中柄の力に拮抗を維持することが難しくなってきている神風。やはり刀を三本振るわれるというのが苦しく、神風のスピードを以てしても、ギリギリ捌き切ることが出来る程度。攻めに転じることが非常に難しい。
ここで負担度外視の更なるスピードの先に足を踏み入れた一撃を放ったのだが、それは超反応により避けられていた。傷はつけられたが、深くない。
神風より速くはないが、神風のスピードに目と身体が追いついているという時点で、膂力が劣り、手数もある中柄に分があるのは一目瞭然である。今のままでは打開策が無い。どうにか拮抗していても、ジリ貧なのは火を見るより明らかだ。
「……そろそろ本当に、使うしかないか」
神風は覚悟を決める。その覚悟に反応して、神風の胸元が蠢いた。そこにいるのは、深雪から託されている特機である。
これまでも何度かこれを使う機会はあった。ピンチに陥った時に、これを使うことはずっと頭を過ぎっていた。だが、これまでは仲間達のサポートがあれば、使わずに済んでいた。
これは神風の中でも奥の手。出来ることならば使いたくないモノ。深雪に頼って力を得たくないとかでなく、単純に身体への負担のことを考慮してのことだ。
ただでさえ普通に戦っていても、力を大きく発揮した翌日は倒れて使い物にならなくなる神風。特機の力でそれをさらに引き出した場合、翌日どうなってしまうのか。それは一抹の不安にもなっていた。そのため、なるべくなら使わないでおきたいと、ずっと思っていた。
だが、今回ばかりはそんなことを言っていられない。躊躇っていては勝ち目もない。これまでに無いくらいにピンチであり、仲間達も手を出さない、自分でなければ先にも進めない。
「でも……こんな戦いの真っ只中で、出来るの……?」
しかし、特機で力を得るためには、少し時間が必要である。身体を変える、身体を駆け巡る衝撃を耐えねばならない。その時は明確な隙だ。
今ですら防戦一方、起死回生の攻め手も紙一重で避けられ、まだあちらは消耗すらしていない。だがやらねばならない時である。
快楽に耐えながらこの攻撃を受け切れるか。時間稼ぎを仲間に頼って、どうにかなるのか。烏滸がましい考えな気がしないでもないが、この中柄の猛攻に耐えられるのか。
いや、この仲間達なら、ほんの少しの時間稼ぎならやってくれる。長々と悶絶するわけではない。神風ならば耐えられる。ここで勝てなければ、本当に終わりなのだ。だから、そのための力を願う。
「やるしかないわね……ええ、やるしかないわよ」
「何を独りで」
「ええ、貴女に勝つための力は、すぐ傍にずっとあったのよ。私が弱いから、それを使うことをずっと躊躇っていただけ」
神風の目には力強い光が秘められている。中柄からしても、ここまで圧倒していても希望を失わない神風に嫌悪感を持っていたが、それがより一層強くなった。
「ならば、使わせるわけにはいかない」
「でしょうね。でも、貴女に勝つためには、使わざるを得ないのよ」
神速を超える一閃を放ったことで身体には既にガタが来ている。だが、神風からは余計な力が抜けていることで、中柄の攻撃を軽々と避けていた。とはいえ、攻めに転じることが出来ないのだから、戦況は動かない。中柄も対応力がおかしいため、ここから神風にすぐさま追いついてくる可能性は充分にあり得る。
「みんな! 特機を使うわ! 少しだけ、少しだけ時間を稼いでちょうだい!」
高らかに宣言する神風に、仲間達はマジかという思いを隠さなかった。確かに神風はこれまで実力のみで戦ってきたが、この中柄はそこまでしないと斃せないのかと。むしろ、ここまで特機も無しに全ての戦いを乗り越えてきた神風に若干戦慄しているところもあるが。
「時間など稼がせない。我が子を守るために……」
「なら君の子供は今は放置しておいてあげるよ。あんな雑魚、放っておいても構わないからね」
その時間稼ぎに真っ先に動き出したのは、小柄と舌戦していたタシュケントだった。小柄を狙うから中柄が即座に動き出す。ならば、最初から中柄を狙う。小柄は完全に無視。何か言っていたとしても、全て無視。この戦場にいない者として扱ってやってもいい。
「貴様……」
「カミカゼ! あたし達が時間を稼ぐ! なぁに、これまで動きを見させてもらったんだ。死にはしないよ!」
「それなら、那珂ちゃんも前説やっちゃおーかなっ☆」
「ダンサーのワンマンショーも準備オッケー!」
さらにこれまで動けていなかった那珂と舞風も一歩前に出た。腕を負傷していたとしても、笑顔は崩さない。
さらには、この戦場にはまだまだ仲間が訪れる。特に強力な力を持つ者が。
「神風さん、使うならこちらへ!」
そう、妙高だ。伊26の応急処置をしている睦月を守るため、その力を発揮し続けていたが、今ならば移動出来ると動き出した。『ジャミング』さえあれば、中柄からの攻撃も簡単には当たらない。特機を使うなら今である。
「ありがとう、みんな、ごめん!」
「早く使ってきてくれないかい。僕達だって粘るのはかなりきついかもしれないんだからね」
そんな悪態をつくのは、相変わらずの時雨。片腕が使えなくとも、牽制くらいならいくらでも出来る。中柄に撃ったところで斬り飛ばされるのがオチだろうが、そうされている間は神風に目が向かない。
そうやって神風に時間を与えることが最優先だ。中柄に敵うとは最初から思っていない。だとしても、負けるつもりも毛頭ない。勝ち目に繋げるため、どうにかしてでも時間を稼ぐ。
「むー、みんなしてママに群がって! ママ、ボクもやるよ!」
「黙ってなよクソガキ! この中で一番の雑魚なんだから、怯えて泣き叫んでればいいのさ!」
「雑魚!? ボクは無敵の勇者なんだぞ! お前達なんかに負けるはずがないんだ! そうだよね、ママ!」
「ああ、お前は無敵だ。誰よりも強い」
この母親の甘やかしが、ここまで歪んだ性格にしたんだろうとよくわかる。ただでさえ一度死んで蘇るとネジが飛ぶのだから、そこから余計に歪むように教育すれば、ただの我儘なクソガキになっておしまいだろう。
その結果がここにわかりやすく立っている。そして、母親も歪んでいるのだからタチが悪い。邪魔だから来るなと子供に言っても、我儘に癇癪を起こして突っ込んできて、自分のせいで怪我をしても勝手に泣いて、親が全て他人のせいにする。親も子も、どちらも狂っている自己中心的な存在。自分達が中心であり、他の者はそれを引き立てるだけのモノ。
「どうにか食い止めるから、早めに頼むよカミカゼ!」
「ええ、お願い。それじゃあ……」
妙高の近くまで向かい、胸元に忍ばせていた特機を取り出す。特異点の、深雪の力が込められたそれは、ついに使うんだと神風を見つめるように凛とした姿で手のひらの上で立っている。
「この戦いを終わらせる力を。みんなを未来に進めさせる力を。あの狂った母子を止められる力を。高望みかもしれないけれど、私に、あの子を守るだけの力をちょうだい」
強く、強く願い、そして、特機を胸に押し付ける。特機はその願いに応じるように、神風の体内へと入り込んだ。
その願いは優しい願い。ただ戦いに勝つ力を求めているわけではない。仲間達の未来のため、
神風の願いは、深雪を生み出す一端にもなった、とても強い力を持っている。それがあるからこそ、神風に与えられる力は未知数。全てを引っくり返す程の力。
「っく……っ」
如何に神風とて、身体を駆け回るその快楽には顔を歪ませる。耐えられないわけではないが、この状況で中柄と戦うことは出来なかっただろう。仲間達のサポートが無ければ、この選択すら出来なかった。
だから、なるべく早く、その力を自らのモノとする。特機もその神風の意志に寄り添うように、早く、より強力な力を与えるために、本気を出す。
「……させん」
中柄が神風に目を向ける。何かをやっている。それはわかるが、何が起きるかはわからない。それならば止めるしかないだろう。
しかし、中柄が神風の方に行けば、小柄が取り残される。中柄としては、それはそれで看過出来ない。
結果的に、子供が足を引っ張るカタチになっている。しかも、その子供が自分は無敵の勇者なのだと我儘に前に出ようとしていることもあるため、放っておけない行動をする。
神風が少しでも戦場から退き、仲間達が時間を稼ごうとする時点で、その思惑は半分は叶ってしまうモノであった。
「……やれるか?」
「当然! 勇者の盾は壊されちゃったけど、僕はそんなの無くても無敵なんだ! こんな雑魚敵に、負けるはずが無いんだから!」
「大口だけは相変わらずだね。それじゃあまた、あたし達の三色弾を喰らってもらうよ、クソガキ」
「へっへーん、今はママもいるんだから、そんなの喰らわないもんねー!」
親の陰から大きな顔をしているだけの、非常にダサい勇者様。タシュケントは舌戦を繰り広げるのも疲れてきたようである。
だから、実力行使でここに来たことを後悔させる。仲間達と力を合わせて。
その仲間は、さらに増えることになるのだから。
「子日も来たよ! 鎮守府は大丈夫だから!」
爆発した工廠から、子日がこの戦場に参戦したのだ。