丁型海防艦達によって、暴走する足柄と伊36の嵐のような暴力に放り込まれた速吸を囮に、2人を拘束する手段を急いで用意する昼目提督と鳥海。先んじて妖精さんに指示は出していたが、妖精さんは身体のサイズ的に素早さの限界がある。それもあって、手伝える者はちゃんと手伝った方が早い。
「クソ、これはオレの落ち度だ。艤装を外してんだから並の艦娘が拘束出来る状態にしときゃいいと思ったのが甘かった。身体ぶっ壊してまで出力上げてくるところまで考えてなかったぞ」
「計算違いです……あの人があそこまで愚かだったとは。後先考えずにブロックワードを使うだなんて、考えが及びませんでした。先を考えての発言だったのか、理解に苦しみます」
「どっちにしろ、後からオジキにもちゃんと伝える。想定も出来てたはずのことだ。罰だって受ける」
そういうところは真面目な昼目提督、見通しの甘さを過ちと認め、後からこうなった理由を瀬石元帥に正確に伝えると宣言。最初からちゃんと厳重に拘束していれば、速吸からの事情聴取を急がず、隔離した状態でやっていれば、こうはならなかった。余計な手間が幾つも増えたのは完全に自分の落ち度だと反省している。
「今はまずあの2人の暴走を止めなくては。拘束具もそうですが、気を失わせるくらいしないといけません」
「ああ、クソ。その辺もちゃんと用意しておけばよかった。詰めが甘いってハルカ先輩に叱られちまう。テーザーガン使うぞ。いくら暴走していても、電撃は効くだろ」
「みとさんが話していましたね。うみどりで作られた特殊なテーザーガンで海中でも気絶させるに至ったと」
「おう、それなら行けるだろ。クソ、落ち度のオンパレードじゃねぇか。テーザーガン持って尋問始めてたらこんなことにはならなかったぞ」
伊26が使用した特製のテーザーガン。海中でも使用可能に改良されたそれで、足柄は一度気を失っていると情報を得ている。ならば、それによってあの2人の動きを止めることは出来るのではないかと。
テーザーガン自体は、調査隊は常備している。むしろ、鎮守府には必需品。もし万が一、部外者が侵入などをした場合、相手を確実に拘束するための最終手段として。調査隊のような海上を巡る移動鎮守府であっても、何があるかわからないと、それを持たない理由はない。
拘束具を準備している妖精さんに目配せしつつ、昼目提督は大急ぎでテーザーガンを取りに向かう。置いてあるのは工廠の少し奥。執務室にもあるが、なるべく色々な場所に配置して、緊急時に扱えるように仕込んではいた。
「よし、メンテナンスも出来てるな。すぐに使える」
「提督はそれで意識を奪ってください。その後、すぐに拘束します」
「おう、任せたぞ。当たらなかった時は、悪いが時間を稼いでくれ」
テーザーガンを手に入れたら、すぐにまた現場へと蜻蛉返り。妖精さんの準備した拘束具──非常に頑丈な鎖──を鳥海が受け取り、猛ダッシュで戻った。
「マークの兄貴ぃ、急いでくださーい」
「アレにも限界ありそうだよ!?」
「こっちが狙われてしまうかもしれません!」
丁型海防艦達が何かあった時のためにそこに待機していたが、状況は悪化する一方だった。囮として放り込まれた速吸は、仲間であるはずの足柄と伊36に滅多打ちにされており、見るに堪えない状態となっていた。
「や、やめ、止めて……」
か細い声で悲鳴を上げるが、自分でやったことによってこうなっているのだから、あまりにも自業自得。顔面はボコボコ。身体も酷いことになっており、見ただけでも骨が複数折られ、何処も彼処も血が滲んでいる。『標準型』を受けて普通になってはいるが、艦娘として必要最低限の頑丈さだけは持っているようで、これでも死にはまだ遠そうであった。とはいえ、ダメージが蓄積すれば死に至る。
「足柄、みぃむ、今止めてやる。痛い思いをさせちまうが、我慢してくれ」
床で横になる速吸に容赦無く足を振り下ろす足柄に向けて、昼目提督はテーザーガンを構える。狙うならば、確実な場所。戦闘によって服はボロボロになっているが、肌に対して打ち込む必要はある。ならばと、やはりその場所──失われた腕の断面を狙った。
「悪いな」
その一撃は足柄のそこに見事に直撃。刺さった直後に電撃が走り、足柄の身体を駆け巡った。
「がっ、か、は……っ」
これには暴走状態でも関係なく、意識を刈り取った。白眼を剥いた足柄は、その場に倒れ伏す。
昼目提督はすぐさまカートリッジを装填し、伊36を狙う。こちらは元より水着であるため、肌の露出は多少は多い。狙ったのは脚。
「ぎゃっ……」
小さく悲鳴を上げて、伊36も気絶。電撃が走ったため、小さく痙攣しているようだが、少なくとも暴走はこれで終わった。
ここからは鳥海の番。妖精さんに用意してもらった艤装を持ち上げたり固定したりするための頑丈な鎖を使って、器用に身体を縛っていく。先程までの拘束よりはキツめに、そして簡単には動けないように、しっかりと結びつけた。
これで目を覚ました時にまだ暴走状態だとしても、周囲に被害を出すようなことはないだろう。
しかし、まだ暴走しているなら、それだけで身体がどんどん壊れていきかねない。拘束しているのに消耗していき、最終的には過剰に動かし続けたせいで、心臓が静かに機能停止する。そんなこともあり得る。
「これはまだ一時的な処置だ。他の連中も同じように縛っとけ。そこのクソアマが、霧島と漣も暴走させたら堪ったもんじゃねぇ」
「了解。その時はまたそれを囮に準備しますよ」
鳥海はすぐに霧島と漣の方も強めな拘束に替えていく。これだけされても速吸は懲りていない可能性は高い。むしろ、反省するという言葉を知っているのかもわからない。
自分の落ち度と向き合い、必要最低限ではなく、過剰なくらいの事後処理を進めた。次はこんなことになってはいけないと反省して。
「おい、クソアマ。テメェはテメェのせいでそうなったんだが、少しは反省したか」
瀕死状態で息も絶え絶えな速吸を見下しながら話しかける昼目提督。今の速吸には悪態をつく余裕すら無くなったか、身体が痛すぎて動くことも出来ないか、這いつくばったまま何も言えなかった。
「テメェがあの2人を暴走させなければ、こんなことにはならなかったんだぞ。オレ達にも落ち度はあるけどな、だからと言ってテメェが一番バカなことをしたのは変わりねぇ。後先考えてやったとも思えねぇぞ」
「……っあ……痛い……痛い……」
「おい、あの2人は気絶させたが、それで暴走は終わりか。目ぇ覚ましたらまた暴れるなんてことはあんのか。答えろ。もし暴走するなら、テメェをまたあいつらのところに放り込むからな。次は助けねぇ。今度こそテメェは死ぬ。仲間にボコられてな」
またこうされると言われ、速吸は虫の息でも大きく反応した。自分でやらかしたとは思っていなそうだが、こんなに痛い思いをさせられるのは真っ平ごめんだと身体は反応したようである。
「答えろや。あれで暴走は終わりなのか、ああ?」
「……終わり、ですよ……一度、気を失ったら、正気に、戻りますよ……」
「本当だろうな。この期に及んで嘘をついても構わねぇが、さっきも言った通り、まだ暴走させるなら、まずテメェを盾にする。テメェが引き起こしたことだ、そうなっても悔いはないよなぁ」
「本当、ですよっ……こっちは痛くて痛くて仕方ないのにっ、嘘をつくように見えますかっ」
「ああ、見えるぜ。テメェは頭がおかしいクソバカゴミクズだからな。アホみたいにプライドばかりありやがるから、下手に出るのが嫌なんだろ。人の言う通りになるのが。わかってんだぜ、この状況でも、オレ達のこと下に見てるだろ。助けて当然だと思ってんじゃねぇのか? ああ?」
速吸は息を詰まらせる。図星ですと言っているようなモノで、昼目提督は深々と溜息をついた。
「まぁいい。今回は信じてやるよ。でも拘束はキツくしておきゃいい。何がきっかけでああなるかわからねぇからな。霧島あたりは、暴走してなくても自分からリミッター外せるんじゃないかって思えちまう」
ここまでの甘さを鑑みて、無意識にでもかけていた情がないかを考え直しつつ、一旦捕虜となったカテゴリーK達はなるべく接触出来ないように、別々の場所に置いておかれる。念のためと耳栓までつけておいた。余計な言葉で暴走させられては困る。
「ああ、そうだ。テメェを入渠させることは、今はしねぇ」
「なっ……」
「当然だろうがテロリスト。人様に迷惑をかけておいて、捕虜になってもこのザマ。仲間すら暴走させてぶっ壊そうとしやがって。それをしなかったら多少はマシな扱いをしてやったけどな。テメェはテメェのせいで、しばらく痛いまま過ごしてもらうぞ。優遇してもらえると思ってんのか。まぁ、素直に話をしたら考えてやらんでもないがな」
今自分がどういう立場なのかをハッキリとわからせ、速吸の高慢なプライドを完全にへし折った。
速吸は痛みに喘ぎ、悔しさに涙を流す。だが、昼目提督は、それも冷ややかな目で見下ろすだけだった。今更後悔しても遅い。どうせ反省しないのだから、情をかけてやる必要すらない。