新たに参戦した子日による舌戦で、小柄の精神に亀裂が入った。エンディングのその先の話を考えさせられ、今やっていることが魔王と同じ世界征服だと言われ、その信念が確実に揺らぐ。
そんな小柄のブレを防ぐため、中柄が刀を振るう。しかし子日は『迷彩』によってその攻撃を避け、殺気も出さないただの口論のみを進めることで、確実に時間を作った。
それにより、神風の準備が完了する。
「待たせたわね……ここからが最終ラウンドよ」
特機を寄生させた神風は、見た目こそ何も変わっていない。瞳に青白い焔が灯っている以外は。
「……っ」
ここで中柄は初めて大きく反応した。我が子のためにも、子日を始末しなくてはならないと考えていた矢先、胸を貫くような殺気がぶつけられたことで、否が応でもそれに目を向ける。
刀を納め、居合の構えで立っていた神風は、中柄の胴を見据えていた。
「はぁっ!」
一息、そして、一蹴り。海面を踏み、跳ぶように駆けた神風は、まるで瞬間移動をしたかのようなスピードで中柄に突撃、そして抜刀。
これまでの中柄ならば、両手で握る一本目の刀でそれを受け、肩から生える増やした腕で握る二本目と三本目で追撃を放っていただろう。それを防ぎ切ることが神風でギリギリだった。防戦一方に追い込めば、また先程と同じように圧倒出来る。そう考える。
しかし、今の神風の勢いはこれまでとは雲泥の差だった。何も変わっていないのに、何もかもが違う。これは受けてはいけない。そう思わせるには充分すぎた。
中柄は思わず飛び退き、その一撃を避ける。空を切るその斬撃は、それこそ一瞬空気すら斬ったのではないかと錯覚するほどの鋭さだった。刀で受けていたら、受けきれずに斬られていたのではないか。そんな不安が嫌でも頭を過ぎる。
「……どんな小細工を」
「ええ、小細工かもしれないわね。でも、これは……私の大切な子から貰った切り札なのよ」
瞳の焔が勢いを増す。返す刀でもう一撃。これは先程よりも勢いが無いため、中柄は受けることを選択。
しかし──
「くっ……!?」
あまりにも
一本目で受け、二本目と三本目で迎撃。その常套手段に出ようとしたが、そもそも一本目で受けることが厳しかった。二本目も三本目も、振るったところで空を切る。神風は既に少し離れて、刀を納めていた。
「斬るわよ、その腐った心ごと」
再び放たれる居合。距離的にも、それは避けることが出来ない。受けるしかない。中柄はこれまでと同じようにだなんて思わなかった。全力で受けなければやられる。
元々なめているつもりは無かったが、神風は他の艦娘とは比べられないくらいにレベルが違う。仲間達が時間を稼いで作り上げたこの力が、自分に届くどころか、それを乗り越えて先にすら行ってしまいそうな程の凄まじいモノであることに、中柄は気付いていた。
三本の刀を全て受けに使い、その一点に重ねる。出せる限りの力も出し、その一閃を食い止める。
「……まだ止めるか」
神風の一閃は、刀三本によって止められてしまった。だが、中柄の方が歯を食いしばる程に威力が高く、思わず弾き飛ばされる程に。
ここまで圧倒される中柄は初めてだろう。精神がガタガタになりつつある小柄が、目を見開いて叫んだ。
「ママ!?」
「私は、負けん。我が子の前で、負けるわけにはいかん!」
海面を強く踏み締め、体勢が崩れるのだけは抑えた。神風の追撃を止めるため、止めていた刀を前に構え、進行をやめさせる。
そのまま突っ込んでいたら、その三本の切先に掠めていた。最悪、どれかに刺さっていたかもしれない。
「悪いけど、それはこっちも同じなのよ」
三度、神風は刀を鞘に納める。居合が最も威力の高い一撃であることは間違いない。中柄もそれは理解している。それをさせることが問題であり、そこから放たれることが敗北に繋がる。
ならばと、中柄はそれを放たれる前に攻勢に出た。今ならば斬られることもない。刃は鞘の中だ。多少防御を捨てても、いきなり死を与えられることはない。
「私もあの子に、深雪にこの力を託されてるの。負けるわけにはいかないのよ」
中柄の猛攻を避け、軽くバックステップ。それだけでも、かなりの距離を稼ぐことが出来た。神風自身も、これだけ力が出るのかと内心驚いていた。
神風が得た力。それは、何もおかしな力では無い。どれだけ攻撃を受けても傷付かない強靭な身体『ダメコン』でも、自分に関与する全てを早回しにするスピード『タービン』でも、何も無いところにエネルギーを生み出す『ボイラー』や『スクリュー』でも、そのどれにも適用されない。
単純に強くなる力。一段階や二段階では利かない、あり得るであろう成長の限界を飛び抜けて、さらに向こうへ、さらにさらに向こうへと進む力。神風のあり得る未来、いや、
それは、『改装』の曲解。強くなる。ただその一点を突き詰めたことで、限界を超え、改二、改三の常識すら飛び越えて、ただひたすら基準値を大きく上げる
他の者ならば、ここまでの強化は無いだろう。ステータス向上なんて、改造を受けたところでわかる程度。深雪や時雨のように、改二改装、改三改装によってそのスペックが劇的に変わる者もいるが、それでも限界はある。
だが、神風がそれを使った場合どうなるか。単純に基礎スペックが常識の範疇では無い超人が、さらにスペックアップをしたのだ。それは何もかもを超えることになる。
「今の私に、限界は無いわ。すこぶる調子がいい。消耗すら超越してる。これが特異点の力なのね。多用は禁物なのはよくわかるわ。今回だけの、大盤振る舞いなんだから」
納刀しているため、そのまま居合の構えへ。刀を握ると、それがとんでもない業物であることを改めて理解する。限界をゆうに超えた力を発揮しても、刃こぼれ一つない。今の神風のために作られているかのような一太刀。こうなることを予測されていたわけでは無いのだが、過剰なくらいがちょうど良かった。
「受けられるかしら、今の私を」
最初の一刀よりさらに速く、さらに鋭く、中柄へと跳ぶ。速い、速すぎる、中柄すら目で追うのがやっとのスピードで、一番の間合いへと入り、そして抜刀。
「受ける……!」
「やってみなさいな!」
神速を超えた抜刀を、中柄はまたもや刀三本を重ね合わせて受け止めようと試みる。先程は受けることが出来た。弾き飛ばされはしたが、その攻撃を止められた。だから考える。止めた後の、その先を。
しかし、その考えは不要であるとわかるのは、それからすぐだった。
「なっ……!?」
一度一閃を受けていた時に、既に限界は来ていたのだろう。二度目をまともに受けられるわけがない。その居合の威力は、常識を置いてけぼりにしているのだから。
居合は受けることは出来た。だが、ビシリと刀にヒビが入り、そのまま破壊した。一本だけではない。二本目も、三本目も、まとめて。
対する神風の刀は、傷一つついていない。神風のために用意された、仲間達の想いが込められた業物。妖精さん達の技術だって、仲間の技術。その力を存分に引き出して、ついにここまで来た。
「させん……!」
刀を失った中柄は、追撃を阻止するために大きくバックステップ。その間に生えていた腕を一度消し、改めて生やし直す。すると、破壊したはずの刀が改めて生成され直されていた。
腕と連動するようで、その都度新たな刀を作り出すらしい。壊しても壊しても、生やし直されたらリセットする。
だが、破壊出来ることがわかったのだから、刀が何本増えようが関係ない。作るならまた破壊する。そして、作り直す余裕を持たせないくらいに攻撃する。それだけでいい。
「へぇ、でも関係ないわ。作りたいだけ作りなさい。それを全部、叩き折ってあげるから!」
再生成した刀の一本は元ある腕で両手で握り、もう一本は生やし直した腕で握る。二刀流となって、片腕は完全にフリー。そのフリーの腕が何をしてくるかわからないため、神風も慎重に。だが、勢いを止めることはせず、再び肉迫する。
「次は、やられん!」
「次もやるわよ、当然に!」
母同士の戦いは、誰も割り込めない、凄まじいモノとなっていく。『改装』の曲解を手に入れた神風は、超人を超えた超人の力で、中柄を圧倒していく。
今の神風は、レベル376の改五くらいになっている。