子供を守るための行動を主にする中柄は、神風を止めるため、さらに二本の腕を生やすことで、四本の腕、三本の刀を使うようになってしまった。
タシュケントが閃光弾などを使って小柄との分断を図るものの、その力の前に上手くいかない。神風も前進が難しくなってしまい、再び中柄と小柄は合流してしまった。
こうなると、口が達者な小柄がいらないことを言い出す傾向。親がいるから逆らえないだろうと調子に乗り、好き勝手喋り出す。
「やーい、お前らなんて、ママに負けるんだっ。勇者であるボクが、負けるわけないんだからね!」
「実力で負けそうになっているのに、どうしてこう、わかりやすくクソガキムーブが出来るんだろうね。呆れてモノも言えない。聞いていてただ腹が立つだけだよ」
中柄がいるから拮抗しているのに、それを自分の手柄のように語る小柄は、見ていてあまりにも滑稽で、見るに堪えないモノである。虎の威を借る狐どころではない。
本人もそれなりの実力者であり、搦手無しの真っ向勝負ならば押し負けていただろうが、こういうところで小物であることを露呈してしまっているため、もう誰も小柄のことを脅威と思っていなかった。
ただのクソガキ。みんなで力を合わせれば、乗り越えられない相手ではない。
しかし、中柄は違う。こちらは別格である。あの神風が一騎打ちをしているからというのもあるが、小柄と比べても実力が段違い。
今は異形と化し、子供を守るために立ち塞がっているが、その圧は並ではない。異常すぎる力は見た目だけでなくその動きでわかる。
「我が子は、やらせない」
あくまでも母親の感情。愛すべき我が子を守るため、目の前に立つ敵という敵を斬り伏せる。子供に指一本触れさせない。一度死を迎えた我が子に、二度目の苦しみなんて絶対に与えない。母の歪んだ愛情が、過剰な力を与えていた。
本来の両手で刀を握り、新たに生えた1対の腕で刀を1本ずつ握った三刀流。見据えているのは、この中でも最も脅威であろう神風。
小柄を少し下がらせたかと思いきや、軽く海面を蹴った。
「っ!?」
真正面から来たのに、神風は防戦一方だった。自分の身を守るために、振るわれる三本の刀を無理矢理捌いていく。
単純な数だけで言えば、中柄の方が手数が3倍。神風はそれを捌き切るのに、3倍の速度を出さなければならない。全ての刀を同時に繰り出してくるのなら捌きやすいのだが、ご丁寧にも全てをバラバラな動きで攻め立ててくるせいで、神風とて捌き切るだけで攻撃に出られない。
「何も知らない貴様らに、我が子は、やらせない!」
神風よりもスピードは劣るにしても、膂力は彼方の方が上。それでかつ、手数を増やしたことで劣っているスピードもカバーしてきているのだから、神風は非常に苦しい戦いを強いられている。
こうしている間にタシュケント達は小柄を狙えばいいと考える。だが、今神風にのみ向かっている中柄の攻撃が自分に向いた時、それをどうにか出来る自信があるか。
砲撃すら斬り飛ばすような敵が、何の力も持っていない普通の艦娘でどうにか出来るとは到底思えない。小柄のようにただ手数があるだけ、守りが硬いだけの敵ならば搦手でどうとでもなるが、搦手も何もあったモノではない敵には、束になってかかっても苦しいだろう。1人ずつ淡々と首を刎ね飛ばされておしまいまである。
故に、動けなかった。どうすれば援護が出来るかわからないくらい。強いて言うならば、小柄は放っておいて、全員で中柄にかかればまだ何かできるかもしれないが、困ったことに神風との距離が近すぎるため、砲撃は無理で搦手も巻き込む。
「へっへー、ママに手出し出来ないんだろー!」
「ああ、君のママには手出しが出来ないよ。アレは本当に強いからね。君と違って、本当に強いよ。君と、違ってね」
「へっ、負け惜しみー!」
「ああ、君には勝てるけれど、アレを相手するわけにはいかないから、仕方なく君を放置しているんだよ。君はいつでもいくらでも痛めつけることは出来るけれど、君のママだけが厄介だから、やらないでおいてあげているだけなんだ。残り少ない命を今のうちに堪能しておきなよ。あたし達も命は惜しいからね。あーあ、君だけならクソ雑魚だからさっさと始末出来るんだけどなぁ。残念だなぁ」
小柄の悪態を上から押し潰すレベルの当てつけのような言葉をぶつけていくタシュケント。調子に乗り続ける小柄も、今この時に全く動かない辺り、余計なことをしたら中柄の迷惑になると察しているのだろう。
自分から向かってきて、やり返されたら中柄が動き出すという最悪のマッチポンプが形成出来ているのだが、小柄が単独で動き出したら、今のタシュケント達なら確実に小柄を擦り潰せる。中柄が守る暇も与えずに、確実に押し潰すことが出来る。だが、動かないならばこっちが先にやることになるせいで、中柄が神風を無視してでも守りに来るだろう。
「ママが怖いくせに、何言ってんだか!」
「ママがいないと何も出来ないくせに、よくもまぁそんな大口叩けるモンだよ。実力のないガキが、壁の向こうで何を言ってきても何も痛くも痒くもないんだよ。なら、君も今すぐママの陰に隠れていないで攻撃してきなよ。出来ないんだろう? なら、黙って見てな。そもそも勇者は自分の力をひけらかしたりなんかしないんだ。君の力ですらないのに、自分の力のように振る舞うのが実に滑稽だ。わかりやすく言えば、君は本当にダサいよ。雑魚が余計に雑魚に見えるから、口を閉じておきなよ」
舌戦はタシュケントの方が上である。小柄を口で言い負かした後、いつでも神風の援護が出来るように主砲を握り締めた。
結局、小柄は口ばかりで動くことはしなかった。海中に逃げることもしない。一方的に叩ける場所にすら行こうともしない。中柄の戦いの行方を見ていないと怖いのだ。何せ、もし中柄がここでやられたら、次は自分。負けてもらっては困るという、あまりにも傲慢な思いが強かった。
だからタシュケントは、その行為をダサいと言った。子供でもわかる侮辱を、キチンと言葉にしてぶつけておいた。
一方、神風と中柄の戦いは拮抗から少しずつ崩れていく。中柄の手数に、神風が圧倒され始めているのだ。
両手で握る一本目の重い一撃を受け流す時、背後からの二本目と三本目による斬撃が襲いかかり、それをどうにか間合いを取ることで回避。一本目よりも威力が低いとはいえ、殺傷力は同等。直撃は死に直結し、掠めても出血により回避が難しくなるだろう。
「それほどの剣術、どう身につけたのかしらね」
神風は壊れた努力の末に超人と化した。恨み辛みがここまで押し上げた。だが、中柄のこの強さは、何処から来ているモノなのだろうか。長年の修行の成果か、それとも改造による無理矢理の結果か。
どうであれ、この強さは尋常ではない。神風であっても太刀打ち出来ない力となれば、話が大きく変わる。
「でも、そんなこと今は関係ないわ、ねっ!」
島の地下施設でも見せた、神速の斬撃。真っ二つにし、細切れにすら瞬時にする、目にも映らぬ斬撃。防御だけでなく、攻めにも転じる。
しかし、中柄はそれにすら反応する。速い代わりに軽いと判断され、斬撃の軌道さえ見えればそれは全て受け止めることが出来てしまう。ガリガリと嫌な音は聞こえるモノの、それが中柄に届くことは無かった。
刀だけでなく、刀を握る腕を狙うこともしているのだが、それだけでは足りない。四本の腕のガードと、小柄にもあった超反応を見せ、むしろ神風のそれを押し返す程の力を見せつけてくる。
「貴様には負けん! 私は、我が子の平和のために!」
「その平和が、こちらには大迷惑なのよ!」
刀同士がぶつかり合い、火花を散らせる。だが、ここで手数に優れる中柄が勝負に出た。一本目で鍔迫り合いに持っていった後、二本目と三本目で袈裟斬りにしようとしたのだ。
そのまま迫り合っていたら確実に肩からバッサリ斬られる。だが、引こうとすると迫り合っている刃が襲いかかる。
どうすればいいか、瞬時に頭を巡らせる。巡らせて巡らせて、それは一瞬に答えとなる。
「仕方ないわ」
神風の瞳が輝いたように見えた。その瞬間、それこそ風が舞うかのように駆け抜ける。
鍔迫り合いをしていた刃はすり抜けるように空振り、二本目の三本目は神風がいたところを通過する。そして、神風自身は中柄の真横を通り過ぎ、その腹をザックリと斬り払っていた。
身体に大きく負担がかかりすぎるために滅多に使わない、神速をさらに超えた一閃。
「くっ……だが、浅い!」
しかし、中柄は身体も強靭であった。バッサリ行ったと思っていた脇腹には
少し血が流れる程度の傷しかついていなかった。
中柄はその速さにすら対応して、僅かにでも身体を逸らしていた。まともに身体を両断する軌道では無かったことで、そこ止まりとなってしまった。
「ちっ……」
「はぁ!」
そうなると、今度は神風が隙だらけとなる。背後を取られたようなカタチとなったため、神風はすぐに海面を蹴った。
中柄の放つ斬撃を紙一重で避ける。だが衝撃が凄まじく、一瞬海すら消えたかのように見えた。
「っ……まだよ」
神風はこんなことではあきらめない。まだやれると、すぐに構え直す。相当の無理をしたが、まだ戦えないわけではない。むしろ、気分は昂揚している。
まだ行ける。まだまだ行ける。みんなを守るため、この戦いを終わらせるため、自分はまだ行ける。
「終わらせる!」
「終わらないわよ、私達は!」
再び交わされる鍔迫り合い。そして、嫌な音を立てる刀。最高の仕立てにより、刀が折れるようなこともなければ、刃こぼれすら起きない。完全に実力勝負となっていた。
「……そろそろ本当に、使うしかないか」
神風は覚悟を決める。その覚悟に反応して、神風の胸元が蠢いた。そこにいるのは、深雪から託されている特機である。