小柄の力は尋常ではなく、たった1人でも複数人を圧倒出来るだけの戦闘力を持っていた。救出のために使った時雨のオーバークロックには追いつけなかったモノの、それを使った砲撃は全て回避してしまう。自らの存在を囮として使って、加賀の爆撃を被せたが、それも艦載機による防御で全て防がれてしまった。
「難易度はちょっと高いってくらいかな? でも、まだラスボスでもない前座なんだし、ここで負けるなんてナイナイ!」
「また前座扱いかい。君は相手を敬うことを知った方がいいよ」
「そんな必要ないよね、だって敵だもん。覚えていられるくらい魅力的な敵だったらまだしも」
凄まじい煽りである。単純に、お前達には魅力がないと言ってのけた。意識的なのか無意識なのか、それは普通ならば相手の神経を逆撫でするような発言。しかし、時雨は冷静だ。小柄が狂人であることがわかっているから、何を言っても心に届かない。
「それはそうかもしれないね。君は嫌なカタチで僕達の記憶に残っているよ。この世界から消えてもらいたいくらいにね」
「そっかー。勇者に斃されるためにいる敵だもんね。どんなことを言いながら死ぬのかな。セリフもコンプリートさせてもらえる?」
「残念ながら、それは無理な相談だ。僕達の断末魔を、君が聞くことは無いんだから」
そう言いながらも、時雨はこの小柄をどのように攻めていくかを考えている。接近戦は艤装の剛腕に防がれるどころか、振り回されるだけで返り討ちに遭うだろう。尻尾もあるのだから尚更だ。攻防一体の兵装は、単純に行動の幅を無理矢理狭められていると考えられる。
ならば遠距離はと言われても、あの超反応が牙を剥く。攻撃してもそれに気付かれて即回避。オーバークロックにすら反応出来るとなれば、大概の素早い行動は回避されると言ってもいい。その上で、あちらは砲撃も雷撃も可能。攻撃の幅すら広く、近距離も中距離も遠距離も、全てにおいて隙がない。
時雨がこうして注目させている間に、加賀も攻め方を考えていた。艦載機による爆撃は、艦載機によって止められてしまう。少しは減らすことが出来たかもしれないが、ペースで考えると、小柄の艦載機を全て破壊する前に、こちらの弾が尽きてしまう。
だからといって、艦載機としてではなく、矢として使って射貫くことは出来るかと言われればそうでもないだろう。とにかく艤装が邪魔であり、さらにそれが強固強靭となると、矢の一本や二本では、傷すらつけられない。
「さて、どうする……」
小柄に聞こえないくらいの声量で、時雨はボソリと呟いた。強気でいたとしても、現状では突破がかなり見えない。まだ援軍が期待出来るとはいえ、複数人でかかってどうにかなる相手だろうか。
などとネガティブな考えに向かいそうになって、すぐさま振り払った。勝てないと思った時、本当に勝てなくなる。諦めは人を殺す。強大な敵であっても、理不尽な敵であっても、これまで乗り越え続けてきたのだ。
小柄だって今を生きているモノだ。全てにおいて完全無欠だなんてことはあり得ない。必ず弱点はある。それも、そういう時に限って、それは気付けそうで気付けないような、至極単純なことだったりするだろう。
「はーい! ここからは、那珂ちゃんと舞風ちゃんも参戦!」
「豪華ゲストだね! 踊り甲斐があるよ!」
兎にも角にも、まずは手段を増やす必要がある。ということで、睦月は妙高に任せて、那珂と舞風が時雨の側までやってきていた。ただ見ているだけなど言語道断。ここで戦わずして、舞わずして、何が艦娘か、何がアイドルか。
「なになに? 踊り子さんかな?」
「那珂ちゃんはアイドル! 舞風ちゃんはダンサー!」
「2人揃えば、戦場を最高のステージに変えることが出来るよ!」
この2人、本当にこのノリで戦うつもりである。いつもながら、環境を選ばずに自分達の流れに持っていくプロ。
「へぇ、それじゃあ、2人でボクのことを褒めてくれる歌と踊りを見せてくれるのかな?」
「残念ながら、君はお客様なんだよね」
「ステージに立ってないんだ。だから」
「この歌と踊りを、目に焼き付けてね☆」
那珂と舞風の息のあった砲撃から再開。攻めあぐねるということもなく、さも当然のように真正面からの突撃である。
「おっと! それはあんまり目に焼き付けたくないなぁ」
小柄は再開の砲撃をさらっと回避。それでも視線は那珂と舞風から外さない。既に発艦させた艦載機達を使い、加賀からの攻撃を牽制しつつ、数が多い方に自分の目を向ける。
「時雨ちゃん☆」
那珂は向かう直前に、時雨にウィンクをした。アイコンタクト、何をしてほしいかすぐにわかる。
「わかったよ。今回は君に乗ろう。やれることはやってみないと、何がアレに通用するかわからないからね」
「お願いね、バックダンサー☆」
身体は硬くとも、時雨も那珂のトレーニングに付き合ったことがある。どういうことをしたいか、どうしてほしいかは、つまりアイドルとしての舞台を盛り上げることだ。
「あっは、なになに、本当に踊るの?」
「こういう戦い方だから、ねっ!」
まず先陣を切ったのは舞風。しなやかな体躯で踊りながら近付き、その中に砲撃も加えて、華麗に身体を動かし続ける。
小柄からの砲撃も雷撃も、傷がつかない紙一重。クルクル回ったり、鮮やかに跳んだりと、心に余裕がある時ならば、何もせず見ていたいような優雅な体捌き。
「わ、本当に避けるんだ、そんなやり方で!」
「避けるだけじゃあ、ないよ!」
ステップが変化すると、急に前に出てくる。距離の詰め方が絶妙であり、小柄にはいきなり舞風が大きくなったかのようにすら見えた。砲撃を避けながら懐に入った舞風だが、そうなると危険なのは剛腕と尻尾。舞風を止めるために大きく振るう。
「ほいっと!」
だが、舞風はそれを見越していた。振り回される腕に、瞬時の判断で手をつき、腕の力だけで宙を舞う。グルンと一回転、ムーンサルトを見せつけて、空中で主砲を小柄の頭に向けた。当たれば終わりの急所攻撃。身軽であれば可能な、懐での一撃。
「わぁっ、でもダメーっ!」
腕の後にやってくる尻尾が、舞風を薙ぎ払う。だがダンサーは空中ですらその姿勢を制御する。凶悪な速度で振り回される尻尾を、すぐさま足場へと変えて、蹴りながらさらに跳んだ。一瞬のタイミングしかない、その瞬間を完璧に見切った動き。
そして、姿勢を変えた後に再び主砲を構えた。さらに高く跳んでいたことから、間合いは開いてしまったけれど、それても頭を狙い撃ち出来る。
「あはは、すごいすごい!」
しかし、今度は艦載機がそれを阻む。10機ほどの艦載機が舞風の眼前を陣取り、砲撃を完全に止めるだけでなく、空中で簡単には避けられない舞風に向けて射撃の準備までしていた。
「反応出来るんだ。君もダンサーの素質はあるかもしれないね!」
「踊り子のジョブは必要ないかな。勇者にはね!」
舞風を襲う艦載機の射撃。それを、上手く身体を捻り、艤装を盾にしつつも、大きな傷にならないようにした。傷がつかないわけではない。それでも、致命傷は完璧に避けている。
舞風は当然、こうなることを予測して跳んでいる。こうなった場合でも最低限の被害で済むように動ける。
そして、こうやって視線を独り占めしている間に、アイドルの舞台の準備を整わせるのだ。バックダンサーのメインステージは、アイドルの次の楽曲の準備時間に使われることだってある。舞風はそこを理解している。
「それでは聞いてください! すぅーっ……Ahhhhhhhhh!」
その楽曲は、那珂には珍しいデスボイスから開幕するハードロック。アカペラなのに、激しいドラムが聞こえてきそうな程の、高火力の音響兵器。
「いいっ!?」
流石にこれには小柄も驚きの表情を見せる。しかし、本来ならばこれによって三半規管が揺さぶられ、まともに立っていられなくなるところを、ただ驚いたというだけで終わらせている辺り、あらゆる場所が強化されていることがわかる。
「アイドルの晴れ舞台、ちゃんと見てあげなよ」
さらに時雨の追撃。本体狙いではなく、艤装の剛腕を狙った打撃。その腕で視界を遮ることを許さず、かなり強引に蹴り飛ばすことで、無理矢理姿勢を乱れさせる。
「わわっ!?」
舞風に視線を持っていかれ、那珂のデスボイスに驚かされ、時雨の蹴りに姿勢を崩されたことで、ようやく少しだけ隙が見えた。それを逃すわけがない。
「那珂ちゃんセンター! もっと歌わせてもらうよ☆」
那珂が即座に主砲を構え、ろくに狙わずとも近くならば確実に当たることから、素早さ一点狙いで即座に砲撃。隙を突く一撃ならば、回避も難しいはずだと。
しかし、小柄の力はこれだけではない。
「危ないなぁ! でも、隙間ついてくるボスもいるもんね。ボクじゃなかったら、負けてたかもね?」
あくまでも艤装の剛腕を対処しただけ。小柄本人の腕も脚も残っている。故に、そこに生成された深海棲艦の艤装で、那珂の砲撃をシャットアウト出来てしまった。
それは深海艤装のような歪んだ形状のバルジの盾。自分を勇者と呼ぶ小柄ならではの、勇者の装備。
「まだ出てくるのかな。手品師みたいだね☆」
「勇者はアイテムをいっぱい持ってるモノだからね!」
そして、もう片方の腕にはさらに、深海艤装を変形させたような剣まで握られていた。杖や弩弓を持つ深海棲艦はいるが、ここまで直接攻撃をする艤装を持つ者はそういない。だが、小柄はそれが出来ている。
「勇者の剣! 勇者の盾! だからボクは、勇者なんだよ!」
砲撃を盾で防いだことで、逆に那珂達の隙を作り出してしまった。避けられるだろうが、かなり無理のある姿勢になる。
「オーバークロック……!」
剣での一撃から那珂を守るため、時雨は即座にオーバークロック。その場から離れるために動き出した。伊26の時と同じように、すぐに射程範囲外に逃がす必要がある。
だが、
「見えてるよ、もう!」
小柄の狙いは那珂ではない。動くことを予測されていたことで、最初から時雨を狙っていた。
勇者の剣での刺突。それが、縫うようなタイミングで突き出され、那珂を抱えようとした時雨の肩に、突き刺さっていた。