黒深雪と雷からの情報で、出洲の島には海中からしか入れないことが判明。今のままでは最終決戦に参加出来る者が限られてきてしまう。
だが、襟帆提督は出洲の島に行ったことがあるということで、鎮守府にそこに向かうための潜水艇があるのではないかと予想された。鎮守府経由で物資の補充などもしているのだから、ただ向かうだけの潜水艇だけでなく、大荷物を運び込むだけの大型の潜水艇があってもおかしくはない。
そのため、本来なら直接島に向かう予定だったのだが、うみどりも襟帆鎮守府に立ち寄ってから決戦へと使うことになる。
現在襟帆鎮守府は通信が不能な状態。襟帆提督の安否は調査隊が確認出来ているが、状況に関してはまだ少し曖昧なところがある。
「おおわしが一番近くに停泊するから、うみどりは少しだけ離れたところに停めるわ」
ここからうみどりは移動。鎮守府は目と鼻の先という場所まで来ると、その場所が大分酷いことになっているのが見て取れる。
爆発した工廠は至るところが破壊されてしまっており、現在は工廠としての機能を完全に停止してしまっている。中は散乱してしまっている上に埃っぽくなってしまっており、そこにずっといるのも少し嫌だと思えるようなところ。
だが、それでも工廠から離れるようなことはしていないこともわかる。チラリと見えたのは、疲労感はあってもまだ倒れるようなことはない襟帆提督と、艦娘達の姿。海側からでも見えたのは、わざわざ中に入らずとも無事であることを伝えるためいうのもある。
「誰が行けるかは、襟帆提督と直接話して決めるわ。みんなは少し待機していてちょうだい。アタシとイリス、あと数人で一度鎮守府に向かうわ」
「ならあたしが送っていく。大発いるだろ」
「そうね、よろしくお願いするわ」
伊豆提督とイリスの移動のためには大発動艇が必要。それを動かすことが出来る者が便乗するのは当然のこと。
それをするのは自ら手を挙げた深雪。黒深雪もやると言いたそうだったが、信用問題があるため、挙げかけた手を下ろした。ついさっきまで敵だった者の大発動艇に乗って、いきなり海に落とされるようなことをされたら堪ったモノではない。伊豆提督はそんなこと思ってはいないのだが、だが体裁というモノがあるため、黒深雪側から控えた。
「じゃあ、行きましょうか。最後に向けて」
ここから、出洲の島に乗り込むための手段を見つけて行く。なるべくなら、もうすぐにでも向かいたいところである。
襟帆鎮守府の工廠に降り立ったのは、伊豆提督とイリス、その随伴として共にやってきたのは、特異点たる深雪と電、そして、この鎮守府にある程度詳しい、黒深雪と雷。
黒の特異点組は艤装を装備していない状態。そんなことしないとわかっていても、一応は元敵。兵装を与えて、今この時に突如叛旗を翻されても困る。それに、何かをきっかけに暴走させられるなんてこともないとは限らないのだ。ブロックワードが外されているとはいえ、その死因が本来のそれとは違うことが判明した今、実は
とはいえ、それが何かを調べるのは無理と言ってもイイだろう。襟帆提督達ですら、それを封じられている可能性が非常に高い。
「……ようやく、こうしてちゃんと顔を合わせることが出来ましたね」
「はい、こうして直接顔を合わせるのは、本当にお久しぶりです」
「ええ、久しぶり、遥くん。こんなことになってごめんなさい」
襟帆提督の草臥れた笑みは、それはそれでこれまでのしがらみから解放されたことを意味していた。ずっと張り詰めていた緊張感の中で、いつ出洲を後ろからさせるか、ずっとそのタイミングを見計らっていた。それが達成出来た今、もう気を張っている理由もなくなった。
周りでは調査隊達が休みつつも事後処理を始めている。瓦礫が多少は片付けられ、足の踏み場は出来ているくらい。
「出洲の陣営は、拠点の島に撤退したのですね」
「はい、我々はそこに向かいたい。ですが、今のままではかなり厳しいことを、彼女達から聞きました。海中からしか攻め込めないそうですね」
彼女達──バツが悪そうな表情で数歩後ろに控えている黒深雪と雷が目に入り、襟帆提督はそうですかと優しく頷いた。
襟帆提督の側で護衛をしている夕張が少しだけ身構えるが、襟帆提督の態度を見て一旦息を整え、臨戦態勢はやめておく。あの2人は間違いなくこれまでと違うと確信出来たから。
「はい、あの島は地上、海上には、何もないように見せています。そのため、海中にある秘密の出入り口から入るしかありません。今は固く閉ざされていそうですが」
「場所さえ教えてくれれば、あたしと電が閉じた門くらい吹っ飛ばす。大丈夫だ」
「特異点の深雪……そうですか、貴女ならそれくらい出来るでしょうね。ならば、それで行きましょう。強行突入でなければ、おそらく入ることも出来ませんから」
深雪の提案を考えるまでもなく推奨する辺り、本当にそれ以外の道は無いのだろう。閉ざされた門を外側から開く手段は無いと見える。
白雪によるハッキングも受け付けないようなので、本当に力業以外の手段がない。余程自信がある設計のようである。
「あちらに強襲するための何か、この鎮守府にはありませんか」
「物資輸送の潜水艇を使いましょう。アレなら、艤装を装備した艦娘を6人くらいまでなら運ぶことが可能です。それなりに大きめのモノを使っていますから。アレならこの爆発事故の影響も受けていないでしょう」
送り込めるのは艦娘6人。最も重要な深雪と電は外から行けるとしても、込みで8人となる。
また、潜水艇に乗れるのは6人くらいとはいうが、大型の艤装を持つ者が乗り込むと、どうしても厳しくはなるだろう。それに、あちらの施設の広さなどを考えると、小柄である方がおそらく有利。
阿手の地下施設に乗り込んだ時のように、小回りが利く駆逐艦をメインにした部隊が都合が良さそうなのは間違いない。それを踏まえて、部隊の選出が必要となりそうである。
「……可能なら、あたしと雷も、その戦いに出させてもらえないか」
言い出したのは黒深雪である。元敵であり、出洲に恩を感じていたこともある黒の特異点組を、味方として認識出来るかどうか。
雷も、黒深雪の発言に少し驚きつつ、真実を知ったならば同じことを考えると小さく頷く。
「中のことを多少は知ってる奴が案内役をした方がいいと思う。そりゃあ、あたし達のことは信じられないかもしれないし、信じないのが普通だ。あたしも出過ぎた真似じゃねぇかって思ってる。でも、ここまで来たら、少しは……手助けしたい」
「私達なら、潜水艇に乗らなくても一緒に行けるわ。これまでのことで信用されてないことはわかってる。今からだって後ろから撃つかもしれないって思われても仕方ない。でも……こんな時だからこそ、手助けさせてほしいの」
「迷いがあったら、いくらでも撃ってくれて構わねぇ。戦いに参加だったしねぇ。ただ、少しでも勝ちの目を出やすくしてぇんだ」
真剣な面持ちで話す黒深雪と雷に、伊豆提督はどうしても悩んでしまう。真実を知り、自分を取り戻した2人だが、出洲の改造を受けているという点がどうしても引っかかってしまうのだ。
今でこそこうしていられるが、出洲の近くに行ったら暴走させられたり、お手軽に再洗脳させられるなんてことも無くはない。となると、やはり連れて行くのは危険すぎる。
「……一応さ、こいつらを信用出来る奴に変える手段がないわけじゃねぇよ。ただ、あたしにもどうなるかわかんねぇ」
「深雪ちゃん、何か出来るの……?」
「ああ、こいつらは今、黒なんだよな。だったら、
それを言われてハッとする。深雪と電に出来る、とんでもない裏技。『挟んでひっくり返す』。かつては米駆逐棲姫の『量産』により洗脳され、忌雷を寄生させることで擬似カテゴリーKとなった一部の仲間達を元に戻すために使ったそれは、KをWに変えることが出来た。
しかし、改心した米駆逐棲姫を挟んでひっくり返した時、それはまた別の挙動を見せている。カテゴリーYがカテゴリーBに、改造された元人間の深海棲艦が、純粋な艦娘に生まれ変わるという凄まじい効果を見せている。その時、米駆逐棲姫は事実上死に、フレッチャーへと生まれ変わったこととなっている。
この処置を黒深雪と雷に施したらどうなるか。忌雷を寄生させているわけでもない。純粋にカテゴリーKとなっている者。ただそのまま白くなるかもしれないし、何もかも失うかもしれない。フレッチャーのように記憶と魂を持っただけの別人に変わる可能性もある。悪い結果になることは、いくらでも想像出来る。
これはあまりにも分の悪い賭けだ。せっかく手にした自由を、こんなことで失ってもらいたくない。だから、提案だけして、深雪はあまり乗り気ではない。
「……難しい話ね。これまでそれをやってきて、違うパターンが出ちゃっているもの。この子達を犠牲にするのは、出来れば控えたいわ」
「だよなぁ……あたしも思いつきはしたけどさ、やるかって言われたら滅茶苦茶躊躇うぜ」
「なのです……せっかくお友達になれたのに、こんなことで失いたくないのです」
電も、深雪の提案とはいえ本人が肯定的ではないこともあり、危険ではないかと不安視している。やるかやらないかでいえば、やらない方がいいと。
「……少し考えさせてちょうだい。まだ少しだけ時間はあるわ」
「だよな、うん。混乱させちまった」
この手段を使うか使わないか。この決断は、間違いなくこの戦いの結末を左右する。