襟帆鎮守府近海の戦いに乱入してきたカテゴリーK、小柄。既に逃げ場は全て失われている瑞鶴と五十鈴を適当に退かして、単騎での蹂躙を開始した。
真っ先に狙われたのは、このまま戦うのはまずいと考え、海上に撤退を開始した伊26。伊203に追いつけるだけのスピードが出せるのだが、追い詰められ、そのまま小柄の尻尾に弾き飛ばされてしまった。
一撃で瀕死と言ってもいいほどの重傷を負い、今は海上に浮かんで虫の息。特機のおかげで自己修復はあれど、放っておくわけにはいかない状態にされた。
「海の上行っちゃった。でも、いっか。どうせここにいる奴ら全員やっちゃうんだし! 海の中で戦ってるところで、後ろからドーンと行きたかったんだけどなぁ」
小柄はそのまま勢いよく浮上。海上に水柱を上げながら現れ、ジャーンと自分で効果音まで口にして、勢いを殺すことなく気を失っている伊26を追撃。
ここでもう一発喰らったら、今度こそおしまいである。しかも、伊26自身はその攻撃を避けられる状態にない。
「ちゃんと確実にやっておかなくちゃね! 後始末屋はしぶといから、ちょっと逃がすだけで後からパワーアップして帰ってきちゃうことあるし!」
思い切り尻尾を振りかぶって、伊26へのトドメを繰り出す。
だが、海上に出たということは、これまで海上にいた、なかなか戦いに干渉出来なかった者達が、ようやく参加出来るということだ。
「オーバークロック」
小柄が振り回した尻尾が伊26に届く前、その隙間を縫うように、一陣の風が通過する。そして、小柄の尻尾が海面に叩きつけられた時には、そこには伊26の姿は無かった。
「えっ、なになに? 今何が起きたの?」
「全く、突然乱入してきたかと思えば、この世の中を自分が主人公のゲームだと思い込んでいる精神異常者じゃないか」
「あーっ、なんか前見たことある奴ーっ!」
伊26を救い出したのは、オーバークロックにより小柄を凌駕するスピードを得た時雨。直撃する前に伊26を抱き抱え、スピードを維持したままその場から離れている。その反動はどうしても伊26に伝わってしまうが、それで命が削られるようなことはない。時雨もその辺りは意識して、素早く優しく運んでいる。抱えてしまえば、『タービン』の力の影響範囲内。最初さえ上手くやれば、そのまま同じ速度で移動は出来る。
「君、ちょっと待ってなよ。怪我人を運ばなくちゃいけないからね」
「それ言われて待つ奴いないでしょ。経験値が固まってくれてるなら、まとめて斃すだけだよ!」
小柄が攻撃を止めることはない。時雨が伊26を抱えているなら好都合。2人まとめて始末することで、敵は効率よく減らせると、むしろ今だからこそ猛攻を開始。
今度は尻尾を振り回すわけでもなく、砲撃を主体に攻撃を始める。当然ながら、一撃一撃が致命的。掠めるだけでも四肢を捥がれそうな威力。さらには精度もかなりのモノ。本人はガンシューティングくらいの気持ちで戦っているのだからタチが悪い。
「落ち着きのないガキだよ」
これ見よがしに溜息を吐き、もう一度オーバークロック。砲撃を見てから避けられる程のスピードで一気に小柄を突き放し、傷付いた伊26を、睦月が駆る大装甲艇の近くまで移動させた。
「悪いね、ニムをお願い出来るかい?」
「す、すごい重傷にゃしっ、すぐに応急処置をするぞよ!」
大装甲艇には睦月にしか扱えないような大重量の兵器が積み込まれているが、せっかく運ぶことの出来るのだからと、多少の治療道具も搭載している。ここでの戦いが激戦になることはわかっているのだ。それくらいの準備はしている。
本当なら伊26を連れてここから撤退したい。背中を見せるのはかなり危険だが、うみどりで回復させるのが一番いいのはわかっている。だが、その余裕すら与えられない。
「そっち、いっぱいいるね! だったら、範囲攻撃でまとめて吹っ飛ばすのがいいよね!」
小柄は敵が束になっているとわかるや否や、すぐさま全てを一掃出来るように、中心に向けて砲撃を繰り出す。大装甲艇が破壊されたら伊26は今度こそやられるし、兵器が搭載されているそれが爆発しようモノなら、周囲一帯が全て薙ぎ倒されてしまうだろう。
だが、今の睦月の側には、妙高がいる。
「狙いを定めましたね。ならば、当たらない」
妙高の『ジャミング』が機能し、小柄の砲撃はあらぬ方向へと飛んでいった。小柄は目を見開くが、すぐに笑みを取り戻す。
「わ、すごいすごい、ちゃんと狙ったはずなのに! そういうギミックボスなのかな、だったら、タネも仕掛けもあるよね!」
「よくもまぁ笑っていられるよ」
「攻略するのが楽しいんじゃん! 攻略本は使わずに自力でやりたいって時もあるんだよ」
伊26を預けたことでまた手が空いた時雨が、小柄に肉迫する。そのまま殴りかかるようなことはしない。オーバークロックさせ、連射が可能となった主砲を構え、小柄の命を奪うために攻撃を開始。
カテゴリーKはまだ救おうという気持ちがあった。しかし、小柄は救えるなんて最初から思っていない。救うつもりなんてない。その証拠に、伊豆提督も
だから何も躊躇などしない。そうしなければ、こちらがやられる。これまでとは群を抜いて危険度の高い、最終決戦に相応しい命の奪い合い。
「はっや! でもね、ボクはそれくらい避けられるよ」
時雨の砲撃をことごとく避ける小柄。一発目、二発目、三発目と立て続けに放たれたのだが、それを予測と経験によって完全に見定めていた。
「……嫌なことを思い出したよ」
その避け方は、軍港での演習中の綾波を彷彿とさせた。素早く回り込んでいるのに、急に視線が合う。人智を超えるスピードを特機によって授けられているのに、関係なしに追いついてくる。小柄はそれとほぼ同じようなことをしたということ。
ゲーム脳の反射神経は普通ではなかった。成長率もさることながら、超反応まで見せつけてくる。大袈裟な行動をするため隙だらけなのに、結局見てからでも避けてくる反射神経のせいで攻撃が当たらない。
「それじゃあ、ボクのターン!」
砲撃を避け切った後、小柄は次は自分が攻撃するのだと、時雨に対して尻尾を向ける。またもや砲撃を放つのかと思いきや、ここでやってきたのは艦載機の発艦。1機や2機ではない、10機20機と、大量に。
それはもう、イナゴの群れの如く時雨に襲いかかる。射撃爆撃関係なく、物量で押し潰す気満々。艦載機1機だけでも質量兵器と言えるのだから、それが何十機も襲いかかってこられたら、いくら時雨でもひとたまりもない。
「撤退しかないか……」
押し潰される前に移動せねばならない。時雨にはオーバークロックがあるのだから、向かってくる艦載機を見据えて動けば、傷つくことなく回避は可能だろう。
そのついでに、小さくアイコンタクトをしてから、その場から離れた。嗾けられる艦載機群は、元々時雨がいたところに群がるが、それは外れる。
「またどっか行っちゃった! ワープばっかり使うボスとか鬱陶しくない!?」
「残念ながら、この世界はゲームじゃないからね。理不尽くらい許容しないと生きていけないよ」
「クソゲーってこと? でも、残念でした。ボクはクソゲーだろうと、一度始めたら絶対クリアするんだ。諦めないよ、絶対に」
へへんと笑う小柄の憎たらしさに時雨は小さく舌打ちをする。
「諦めなくていいさ。ここで君は死ぬんだからね」
「死ぬ? ボクが? はっはは、無い無い。クソゲーでもクリアは出来るんだから。ゲームオーバーするのはそっちなんだよ!」
「いいや、君だね」
挑発と同時に、小柄の真上から艦載機が一斉に爆撃を開始した。時雨がアイコンタクトをした先にいたのは加賀。時雨が回避すると同時に、加賀が出し惜しみすることなく、出せるだけの艦載機を発艦していた。
小柄はそこまでしなくてはどうにもならない難敵だと認識している。弾切れなどを躊躇していたら、勝てる戦いも勝てなくなる。それに、圧倒的な物量で押し潰すことだって厭わない。
「わっ、そういう罠なの!? でもね、ボクはこれくらいどうとでも出来るんだ!」
しかし、小柄はその爆撃に対して、自分からも艦載機を発艦。異常な数がさらに発艦され、まるで天幕のように小柄の真上を覆い尽くす。
爆撃は小柄に届くことなくシャットアウト。小柄の艦載機もいくつかは破壊されていくが、それでもかなり強靭であり、壁としての硬さも有している。加賀の艦載機であっても、これを容易に突破することは出来ない。
「前の戦いでわかったからね。ラスボスの周りの中ボス達は、数で押し込んでくるって。勇者が単騎で突撃するタイプのゲームの場合は、勇者がそれだけ強いからクリアが出来るんだ。ボクは、その勇者なんだから、負けるわけがないんだよ」
「好きに言えばいいさ。現実が見えていない万年クソガキの君には、こういうカタチでしか世界を教えてあげることが出来ないようだからね」
「世界はボクを中心に回ってるんだよ。何てったって、ボクは主人公の勇者だからね!」
それを本気で言っているのだから恐ろしい。どうすればここまで壊れるのか。カテゴリーKよりも話が通じない敵とは、戦いたいとも思えなくなる。
「まったく……どんな教育を受ければそこまで歪むのやら」
そんなことを言っても意味がないのだが、溜息しか出なかった。