小柄との戦闘は続く。那珂と舞風を加えて猛攻を仕掛ける時雨だったが、深海艤装を改造したであろうお遊びみたいな兵装、勇者の剣と盾を装備した小柄の一撃によって、肩を刺し貫かれてしまった。
「ぐっ、あっ……っ」
痛みに顔を顰める時雨だが、小柄はそれを見たところで何も変わらない。ただ敵を斃して経験値を手に入れる、そんなゲーム脳全開の考え方で、勇者の剣をさらに横に薙ぎ払った。本来ならば、それで時雨の片腕は千切れ飛んでいただろう。だが、ここで時雨が選択したのはオーバークロックによるバックステップ。自らの力で剣を肩から抜いて、腕を失うことだけは回避した。
腕の、肩の痛みはかなりのモノ。しかし、その程度で折れる時雨ではないし、それを見て躊躇う仲間達でもない。特に時雨が守るために行動した那珂は、その傷を見ることなく、すぐさま反撃の一手に出る。
「バックダンサーへのお触りは、禁止されてまーす!」
踊るように身体を捻って、那珂の脚力を使った回し蹴り。アイドル活動で培った強靭な体躯による一撃は、生半可な相手なら一発でノックアウトもあり得る。
だが、小柄はそれを勇者の盾で受け止めた。ガンと鈍い音はしたが、それだけ。衝撃で仰け反るようなこともなく、むしろ当たった直後に押し返すような反応をすることで、逆に那珂が弾き飛ばされる。
「ふっふーん、シールドバッシュくらい出来るんだからね! ジャストガードで体勢崩して、追い討ちするコンボも搭載してるんだよ!」
崩れた体勢であっても、接近を許さない那珂は、至近距離であっても砲撃を放つ。
さらに、少し傷付いた舞風が、那珂を守るためにこちらも砲撃を放った。正面と斜め後ろからの同時攻撃。舞風の砲撃は艤装に阻まれそうではあったが、だとしてもその衝撃で少しでも体勢を崩すことが出来れば問題ない。
しかし、少しでも後ろにいると、艤装の剛腕と尻尾により阻まれる。距離があろうがなかろうが関係ない。攻撃さえ受けなければ良いと、尻尾がブンと振り回されて、砲撃諸共全てを薙ぎ倒した。舞風は咄嗟に間合いを取ったが、風圧で少し圧倒されてしまう。
正面の那珂の砲撃は、やはり勇者の盾による防御。受け止めるのではなく、受け流すように斜めに構えて、自分への衝撃を極力落としている。咄嗟にその判断が出来ていること自体が生半可なことではない。如何にゲーム脳だとしても、戦闘をゲームの一環だと思っているとしても、それに身体を追いつかせることが出来ていること自体がおかしな話である。
これを崩すことが出来るのは、普通よりも重い攻撃になるか。今この戦場で最も重たい攻撃が可能なのは時雨だが、それには少しだけ準備の時間がいる。
「アイドルは、そんなことでは倒れないんだよ☆」
向かってくる小柄に向けて、ピースサインを見せると、これまでよりもさらに速いステップに。BGMは無くてもBPMは上がり、動きはより強く勇ましいモノへと変わっていく。
アイドルという一点だけは曲げず、このような苦しい戦いであっても、絶対に心は折れない。やり方を変えることもない。歌って踊って、場を盛り上げて、自分も仲間も鼓舞する。
「戦闘BGMを自分でやるタイプ? そういうの、盛り上がるよね!」
「わかってるじゃん☆ でも」
「うん、でも、だからって、止まらないもんね!」
小柄は続いて、艤装の剛腕を海面に叩きつけることで大きくジャンプ。本来なら狙い撃ちにしてくれた言っているようなモノなのだが、多数飛び回る艦載機が周囲をグルグルと動き回ることで、狙い撃つ隙すらない。
「着地狩りなんてさせないよ! 押し潰しちゃうんだから!」
艦載機を纏った小柄による、上からの圧殺。身体そのものをぶつけてくるような強烈な体当たりに、那珂は回避を選択。しかし、後ろに下がるのは危険だと判断した。腕を伸ばされた場合、それがおそらく届く。素早く動いたとしても、掠めるくらいの速さはある。ならば、向かう方向は1つ。正面である。
「舞台から観客席に跳ぶことだってするからねっ☆」
見事に小柄の真下を潜り抜け、背後を取る。だが小柄の背後はガチガチの艤装。基部に加えて尻尾もあるため、狙いを定めようがないというのが現状。隙間があったとしても、尻尾がそれをカバーする。砲撃を受けてダメージを負い、尻尾が破壊出来ればいいのだが、それもかなり難しい。あの尻尾はやたらと硬くしなやか。那珂の持つ主砲では火力が足りない。
故に、より火力のある一撃を放つ。那珂ではない者が。
「ふっ……っ」
それは、加賀による集中に集中を重ねた一射。制空権も取れない現状で出来るのは、艦載機へと変えずに矢として運用する必殺の一撃。
戦艦主砲とまでは行かない。だが矢は一点を射ち貫くことが出来る。火力が分散されず、狭い範囲に確実な破壊を齎す。
狙いは尻尾の付け根、阻まれてもよしと割り切って、あわよくば本体を貫くことが出来ることを狙う。どうであれ、直撃すればいい。
「っぶないなぁ!」
それでも、小柄は反応した。背後からの一撃に、尻尾が即座に動いたかと思えば、その矢をガギッと鈍い音を立てて受け止めてしまった。レ級の尻尾であるが故、先端にはバケモノの頭がついている。意思を持つかのような口を開け、矢を噛みつくことで止めたのだ。
威力は相当なモノのはずなのに、他事と並行して、ながら処理で対処してしまう。あまりにも規格外。滅茶苦茶な動き。
小柄が着地した時には、那珂はそこにはいない。その攻撃を避けることは出来ている。しかも、罠も仕掛けて。
「あっ」
那珂が仕掛けたのは、爆雷である。着地地点を予測して、そこに簡易爆雷を置いてきていたのだ。それはもう機雷や地雷のように作用するだろう。
小柄がそこを踏みつけたことで、見事に起爆する。小柄を包み込むくらいの水柱が上がる。これによって、せめて足を破壊すれば、その行動を大きく制限することが出来るはずだ。
「やってくれるね! アイドルってば、トラップマスターでもあるの!?」
爆発に巻き込まれているはずの小柄から、余裕のある言葉が紡がれた。強靭であることはわかっていても、あのタイミングの爆発をどう耐えるのだ。そう思った矢先、那珂に向けて尻尾が構えられ、砲撃が放たれる。
隙を見せたわけではないが、驚きが大きかった那珂は、咄嗟に回避はしたものの、その砲撃が腕を掠める。強烈すぎる一撃は掠めただけでも肉を抉り、血を噴き出させた。
だとしても、那珂は表情を変えない。アイドルとして、ポーカーフェイスというよりも、ステージ上でのスマイルを壊さない、プロの技を見せる。
「あ痛たた。でも、那珂ちゃんはまだまだ元気! それよりも、ステージ演出をどう避けたのかな?」
「罠はビックリしたけど、ボクは勇者なんだよ? 剣と盾以外にも、勇者の装備はあるんだからね!」
その発言通り、出来上がっていたのは下半身を覆う鎧。曰く、勇者の鎧である。深海棲艦の脚部装甲だろうが、それに該当するモノを装備している深海棲艦は、あまり思い当たらない。いたとしても、爆発をモロに喰らって無傷でいられるほど強い装甲はなかなか聞かない。
咄嗟に出してあの防御力。剣と盾の時もそうだが、その場で生成するにしても、展開が速すぎる。
「爆雷すら無傷で乗り越えられるとなると、手段が大分限られてくるね……」
那珂が奮闘している間に、時雨は背部大口径主砲を展開して狙い撃つ準備をしていた。この場で出来るであろう、最も火力のある攻撃はコレである。だが、あの防御力を見ると、それと通用するかは何とも言えない。爆雷を踏みつけて、爆発させ、それでも無傷なのだ。
とはいえ、衝撃は与えることは出来るだろう。その攻撃が間違っているとは思わない。やらない理由はないし、やり続ければいつか通るだろう。その前に時雨の身体に支障が出なければ、だが。
肩をを刺し貫かれたことで、片方の主砲が上手く支えられない。その状態で放った場合、自分の攻撃の反動で腕が千切れかねない。それを考えると、この一撃はとっておきとなる。片方だけでも相当な威力はあるため、使っていくならそれで充分。
「そろそろ諦めてくれた? ボクは無敵の勇者なんだ。敵はここでちゃんと斃して、経験値を稼いで、前哨戦は終わらせるよ。ラスボス戦はもうすぐそこなんだから、こんなところで止まってるのは時間の無駄だからね!」
ゲーム脳全開の小柄は、さらに那珂に追撃を始めた。腕の負傷により動きが鈍ったところを見過ごさず、確実に始末するために圧倒する。
那珂もこれまでと同じように動けなくなっているのは確かだ。それでも、アイドルらしく笑顔を浮かべ、誰かに心配されるようなこともなく、血を撒き散らしながらでもステップを踏む。
「那珂ちゃん達の辞書に、諦めるなんて言葉は無いのです! だからぁ、もっと付き合ってもらうよ、観客さん☆」
「そろそろ付き合い切れないんだけどなぁ。ターンバトルも長々続くと飽きてくるんだよ?」
「アイドルのステージはセトリ通りに進むモノだからね☆」
噛み合っているようで噛み合っていない2人の会話。そもそも小柄が聞く耳持たない時点で対話にすらなっていないのだが、那珂は自分のペースを崩さないためにも、いつも通りを演じ切る。
故に、さらなる援軍はこの場に駆けつける。
「さぁ、来たよ。頃合いだと思っていたんだ。Урааа!」
時間は稼いだ。故に、この戦いを最も望む者──タシュケントが、仲間達を引き連れて、ここに辿り着いた。
明日8/8は抜けられない予定がありまして、投稿をお休みさせていただきます。次回の投稿は、8/9を予定しております。