電の一撃により、黒の特異点の補助装置としての力が断ち切られかけている雷。それに気付いた黒深雪は、深雪との戦いを捨ててまで雷の元へと駆けつけようと動き出した。
この期に及んでも雷を最優先にしたことは、黒深雪が完全に堕ち切っていないことの証明だと判断した。今一番優先すべきものが、平和でもなく、深雪との決着でもなく、雷との絆であること。それはかなり大きなモノ。
深雪は少しだけ見直したが、しかし合流させるのは厄介なことになる。これまでは1対1を続けていたから、まだどうとでもなっていた。勝ち目だって充分にあった。しかし、合流されたら途端に未知数になる。当然、深雪も電と合流することが出来るという利点があるのだが。
「くそ、アイツの方がちょっと速いか……っ」
深雪は願う。『黒深雪がこれ以上の蛮行を重ねないこと』を。優しい願いは、それを叶えるための力を深雪に与える。特異点としての
だが、命を燃やして動き続けている黒深雪の方が若干スピードが出ていた。脇目も振らず一直線。深雪のことすら今は見ておらず、雷に何がなんでも近付こうと、全ての力を使っているかのよう。あちらも深雪が攻撃してこないとは思っていないだろうが、それどころじゃないと言わんばかりである。
深雪に艦載機があれば邪魔をしていただろうが、それはないモノねだり。主砲を放つと、もし当たった時に命を奪うことになる。それもよろしくない。
どうしても、黒深雪に残された良心に期待したかった。それで馬鹿を見る可能性もあるのだが、だとしても、本当に堕ち切っていないかを知りたかった。それはそうとして撃破は急務なのだが。
「雷! 何があった!」
深雪が無意識に躊躇いを見せてしまった間に、黒深雪は猛烈な勢いで雷へと接近した黒深雪は、電を睨みつけながら雷を抱き締める。そして、黒い特異点の煙幕が阻害されていることを把握し、より強く怒りを見せた。
「テメェ……何をしやがった」
「反撃を。何か問題でもあるのですか?」
相手が深雪の顔をしていようが、優しさを捨てた電の前では関係なかった。攻撃されたのだから反撃をした。殺されそうになったけれど、生かして攻撃出来ないようにしただけ。
「電、大丈夫か」
「はい、大丈夫なのです。雷ちゃんを無力化しようとしたのですけど……」
「悪い、いきなりこっちに来られたから、追いつけなかった」
「深雪ちゃんのせいじゃないのです」
深雪も電と合流。雷相手に非情となった電に少しだけ驚きつつも、これまでやられてきたことを考えれば、電だってこうして怒りを見せることがあってもおかしくないと納得している。自分だって黒深雪に腹を立てて、苛立ちを隠さずに接していたのだから。
だが、雷に何をしたのかを見たら流石に驚きを表に出した。黒深雪が焦って飛び出したのもわからなくもない。雷に纏わり付いた白い煙幕が何を意味しているのか、深雪には手に取るようにわかった。
「……それが一番優しい方法か」
「電は、そう思ったのです。余計な力を持っているから、こうやって人の平和を踏み躙ることが出来るのです。だったら、電がそれを断ち切る。それだけなのです」
「命には触らない。ただ力を奪うだけだ。ああやって触れ合えるのなら、絆だって切れてねぇ」
深雪は納得の上で、黒深雪を見つめる。黒深雪は溢れ出る黒い煙幕により、電から放たれていた白い煙幕を雷から取り払おうと必死だ。特異点と補助装置という絆を断ち切るそれは、黒深雪にとっても激しい怒りを呼び覚ますモノである。
「アイツら……クソがっ! 雷、すぐにこんなもん無くしてやる!」
「深雪……ごめんなさい、私、深雪との繋がりが無くなっちゃう……」
「そんなことにはしねぇ! あたしにも、もう雷しかいないんだからな!」
黒い煙幕が雷に注がれると、その指先の黒ずみはより強くなる。白い煙幕により断ち切られようとしていた繋がりが、徐々に取り戻されようとしていた。細く細く道が失われていくところに、力を無理矢理注ぎ込むことで、かなり強引にこじ開ける。白い煙幕と同等の力を持つに至った黒い煙幕は、そこで拮抗を見せ、黒深雪が命を焚べることで余計に力が増した。
「……お前ら、また被害者ヅラか」
深雪から呆れたように呟かれ、黒深雪は目を見開いた。
「被害者
「言ったよな。あたし達はお前らから先にやられてるんだ。それをどうにかするために戦ってる。んで、反撃されたらそれかよ。逆の立場になった時、お前らどうするつもりだ」
ギュッと拳を握りしめて、深雪は黒深雪のその処置を妨害するために動き出す。
やっている間は意気揚々、やり返されたら被害者ヅラには、いい加減うんざりしているのだ。深雪達は何度も何度も言っている。何故自分達はやってよくて、こちらはやってはいけないのだと。
「ここは命を懸けて戦う場所なんだろ。こちらは自分達で勝手に縛りもつけてる。いくらお前らが気に入らなくても、クソみたいな言動をしても、あたし達は極力お前らを殺さない。生かして反省させる。なのに、お前は当たり前のように命を狙ってきて、死んで当たり前のようにあたし達を扱うよな。それが許されて、なんでこれが許されないんだ。説明してみろよ、別個体」
そもそも、2人がくっついているこの状況で、最高火力を誇る深雪の砲撃が飛んできていないのは有情なのだ。本来ならば2人重なっていたら一網打尽にされるのがオチ。それなのに、特異点が命の尊さを知っているから、ここで絶対に殺すという行為に行かない。
そもそも、死んでもらったら意味がないのだ。これまでの行いを反省する時間も無くなるのだから。そこは、深雪も電と同じ思いを持っていた。
この2人には、死んで逃げられたくない。これまでのことを思い直して、本当の世界を知ってもらいたい。
「うるせぇ! あたしにはもう、雷しか無ぇんだよ! それなのに、テメェら……!」
深雪の拳を避けるように、雷を抱き締めながら動き回る。雷側も避けやすいように身体を預け、推進力にサポートを入れていた。息があった動きではある。あるのだが、やはり何処か歪であることは変わらない。
雷との繋がりを無理矢理拡げたことで、黒深雪の黒ずんだ腕から変に黒い煙幕が漏れ出る。かなり身体に負担がかかっている。
「逆のことをあたしが言ったらどうすんだって聞いてんだよ。お前、関係ないって潰しに来るだろ」
「それがどうした!」
「そんな言葉が出る時点で、お前は狂ってるんだよ。そんなに雷が大切なら、戦場になんて出てくるんじゃねぇ!」
深雪のスピードが増す。この2人の蛮行を止めるため、特異点の優しい願いはさらに増す。
「深雪ちゃんの言う通りなのです。繋がりを失いたくないなら、なんでこっちを攻撃してくるのです。ここに来なければずっと仲良く出来ていたのに。軍港の時みたいに」
電も加勢を始めた。艦載機を改めて発艦し、深雪の死角をサポートしながら、逃げ道を塞いでいく。
「自分から痛い思いをして、それなのにこちらのせいにしてくるのは見当違いも甚だしいのです」
「おう、お前に限った話じゃねぇ。出洲の関係者全員同じだ。なんで自分からしゃしゃり出てきて、否定されたら被害者ヅラ出来んだよ。考えりゃわかるだろうが」
深雪の攻撃を紙一重で避け、電の艦載機は黒い煙幕で無理矢理いなす。その間に雷への繋がりの拡張も続け、雷からも深雪を求めるように力を内側から溢れさせる。
2人は次第に黒い煙幕に包まれていき、姿が見えなくなりつつあった。
「お前らにはわからないだろなんて言わせねぇぞ。わからないからやっていいなんて理屈無いんだからな」
「なのです。だから、文句を言われる筋合いは何処にも無いのです。それに、そんな態度で来られたら、わかりたくもなくなるのです」
深雪は電と手を繋ぎ、2人がかりで煙幕を放つ。2人を包み込む黒い煙幕を引き剥がすために。
本家の力は凄まじく、海中であってもその勢いは突風の如き力強さ。今でこそ利己的な願いを叶える特異点と成り果てているが、その勢いには拮抗を維持することも難しくなった。
「巫山戯るな、巫山戯るな……っ! あたしは、雷と平和な世界を……っ」
「深雪……私も、深雪と一緒に平和な世界に行きたい……っ」
「そのために周りに攻撃するんじゃねぇっつってんだよ! 何でお前らはそれがわからねぇんだ!」
あまりにも悲劇のヒロインを演じているため、深雪も電もひたすら苛立ちが強くなる一方だった。軍港で顔を合わせた時とも、島でメッセンジャーとして現れた時とも、特異点Wで再会した時とも違う、ただひたすら自分の意見を押し通すために駄々を捏ねているだけの子供。
黒深雪も雷も、子供の頃に命を奪われ、今の姿に蘇生されている。つまり、
故に、蓋を開けてみれば子供のように我儘。話が通じるようで通じない。身体は成長しているが、頭の中は成長というより、ただ適応しただけ。
「お前らは阿手よりタチが悪いよ」
深雪の中では、一番の侮辱の言葉が出るほどだった。