集中的な攻撃により、小柄を追い詰めていこうとしたが、ついには勇者の鎧は上半身を覆い尽くし、兜まで被ったことで、小柄は完全に装甲に覆われることとなった。
尻尾による攻撃は加賀が無理矢理掴むことで食い止め、動きを止めることには成功したが、集中砲火を受けても関係なし。本体に攻撃が通らなくなったことで、避けるまでもなくノーダメージを貫く。
「全身包めば強いと思っているのかい。そういうのもくると思って、あたし達はいろいろ対策を持ってきているのさ!」
タシュケントはそんなことでは怯まない。攻撃が効かない、そんなわけがない。抜け口は必ずある。
「対策? 何かな何かな。でもその前に、いい加減離れてほしいんだけど!」
尻尾を掴み続けている加賀を、力任せに振り回す。先程はしっかりと掴まれていたが、ガタガタと揺らされると、加賀もその状態で維持することが難しくなる。
ずっと掴んでいる状態だと、嫌でも汗ばんできて滑りやすくなってしまうモノ。小柄の尻尾が冷たいわけでもない。
「くっ……」
ただひたすら押さえつけることは出来ず、加賀のロックが緩んで尻尾から手を離してしまう。するとすかさず小柄はその剛腕を振りかぶって、裏拳の要領で加賀をぶん殴ってきた。
加賀もそれはどうにか避けるため、体勢を低くする。無理矢理振り回しているため、かなり高い位置を殴りつけてきたからだ。這いつくばる程にしゃがみ込むと、紙一重で拳を避けると、そのままもう一回仕掛ける。レスリングのタックルのように、下半身狙いの体当たりである。
「同じことは、何度も喰らうつもり、ないんだよねぇ!」
その加賀の行動は、尻尾を海面に叩きつけることでキャンセルさせた。加賀はこれを避けるために、海面を転がるように横へと跳び、辛うじて潰されることを避ける。
後ろから組み付かれることは、小柄もあまり想定していなかったようだが、一度やられて勇者の装備をフルセット用意することになったため、後ろには立たせないぞと気をつけるようになってしまった。
「君のおかげで一個わかったよ。真後ろって、ボクの弱点なんだね。オッケー、もう後ろは取らせないから。ありがとうね!」
嫌味にしか聞こえない礼だが、小柄は自分を無敵だと思っていたところに、そんな欠点があることを気付かせてくれたことを本気で感謝していそうだった。だが、上から目線であることには変わりない。何せ、加賀が素手で掴んできたが、ここでもっとまともな攻撃をしてきていたならば、自分はもっと痛いことになっていたかもしれないと感じていたからだ。
「まぁ、こうなっちゃえば、何されてもボクにはダメージ入らないよ。今のボクは無敵なんだ。撃たれても、殴られても、なーんにも効かないんだからね!」
「へぇ、なら何で最初からやらなかったんだい。無敵になれるなら、ここに来た時からやっていればよかったんじゃあないかい」
タシュケントが問うが、小柄の表情はわからす。勇者の兜がフルフェイスというわけではないのだが、少しでも攻撃される場所を隠すため、視界は塞がないように、マスク状のパーツも付けられている。そのせいで、目くらいしかまともに見えなくなっていた。
「へへん、ボクのことを知って、攻略しようとしてるんでしょ。誰が教えるもんか」
「構わないよ、こちらで勝手に推理するし、そもそもその状態が無敵じゃないことを教えてあげる、よ!」
タシュケントがまたもや主砲を構える。フル装備となった小柄は、馬鹿の一つ覚えかと鼻で笑った挙句、レ級の尻尾を前面に構え、その攻撃を止めようと逆に砲撃を放った。
タシュケントは素早い。その砲撃は簡単に避け、やはり砲撃を放った。勇者の鎧と兜、さらには盾まである状態で、その砲撃が通用するとは最初から思っていない。それでも。
「行動パターンが同じだとやりやすいよ!」
タシュケントが狙ったのは頭。それならば、少し頭を動かすだけで避けられるし、そもそも避けずとも勇者の兜が弾き飛ばす。ついさっき同じことををしたのだから、同じように回避してしまえばいい。
ゲームならそれでいいだろう。同じ行動には同じ行動を。攻略はそれでいい。だが、ここからゲームではなく戦場だ。タシュケント達が常に同じ行動を取るなんてことはあり得ないし、環境は刻一刻も変化していくモノ。
繰り出されたのは砲撃だけではない。タシュケント以外の駆逐艦達は、雷撃を放っている。爆雷が効かなかったということもあるのだが、勇者の鎧の突破方法を調べるため、可能なことは全てやる。まずは、
「ははっ、魚雷だって効かないし!」
タシュケントの砲撃を兜で弾き飛ばし、魚雷はわざと避けずに蹴り飛ばす。足に当たれば当然爆発するわけで、小柄の正面で激しい爆発が起きるが、それが晴れた時には、無傷の小柄が立っていた。
爆雷を踏んで無傷なら、魚雷でも無傷なのは予想が出来るモノ。それでもやったのは、魚雷に対しての行動を知るため。
「へぇ、避けないんだ」
「避ける必要がないからね!」
「
タシュケントからの言葉に対して、小柄は表情を変えた。勇者の兜が口元も覆っているため、何処までの変化かはわかりづらい。しかし、目元が明らかに細くなったのは間違いなかった。
「少し考えればわかることじゃあないか。それだけゴテゴテした鎧なんて身につけたら、機動力が下がってもおかしくはないんだ。魚雷を喰らっても無傷でいられる程のモノなら、尚更制限がかかるだろうに」
「それがどうしたのさ。ボクは動く必要がないから動いていないだけだよ!」
「はいはい、そうだね。実際動く必要は無いんだろうさ。でもね、動けないっていうなら話は別だ。あたし達のやりたいことを、避けずに喰らってくれるということだからね」
タシュケントはここから搦手を使う。まともな手段に対しては無敵というだけであり、
舞風は先行しているため、搦手はない。だが、他の者達は最初から仕込んでいる。その一発目を繰り出す。
「第一射!
タシュケントの号令に応える仲間達は、装填する砲弾を切り替えて小柄を狙い始める。赤の弾丸、赤というところがタシュケントのお気に入り。
それが何かは、小柄にはわからない。しかし、これまでの傾向からして、殺傷力のある砲撃ですら、避けずに受けて無敵をひけらかすような真似をしているのだから、避けるつもりはないだろう。
「何をしてきても、ボクは無敵なんだ! 勇者なんだなら!」
「勇者か何かは知らないけれど、あたし達と同じ、今を生きるヤツなんだから、効かない理由はないのさ。ちなみに効くけれど、君は子供だけど、カレーは辛口で食べられる方かい?」
「は、カレー?」
タシュケントからの質問の意味がわからなかった。だが、赤の弾丸が飛んできた時、何か嫌な予感がした。超反応が出来る動体視力が警告する。これに当たったら、嫌な思いをするだろうと。
しかし、小柄は咄嗟に動けない。タシュケントの言う通り、避けないではなく、避けられない。フル装備にすると、無敵の防御力を手に入れる代わりに、機動力が鈍重になる。デメリットのないメリットなんて存在しない。
ならば、その場から動かなくても、それを受けないようにしてしまえばいい。身体をその場で捻って、艤装の剛腕で砲撃を殴りつけた。
その弾丸は、破壊がトリガーになるとも知らずに。
「えっ、何これ!?」
拳で破壊したのも束の間、弾丸は赤い粉を撒き散らして爆発。殺傷力皆無の一撃。しかし、その効果はすぐに現れる。
「か、辛ぁ!? 目がっ、目が痛い!?」
「赤の弾丸、キャロライナ・リーパーの粉末さ。身体へのダメージは必要ないよ。最悪失明するかもしれないからだね」
傷が付くようなダメージはない。ないのだが、激しい痛みを与える粉末兵器。全身を覆う鎧を着込んでいたとしても、隙間がないわけがない。小柄は首から下をボディスーツで包んでいるが、顔は表に出ている。兜を装備した今でも、口は隠れているが目はそのまま。もしこれがフルフェイスだったら話は変わったかもしれないが、そうで無かった事が運の尽き。
物理的な攻撃は跳ね返せても、空気を侵蝕する毒は避けることなんて出来やしない。
「次、第二射!
赤に続いて白。小柄が辛味で悶絶し、剛腕や尻尾を振り回すしか出来なくなったところで、追加で攻撃を加える。鎧は脱いでいないのだから、やはり直接的なダメージは与えない。
白の弾丸は、鎧を着込んでいる者には特に効果的となるモノだった。監修の響の悪戯心が炸裂した、嫌がらせ特化の一発。
隙を見て放たれたそれは、拳をすり抜けて勇者の鎧に直撃する。衝撃すらないくらいの、ただぶつけるだけのそれは、本質的に鎧の隙間に入り込もうとする。
「なになになに!? ネバネバする!?」
「白の弾丸、接着剤弾。君の関節をガッチリ固定してあげるよ。本当ならもう一つ効果があったんだけどね」
そのもう一つの効果は、痒み。とろろの成分まで含んでいることで、肌を固着させつつ、痒みによって集中力を削ぐという嫌がらせである。小柄がボディスーツを着込んでいるせいで、そこまでの効果は発揮せず。だが、染み込んでいけば話が変わるかもしれない。
「第三射、
辛味で視覚を奪い、接着剤で行動を奪い、そしてトドメの三発目。これは殺傷能力すらあり得る、渾身の一撃。避けることも難しくなった今こそ放たれる、トドメの一撃。
鎧も兜も盾も覆せないだろう。だが、この海の上だからこそ強烈に作用する攻撃。
「今度は何!? って、さ、寒い、痛い!?」
青の弾丸が直撃しても、傷はつかない。だが、その中に入っていた液体は、その鎧を瞬間的に凍結させる。接着剤によって固着させられたモノも、ガチガチに固まっていく。
「青の弾丸、液体窒素。調査隊に分けてもらった甲斐はあったかな?」
いくら深海棲艦の装備をしていたとしても、この瞬間凍結からは逃げられない。白雲のそれとはまた違う、『凍結』ではない鎧そのものを瞬間凍結させる液体。内側から凍りつけば、その作用によって強度が一気に変わる。
「三式弾ならぬ、三色弾ってね、ヒビキから案を貰ったのは正解だったよ!」
響の冗談みたいな笑みが思い浮かぶようだった。
赤、白、青は、順序は違いますが、ロシア国旗です。