後始末屋の特異点   作:緋寺

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より良い先へ

 おおわしでの混乱は終わり、捕えられたカテゴリーKは隔離させつつも1箇所で見ていられるよう、工廠に離れて置いておかれることとなった。混乱の元凶となった速吸は、自業自得で受けた重傷を放置され、自己修復も失った身体で痛みをそのままにされている。文句を言おうにも、その気力すら奪われている瀕死状態。気絶することも出来ずに、悔し涙を流すことしか出来ていなかった。

 

 そんな速吸は無視して、昼目提督はうみどりへと連絡をした。また、その連絡には途中経過を報告するために、瀬石元帥も含まれている。

 今回の混乱は自分の落ち度だと、昼目提督は素直に全てを話すつもりである。本人もところどころ傷付いているため、言い逃れもできない。

 

「……はぁ、まぁ起きちまったことは仕方ねぇ。オレぁ言い訳しねぇよ。鳥海、速吸が余計なこと言わないようにしておいたか?」

「はい。猿轡をしておいたので、言葉を発することは出来ないでしょう」

「ガムテで止めてやってもよかったけどな」

「剥がれるかもしれませんし、一応瀕死なので、まともに息が出来ないのは面倒でしょう。それで気を失われても嫌ですし」

 

 痛みを痛みのまま受け続けるためにも、気絶なんてさせない。そんな気概が見える。昼目提督も違いないと肯定した。自分がやったことを反省も後悔も出来ないで、ただ負けたことを悔しいと思っているだけの者には、それ相応の結末を用意するだけ。

 チラリと目を速吸に向けると、ボコボコにされた状態で床に転がされ、手足は拘束され、口には鳥海が言っていた通り猿轡が、余計なことをしないように目隠しまでされて、まるで芋虫のように蠢いていた。痛みが耐えられずに呻いているのもわかる。

 

「これも全部含めて、まずは報告だな」

 

 その無様な姿に苦笑して、昼目提督は連絡のためにタブレットを取りに向かった。

 

 

 

 

 一方うみどりでは休息が続いている。目の前にある決戦の舞台に向かうため、少しでも身体を休ませ、万全の状態で向かうために。

 

「報告ありがとう。見えている限りの残存戦力は、出洲も含めて5人ということね」

「ええ……あそこで逃がしてしまったのは悔しいけれど、気持ちを切り替えて、最後の戦いでちゃんと決着をつけるわ」

「気負わないでちょうだいね、神風ちゃん」

「……わかってる、つもりなんだけどね……」

 

 工廠、知る限りを報告していたのは神風。現れた中柄を撃破寸前まで持っていき、小柄からも戦闘力を奪うところまでは行ったのだが、伏兵であった瑞鶴と五十鈴に邪魔をされ、撤退を許してしまったことを伝える。

 悔しい思いはしたが、今は気持ちを切り替えて、改めて決戦に向かえるように気持ちを整えている。深呼吸、神威の『排煙』、工廠厨房での食事と、癒される要素は使えるだけ使って、息と心を落ち着かせる。

 

「ハルカ、おおわしから通信よ。現状報告と今後のこと、元帥も交えて話したいって」

 

 イリスがタブレットを持ってやってくる。神風は大丈夫よと手を振って、より落ち着くために深雪の方へと向かったようだ。

 その深雪は電達と身体を休めている。これまで戦ってきたという素振りをあまり見せることなく、これから最終決戦第二弾となるにもかかわらず、談笑している様子は、微笑ましくも思える。

 そこでなら、今の少々ささくれた心はより癒されるだろう。開き直ろう、割り切ろうと思う心を癒してくれるのは、間違いなくそこ。

 

 それを見届けた伊豆提督は、少し心配しつつもイリスからタブレットを受け取った。

 

「マークちゃん、連絡ありがとう。そちらの塩梅は?」

『ちょいとやらかしました。捕虜が暴走しましたが、今は鎮静化しています』

「暴走……? 何があったの」

『詳しく話します。オジキにも今ここに入ってもらうつもりなんで』

 

 それからすぐに瀬石元帥も通信の中に加わる。

 

『途中報告が出来る状況ということは、順調と考えていいのかね』

「はい、9人のカテゴリーKのうち、7人を無力化しました。うち2人はうみどり、5人はおおわしに移送しています。が……」

『すんません、その内の1人である速吸が、その場でブロックワード……あー、カテゴリーKの死んだ時の記憶を呼び起こして暴走させる言葉を言いやがりまして、足柄と伊36が暴走、かなり無理矢理ですが鎮静化させました』

 

 ブロックワードを使ったと聞き、伊豆提督は眉を顰める。瀬石元帥はその辺りまではまだ伝えられていないが、敵には暴走するためのトリガーがあり、それを仲間である速吸が何を思ったか使うことで、おおわし内をしっちゃかめっちゃかにしたということは理解した。

 

『ふむ……仲間を暴走させて君達を始末しようとしたのかもしれんが、あまりにも、うむ、軽率で考え無しの行動じゃのう……』

『何か理由があってやったかどうかもわかりませんが、本人は口開かせておくと何余計なことを言うかわかりませんので、今は黙らせてあります。他の連中ともなるべく離しておいてんですがね……』

 

 おおわしの工廠内の様子をタブレットで見せてくる。1箇所に固めるのではなく、バラバラのところに縛られており、速吸だけは中央に寝かされているのみ。そのボロボロな姿に伊豆提督も瀬石元帥も驚きを見せるが、ここは戦場、そうなっていてもおかしくはないと納得はする。

 とはいえ、伊豆提督的には報告と違うことが気にはなった。叢雲から普通にしてやったというのだけは聞いており、殆ど怪我はしていないとも伝わっている。若干拷問じみたことをしたことについては、注意はしているが。

 

「マークちゃん、速吸ちゃんの状態が報告と違うのだけれど」

『暴走した足柄と伊36の鎮静化に巻き込まれて、ボコボコにされました。アイツ、自分が巻き込まれるだなんて夢にも思ってなかったみたいで。まぁ、そのおかげでオレ達は拘束するための道具を用意出来たんですがね。速吸は自業自得で怪我を負う羽目になりました』

「暴走すると本当に敵味方の区別もつかなくなるのね……それを知っていて、あえて使ってくるなんて、自棄でも起こしたのかしら……」

『かもしれねぇですね。あんまりにもアホなことをしやがったから呆れてモノも言えねぇですが、正直オレも上手いこと尋問出来なかったことが落ち度です。余計なコトを起こしちまいました。すんません』

 

 昼目提督が自分の落ち度のことを伝え、画面越しに頭を下げた。瀬石元帥も少し考えつつも、真摯にその事態に向き合い、小さく頷く。

 

『うむ、まぁそんなことをしてくるのは盲点ではあったろうが、見通しが甘かったのは間違いあるまい。昼目君、この戦いの後、始末書を提出するように。確かに君の落ち度もあるが、元凶はそちらの速吸じゃ。全てを咎めることはせん。これからは、尋問をするにも、する者は他と離すなり、制圧用の道具を持つなり、準備を怠らんようにな』

『すんません……ちょい慢心があったかもっす。こういうことが起きないように、対策案も提出するんで』

『うむ、今回はそれで良い。……こんな事態が何度もあっても困るがの』

 

 ブロックワードだとか、艦娘の暴走だとか、今回の事件以外で起きてもらっても困るというのは、心の底から出た本音。出洲の事件はあまりにも特殊な事案であるため、似たようなことが起きるこもはあってはならない。だが、一度起きたのならば、二度三度と起きる可能性があるのも間違いない。

 同じことが何度も起きないようにするのは、上に立つ者として当然のこと。第二、第三の出洲や阿手が現れないとも限らないのだから、そこはちゃんと対策する。

 

『ともかく、状況は悪くは無いんじゃな』

「はい、現状は。誰かを失うことなく、しかし怪我人も出ています。敵は確実に数を減らしていますので、その点だけで言えば順調ですね」

『ならば良い。可能ならば支援艦隊も送りたいが、現場が現場じゃ。かなり厳しい』

「はい、理解しています。未知の戦力がいなければ、このまま押し込めそうですが、慎重に確実に進めていきたいと思います」

 

 戦況だけで言えば、今はまだマシな方である。カテゴリーKの大半を無力化出来たことと、襟帆鎮守府の制圧が完了したことはかなり大きいだろう。後ろから刺されるようなこともなくなり、正面の敵にのみ専念が出来る。

 

『襟帆鎮守府にはこちらからも片付けが可能な人員を派遣する。念のため、支援艦隊となれるような者達をな』

「助かります。こちらも準備が整い次第、攻め入ろうと思います」

『おおわしは鎮守府側に行かせてもらいます。捕虜を出洲に近付けさせない方がいいでしょう。余計な暴走をまた引き起こされるかもしれねぇ』

『うむ、それが良いだろう。昼目君、また鎮守府に到着したら、襟帆君と話せるように手筈を整えてもらえるか』

『了解です。あっちは今、通信も出来ないくさいっすからね。オレがその辺りをどうにかしますんで』

 

 これで今後の動き方は決まった。調査隊はここからは島ではなく鎮守府で事後処理の先行を。今もあちらにいる調査隊の仲間達を拾いつつ、襟帆提督達の安全を確保するために。

 そして、うみどりはこだかと共に最終決戦へ。今は休息で準備を整え、それほど遠くない時間で、うみどりが直接向かう。接近しすぎたら流石に攻撃をモロに喰らいそうなので、その辺りはちゃんと考えて。

 

 

 

 

 より良い方向に向かえるように、ここから短期間で策を練ることになる。負けるつもりは毛頭ない。圧倒出来るくらいに、先に進めたいところだ。

 

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