カテゴリーKの小柄に大苦戦する後始末屋。時雨は剣に貫かれて肩を、那珂は砲撃が掠ったことで腕を負傷してしまった。戦闘に支障が出るレベルであり、特に時雨は決め手になりそうな背部大口径主砲の片方が支えられない状態となっている。
小柄は消耗すらしておらず、勇者の装備を見せつけるように戦ってくる。爆雷を踏みつけて爆発させても無傷で終わらせる勇者の鎧、軽い砲撃なら反動すら受けたように見えない勇者の盾、そして、砲撃を潜り抜けた先に待ち構えている近接武器の勇者の剣。そもそも強靭な尻尾そのものが武器となっているため、そう簡単には近付けない。
かなりのピンチと言えるそんな状況で、この戦場に足を踏み入れたのは、小柄の中にある艦娘の魂に因縁のある、こだかの艦長代理、タシュケント。そして、同様に向かってきた仲間達。タシュケントと同様に駆逐艦である3人。計4人の駆逐隊である。
「Урааа!」
タシュケントは思い切り叫ぶと、この小隊は小柄に向かって突撃を始めた。装備自体は全員が普通の艦娘。うみどりの面々のような特機を使った特殊な力を持っているわけではないし、艤装を改造しているわけでもない。30年前から生きている猛者という
「なになに? 君ってアレだよね、前に潜水艦にいた奴!」
「へぇ、覚えているんだね。頭が悪そうだから、あたし達のことなんて忘れているかと思ったよ」
「さっき思い出しただけー。記憶に残らないよ君達のことなんて」
故に、小柄は他の者達以上になめている。潜水艦──それこそ、タシュケント達が長年暮らしていた場所を破壊したというのに、そのことを不要な記憶とでも思っているのか、ついさっきまで本当に忘れていた。
ラスボスである特異点のこと以外は、大概適当にしか覚えていない。特異点を始末するまでの攻略情報にも入ってこないようなモノは、覚えていても仕方ないとすら考えている。
「でも、あの時は斃せなかったからね。経験値を取り逃すなんて、ボクしたくなかったんだけどなぁ」
「自分の思い通りにならなくて、ママに泣きついていた子供は、これだけ時間があれば少しは成長したのかい?」
潜水艦での失態──本人はそんな風には思っていないどころか、そんなことがあったことすら記憶の片隅に追いやっているため、タシュケントからそう言われても、都合よく解釈する。
「そーゆー君こそ、長い時間コソコソしてたのに、今はボク達の邪魔を堂々とするの?」
「ああ、勿論。あたし達の悲願の根幹は仇討ちだからね。正直、君達が目指す平和も、後始末屋が向かう平和も、そこまで深く考えていないのさ」
肉迫したタシュケントは、時雨の隣を通り過ぎ、那珂や舞風との位置取りを考えつつ、主砲を構えた。今戦場をパッと見ただけで、これまででこの戦場がどのように動いてきたのかを簡単にだが把握している。
時雨は大口径主砲を一発決めたい。那珂と舞風はそれを知ってか知らずが、小柄の隙を作るため、通る攻撃を調べるために、かなり近くで戦っている。そしてそれを見守るような位置で、加賀が弓を引き絞っている。艦載機による攻撃も欠かしてはいない。
「平和のこと、何も考えてないの?」
「君ほど後先考えずに行動なんてしないけれどね」
放たれた砲撃は、勇者の盾に簡単に阻まれる。駆逐艦の主砲では火力がまるで足りない。
となれば、今度は手数。これまでここにいた者達と数は変わらないが、全員駆逐艦でも出来ることはたくさんある。
「マイカゼ! ちょっと手伝ってくれないかい!」
「はいはーい! 何が必要?」
「手数が欲しいから、連携して!」
言葉は非常に少ないが、舞風とて歴戦の猛者。タシュケントからのその一言だけで、何をしてほしいかをおおよそ察する。
要は、一度に攻撃するときに、数多くの攻撃が欲しいということだ。砲撃を同時に放つとして、右から左からあらゆる方向から同時に撃てば、勇者の盾では止められないと考えた。後ろから撃つのは艤装が邪魔をするだろうから、全て正面から。
「単横陣! みんなで一斉射だ! Урааа!」
タシュケントを中心に横並びとなって、小柄を狙い撃つ。単体での攻撃は軽いモノでも、5人の駆逐艦による一斉射ならば綻びも出る。
しかし、小柄の持つ力は、単純に強い。ただの駆逐艦の砲撃くらいならば、尻尾を振り回すだけで簡単にいなせる。同時砲撃であろうがお構いなし。身体を回して尻尾をタシュケント側に持っていくだけで、その全てを受け止めてしまう。
「火力の無さを悔やむね全く。でも、まだまだぁ!」
小柄が尻尾をタシュケント側に向けたということは、小柄はその身体を加賀に向けたということにも繋がる。背後は防御力が非常に高かったが、正面ならば話が変わる。
加賀が弓を引き絞る腕は、血管が浮き出る程に力が入っていた。いつもより強く、激しく、必ず斃すという気持ちを持った一射が、かなりの至近距離で放たれることとなった。
「しっ……!」
強烈な一射は、小柄の胸を撃ち抜くような狙いで放たれる。駆逐艦主砲よりも強力な威力を誇るそれは、猛烈な勢いで向かっていく。
勇者の鎧は、現在下半身にしか装着していない。爆雷から耐えるためにそこだけ展開したに過ぎない。故に、小柄はそれを超反応で見据えると、ニヤッと口角を上げて、上半身にも鎧を展開する。その上で盾も使ってその矢を受け止めた。
ガギッと嫌な音を上げたが、それだけ。加賀渾身の矢は、盾を貫くことすら出来なかった。しかし、傷をつけることは出来ている。
「あっは、すごいね、すごい衝撃! でも、ボクはその程度で──」
「喧しい子供は好きじゃないわ」
加賀は矢を放つだけでは終わらない。盾でガードしたところを見計らって、もう駆け出していた。矢を放った反動など気にすることなく、最初から前進しながらだった。
超反応は持っているかもしれないが、矢をガードした瞬間はどうしても動きが止まる。背後は艤装も尻尾もない。盾に阻まれるだけ。
加賀は空母とは思えない行動を取っていた。小柄に向かって、海面を蹴り、跳んでいた。そして、盾に向けて強烈な蹴りを放つ。
体重を乗せ、勢いもつけたそれは、砲撃程の威力はなくても、衝撃は違った。一度弾き飛ばすだけでは終わらない、そのまま押し込むように。
「うわっ! でも、近付いてきたならぁ!」
盾を押されて姿勢を崩しかけるが、小柄は加賀に対して剣を振るう。生身に突き刺されば、それだけでも致命傷になりかねない。薙ぎ払われて四肢切断まで行ったら尚更だ。
「こんな使い方はしたくないのだけれど」
加賀もそれを理解して突撃している。小柄の斬撃は、甲板でガッチリ防御。ザックリと斬り傷はつくものの、それで甲板が真っ二つに斬られることもなく、加賀は軽く衝撃を受けるのみ。
「でも、だめーっ!」
しかし、小柄はまだ上を行こうとする。これだけ近くにいるのだからと、加賀に向けて尻尾を振るった。また身体を捻り、猛烈な勢いで叩きつける。
それも覚悟の上、加賀はその尻尾を、身体に傷を負うことも承知で、ガッチリと受け止めた。しかも、さらに前進してである。
後始末屋として作業をしていることで、レ級の尻尾の構造は、普通の艦娘達よりも熟知している。当たり前だが、見た目柔らかいところは、思っている以上に柔らかい。先端をぶつけられたら致命傷だが、柔らかいところなら衝撃は酷くても致命傷にはならない。砲撃を跳ね返そうが、柔らかければ関係ないのだ。
「くっ……でも、止めたわ……タシュケント!」
「Предоставьте это мне!」
加賀が尻尾を持っているということは、タシュケント達には身体が向いているということ。駆逐艦主砲であっても、簡単に止められることはない。今は5人集まっている駆逐艦、ここで撃たないわけがない。
「わ、ちょっと、離してよ!」
小柄は剛腕まで使って加賀を引き剥がそうとするが、しっかり真後ろについているからこそ、剛腕によって直接殴りつけることは簡単には出来ない。
その腕の構造は、後始末屋なら理解している。欧州水姫も、駆逐水鬼や外南洋駆逐棲姫も、同じような形状をしているのだから、コレだって同じ。
後始末屋ならではと対処法は、小柄にも想定は出来ない。自分の兵装の可動域も把握していない者が勇者だなんて笑わせる。
「Урааа!」
表を向いた小柄に向かって、再び一斉射。今度は艤装にも尻尾にも阻まれない。
「はんっ、そんな攻撃、勇者の鎧も盾も通さないんだから!」
「身体はじゃあないかい。頭はガラ空きだろうに!」
「勇者の装備は、兜まで揃って全部なんだよ!」
しかし、小柄はさらに装備を展開。頭を覆うような兜まで出来上がり、全身フル装備の勇者形態へと変貌を遂げた。頭さえもが守られて、砲撃を当たり前のように跳ね返す。首も頑丈なようで、衝撃を受けても何も気にしていない。本当に外部からのダメージに対しては無敵と言ってもいい勇者装備。
ならば最初から全て装備した状態で来ればいいのに、一つ一つ展開して行っているのには、何か理由がありそうである。
「全身包めば強いと思っているのかい。そういうのもくると思って、あたし達はいろいろ対策を持ってきているのさ!」
タシュケントはそんなことでは怯まない。攻撃が効かない、そんなわけがない。抜け口は必ずある。