神風が特機を自らに寄生させ、カテゴリーWへと変化している間、仲間達でその時間を稼がねばならない。相手はあの神風すら圧倒する中柄。気を抜いたらその時点で命が刈り取られると言ってもいい程の厄介な相手。しかも、現在4本の腕を持ち、三本の刀を握る異形である。
また、その後ろには中柄の強さに便乗している我儘なクソガキ、小柄もいる。今でこそ搦手でどうとでもなる相手であることが判明しているとはいえ、弱いかと言われればそうではない。事実、小柄1人を抑え込むのに、タシュケント達第二世代の駆逐隊が到着していなければ、正面からの戦いが避けられず、押し潰されかねなかった。時雨や那珂は負傷しているのだから、実際侮れない。
「子日も来たよ! 鎮守府は大丈夫だから!」
そんな戦場に新たに加わったのは、鎮守府に潜入していた子日。工廠が爆発して大変なことになっていそうだが、それでもこの戦いに参加してくれていた。
現在、襟帆鎮守府の工廠は、中柄が引き起こした砲撃の跳ね返しによって、大爆発を起こしている。とはいえ、被害は最小限に抑え込まれていた。戦場でもわかる爆発ではあったのだが、最低限、非戦闘員は避難を終えており、爆発から身を守れなそうな者は襟帆提督くらい。その襟帆提督も迅速な行動でギリギリのところで重傷は回避出来ている。
それでもそこにいた艦娘も含めて、工廠の爆発物の誘爆はそれなりに被害が出てしまっているのは間違いない。襟帆提督は人間であるという点から、この衝撃に耐えられず、破片なども直撃してしまっており、気を失ってはいないものの血塗れ。調査隊の面々も何処かしら怪我を負っている状態となってしまった。
なお、前衛芸術にされた出洲シンパの人間達も、それ相応の被害を受けている。これらも裏切り者といえば裏切り者なのだが、ここで命を落とすよりは、捕縛して情報を聴き出すくらいはせねばならないので、死ななかったことは良かったとは思われている。
「子日、まだ動けるかい?」
「大丈夫! 子日は上手く避けられた!」
響の問いに元気よく答える。その中で子日は、おそらく最も被害が少ない者。持ち前の俊敏さで爆発の寸前に回避行動を行い、次の戦いに備えてなるべく傷を少なく抑え込んだ。
それでも肌にはいくつも擦り傷切り傷が刻まれてしまっており、爆発の際に発生した埃で身体が汚れてしまっている。
「子日さん、ここはもう大丈夫です。先程の輩を追ってください!」
神通からの指示は、ここの片付けは後回しにして、今は戦闘をどうにかすること。小柄の方へと向かった中柄を止めるためにも、一番動ける者が動いた方がいい。
神通も先の戦いで頭から血を流している。この状態で十全な戦闘は出来ない。小柄はさておき、中柄はあまりにも芸達者すぎる。
周囲を少しだけ見渡す子日。工廠は見るも無惨な状態になっているが、鎮守府が崩れるようなことは無さそう。片付けるのに時間がかかりそうだと後始末屋的観点が出てくるだけ。この大事故で誰も命を失っていないのならば良しと出来る。
「整備班の皆さんは誰も傷ついていません。私の傷も軽微とは言えませんが動けないわけじゃあない。この鎮守府を管理する者として、他部隊の艦娘に指示を出させてください。駆逐艦、後始末屋の子日、ここは我々のみで大丈夫です。これ以上ここで戦いはない。貴女は、貴女の戦いへ」
そして、襟帆提督からの指示。別の鎮守府とはいえ、提督の言葉。それを聞かないわけにはいかない。
「わかった、じゃあ子日はさっきのヤツ、追うよ!」
「よろしくお願いします。調査隊は、ここで事後処理を始めましょう」
「うん、ありがとう!」
スッと子日は姿を消しながらその場を去った。『迷彩』の必要は無いかもしれないが、自分の行動を悟られないようにするのは、この戦場では割と大切なこと。癖のように毎度姿を消すのはそこまで間違ってはいない。
「……実際、みんな身体はどうだい?」
子日がいなくなった後、響が苦笑しながら皆に問う。当の本人は、大きく息を吐いた後、その場に座り込む。爆発をモロに受けてしまっており、大破まではいかないが、これ以降の戦闘には少し支障が出そうではある。白雪はその中でもまだマシな方。瓦礫の直撃を回避することが出来ているため、行動は可能だが、戦闘をするとなると少し苦しい。神通も出血の問題があるため、これ以上の戦闘はなるべく控えたかった。
「ここでリタイアというわけにはいかないですが、調査隊としてバックアップを始めましょう。動けないわけでも無いですからね。むしろ、襟帆提督は大丈夫ですか?」
「……正直なことを言えば、動くのも辛いですね。怪我もそうですが、事が済んだと思ったら、張り詰めていた糸が切れたかのように感じてしまって」
「心中お察しします……ですが、これで終わりにするためにも、もう一踏ん張りです」
「ええ、そうですね。まだ終わりじゃありません。後始末屋の敗北も無くは無いのですから」
最悪の状況は、ここから後始末屋が負けてしまった場合。それも視野に入れて、ここからは行動しなくてはならない。
今はもう見えない子日の背を見つめ、その勝利を願う。自分達の身を守るためというのが無いわけでは無いが、ここで本当に終わってほしいと、心から。
戦場、子日の参戦により、流れは後始末屋連合に傾く。それは、戦闘ではない。喧しい、自分本位な発言しかしない小柄に対して、より強く舌戦を仕掛けられる存在。
「また会ったね、お子ちゃま。まだこの世界がゲームだと思い込んでるのかな?」
明らかに意識した発言を小柄にぶつける。攻撃を仕掛けてはいないが、中柄は小柄にちょっかいをかけられたことを知り、視線を子日に向けた。
「ボクはこの世界の勇者なんだぞ!」
「あっはは、何を言うかと思ったら。ああ、だからそんな動きにくそうな鎧とかこういう戦場では使いこなせそうにない剣とか持ってるんだ。コスプレにしては出来がいいね」
「コスプレ!? ボクはこれでお前達を斃すんだから!」
「はいはい、やってみればいいよ。どうしてくれるのかは知らないけどさ、ほら、どうしてくれるのかな?」
小柄の目の前で『迷彩』を使い姿を消す。何処にいるかは丸わかりのはず。しかし、小柄はただそれだけでも目を丸くして、ズルいと文句を言い出した。
「姿を消すだなんて卑怯だぞ! 正々堂々戦え!」
「何言ってるのさ。君はそういうゲームやったことないかな。追いかけてくる鬼が姿を見せずに襲いかかってくるんだ。それはヒントがあるし、コンティニューも出来る。でもね、この世界はゲームじゃ無いんだ。君にコンティニューはないよ」
「我が子に何をしようとしている」
小柄に襲いかかる子日に気付いたか、中柄はそれを守るために行動を始める。それがまさに時間稼ぎとなるのだが、中柄は気付いているのだろうか。
「何もしてないでしょ。話しかけることも許されないの? ちょっと過保護すぎない?」
「我が子に……近付くな」
「そんなママがいるから、子日は姿を見せないでいるんだよ。でも攻撃はしない。子日は、手を出してない。それなのに攻撃をしてくるのは、こっちに正当防衛を成立させるだけ。ママも子供もそれくらいは理解した方がいいよ。平和を作るっていうならね」
挑発的な言葉。だが、残念ながら中柄にはそのような常識は通用しない。子供に近付くだけで攻撃を仕掛けてくると勘違いしているのだろうか。それならばやはり狂っているとしか言いようがない。
「この世界はゲームじゃない。コンティニューなんて出来ないたった一つの命を大切に生きてるのに、君みたいなのに簡単に摘み取られちゃ困るんだよ。しかも、経験値扱いしてるよね。経験とも思ってないのに」
「それがどうしたのさ!」
「理解出来ていないの? 君のそれは、やるべくしてやってるんじゃない。ただお遊びで人を殺して弄んでるだけの殺戮。信念も理念も何も感じない。平和を目指してるなんて言葉も、ただそう言われてるからそう思ってるだけ。君は、魔王を斃した後の勇者がその後どうなるかなんて知らないでしょ」
ゲームを知る者として、小柄の理解しやすい言葉で接する。そしてそれは、理解したくても納得したくない領域へ。
「全クリすれば全部解決でしょ!」
「ゲームではね。でも君は結局、ゲームの中でしか話が出来てない。なら、エンディングのその後はわかってない」
「何を、言ってんのさ!?」
「勇者は魔王を斃した後、今度は人間に疎まれる存在になるよ。魔王を斃せる力を持つ者が、ただ受け入れられると思う?」
小柄の表情が小さく歪む。余計なことを言いやがったと中柄は声のする方に刀を振るうが、手応えはない。姿が見えていないところを追って行けたとしても、子日はただひたすら回避をすればいいだけなので、中柄が気付いた時にはすでに別の場所にいる。
それでも攻撃はしていない。暴力に訴えていない。ただ言葉を紡ぐのみ。それが気に入らず攻撃している側に落ち度があるように。
「勇者を魔王に仕向けた人間の王は、次は勇者が邪魔になる。国の平和を脅かす存在として、勇者を始末するようになる」
「何を」
「君が従う王様が、その人間の王様と違うところはあるかな?」
激しい揺さぶり。ゲームに例えるからこそ、子供でもわかるように。