うみどりでの休息が進む中、おおわしの工廠には反省の色のないカテゴリーK達が移送されていた。意識を保ったままの者、意識を失いそのまま置かれた者、様々いるが、まともに話せそうな者は殆どいない。
一番意識がハッキリしているのは、艤装を『解体』されただけの伊36。殆ど無傷と言っていい。その次が『標準型』によって普通にされた速吸だが、口を凍結されているため、今は話せない状態と言える。外3名は意識を失い、現在は反応無し。
「神通さんから連絡来ました。襟帆鎮守府は制圧していますが、工廠内でカテゴリーK、出洲の妻と交戦、撤退されましたが爆発事故が発生し、今はそちらで話を聞きながら作業をしているとのことです」
「おう、無理せずやれることやっとけって言っといてくれ」
「了解」
襟帆鎮守府で起きたことが昼目提督にも伝わったことで、調査隊の潜入は無事成功し、襟帆提督をはじめとした純粋な人間達は無事ではないにしろ保護されたことがわかる。
調査隊の面々も怪我を負っているが、動けないわけではない。だが、鎮守府がそうなっているというのなら、戻るよりそちらで作業を続ける方がいいだろう。休めるなら休んでもいい、とにかく安全第一に。
「さて、拘束もちゃんとしてやったからな。艤装も剥がされているみたいだし、テメェらからはいろいろ聴かねぇといけねぇ。わかってんだろうが、オレ達ゃ調査隊だ。クソみたいなテロ組織に対して、いろいろと情報を吐かせねぇとな」
睨みつけるようにカテゴリーK達を眺める。伊36は戦う力を奪われて意気消沈。速吸は話せないだけで考え方は何も変わってはいないため、睨まれても睨み返してくるほど。
「マークの兄貴ぃ、この人達、どうするんでっす?」
並んだこれらを好奇心を持つように見つめている第四号海防艦が昼目提督に聞く。
「あん? そりゃあ、出来ることなら事情聴取になるわな。こんなクソ共でも、口がついてるんだから、話せることはあるだろ。これだけやっておいて、何も吐かずに許されるだなんて思っちゃいねぇだろうし」
伊36は話す気力も無さそうだが、速吸はまだまだ元気が有り余っているようなので、口の凍結を解消してやり、事情聴取の筆頭とする。
だが、その解消の仕方もかなり雑。砲撃をすることで軽く熱した主砲の砲身を近付けることで、火傷しそうなくらいの熱を直接与えただけ。それで溶けはしたものの、顔面は熱くて汗が噴き出るほどになった。
「おら、これで話せるだろ。テメェにはいろいろ吐いてもらうぞ」
昼目提督が凄んでも、速吸は鼻で笑う。高次の存在である自分が、ただの人間の言うことを聞くわけがないと言わんばかりの態度。むしろ、平和のために戦っている自分達を止めようとする愚か者くらいに扱っている。
その態度を見て、昼目提督は速吸の胸倉を掴んだ。その様子を見て、伊36がビクッと震える。自分もこうなるかもしれないという恐れに、身体が反応してしまったようだ。
「テメェ、立場わかってんのか。そもそも、テメェは戦死していてもおかしくないのに、生かしてここに連れてきてもらえたんだぞ。うみどりの奴らに感謝して、その腐った頭を地べたに擦り付けて、殺さないでくれてありがとうございますっつってもいいくらいなんだぞ」
速吸は態度を変えない。鼻で笑い、昼目提督を侮蔑するような目で見るだけ。むしろ、言うに事欠いて、あまりにも巫山戯たことを言い出す。
「女に手を上げる男は嫌われますよ?」
この状態で何故そこまで余裕ぶれるのかが疑問で仕方なかった。昼目提督は逆に鼻で笑い、速吸の身体を引き寄せる。頭突きでもするのかという距離にまで持ってきて、目と目を合わせて睨みつける。
「悪いが、オレはテメェを女と思っちゃいねぇ。戦場に立った時点で、性別もクソも無ぇんだよ。戦士か、戦士じゃないかの二択だ。テメェのことを戦士と思いたくは無いがな。信念も何もあったもんじゃない蛆虫風情が、人間様と同じ立場にいることが烏滸がましいんだよ」
「口の悪い人間風情が、高次の考えなど何もわからないでしょうに。だからこうして暴力に訴える」
「お得意の被害者ヅラか? テメェらから先に手ェ出しといて、やり返されたら泣き言しか言わねぇ。まともな言葉も吐けねぇ高次(笑)は、せめて役に立てるようにしてやるっつってんだよ。生ゴミからバイオ燃料くらいにはしてやる」
それでも速吸は何も変わらない。おおわしはうみどり以下とでも思っているのか。うみどりならどうせ誰も殺さないのだから、おおわしもどうせ同じだと。言うだけ言って、手を出すこともしないと。
故に、それを察した者が、速吸の顔面に拳を叩き込んでいた。
「っぶ!?」
「男が手を出すことに文句がお有りのようなので、女が手を出させていただきました」
鳥海である。昼目提督が手放したことで見事に吹っ飛び、床に顔面を擦り付けることとなった速吸は、何をするんだと訴えるような目で鳥海を見る。だが鳥海は意にも介さずに速吸の髪を掴み、昼目提督の前へと引きずる。
「貴女は自分の立場を本当に理解していない。もしや、調査隊は後始末屋と同じで甘いとお考えで? 何を考えてるんです。調査隊にそんな甘い考えはありませんよ。確実に情報を聴き出しますから。抵抗する悪党は徹底的にシめますよ」
その頭を床に叩きつけ、そして髪を引っ張り上げる。
「いいじゃないですか、どうせ自己修復で元に戻るんでしょう。少し傷付けるくらい。高次ならそれくらい大目に見てもいいのでは? それとも、貴女は結局自分に甘いだけのヘタレですか?」
もう一度叩きつける、引っ張り上げる。涙目になっている速吸だが、まだその烏滸がましい高圧的な信念は何も変わらない。この状況下であっても、自分が上で相手が下だと思っていそうな態度。
自分達は平和のために戦い、正義を行使しているのだから、文句を言われる筋合いはない。そう言いたげな表情。自分が正しく、相手が間違っている。それを本当に思っているような素振り。
「……速吸……もう、無理よ……」
そんな呟きを漏らしたのは、これまで気を失っていた足柄だった。相変わらず回復が早い。それは好都合だった。艤装は剥がされているが、あの好戦的で、自分の意志を曲げずにいる足柄は、速吸にとっていい後押しになる。そう思っていた。
だが、戦闘中の足柄とは、決定的に違うところがあった。今の言葉からして、足柄は何かが変わっていた。
「……私達の目指す道は、平和でも何でもないわ……暴力でしか言い訳が出来ないんだもの……それって本当に平和なのかしら……」
「ちょ、足柄さん!? 何らしくないこと言ってるんですか!」
「ちょっと黙ってなさい。今は貴女のターンではありません」
鳥海が速吸の口を押さえて絞めあげる。呻き声しか出なくなり、喧しい横槍はこれで無くなる。
昼目提督が足柄の方へと向かい、うまく座らせてやる。片腕が無いためバランスが取りにくいようだが、それでも力無くその場に座る。
「テメェ、何かあったか」
「……私は、言い返せなかった。あの子に、夕立に、何も言い返せなかった。何もしてこない相手に、攻撃しか出来なかったのよ……。平和だなんだ言いながら、わかってもらえると思いながら、
夕立との戦い、その結末を迎えたことで、足柄の中が確実に変化していた。最後の一発は特に効いたようで、その時に
「戦場で、ただ攻撃を受けるだけの選択をしたあの子の方が、まだわかり合おうとしてたわ……でも、私はそれを……それを……」
「……そうか、そりゃあ……辛かったな」
昼目提督は、足柄の頭をポンと撫でる。それは、敵対している者に対しての感情が全く無い、同情が強く出たモノだった。
「でも、お前さんはそれに気付くことが出来た。それは滅茶苦茶いいことだぜ。気付けたなら、何がいいことで何が悪いことかってのを理解出来るってことだ。これまでやってきたことが、悪いことだってこと、わかったんだろ?」
「……悪いかどうかはわからないの……でも、良いことじゃないことは、わかった。あの時に、話し合いを申し入れてきた時に、何も話せないなんて、絶対におかしいんだもの……」
これまでの足柄とは雲泥の差だった。人任せの平和であることに気付けたことで、少なくとも自分がやっていたことがまるで平和に向かっていないことを知った。その大きすぎる矛盾を抱えたことで、情緒が完全に崩れていた。
「私は何もわかってない。何も、何も、わかってなかったのよ。ねぇ、速吸、私達の向かってる平和って何? どうやって話せばみんながわかってくれていたの? 速吸、教えてちょうだい。みんなが納得するのは、どう話せばいいの。私も納得出来るはずだもの。ねぇ、教えて」
人任せにしていたことを悔いて、何もわかっていなかったことを悲しみ、その任せていたであろう速吸に、答えを求めた。何をどう説明すれば、この世界のみんなが、今やっていることに納得して、一緒に平和の道を歩いてくれるのか。
鳥海はここで速吸のターンであると口の拘束を外す。しかし、余計なことを言ったらすぐにでも殴って止められるように、首を掴んでいた。
「速吸……教えて。どう説明するつもりだったの?」
足柄からの、非常に素直な問い。それに対して速吸の言葉は──
「『見て見ぬふり』ですよ」
残酷な、一言。それは、足柄のブロックワードであった。