しておきたいだけだよ。そんなに時間もかからないし、それに追加で話したいことも出来たし」
響の少し悪い笑み。神通や白雪が呆れたように笑うが、子日にはちんぷんかんぷんだった。
「この鎮守府での戦いは佳境に入るでしょう。皆さん、安全に、確実に、ここの制圧を始めましょう」
神通の締めの言葉に、全員静かに頷いて、作戦を開始する。この場、工廠を押さえることが出来れば、燃費の悪いカテゴリーKへの補給線も完全に断つことが出来るため、勝利は目の前となるだろう。