小柄の猛攻が続く中、勇者の装備を全て展開したことで機動力が落ちたことを見抜いたタシュケント達は、ここから搦手を使っていく。
三式弾ならぬ、三色弾と称した3つの弾丸、赤の唐辛子弾で目を潰し、白のとろろ接着剤弾で行動を抑制、そしてトドメの、青の液体窒素弾によって瞬間凍結。これにより、勇者の鎧はガチガチ凍りついた。
「さぁ、このまま押し込ませてもらうよ! みんな、改めて一斉射だ! Урааа!」
ここまでやったことで、小柄はついに完全な無防備を曝け出した。そこを狙わない理由はなく、タシュケントの号令で一斉に砲撃を放つ。
フル装備であるため、どんな攻撃をされたところで効かないと豪語したが、目を狙った攻撃と、束縛を狙った攻撃には、鎧も何もあったものではない。
タシュケント率いる駆逐隊は、ここから赤、白、青を自由に放つようになる。一斉射で息を合わせて確実にぶち当てることをしたが、それが今の小柄に対して、ダメージがあるわけではなさそうだが、精神的苦痛を味わってもらうために必要不可欠。
「っの、変な弾ばっか撃ってきて!」
「変な装備しているヤツに言われたくはないね!」
ここまで当たると、致死性のモノはそんなに無いにしても、身体の動きはより鈍くなるというモノ。どの色の弾が一番苦しいかを超反応で見極め、本当にまずいのが青──液体窒素であることを瞬時に判断し、その砲撃を盾で防いでいく。
直撃した青の弾は、鎧の隙間から内側に浸透を始めている。その場所がパリパリと凍りついている感触に、小柄は気付いていた。冷やされて寒い、凍りついて痛い、そして──
「あっ……!?」
パキンと、勇者の鎧の端が欠けた。内側から急速に冷やされたことで、自信満々に無敵と言っていたそれが破損したのだ。
「そんなっ、ボクの装備は、無敵の勇者の装備なのに……!?」
「無敵なんてないのさ。そんなモノあったら、みんな使っているよ」
タシュケント達は手を止めない。鎧にほんの少し破損が出たということは、今の攻撃は間違いなく通用するということだ。
「ぅあっ、目が、目が痛い……!?」
「何か文句があるのかい? あたし達は、君達が正々堂々と戦っているとは思っちゃいないんだ。なら、何をやっても文句を言われる筋合いなんてないと思うけれどね」
「う、うるさい、うるさい! ボクは勇者なのに、無敵なのに!」
ついに化けの皮が剥がれる。これまでは自分は無敵であり、誰にも負けないと思っていたからこそ、自信満々な上に圧倒的な力を振るうことが出来た。心持ちで力を強く発揮出来るタイプならば、自信がそのまま力に繋がる。ゲーム脳で、遊び感覚で敵の命を奪うことが出来るのだから、自信家といえば自信家だ。
だが、後始末屋の度重なる抵抗でそれが少しずつ崩れていた。最初に伊26を圧倒し、重傷を負わせるところまでは何も変わらなかった。時雨と那珂に傷を負わせたところでも、まだ自信が折れることはなかった。加賀に尻尾を掴まれたとしても、何も変わらない。そういうことも出来るんだすごいなで終わる。
だが、タシュケント達に関しては、話が変わる。徹底した対策。近付くことすら許されない。勇者の装備を全て展開させられるくらいに追い込まれ、そうなったことで余計に追い込まれる、
自分の行動が全て良くない方向に向かっている。小柄はそれを自覚することなく、しかし勇者であるという自信から、無意識的にもムキになる。フル装備になれば何も効かない。動きは鈍重になるが、攻撃なんて効かない。そういう慢心から、装備の解除すらしなかった。
結局、そこが子供なのだ。ゲーム脳なのだ。これがターン制のバトルならば、動く必要もなく、攻撃を受けても全て跳ね返せばいい。RPGならば無敵の戦術と言えるだろう。だが、この世界はゲームではないのだから、タシュケント達は数を使い、本来やらないことをやる。ターンなんて待たないし、相手の都合なんて考えない。
「子供が戦場に出ていることがおかしいんだよ。帰って大好きなゲームでもやっていればいいのさ」
砲撃は止めない。三色弾を放ち続ける。辛味で翻弄し、接着剤で身体を固着し、液体窒素で凍結させる。
徐々に動けなくなる。身体が固まってくる。そして、冷たくて痛い。それは単純な焦りに繋がる。小柄はますます言葉が荒くなるのみ。
「こんな前座に、ボクが負けるわけないのに!」
「現に負けているじゃないか。ゲームならやり直しが利くんだってね。でも、これは現実なんだ。死んだら終わり。わかってるだろう?」
「そんなの、ボクが勝てば関係ないんだ!」
「負けているじゃないか。同じことを言わせるんじゃないよ」
前座扱いに苛立ちを覚えそうになるが、今ならば逆に言い返せる。小柄は、出洲の前座であると。
「シグレ! 撃てるかい!?」
「ああ、片腕だから安定しないけれど、ある程度は慣らした。やれるさ……!」
ここまで三色弾を撃ち込んだことで、所々がその色に染まっている小柄に、タシュケントは今がチャンスだと合図を送った。
片腕を負傷し、背部大口径主砲を十全の力で使えない時雨だが、主砲1つでも普通の駆逐艦主砲を大きく超える火力を誇る。だからこそ、通る。
「動けないなら、ただの的だね。卑怯だなんて言わせないよ。君だってチビなのに戦艦の主砲が使えるんだから」
そして放たれる砲撃。小柄は自分の身体が動かないことを完璧に理解しているわけではないようで、まずは回避しようと身体を動かした。しかし、接着剤によって膝の関節が固着し、簡単に動かなかった。ならばと、その強烈な威力を尻尾で受けようとする。しかし、こちらは根本から凍結しており、すぐに動かなかった。
「無敵なんだろう。身体で受けなよ。可能ならね」
小柄は考えている余裕はない。超反応によりガードを選択する。時雨の煽りなんて気にしていられない。
「ボクは、無敵の勇者なんだ! だから、そんな攻撃止めてやる!」
ここで小柄、盾を前に出して時雨の砲撃を受ける構えに出た。その盾にも液体窒素がぶちまけられており、凍結の痕跡が見えていた。
タシュケントはその選択をしてくれたことに、ニヤリと笑みを浮かべた。その盾には、加賀が全力の一射によって僅かにでも付けた傷がある。そこに液体窒素による凍結が重なればどうなるか。
「ガシャン、だ」
宣言通りであった。時雨の砲撃を真正面から受けた小柄の勇者の盾は、それを跳ね返すことは出来た。だが、その代償として、ど真ん中、加賀が付けた傷を中心にバキリとヒビが入り、完全に破壊された。
勇者の盾が破壊されただけでは終わらない。それは衝撃に耐えきれなかったということに他ならない。小柄は自身も、そこから吹っ飛ばされることとなる。海面を転がされることなんて、これまで無かっただろう。圧倒的な敗北感に苛まれる。
だが、負けを認めることなんてしない。まだ負けていない。勇者なのだから。平和の使者なのだから。自分が正義であり、敵が全て間違っているのだから。自分がやられることがおかしいのだ。
「ボクの盾が……っ!?」
「さぁ、君を守る盾は無くなったよ。まだまだこちらは止めるつもりはない!」
「よくも、よくもっ! ママっ、ママぁーっ!」
そしてやはりと言うべきか、ここで小柄は母親に泣きつく。潜水艦での戦いでも同じことをした。ピンチになると、すぐに親の力を頼る。そういうところはまさに子供、いや、
その親の姿は、今はここには見えない。しかし──
いきなり工廠が爆発した。
「なっ!?」
今、鎮守府は占拠している状態だったのだが、そこに向かっていく姿は見ていなかった。小柄と同様、海中経由で来たというのなら、見逃している可能性はあったが。
それで今の爆発。襟帆提督の投降と裏切りを知って制裁を加えに行ったか。襟帆提督は、子日達潜入部隊は無事か。そういう不安が渦巻く中、それは現れる。
「……何があった」
凛とした表情で刀を握る中柄──小柄の母が戦場に立っていた。そして、粉々に破壊された勇者の盾と、ところどころ汚れている勇者の鎧、そもそもフル装備になっているくらいに追い込まれているのを見て、その相手に目を向ける。我が子に何をしたと、あらぬ恨みを向けてくる。
「ママ、コイツらまたボクを虐めるんだ!」
「そうか……またか。ならば……どうにかしなくてはならないな」
小柄を庇うように前に立つ。タシュケントはそれを見ても怯むことはない。
「まさか、あたし達は君の子供に殺されるのを抵抗すらすることが許されないのかい? 一方的に嬲られることが当たり前で、それに抵抗したらイジメになるのかい? 君の子供がやっていることはイジメ以外の何モノでもないはずだけれど?」
「ボクは勇者なんだ! だから、何をやってもいいんだ! お前達は敵なんだからやられるべきだろ!」
「黙ってなよクソガキ! 今は君に話を聞いていないんだよ!」
タシュケントが声を荒げると、小柄はビクッと震える。これまでとは違う、敗走しかけた状態で、敵をわざわざ怒らせる行動をしたのだ。中柄の陰に隠れるようにした時点で、もうただの我儘なクソガキである。
「子供の喧嘩に親がしゃしゃり出てきて、一方的にイジメというのかい? まさか、子供がイジメと言えばイジメだとか、巫山戯たことを言わないよね。君は親なんだろう。子供をどう躾けたらそんな生意気で自分勝手なクソガキに育つんだい」
「……貴様らには関係ない」
「こっちは殺されかけてるんだ。正当防衛で被害者ヅラするのは、他の連中と変わらないね。何が高次の存在だ。人様の同胞の命を好き勝手使っておいて、恨みを買わないと思ってるならただの愚か者だよ。で、文句を言われたら力でねじ伏せるんだろう? なら、あたしは優しい魔王につくよ。暴君の平和なんて、この世界にあってもらっちゃ困るね」
「……言いたいことはそれだけか」
「返す言葉がないんだね。なら自分の落ち度もわからないくらい頭が悪いか、わかっていても止まらないバカかのどちらかだ。自分の命を天秤にかけないでいきがってるんじゃないよ!」
タシュケントの口を塞ぐため、中柄が動く。恐ろしく速い動き。殺意の乗った刀が、見えないような速度で放たれる。
「ようやく出てきてくれたわね。待っていたわよ、ママ友!」
だが、それは通らない。何故ならそこには──神風が辿り着いていたのだから。