後始末屋の特異点   作:緋寺

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真実を知る

工廠制圧戦も佳境。4人いる出洲シンパの整備士を2人、『迷彩』で姿を消しながら拘束をし、何も知らない整備士達の説得を試みている。

神通と白雪は、さながら現代アートのように拘束された1人の整備士の横を抜け、整備士の班長と対話していた。あちらは警戒心がMAXであり、携えていたテーザーガンも取り出して構えている。だが、神通も白雪も攻撃の意思は全く見せない。傷付けることはしないと、主砲もそこに置くほど。

 

神通は徒手空拳でも余裕で制圧出来るため、実際は何の気休めにもなっていないのだが、何も知らない者からすれば、安全の確保には見える。

 

「皆さんは、我々がこうして攻撃を仕掛けている理由を理解しておられないと思います。なので、この攻撃も正当防衛だと感じているはずです」

「そ、そりゃあなぁ。俺達は普通に鎮守府で働いてただけだ。攻撃される謂れもないと思ってる」

「ですが、こちらにはあるんです。貴方達には何も恨みはありません。むしろ、貴方達はいいように利用されているに過ぎないんです」

 

神通の言葉に、班長は構えていたテーザーガンを下ろす。可能なら話し合いで解決したいものと言っていただけあり、神通の言い分は聞こうという気持ちがあるようだ。

他の何も知らない整備士達も、これには少し騒つく。いいように利用されていると言われても、思い当たる節がない。ただ鎮守府運営に協力し、平和のために戦う艦娘達をサポートしているだけ。何処の鎮守府でも、こういう人材はいるだろうと思っていた。だが、使われ方が他と違うとは夢にも思っていない。

 

「皆さんは、こちらに一度命を落として蘇ったことで艦娘となった者達がいることはご存知ですか? 我々はカテゴリーKと呼んでいます」

「……ああ、そりゃあな。詳しいことは聞かないようにしてるが、ここで戦ってもらうにあたって、運用のルールがあるんだ。俺達だってそれは聞いておかないといけない。ブロックワードとかあるしな」

「では、その出処はご存知ですか?」

「出処……?」

 

出洲のことは知らなくても、カテゴリーKのことは知っている。突然の暴走がないようにブロックワードを教えられる際に、それが必要な理由も簡単に伝わっていた。そうでなければ納得出来ない部分もあるだろう。

また、それを知っているからこそ、艦娘の技術は凄まじいと実感させられている。非業の死を遂げた者を蘇らせることが出来るだなんて、恐ろしくも優しい技術だと。整備士一同、ほぼ全員が同じ意見だった。裏を何も知らないから。

 

問題はその出処である。他の鎮守府のことを知らないのならば、何処の鎮守府にもそういう者がいるのではと思うだろう。しかし、実際は違う。カテゴリーKはこの襟帆鎮守府にしかいない。

 

「それは、たった1人の技術者が作り上げたモノです。実際は他にも協力者がいますが、大元は、そして今残っているのは、その1人だけになります。その者が、カテゴリーKを使って……特異点を一方的に攻撃しようとしています。いや、現在進行形でしています」

「は……? まるで意味がわからんぞ」

「ですよね。でも、事実なんです。その技術者、出洲は、我々の敵である深海棲艦をも取り込んで、完全な管理社会を作ろうとしているんです。この鎮守府は、その尖兵にさせられています」

 

騒めきが大きくなる。それを止めることなく、神通は続ける。

 

「特異点のことは何処までご存知ですか?」

「普通の艦娘とは少しズレた存在とは聞いている。俺達が知ってるのはそれくらいだ」

「そうですか、ではその特異点がどういう者かを知ってもらいます。彼女は、ただひたすらこの海の平和を願うだけの艦娘です。純粋な、願いの結晶です」

 

純粋な艦娘と聞いたら、それは今や人間を襲ってくる敵である。カテゴリーMと同等に考えるなら、この攻撃にも説明がついてしまうのだが、神通はさらに続ける。

 

「特異点は今の時代の純粋な艦娘、人類に敵対する存在とは違う。人類のために、未来のために、後始末屋という立場を誇りに思い、日夜この海を綺麗にするために働いています。誰とも戦おうと考えていなかった。ただ、戦いが無くなりますようにと願いながら、後始末を嫌な顔せずにずっとしています」

「後始末屋……って、俺は詳しいことは知らないが、アレだよな、戦いの後にその現場を片付けてくれる組織だよな」

「はい。特異点はたまたまその組織に拾われ、そこの在り方に共感し、人が避けるような作業も喜んでやっています。護身のために戦い方は学んでいましたが、そこまでです。基本は後始末、清掃業者と同じです」

 

この鎮守府は後始末屋に関してもそこまで詳しく把握しているわけではないようだが、艦娘ならまだしも、整備士達ならそれも当然なのかもしれない。戦いの後の話は、そこに出て行った艦娘達の艤装や兵装の整備がメイン。現場のことは頭に入ってこない。

 

「ですが、先程語った技術者、出洲は、その特異点のことを人類を堕落させる、生きているだけで罪な存在と断じており、何もしていないのに攻撃を仕掛けています。時には自ら、時には手駒を使って。その手駒が暴走して、鎮守府を裏切って暗躍していたわけですが」

「そういや、前に裏切り者の鎮守府がいくつかあったって事件になったな。アレのことか」

「はい、その通りです。こちらも出撃を命じられたと思います。位置的には、やろうとしても間に合わなかった、くらいになっていたでしょうが」

 

整備士の班長は、少し考えるような素振り。あの時は他の鎮守府が頑張ってくれたおかげで、この鎮守府から出撃することは無かった、出来なかったのだが、襟帆提督も含めて、どうにかしたいとは考えていた。わざと出撃しなかったわけではない。距離的に本当に間に合わなかっただけ。

 

「その裏切り者の出処は、この鎮守府に所属しているカテゴリーKと同じです。派閥が違っただけで、やっていることは同じ。つまり、この鎮守府も、公然ではないですが裏切り者と同じなんですよ」

 

騒めきが格段に大きくなるが、それを班長が鎮める。この話はちゃんと聞かなくちゃいけないと。

 

「俺達は何も知らなかった。でも、俺達がやってることが裏切りになるってのかい」

「間接的には。カテゴリーKへの助力は、出洲への助力となります。そして彼の思想は、特異点を始末し、この世界を平和にすること。その平和とは、全てを自分の手中に収め、管理し、争いのない世界を強制的に作ることです。そのためには、文化すらも人類から奪い取ると宣言したそうですよ」

 

騒めきに、怒りの色が見え始める。神通の話していることが本当ならば、何も知らないことをいいことに、好き勝手に使われていたようなもの。今この戦いも、一方的に攻撃されていた特異点が反撃に出ていると言われても文句が言えない。

 

だが、それを本当に信じられるのか。それこそ、特異点側が実は悪であり、こちらからの攻撃が正当であるという可能性もある。そう班長は考える。

そもそも、どうやってかわからない、得体の知れない手段でいつの間にか鎮守府に潜入しており、既に2人が知らず知らずのうちに拘束されているような状況だ。そんなことをされて、全て信じろという方が難しい。

 

「アンタが話すそれは、本当に全部真実なのか。俺達は、今はいきなり攻撃されたとしか思えない。確かにそれが真実だとしたら、辻褄は合うんだろうよ。だがな……」

「突拍子もないことを言っているのは、我々も自覚しています。それに、普通ではない力を行使してこうやってこの鎮守府に忍び込んだことも否定出来ません。それは、ここまでの時系列を全て把握していないと説明がつかないでしょう」

 

自分達の発言を押し付けるようなことをしない神通に、信用度は若干上がる。

 

「ですが、信じてもらう他ありません。私達は貴方達を傷付ける理由がありませんから。一部を除いて」

 

こうやって話しているうちに、3人目と4人目が前衛芸術となっていた。響が子日の力を借りてこっそりと近付き、誰にも気付かれないように拘束、しっかりズボンを脱がせて脚を縛り、1人はその脚に腕も縛られている状態、もう1人はあえて右腕と右脚、左腕と左脚を纏められて大股開きにされている状態で『迷彩』の範囲から放り出されている。

 

「我々が拘束した者達には共通点があります。整備士としてこの鎮守府にいながら、貴方達のように何も知らずに使われていたわけでもない。全て知っていて、その上で利用していた、出洲シンパの者です」

 

拘束された4人を睨みつける班長。言い訳をしたくても、ボールギャグを噛まされているため、まともな言葉は紡げない。

 

「……その証拠はあるのか?」

「はい。何故なら、この者達がそれだと教えてくれたのはーー」

 

神通の視線が外、工廠から執務室へと続く扉の方へと向いた。班長達もそちらに目を向ける。

 

 

 

 

「私が彼女達に伝えたからです」

 

そこには、襟帆提督と夕張が立っていた。

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