小柄と中柄を追い詰めたものの、ガス欠によって戦場から少し離れていた瑞鶴が力を振り絞って乱入。艦載機で神風の一頭をずらした結果、海中に逃げるという選択肢を与えてしまい、そして撤退を許してしまった。
結果として、後始末屋連合も一旦仕切り直しとしてうみどりに戻ることとした。怪我人もおり、そのまま追うにも状況整理は必要である。悔しいが、無理をしては行けないだろう。
そんなことになっているとは思っていない深雪達は、戦いの中で戦意を喪失した黒深雪と、未だ特異点には反発の気持ちを持ちつつも、黒深雪の側にいることを選んだ雷を、うみどりにまで連れてきていた。
道中合流しかけた叢雲達が運んでいた速吸と足柄は、うみどりではなくおおわしに運ばれている。黒深雪のように、もう戦うつもりはない、深雪に従うと言っているならまだしも、最初から反発しかないような輩、うみどりにいるより、調査隊による尋問を受けた方が、まだ役に立つ。そのため、叢雲、磯風、フレッチャーの3人は、おおわし経由でうみどりに一時撤退とした。
なお、夕立が引っ張っていた足柄もおおわし行き。速吸はフレッチャーが雑に運んでいるが、足柄は片腕がないということで、少々慎重になっている。叢雲が肩を貸すようにして担ぎ上げ、磯風がサポートをするように支えていた。夕立自体は一旦うみどりへ。
「お帰りなさい! 大丈夫!?」
工廠では伊豆提督がハラハラした面持ちで出迎える。そして、何度も砲撃を受け続けながらも無傷でいつつ、しかし無傷なのは身体だけで制服はボロボロになっていることもあるので、見えてはいけないところまで見えそうになっている夕立にバスタオルを放った。
夕立がそうなっていても、深雪達は『まぁ夕立だし』でスルーしているところもあり、後始末屋を詳しく知らない黒深雪と雷も、『こいつはこういう戦い方なんだろう』と特異点の特殊な戦い方を知っているからスルーしていた。
「夕立ちゃんはすぐに着替えてらっしゃい! 予備の制服はいくらでも用意してあるから!」
「ぽーい」
「怪我人はすぐに名乗り出て! 入渠が必要なら優先するわよ!」
テキパキと指示を出す伊豆提督を見て、黒深雪と雷は少し考えた。これが本来の提督のカタチなのだろうかと。
襟帆提督は自分に対してどうだったかと思い返せば、実際は同じくらいの親身になってくれていたように思える。軍港に行かせたことも、今考えれば、先を作ってくれるためだったと思える。
提督は提督として、艦娘のことをきちんと考えてくれていた。カテゴリーKであっても、そこは変わらない。それが世界を欺くことだったとしても。
「……あの人はあの人で、あたし達のことはちゃんと考えてたんだな……」
「深雪……?」
「負けてわかることってのもあるもんだ。雷、今は頭弄られてるだろうから、嫌な気持ちは変わらないかもしれねぇけど、ついてきてくれるとありがたい」
「ついていくわよ。深雪と一緒にいたいんだから」
雷の頭の中もどうにかしたいところではあるが、黒深雪は雷に辛い思いをしてもらいたくないというのもあるため、どうにか出来ないものかと模索している。このままではよくない。だが、知ることもよくない。
自分が何者であるかも完全に把握出来ているわけでもないのが、黒深雪はかなりキツいことになっている。『気付け』の煙幕の影響は失われ、『落ち着け』の煙幕の影響で静かになっているが、そうしているだけでも変に考えを巡らしてしまう。止めたくても止められない。
「でも……深雪、本当にいいの? 特異点と一緒にあるなんて、あの人の恩を仇で返すことになるのよね」
「……ああ、でも、やっぱりおかしいんだ。あたし達は、平和のためっつって頭の中弄られてるんだぞ。自分の思い通りに動くように改造してるってのは、何処かおかしいと思わないか」
「……ごめんなさい、私にはまだ……」
「いや、いい。仕方ないんだ。あたしと、特異点の力で元に戻してやりたいんだけどな、かなりキツい。あたしは、雷には苦しんでほしくない」
「……ありがとう、深雪。どんな状態でも、私は深雪についていくから。深雪が選んだ道を私も行くから」
戦場でやられたら困るメロドラマ的展開も、今なら見ていられる。若干イチャイチャしているようにしか見えないのはアレだが、今ならばそれもマシである。
「貴女達……アタシ達に従ってくれるの?」
「ああ、あたし達は特異点にやられた。わからされた。間違ってることをしてるってな」
「そう、そう! よかった、貴女達と戦う必要が無くなって、アタシは嬉しいわ! 怪我をしているようなら治療するから、ちゃんと言ってちょうだいね。何か教えてほしいことがあっても、すぐには聞かないわ。今は落ち着いて、ゆっくり休んでちょうだい」
満面の笑みで黒深雪と雷を迎え入れる伊豆提督。どうあっても信じてくれるその在り方に、黒深雪と雷はキョトンとしてしまう。ついさっきまで敵だったのに、それ以上に島での態度も最悪だったのに、何故こうも簡単に仲良くなれるのか。
「うちはこういう風なんだよ、別個体」
そんな黒深雪に、ニッと笑った深雪が肩を叩く。
「ハルカちゃんは、誰にだって優しいんだ。元がどんなヤツだって、手を取り合えるってわかりゃ、こういう接し方してくれる」
「なのです。だから、今は普通にここで休んでほしいのです」
「いやテメェ、仮にも相手は司令官だぞ、ハルカちゃんて」
「アタシがそう呼べって言ってるからいいのよ? 貴女達もそう呼んでちょうだいね」
提督がその態度というのがそもそも驚きである。島にメッセンジャーとして行った時も、和やかな雰囲気だとは思っていたが、ここまで馴れ馴れしい態度で来るとは思っていなかった。
そもそも、伊豆提督のキャラが濃すぎるため、改めて受け入れようとすると調子が狂う。こんな鎮守府でもいいのかと。
「さて、これからまだまだ戻ってくるから、休めるなら今のうちに休んでちょうだい。戦いがどんな状況なのかも聞かなくちゃいけないけれど」
「だな。あたしからは、こいつらをどうにか出来たってことと、あと途中で叢雲達がおおわしに運んでくのを見たってくらいだ。あれだ、補給艦の」
「速吸ちゃんね。そこが止められたのはいいことよ」
「あと……漣とみぃむは終わってる」
そう言って工廠に入ってきたのは、海底をゆっくり進んでようやくうみどりに到着した伊203。かなりの重傷を負っており、超人がここまで追い込まれたのかと戦慄する。
「フーミィちゃん、すぐに入渠なさい!」
「そうさせてもらう……高速修復材よろしく」
「今回は許すわ。致命傷じゃないわよね?」
「勿論……でも結構しんどい。後からスキャ子とか戻ってくると思うから……」
フラフラと交渉の奥に向かう伊203を見送りながら、カテゴリーKの強さを痛感させられる。黒深雪と雷を止められたことは、運が良かったのではと思うほどに。
「……特異点、ありゃあ、漣とやったのか」
「みたいだな。フーミィはうちでも最強格の1人だ。お前ンとこの漣は、相当ヤバいヤツなんだな」
「ああ、最古参だ。速吸と並んでくらいだな」
ここで新情報。襟帆鎮守府にいるカテゴリーKの中でも、漣が最古参ではないかという予想はついていたが、速吸も似たようなモノである。
黒深雪の中では、漣と速吸はグル。そして、自分が嫌いだから陥れて特異点の力を与えたと考えられる者達。
「その2人は、貴女達カテゴリーK……ごめんなさいね、こちらの呼称で、それらの中では、リーダー的存在、ということかしら」
「リーダーっつーか、古いから先輩みたいなモンだ。まぁ、あたしの場合はもう先輩後輩関係ねぇけどな。あのクソ共、あたしのことが嫌いだからリスクがあることを押し付けてきやがって」
「なら、その2人が基本的には貴女達を回していた感じ?」
「そうなるな。あの人との連絡も出来てたはずだ」
伊豆提督は少しだけ考える。漣と速吸、その2人の正確な立ち位置を。そして、少しだけ思い当たった。
「どちらも元々出洲の配下だった、とかはあるのかしらね」
「あり得ない話じゃあないんじゃないか?」
「そうよね。どんな死因でああなったのかは知らないけど、他の7人よりも繋がりが深かったなんてことはありそうよね」
そこは本人に聞かないとわからないだろう。速吸は現在話せない状態にされているが、おおわしに連れて行かれたのだから、余程のことをされるに違いない。漣もあちら側だ。昼目提督なら容赦無く情報を聞き出すことだろう。
「まぁ、それは後々にしましょう。まずは全員揃ってからがいいわね。みんな、休める時に休んでちょうだい!」
今はとにかく状況整理。この状態ならば全員が戻ってくるのも時間の問題だろう。そこから現状を把握して、何をすべきかを決めねばならない。