現状の報告を終え、うみどりは決戦の最後の準備へ向かう。
休息の時間をある程度取れたことで、戦いへのモチベーションは維持出来ており、少しでも休めたことで万全な態勢で向かうことも出来る。
一部深傷で入渠が終わっていない者もいるが、それでも充分。最後の戦いにどれだけの時間がかかるかはわからないが、戦闘中に復帰することもあり得る。後ろにまだ戦える者がいるというのは、それはそれで頼もしいモノである。
「さぁ、そろそろ出航になるわ。でもその前に……」
工廠厨房が繁盛する中、全員が集まっている工廠に伊豆提督が声を上げる。皆が注目するところで、ここで島の全容に詳しい者からの話を聞こうということになる。
前までならば絶対に無かったが、真実を知り、戦意を失い、出洲が信じられなくなったことで、全面的に協力してくれることになった黒の特異点。黒深雪と雷。ここまでの時間で、神威の癒しの『排煙』により心を落ち着けることも出来ているため、顔色は戻ってきている。
「辛かったら大丈夫だけれど、一応聞かせてちょうだい。この先、出洲の島はどうなっているのか」
「ああ……話すよ。と言っても、あたし達も全容を完璧に知ってるってわけじゃあないんだ」
「多分……私達の知っているのは、私達が関係ある場所だけ、ちょっと鎮守府に近いように作られてる場所、くらいかしら」
出洲の島がどうなっているかを語り始める黒深雪と雷。
軍港都市の地下施設もそうだったが、島を研究施設にしているにしても、表沙汰にならないように、その設備を全て地下に隠しているということ。ぱっと見はただの無人島であり、木々が生い茂るところもあれば、整備されていないことで逆に自然が溢れる砂浜もある、見映えだけはそれなりにいい場所。
だが、その内側はかなり高度な科学力が結集された場所になっているらしく、それこそ阿手の島に近いらしい。あそこまで大胆に抉ってはいないし、水爆なんてモノが設置出来るほど大きなモノでもない。研究に支障が出ないくらいに広く、動きやすく、電力などの設備に影響が出ないようにした、快適な場所となっている。
出入り口は、それこそ出洲達やカテゴリーKならば余裕で行き来出来る海中。それも簡単には見つからないように隠蔽されている。こちらも阿手の島と同じ。出洲はあくまでも研究の邪魔をされたくないからということで隠れ潜んでいる。
「あたし達は基本、あの島に海の上から近付くことはない。潜って、海の中から入る」
「戦いから逃げていったヒト達も、同じように海の中から入ったと思うわ。工廠とは少し違うけど、ちゃんと怪我とか治す設備もあるから」
「まだそこまで時間が経ってないから、完治まで行ってるかはわからない。だが、時間をかければ当然治療は出来る。普通の人間とは違うから、今日中には全部リセットだ。その時に頭ン中も弄られるかもしれねぇ」
治療と一緒に頭の中を弄られるかもしれないという恐怖。ただ元に戻すだけでは飽き足らず、さらに好きなように調整出来てしまう。
「貴女達が戦いに出てる時、島は出洲しか残っていなかったのかしら」
「いや、協力者が何人かいる。そいつらは人間だ。改造はされていない」
「住み込みって言えばいいのかしら、研究員が何人か、定期的に入れ替わって、研究に勤しんでるわ。今は多分、5人くらい。全員、彼のことを信用してるし、あの平和の道を本気で信じてる類よ」
全国に散らばる出洲シンパみたいな者が、数人常駐し、定期的に入れ替わりながら研究の手伝いをしている。つまり、ここから攻め入る場合、抵抗が出来ないただの人間が5人ほどはそこにいるということ。
施設に攻め入って戦うとなると、その存在が非常に邪魔になる。テロリストに協力している者と言ってしまえばそれまでなのだが、無抵抗な者の命を奪うことはしたくないし、するわけがない。
「出入りは潜水艇でやってる。そりゃそうだよな。海の上に出入り口が無いんだし」
「無人島を装っているから、どうやっても海の中から入るようになってるわ。私達の知らない出入り口があるかもしれないけれど」
「それは探してみないとわからないわね。でも、人間もいるというのなら、無理矢理島の上から道をこじ開けるのも控えた方がいいかしら……」
入口がないなら、入口を作ってしまえばいい。そう考えていたものの、それによって人間の命が失われる可能性があるのは、少々厳しい。相手がどうであれ、無闇矢鱈に攻撃することは出来ることなら控えたい。
そこに出洲しかいないというのなら、爆撃でも何でもやって道を開いていただろうが。
「その時点で、中に入れる奴は限られてくるんだよな。ここには、潜水艇とかないのか」
「無いわね……海中の後始末も潜水艦の子達でやっているから。マークちゃんに借りられるなら借りた方がいいかもしれないわね。あちらも1機やられてるみたいだし、そもそも海防艦専用だから、アタシ達で使いこなせるかはわからないのだけれど」
そうなると、何も考えずに攻め込めるのは、海中でも活動可能な特異点、深雪と電、そして潜水艦達だけ。つい先程の戦いでも露呈した、海中の戦力不足がここでも響いてくる。
「いや、だったら、うちの鎮守府にもあるはずだ。あの司令官が島に行くこともあった。ただの人間が海ん中から入るしかないところに行くんだから、潜水艇くらいあるだろ。あたしはそん時は……興味が無かったから見てもいなかったけどよ」
「それに、鎮守府の荷物を島に持っていくこともあるわ。そのためのモノもあるわよきっと。壊されていなければだけれど、海の中にあるなら、鎮守府が倒壊したとしても簡単には壊れないと思うわ」
「なるほど、確かにそうよね。特に荷物を運ぶ潜水艇は間違いなくあるわ。島を維持するためのモノを運ぶんだもの、人1人しか乗れないとか、そういうことはないはず」
結果的に、うみどりも襟帆鎮守府経由でなければ攻め入ることは出来なそうということになる。何人向かえるかはまだわからない。しかし、少数であっても向かうことが出来るというのならば、絶対的な不利の戦いを強いられることもない。
「一度鎮守府の方に移動しましょう。こだかの方にも連絡するわ」
戦うための下準備が必要となれば、すぐにでも行動。せっかく鎮守府ごと移動出来るのだから、休息しながら移動がいい。
うみどりはこだかと共に移動開始。おおわしは先んじて動き始めていたようで、後を負うカタチとなる。
うみどり移動中は、それを妨害される可能性も考えて、全員が工廠で待機。
「話してくれてありがとな、別個体」
「……これくらいしか、あたし達には出来ないからな。自分が間違ってることがわかったんだ。正しい道に行きてぇ」
深雪の感謝の言葉に、少しだけ照れくさそうにする黒深雪。こうして話してよかったとも思える瞬間でもある。
雷以外に感謝されることはこれまであっただろうかと考え、少なくとも仲間であるカテゴリーK達からは社交辞令的に言葉を交わすことくらいしかなかったなと思いを巡らす。自分から避けていたところもあったが。
「……うちの司令官とも、顔を合わせることになるよな」
「だろうな」
「なら……そん時に話を聞いてみるか……」
襟帆提督は黒深雪と雷に対してまともな道を歩いてほしいという気持ちが見え隠れしていた。今更ながら、その思いを理解することが出来た。ならば、余裕がありそうなら改めて話をするのもいいかもしれない。
黒深雪がそう話すと、深雪はそれがいいと肯定。これまで雷以外に心を開いてこなかった黒深雪が、率先して周りに接していこうとするのは、ほとんど部外者に近い深雪も喜ばしいモノだ。
「……とりあえず、戦いは終わらせる。後のことは後に考える。あたし達に居場所があるかはわからねぇけど」
「大丈夫だ。今のお前なら、受け入れてくれるところは幾つでもあるだろ。まぁ……これまでのことを清算してからになるかもだけどな」
「ああ、あたしは自分のやってきたことがおかしなことだったことに気付けた。それは償わないといけねぇ。その後……雷と、何処かで細々とでもいいから、生きていければいい。死ぬつもりだったが、それもやめだ。死ぬ必要なんてねぇ」
「だな。特異点がいちゃいけない理由なんてねぇよ。吹雪には挨拶しに行った方がいいかもしれねぇけど」
「吹雪……あの吹雪かよ。そうだよな……ケジメつけるなら、話しておかないといけねぇよな……それを考えると、滅茶苦茶憂鬱なんだが」
特異点の吹雪と話すのは、どうしても引け目を感じるようである。アレだけのことがあったのだから、顔を合わせるのも辛いと思うのは当然のことか。
それを聞き、深雪はぷっと吹き出した。黒深雪に、そういう感情があることが嬉しかった。
「大丈夫だ、あん時はお前が敵対的だったから、あんな感じだったってだけだぜ。まぁ怖いところはあるけどよ、ちゃんと事情説明すりゃあわかってくれる。いきなり腕捥ぎ取ってくるなんてことは……ねぇよ、多分」
「断言してくれよ……」
不安がる黒深雪に、深雪は大丈夫だってと肩を叩く。
「安心しろ。あたしが仲介してやっから」
「……頼むぞ、マジで」
「はは、任せとけ」
ニッと笑う深雪に、少しだけ口角を上げる黒深雪。ついさっきまで死闘を繰り広げた2人が、ふとしたきっかけでここまで仲良くなった。そんな光景は、周りをほっこりさせるには充分だった。
戦いの前に、どうしても鎮守府に向かわなくてはならなくなった。そこからが本当の戦いである。