後始末屋の特異点   作:緋寺

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ゲーム脳再び

 鎮守府を占拠し、補給艦を捕らえたことを伝えたことで、五十鈴に詰みを自覚させ、諦めさせるように持っていく。これで戦いも一度終わるだろう。そう思っていた矢先、戦場に撃ち込まれる一発の砲撃。

 

「ちょっとちょっとー! ボク達が到着するまで頑張ってよー!」

 

 戦場に響き渡るのは、無邪気で厄介な、この命懸けの戦場すらゲームとして認識している子供の声だった。

 

「うそ、こんなタイミングで……!?」

 

 伊26はその姿が見えたことに驚きを隠せなかった。ここまで来たら、もう出てこないのではないかとも考えていた。出てきたとしてももう少し後ではとも。それでも、現実にここにいる。

 砲撃は避けることが出来ているが、そこにいるということが大問題。海中での戦いは本来潜水艦の独壇場であるはずなのに、小柄のカテゴリーK相手はかなり厳しい。潜水艦と同じように動けるのに、海上と同じように砲撃も雷撃もこなす。現に先程の砲撃は、海中であるはずなのにかなりの威力と精度で飛んできていた。

 

「もう、そんなに難易度高いステージじゃないと思ったんだけどなぁ。必要ターン数間違えたかなぁ」

 

 相変わらずの物言い。世界をゲームだと思っているような言葉の数々。それは嫌悪感にしか繋がらず、しかし脅威にしかならない。

 

「でも、みんなが頑張ったからある程度は消耗してるよね。ボクは高難易度でも突破出来るけど、難易度落とせるなら落とすことするから。一番下まで落とせなかったってだけで、中間ってくらいかな、うん」

「あ、え、えーっと……もう少し頑張れれば良かったんだけれど、かなり粘られてしまって」

「うんうん、こうなっちゃったんだから、もうどうしようもないよ。じゃあ、ここからはボクに任せて。中難易度なら、全然ラクショーにクリアしてあげるから」

 

 自信満々の言葉だが、実際出来てしまいかねないから困る。笑いながら、本当にゲーム感覚で、人の命を摘み取る無邪気な悪魔。それが小柄だ。

 五十鈴も少し言葉に詰まっていた。瑞鶴も小柄の登場に若干ばつが悪そうな表情を浮かべるものの、ここで援軍が来てくれたことには素直に喜んだ。

 

「それじゃあ、2人は一回鎮守府戻ってねー」

「それが……鎮守府はもう占拠されてるみたいで」

「えーっ!? ちょっとホントにどうなってんのさー。まぁいっか。もっかい取り返せばいいだけだし。戻れないなら戻れないで、何処かで休んでてよ。このままいても何か出来るわけじゃないでしょ?」

 

 そう言われて何も言い返せなかった。事実、ガス欠状態であるため、諦めがチラついたのだから。

 五十鈴はストレスを感じたような疲れた表情を見せて、瑞鶴の手を引いてその戦場から離れる。本来ならそれを追いたいのだが、小柄がそこにいるという時点でそれは無理な話であった。

 

「よーし、それじゃあ、ゲーム開始だよ!」

 

 そんな明るい言葉でも、やろうとしているのはひたすらに蹂躙である。真っ先に見据えたのは、伊26。最初の経験値にしてやろうと、猛烈なスピードで突撃してくる。

 伊26は『ソナー』の曲解を持つが、戦闘力で言えば並だ。それを補うためにテーザーガンを持っているが、小柄はよりによって全身を覆うボディスーツを着ているため、電極を突き刺す余裕がない。撃ったとしても、当たったところで効かない。

 

 ならばやることはたった一つ。

 

「逃げるが、勝ち!」

 

 撤退である。勝ち目のない戦いからは逃げる。そんなことは常識であり、命あっての物種なのだから、わざわざ立ち向かうこともない。

 それに、ここには沢山の仲間がいるのだ。海中では数少ないが、海上ならば迎撃は可能なはず。

 また、伊26は伊203と組んで行動していることもあり、頑張れば追いつけるくらいの速力はある。最短距離、最高速度で海上に浮上すれば、まだ可能性がある。

 

「逃がさないよ、経験値!」

 

 最早経験値扱いである。ゲーム脳とはいえ、命をそのように扱うというのは、あまりにも常識と倫理観が無い。

 しかしこのままでは本当に経験値にされかねない。一刻も早く海上に行かねば、援軍すらままならない。

 

「割と逃げ足速いね! でも、ボクも負けてないよ! そーれ、ビューン!」

 

 小柄は何を思ったか、尻から生えているレ級の尻尾を真後ろに伸ばすと、その口の部分から一発砲撃を放った。その反動を使い、急加速をしたのだ。

 攻撃の反動を移動に使い、本来よりも素早く行動するなんて、それこそ、ゲーム内のような挙動。かなり速く動いている伊26に一気に近付くと、身体を思い切り捻る。

 海中なのだから、少しは水圧で抵抗が生まれるはずなのだが、そんなことお構い無し。海上で振り回されるのと殆ど同じ速さで尻尾が伊26に迫る。

 

「っぶなーい!」

「わっ、避けるんだ、すごいすごい! でも、それくらいなら見てからでも行けるよ!」

 

 スレスレのところで回避した伊26だが、小柄の動きはここからより変則的になる。尻尾を振り回した遠心力を活かして、自分はさらに前へ。さらには角度を変えて、尻尾でなく自分の身体を伊26にぶつけるようにした。

 尻尾よりも大きな質量を持つ本体が向かってきたことで、伊26はさらに回避を余儀なくされる。やるなら海上へ。なので、蹴伸びをするように真上へと移動する。

 

 だが、その足の先端を小柄の艤装の腕──北方水姫の剛腕が掠めた。たったそれだけで、凶悪な衝撃が伊26に駆け抜ける。掴まれなかっただけマシなのだが、航行が厳しくなるのではと感じるほどのダメージ。

 それの質量は尻尾の比ではなく、強度も高い。直撃なんてしようものなら、ただの体当たりであっても致命傷になりかねない。

 

「いっ!?」

「擦りダメージはそんなに入らないと思った? ボクは全部の攻撃が大ダメージなんだよ!」

 

 足を強打されたが、それでも伊26は怯まない。上へ、上へと逃げていく。自分に視線を誘導させられているのならそれでいい。目の前の経験値を逃すことはないと、小柄は常に伊26を見続けている。

 優柔不断なところは見せず、まずはコレと決めたらソレを狙い続ける。その方が攻略がしやすいと考えているのだろう。

 

「しぶといねぇ、ここのマップは広いから、あんまり逃げられるのも困るんだけどね!」

 

 さらに艤装の剛腕を伸ばす。掴まれたら一巻の終わり。それだけは避けねばならず、伊26は華麗に回避する。針の穴を通すような繊細な動きを、足の痛みに耐えながら、それを感じさせない動きでこなしていく。小柄はそれを楽しそうに、キャッキャッと笑いながら追い詰めていく。

 海上まではまだある。最短距離はあちらも読んでいる動きだろうから、少し回り道をした方がいいか。だが、そんな余裕などない。こうしている間に、小柄はさらに動きが精密になっていく。

 

 それは、ゲーム脳ならではの学習能力だった。このステージを攻略するために必要な技能を、今ここで次々と考え、身につけているのだ。

 同じ戦場で同じくらいのスピードを出す敵を逃さずに追うならばどうすればいいか。命懸けと思っていないような仕草で、ただひたすら楽しんで、敵の命を握り潰しに来る。

 

「ほいっ、そっち逃げ道でしょ!」

 

 レ級の口は砲撃しか出来ないわけではない。その口から吐き出されるように雷撃が放たれ、浮上の道を潰しにかかる。伊26もソレに当たるわけにはいかないため、すぐに身体を捻って回避。それでも浮上を諦めていない。

 

 しかし、小柄の動きは伊26の動きをさらに上回っていた。そこから何故その動きが出来るのだという、あまりにも不自然なブーストがかかったことで、小柄は伊26に急接近を果たした。

 

「泳いだ……!?」

「へぇ、今の見えてたんだ。すごいすごい」

 

 不自然な動きは、蓋を開けてみれば簡単なこと。艤装の剛腕で水を掻いただけ。それが大きな腕であるため、一搔きで一気に前に進んだ。

 

「でも、君はそれでおしまい。はい、ひとーつ!」

 

 身体を思い切り回すことで、レ級の尻尾がとんでもない速度で振り回される。これだけ近いと、どれだけ素早く動けても避けようがない。急速潜航の方が避けられる可能性はあるかと瞬時に考えるが、避けきれなかった場合、この一撃は顔面にぶち当たることになる。速さがあったとしても、それをどうこうすることは出来ない。

 もし伊203ならば、この一撃を受け止めてしまっていただろうか。超人ならばこれもどうにか出来ていたかもしれない。だが、伊26は違う。そこで、戦闘力が並であることを思い知らされる。

 

 振り回されたレ級の尻尾は、伊26の身体に直撃。ギリギリのところでガードすることはしたが、それだけで衝撃をいなすことなんて出来やしない。

 

「っあ、ああっ!?」

 

 致命傷は避けることが出来た。だが、命に別状がないだけ。大破し、そのまま海上にまで吹き飛ばされてしまった。

 伊26はコレにより、意識が飛ばされる。ガードした腕だけでなく、身体にまで大きなダメージを受け、骨も肌も滅茶苦茶にされてしまっていた。ぐったりと海面に浮かび、血を流すだけとなっていた。

 

 

 

 

 小柄の登場で、戦場は一変する。予想は出来ていたピンチを、ここからどうにか打開しなくてはならない。

 

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