後始末屋の特異点   作:緋寺

126 / 1164
白か黒か

 その日の夕方、航行が順調に進んだ結果、デッキからでも陸が見えるくらいの場所までやってきていた。逆側にはおおわしが同じ速度で航行しており、一緒に軍港に停泊することがわかる。

 

「わ、わ、見えてきたのです!」

「あたしが前に来た時も同じくらいの時間だったんだよ。おんなじ景色だ。()()()()()って感じがしていいな」

 

 初めての陸に少しはしゃぎ気味な電と、一度経験しているおかげでまた違った感覚を得た深雪。

 夕方であるため、灯台からも光が照射され始める。遠目から見ても軍港都市であり、艦娘でも艦でも受け入れられるキャパシティがあることも示していた。

 

「時雨、お前も行くんだからな」

「わかってる。何度も言われなくても、覚悟の上だよ」

 

 その灯台の光をぼんやりと眺めながらも、時雨はハッキリと返した。

 

「これ以上に人間がいる場所に行くんだ。僕としては割と緊張しているよ」

「怖くなんてないぞ? ちょっと騒がしいところではあるけどな」

「怖いなんて誰も言っていないよ。ただ、元凶の尻尾が掴めるかもしれないと思うと、心が騒つくだけさ」

 

 今回の軍港に向かう目的はそれだ。うみどりの管轄する海域に現れる改造された深海棲艦の出どころを探っていくうちに、海域に面している軍事施設の全てが怪しくなってきたため、まずは手近かつ最もあり得そうな軍港都市にターゲットを絞った。

 勿論完全に疑っているわけではない。何も無いのなら何も無いに越したことはないのだ。むしろ伊豆提督的にはそうあってくれと願っているくらいである。だが、何かあった時に迅速にそれを解決出来るようにするならば、休日を返上して戦いに赴かなくてはならないかもしれない。

 時雨はどちらかと言えば疑いの方が強いため、翌日の軍港都市散策は、何かあると思いながら動くことにしている。故に、それを迎える緊張を感じているということになる。

 

「そりゃあ間違いなくそいつだってのを見つけたら、あたしも確実にとっ捕まえてやるぜ」

「い、電もそういう人達は許してはおけないのです。もし、万が一、そんなのがいるというのなら、電もお手伝いします」

 

 深雪も電も、この面白おかしい軍港都市の裏側で、悪事を企て、実行している輩がいるというのならば、絶対に許さない。

 

「でもな、それはそういう奴がいたらの話だぜ。絶対にいるってわけじゃあない。じゃあ、それまでは休暇を堪能しようぜ」

「君は楽観的すぎると思う。もう少し危機感を持った方がいい」

「わかってる。でもな、楽しめる時は楽しんだ方がいいとも思うぜ。ずっと気を張ってるから眉間に皺が寄るんだよ」

「僕にこの状況を楽しめというのは酷だと思わないかい」

 

 こんな言い合いも、うみどりの平和の象徴になりつつある。深雪も嫌な顔をしていないし、時雨も満更でもないようにも見えるため、電ももうヒヤヒヤするようなこともない。

 

 

 

 

 停泊が完全に終わる頃には日が暮れており、港は照明によって明るくされていた。

 そこに2艦の移動鎮守府が同時に入港したのだから、そこで働く者達のみならず、たまたま軍港都市に休暇に来ていた艦娘までもがその圧巻の姿を見物しに来ていた。

 

「流石に同時に入ってくると、話題になるな」

「滅多に無いものねぇ。場所が空いていてよかったわぁ」

「まぁ依頼があれば大体入れられるから安心してくれ」

 

 2艦の艦長である伊豆提督と昼目提督を出迎える保前提督。今回は秘書艦の能代も一緒である。ここまで人が集まることはあまりなく、万が一のことを考えて護衛も兼ねているらしい。だからといって艤装を装備しているわけでは無いので、ある意味ポーズ。同じように、伊豆提督にはイリスが、昼目提督には鳥海がついている。

 

 基本的には物資の補給と廃棄物の処理。うみどりは大量に溜まってきているために処理は必須であり、おおわしも多少はあるためついでにどうにかしてもらうつもりである。

 だが、本題はそこではない。その廃棄物がどのように処理されるかが重要である。妖精さんの力により無害化された廃棄物ではあるのだが、それを()()()しているとするならば、ここで何かしているとしか思えない。

 

「お久ッス、トシパイセン」

「ああ、久しぶりだな忠犬。最近はハルカとつるんでるんだろ。良かったじゃないか」

「うす。ハルカ先輩の役に立てるんで、オレとしては万々歳っスよ」

 

 伊豆提督と保前提督が親友と言える仲であるため、当然ながら昼目提督とも面識がある。うみどりよりもおおわしは入港のスパンが長いため、ここに来るのはかなり久しぶりと言えるだろう。

 うみどりは廃棄物処理があるため、物資の補給もそこそこにしているが、おおわしは長い時間の調査がメインであるため、一度の補給でかなりの量を入れることにしていた。ここに来たらまたしばらくは来ることは無くなるだろう。

 それを考えると、うみどりと入港のタイミングが重なるのは本当に稀。今回も実際偶然の産物である。

 

「最近大規模の後始末が重なっちゃって。だから、大物もそれなりにあるのよ。だから、また前のように処理を優先してやってもらえる?」

「ああ、そのように依頼しておいた。多分そう言うんじゃないかと思ってな」

「流石トシちゃん、アタシのことよくわかってるわぁ」

 

 前回と同様に、夜のうちに廃棄物を艦から撤去してもらう方向で話を進めていく。業者は前回と同じであり、最終的な処理はそこで行なわれるとのこと。

 そうなると、一番怪しいのはその業者であることは間違いない。夜の作業を見張る方が確実かと伊豆提督は考える。

 

 今まで何の疑いもなくここで処理を任せていたが、実は裏側で元凶と繋がっているというのなら、それは明確な裏切りの行為だ。戦争を終わらせるための作業によって戦争を延ばしているのは万死に値する。

 だが、それ自体に保前提督が絡んでいる可能性があるとなれば厄介だ。軍港自体が元凶と繋がっていたら、()の規模が大きすぎる。鎮守府としての練度は置いておいても、陸に陣取る鎮守府と、海を駆ける移動鎮守府では地力が違う。そもそも、この鎮守府があるからこそ補給が利くのだから、そのラインが止められることの方が厳しい。

 

「それはそうとハルカ、お前とんでもないことをしているじゃないか」

「ええ、時雨ちゃんのことよね?」

「ちょっと前の通信で、俺椅子から転げ落ちそうになったぞ」

 

 話題はカテゴリーMの話へ。事前に伝えておいているため、保前提督もそれには驚きを見せなかったが、聞いた時にひとしきり驚いたらしい。

 カテゴリーMが仲間になるというのはこれまででも前例が無いこと。事件といえば事件である。

 

「一応聞いておくが、街に入っても騒ぎを起こさないんだよな?」

「ええ、大丈夫。念のため神風ちゃんもついていてくれるみたいだし。ただ、人間不信なのはどうしても治らないし、ちょっと口が悪いのよね」

「時雨という()()にしては確かに珍しいな。呪いのせいで歪められてるってことか」

 

 保前提督もカテゴリーMの性質は知らないため、伊豆提督の話には感心しながら耳を傾ける。今後、カテゴリーMが同じように仲間になる可能性を考えると、先駆者の意見は聞いておくべきと考えたようである。そういうところは真面目。これからのことを考えた提督としての動き。

 

 そういう仕草、一挙手一投足を観察しながら、昼目提督は保前提督が怪しいかどうかを探っていた。

 それこそ直感的におかしなところが見えるかもしれない。しかし、うまく隠しているかもしれない。そこは何とも言えない。

 

「忠犬は変わったこと無かったか?」

「そっスねぇ、最近はおかしなことの方が多いっスからねぇ」

 

 そこはうまく隠しつつ、しかし関係者なら何処か反応するような言葉を選択して伝える。

 

「トシパイセンも聞いてると思うんスけど、最近深海棲艦が改造されてるってのがあるんスよ。で、それを探ってるんスけど、それがどうも昔にいた艦娘を利用してたアホ共の類に近いんスよねぇ」

「アホ共……って、あの艦娘の命を使って艤装を改良したっていう大罪人のことか」

「うす。ハルカ先輩の廃棄物からわかるんスけど、同じように衰弱死した深海棲艦まで出てきちまったんスよ」

 

 少しすればわかること、しかし、今知れば表情に出ること。それが衰弱死した潜水棲姫の亡骸のことだ。関係者ならば、深海棲艦までもが命を搾り取られていると聞いてもそこまで動揺しない。もしくは、動揺したフリをする。それが見分けられない昼目提督ではない。

 

「……深海棲艦の命を搾り取ったってことか?」

 

 そして保前提督の反応は、そのどちらでもない、心の底から動揺しているもの。同じように隣で聞いていた能代も、そんなことが出来るのかと愕然としていた。

 

 この反応でわかるのは、保前提督がこの件を全く知らないということ。つまり、鎮守府ぐるみで元凶と手を組んでいるわけではないということである。

 昼目提督のみならず、隣の鳥海、そして彩から心の揺れを見ていたイリスも、保前提督は関与していないと確信を持つ。

 保前提督が自分の心を隠すことがあまりにも上手いと言うのなら話が変わるのだが、今のところは白である。

 だからといって、今軍港都市を探っているということは口外しない。もしこれでも裏で繋がっているとなった場合、前以て対策をされかねないからだ。こんな話を外で堂々としているのもどうかと思うのだが、むしろこの話を聞いて周囲で不審な動きをするような者がいるならば、それが黒だ。

 

 話しながらも、意識は目の前の保前提督以外の人間にも向けている。うみどりとおおわしを見学しに来た艦娘辺りも怪しい。その中から、関連性を持つ者がいないかを探り続けていた。

 

「関連性はまだ調査中なんスけどね。ただ、潜水棲姫の衰弱死だなんて初めて見るんで、疑わざるを得ないっスよ」

「だな……。そんなの俺も聞いたことがない。というか、深海棲艦って衰弱死するのか? いや、まぁ全力で生き続けていたら勝手に野垂れ死ぬことはあるかもしれないが……」

「少なくとも、オレは衰弱死なんて怪しい死に方は調査するに値するモノだと思ってるんで、これからも出どころを探ろうと思ってますよ」

 

 これだけ言っても、保前提督はボロを出さない。むしろ、真剣に状況を聞いて、協力までしてくれるような雰囲気を出してくれている。

 ならば今は信用してもいいかと、少しだけ深いところまで口に出す。現在、元凶に繋がる可能性がある者の存在を探っており、あらゆる情報が集まる軍港都市ならば調べられるはずだと話しつつ、自分が行動しているところまで伝えた。

 

「何か情報があれば連絡する。ありがたいことに、ここはいろいろな情報が集まるところだからな。必要ならこちらでもさりげなく探っておくが」

「よろしくお願いするっス。オレも停泊中は少しだけここで動くんで、それを許してもらえるとありがたいんスけど、いいっスか」

「ああ、構わないぞ。ただ、おかしな動きはするなよ。お前、やらかす可能性があるんだから」

「もうあの頃のオレじゃあ無ぇっスよ。ハルカ先輩もいるんだから、失態は見せねぇ」

 

 ケラケラ笑う昼目提督に呆れる保前提督ではあるが、昔からこういう奴だったと半ば諦めていた。そして、これが昼目提督の長所であるところも。

 

「というわけで、明日丸一日よろしくお願いするわね。あと、何かあったらトシちゃんを疑わなくちゃいけなくなるから」

「オレとしては容赦なくぶん殴りに行くんでそのつもりで」

「うえ、でも仕方ないのか。俺はここを管理する人間だからな、そこの責任は俺が取らなくちゃいけないか。OK、俺はあまり大っぴらには動けないから、2人に任せる」

 

 仲がいい者達の会話と感じるそれは、ここで一旦終了。うみどりとおおわしの調査がここから始まる。

 

 

 

 

「潜水ちゃん、あの人の顔、見たことある?」

 

 そんな話をしている裏側、伊26に連れられた潜水新棲姫がその会話を遠目に見ていた。

 保全提督に会うのは当然初めて。しかし、見覚えがあるというのならば、確実に黒。素顔のまま()()()()()()をしているとは限らないが、まずは触りから。

 

 人間の男性ということで恐怖を感じているのは確かなのだが、伊26の問いに対しては首を横に振った。つまり、保前提督のことは知らない。

 

「そっか、ありがとう潜水ちゃん。怖かったよね、ごめんね」

 

 抱きついてくる潜水新棲姫の頭を撫でながら、伊26はすぐにうみどりの中へと引っ込んでいった。

 




今のところ、保前提督は白ということになりました。それが正しいとなると、軍港自体が白、もしくは管轄者にバレないように巧妙に隠しながら元凶が動いているということになります。


支援絵をいただきましたので、紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/109187505
駆逐艦の会の1人、睦月。笑顔で手を差し伸べ、深雪の行く末を案内してくれる1人。海上歩行訓練の時、こうして手を差し伸べてくれました。過酷な過去がある睦月ですが、この笑顔に癒される。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。