特異点同士の戦いは、さらに進む。白い煙幕の力によって、黒深雪との繋がりが断ち切られた雷だが、その絆は断ち切られていない。電からの否定の言葉で再起し、黒深雪と共に歩き、自らが望む平和のために戦う。
自分達のような被害者を増やさないようにするため。これ以上、欲望にかまけた犯罪者を増やさないようにするため。そんなくだらないことで命を落とす者がいなくなってもらうため。
その意思を受け、深雪と電は説得を完全に放棄した。もう何を言っても変わらない。他のカテゴリーKのことは、この場所で戦い続けているためわからないが、少なくもこの2人は、何も進展はない。
ならば、もう戦うしかない。せっかく合流したのだ。1対1を2箇所でやるのでは無く、2対2として戦う。雷は補助装置としての力を断ち切られているが、それでもカテゴリーKであることは変わらない。そして、黒深雪は相変わらず歪んだ特異点の力を行使することが可能。利己的な願いを叶えることで、自分に有利な展開に持っていくことも出来るだろう。
それこそ、雷を再び補助装置にする願いもするはずだ。先程は白い煙幕によりそれを阻害し、黒い煙幕を吹き飛ばすことでどうにか出来たが、ここからはまだどうにかなるかわからない。
「これで終わりにするぞ、特異点」
「こっちのセリフだ、別個体」
「電……私達は折れないから」
「それでも、電達は折りに行くのです」
改めて向かい合う。深雪と電は、何処か落ち着いていた。黒深雪と雷は、何処か冷えていた。これまでの問答、これまでの経緯、その全てが、一旦リセットされた。
関係性なんて関係ない。互いに、目の前の存在を改めて敵と認識して、ここで確実に終わらせようと力を込める。
深雪と電は、それでも殺すことはしない。だが、痛めつけてでもその先には向かわせないようにする。歪んだ平和に辿り着けないようにするために。
黒深雪と雷は、平和への障害を排除するために、命を奪ってでも道をこじ開ける。正しい未来に向かうために。
「っらぁ!」
「だぁっ!」
やはり先陣を切るのは深雪と黒深雪だった。互いに煙幕を纏った腕を振り被り、海中であることを利用して突撃、そして拳がぶつかり合う。
内心、深雪は黒深雪が主砲を使わず、拳で突っ込んできたのは意外だった。最初とは違う、これだけお互いの考えをぶつけ合い、考えの相違を知らしめ、怒りすら露わにさせているのに、殺意は乗せていても、一撃で終わる砲撃をしてこなかったことに、ほんの少しの疑問、そして、黒深雪の意地を見た。
そもそもが、白い煙幕によって砲撃なんて簡単に弾き飛ばされる。黒深雪はその瞬間を見ていないが、雷の艦載機による攻撃を電が簡単にいなし、手を振るうだけで射撃を逸らすことすらしている。電に出来て、深雪が出来ないわけがない。
ならば、あえて同じ土俵に立って、直接殴り合った方が、ダメージを通しやすい。黒深雪はそう感じていた。若干無意識、だが、補助装置だった雷が受けたその感覚を、断ち切られる前に伝えられているかのように。
「砲撃は使わねぇのか?」
「あたしはテメェを直接ぶん殴りてぇだけだ!」
「そうかよ、奇遇だな、あたしもだ!」
深雪は砲撃一発が黒深雪のそれよりも殺傷能力が高いこともあって使っていない。消し飛ばす砲撃は掠めるだけでも致命傷になりかねないのだから。
黒深雪には、生きてこの先に向かってほしい。歪んだ平和ではなく、今の自由な世界を知ってもらいたい。だから、殺すのは違う。命を奪うのは違う。
「深雪、援護するわ!」
「深雪ちゃん、邪魔はさせないのです!」
2人の殴り合いをサポートするため、補助装置も黙って見ていることなどしない。一足早かったのは雷。黒深雪との繋がりは断ち切られてしまっているが、補助装置としての力が完全に失われているわけではない。黒い煙幕は依然として使用可能。それを艦載機に纏わせ、強力な飛び道具として深雪に嗾ける。
射撃や爆撃だって可能だが、今それをした場合、黒深雪も巻き込んでしまいかねない。そのため、艦載機はあくまでも直接ぶつけるための兵装として取り扱う。
電も同様だ。射撃や爆撃は深雪を巻き込む可能性があるため、やるなら黒深雪に直接ぶつける。だが、ここで雷と違うのは、電自身も高い戦闘能力を持っているということ。艦載機を操作しながらも、電は深雪の隣に並び立つために行動を開始している。自ら黒深雪に攻撃するまで考えている。
「電、止まりなさい!」
「雷ちゃんは言ったら止まってくれるのです?」
「そんな屁理屈……!」
「ここは戦場と言ったのは、そちらなのです」
電は再び煙幕の力を使って『スクリュー』の模倣。今この場でだけなら誰よりも速く移動し、雷の艦載機に自らの艦載機をぶつけながら、黒深雪へと突撃していく。
相手が深雪の顔をしていても、今の電にはもう関係ない。抵抗も、躊躇いもない。
「深雪ちゃん、援護するのです!」
「おう、頼むぜ電!」
「2人がかりかよ、クソが!」
「文句あんのか、この戦場で!」
電がいち早く黒深雪の背後を取ったことで、確実に2対1の構図が出来上がる。雷は艦載機を操ることしか出来ず、自ら攻めることが出来ないため、黒深雪の援護がままならない。電が控えめなままならばこんなことは起きていなかったが、こうなってしまったらもう圧倒するのみ。
深雪も電が近くに来てくれたことで、最も戦いやすい状態に持っていく。深雪は打撃主体で戦うことも可能だが、電は掴み、絞めることがメインだ。絞めあげてしまえば終わり。深雪よりも電の方が、無傷で捕まえることには適している。
だが、それだけ接近するということは、黒深雪の黒い煙幕に直接ぶつかるということにもなる。特異点の補助装置として白い煙幕が使えるにしても、黒い煙幕の影響はなるべくなら受けたくない。接近だけでなく、密着はかなりリスクのある戦い方である。
「絶対負けねぇ! あたし達の、平和のために……! こんな、自分達が平和に向かってるのかもわからない連中に、負けて堪るかよ!」
黒深雪のその言葉に、深雪はピクリと反応する。その隙を見逃すはずもなく、黒深雪はすかさず黒い煙幕を溢れさせてブースト、電から離れ、深雪に接近するカタチで速度を上げ、その小節を腹に叩き込む。
「っぐ……!?」
「雷! 難しいかもしれねぇが、コイツの後ろ回れ!」
「わかったわ!」
ここで雷も覚悟を決めて、慣れない接近戦に挑んできた。そこにいるだけでもかなり厄介であり、ただ体当たりをするだけでもダメージになる今、雷にそこにいてもらえば、黒深雪も戦いやすくなる。
補助装置で特異点を挟むカタチとなった接近戦。深雪は殴られた腹を押さえることもなく、少しだけ顔を歪めただけで終わり、近付いてきた黒深雪のその腕を即座に両手で掴み上げた。
「そうだな、あたしは自分達が向かってる場所が本当に平和かどうかなんてわかってねぇよ」
そのまま腕を捻るが、ここは海中、身体をグルンと回すだけで絞めあげることにはならない。
しかし、視界が突然180度回転するというのは、それだけで虚をつかれる。黒深雪のその隙に、深雪はお返しと言わんばかりに腹に蹴りを入れる。
「がっ……!?」
「でもな、お前らのやり方に譲歩は出来ねぇ。あたしは、自由にこそ平和があると思ったんだ」
後ろから向かってくる雷には煙幕で牽制。黒深雪には電が迫るが、同様に暗い煙幕で牽制。
「自由を履き違えてる奴はアホみたいにいるとは思う。でもな、そうじゃない奴まで否定するのはおかしいだろ」
「全部管理しないと、間違いが起きるかもしれねぇだろうが!」
「自由を奪ったことで、間違いを起こさなかった奴が起こす可能性もあるんだぞ」
殴り合いながらも、舌戦は続く。抑制が新たな罪を生む可能性を語る深雪と、全てを抑制すれば罪は最初から生まれないとする黒深雪。
「ならっ、テメェは罪を許容すんのかよ! 被害が起きてから動いても、人は悲しむんだぞ!」
それを言われると、深雪も答えにくい。確かに自由というのはそういうモノであり、人間の自制心に任せるしかない。性善説があってこその理論である。
しかし、抑制したところで同じである。暴力と荒廃で自制心を無理矢理出させるかもしれないが、鬱憤は爆発し、今以上に酷いことになりかねない。
「罪は、人間から取り除けねぇよ。でもな、自由を奪った方が、今より確実にこの世界がおかしくなる。だからお前はっ、もっと今の世界を知れよ!」
「テメェよりは知ってんだよ! その上でっ、あたしはこの道を選んでんだ!」
「あたしが言えたことじゃねぇかもしれねぇけどな、お前の世界は、狭すぎんだよ!」
拳が交差し、お互いの顔面に入る。弾き飛ばされるように仰け反るが、まだ終わらない。
「お前は、あたしと学べ! この世界を、もっともっと! あたしの平和も間違ってるってなら、違う道を探すぞ!」
「違う道なんて必要ねぇ! あたし達が目指す道が、正しいんだ!」
「あたしが目指す未来が間違ってるって言えるのに、お前らの未来が正しいって言えんだよ! お前予知能力者かよ!」
拳は、脚は、止まらない。戦いは終わらない。
お互いの主張は、重ならない。